厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課乳肉水産基準係・残留農薬係 御中 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 食品中に残留する農薬等の暫定基準(最終案)等に対する意見 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 反農薬東京グループ  代表:辻 万千子 〒202-0021 東京都西東京市東伏見2−2−28−B 電話/ファックス:0424-63-3027 電子メール:mtsujiアトマークjcom.home.ne.jp 【意見1】  わたしたちは、貴省が提案した二次案について、パブリックコメントを提出し、その中で、 この案が、農作物等の流通の円滑化に重点をおき、国民の残留農薬等の摂取量を減らそうと する視点がないことを批判しました。  具体的には、   1)国内外の基準で、最も低いものを採用する。   2)日本で適用のない農作物には、作物群毎に設定されている登録保留基準をそのまま     採用しない。   3)有害性が判明し、販売禁止された農薬等は、ネガティブリスト制度をとる。   4)「人の健康を損なうおそれのない量」に基づく基準は、0.001ppm以下にする。 という、主張をしたが、これらの意見は最終案にとりいれられなかったため、再考願いたい。 【理由】 (1)ポジリス制最終案で、残留基準を設定した農薬等の数は従来の275種(うち農薬2  44種)から791種(うち農薬579種)と増えた。いままで、残留基準の設定されて  いないものについては、いくら残留しても、おかまいなしであったものが、多くの場合、  「一律基準」0.01ppmが適用されることになる。しかし、農薬等の複合毒性がほとん  ど評価されていない現状では、基準の数を増やすだけで、食の安全は保証されたとはいえ  ない。国民の総農薬摂取量を減らすことこそ重要である。そのためには、目標とすべき、  残留基準はできるだけ低く設定することが望まれる。 (2)農薬取締法では、農作物ごとに残留性試験データの提出が義務付けられており、残留  程度が、登録保留基準に適合すれば、当該作物への適用が認められてきた。しかし、暫定  基準では、残留性データもない農作物に登録保留基準が残留基準として採用されている。  たとえば、胎仔毒性のある除草剤アイオキシニルは、日本の登録保留基準は麦・雑穀、果  実、野菜、いも類、豆類がいずれも0.1ppmとなっているが、国内では、残留性試験が  実施された小豆、大豆、インゲン豆、タマネギ、バレイショ、リンゴの6作物にしか適用  できない。外国基準のあるサトウキビ、ネギ、ニンニクを加えても9作物に暫定基準を決  めればいいのに、データもない他の118作物にも、登録保留基準をそのまま採用し、0.  1ppmの暫定基準が設定されている。本来、これらは、残留基準を設定しないでおくべき  ものである。使用すれば、農薬取締法で罰せられる農作物に高い基準を設定するようでは、  適用外使用を見逃し、他所からのドリフト(飛散)防止対策をないがしろにすることにつ  ながってしまう。 (3)日本では、農薬の約46%が稲作に使用されており、米のみにしか適用ない農薬も  多々ある。暫定基準と残留基準のうち、米のみに基準が設定されている農薬62種を表  1に示した。  基準が設定されていない他のすべての農作物には、原則として「一律基準」0.01ppm  が適用されるわけだが(表の▲印は、類型6−4の適用で「一律基準」より高い暫定基準  となっている)、ピペロホスのように、残留基準と試験もなしに設定された「一律基準」  が同じものもある。表には、米の基準に対する一律基準の比率(b)/(a)を示したが、0.00  7〜1と大きな幅があり、その4分の3は0.1以上である。このような基準では、田んぼの  中の畑などに栽培される野菜などへのドリフト容認につながってしまう。 表1 米のみに基準が設定されている農薬の基準(単位:ppm) 農薬名   用途 米の基準 他の農作物(b)/(a)                (a)  一律基準(b) 【暫定基準適用農薬】 アニロホス   除草 0.05 0.01 0.2 イプロベンホス  殺菌 0.2 0.01 0.05 エトキシスルフロン  殺虫 0.1 0.01 0.1 オキサジアゾン   除草 0.1 0.01 0.1 クロメプロップ   除草 0.1 0.01 0.1 ジチオピル   除草 0.1 0.01 0.1 シノスルフロン   除草 0.1 0.01 0.1 ジメタメトリン   除草 0.1 0.01 0.1 ジメピペレート   除草 0.03 0.01 0.3 チアジニル   殺菌 1 0.01 0.01 ナプロアニリド   除草 0.05 0.01 0.2 ピペロホス   除草 0.01 0.01 1 ピラゾスルフロンエチル  除草 0.1 0.01 0.1 ピラゾリネート   除草 0.1 ▲0.02 0.2 ピリフタリド   除草 0.1 0.01 0.1 ピロキロン   殺菌 0.2 0.01 0.05 フェリムゾン   殺菌 1 0.01 0.01 フサライド   殺菌 1 0.01 0.01 プロパホス   殺虫 0.05 0.01 0.2 ブロモブチド   除草 1 0.01 0.01 ペノキススラム   除草 0.02 0.01 0.5 ベンスルフロンメチル   除草 0.1 ▲0.02 0.2 ベンゾビシクロン   除草 0.1 0.01 0.1 ベンゾフェナップ  除草 0.1 0.01 0.1 メトミノストロビン  殺菌 0.5 0.01 0.02 【現行基準適用農薬】 イソプロカルブ  殺虫 0.5 0.01 0.02 イナベンフィド  植調 0.05 0.01 0.2 イマゾスルフロン   除草 0.1 0.01 0.1 インダノファン   除草 0.1 0.01 0.1 エスプロカルブ   除草 0.1 0.01 0.1 エディフェンホス   殺菌 0.2 0.01 0.05 エトベンザニド   除草 0.1 0.01 0.1 エトリムホス  殺虫 0.1 0.01 0.1 オキサジクロメホン  除草 0.1 ▲0.02 0.2 カフェンストロール  除草 0.1 0.01 0.1 カルプロパミド  殺菌 1 0.1 0.1 クミルロン  除草 0.1 ▲0.02 0.2 ジクロシメット  殺菌 0.5 0.01 0.02 シクロスルファムロン  除草 0.1 0.01 0.1 ジクロメジン  殺菌 2 ▲0.02 0.01 シハロホップブチル  除草 0.1 0.01 0.1 ジメチルビンホス  殺虫 0.1 0.01 0.1 シメトリン  除草 0.05 0.01 0.2 シンメチリン  除草 0.1 0.01 0.1 ダイムロン  除草 0.1 0.01 0.1 チフルザミド  殺菌 0.5 0.01 0.02 テクロフタラム  殺菌 0.2 0.01 0.05 テニルクロール  除草 0.1 0.01 0.1 トリシクラゾール  殺菌 3 ▲0.02 0.007 ビスピリバックナトリウム 除草 0.1 0.01 0.1 ピラゾキシフェン  除草 0.1 0.01 0.1 ピリブチカルブ  除草 0.1 0.01 0.1 ピリミノバックメチル  除草 0.1 0.01 0.1 フェノキサニル  殺菌 1 0.01 0.01 フェントラザミド  除草 0.1 0.01 0.1 ブタクロール  除草 0.1 0.01 0.1 フラメトピル  殺菌 1 ▲0.1 0.1 プレチラクロール  除草 0.1 0.01 0.1 ペントキサゾン  除草 0.1 0.01 0.1 ベンフレセート  除草 0.1 0.01 0.1 メフェナセット  除草 0.1 0.01 0.1 モリネート  除草 0.1 ▲0.02 0.2 (4)有害性が判明し、農薬取締法により販売禁止となった農薬や登録失効した農薬は、残  留の如何にかかわらず、使用しただけで、流通規制されるようにしたネガティブリスト制  度も併用すべきである。 (5)基準のない農薬について、「一律基準」を0.01ppmとすると 約1kgの農作物  を摂取する人の理論最大摂取量は10μg/日・人となる。「人の健康を損なうおそれの  ない量」として、厚労省が設定した1.5μg/日・人を超えてしまう。 【意見2】最終案でも、個々の農薬等のADIと理論最大摂取量が公開されていない。早急 に公開すべきである。  現在、国内でADIが評価されているものは、その数値を、国内では評価されていないが、 コーデックス又は基準参考国で評価されているものは、その数値を、ADIが全く評価され ていないものは、その旨を明示されたい。また、今後、国内でのADIを評価せねばならな い農薬等の名称とその評価計画を明らかにされたい。 【意見3】国内で食用作物に使用されている農薬で、基準を設定されていないものがある。  該当する農薬名とそのADI及び設定しなかった理由を示してほしい。  また、このものの残留基準は「人の健康を損なうおそれのない量」が適用されるかどうか  を明示されたい。 【上記2つの意見についての理由】 (1)6月13日の参議院行政監視委員会の質疑で厚生労働省食品局食品安全部長は、  『これ(ポジティブリスト制度)を迅速かつ円滑に導入する、18年5月までに導入する  予定でございますけれども、このために厚生労働省としては、国民の健康の保護を図りつ  つ食品の流通において無用の混乱を招かないよう、暫定基準を策定することとしているわ  けでございます。このような状況の中で、御指摘の個々の農薬ごとのリスク評価の結果で  あるADIと理論最大一日摂取量との比較をお示しして議論していくことは物理的に難し  いということがありますが、これら基準のリスク評価につきましては、ポジティブリスト  制度が施行された後、国民の農薬摂取量等を踏まえて優先順位を付した上で食品安全委員  会に依頼し評価をしていただく予定であります。』と答えるとともに、今後ADI評価し  なければならないもののリストの要求については、提出を明言した。  また、食用作物に使われる農薬で、残留基準が設定されていないものについても、どんな  ものがあるか、必要な資料を示すことも約した。 (2)理論最大摂取量の計算は、物理的に難しいとあるが、農作物の摂取量と残留基準の積  の総和であり、コンピュータで簡単に計算できるはずである。 (3)食品安全委員会は『暫定基準については、当該制度の導入後に実施する食品健康影響  評価(以下「リスク評価」という。)の結果を踏まえて見直す必要があることから、優先  的にリスク評価を実施すべき物質についての考え方を整理した上で、リスク評価の効率的  な実施に資するためのリスク評価計画を策定し、当委員会の了承を得ること。』としてい  るが、本来、リスク評価は、基準設定の前に行なうべきものであり、その評価計画ですら、  最終案に示されていないのはおかしい。 【意見4】毒性や残留性データがないため、二次案では残留基準が設定されていなかった農 薬−農作物の組み合わせに、類型6−4と6−5の理由で、基準値が設定されたのは、食品 衛生法の趣旨に反する。  これらの基準は、『暫定』「人の健康を損なうおそれのない量」とし、分析技術が開発さ れた時点で、『暫定』を解くべきである。なお、私たちの提案した0.001ppm以下を採 用すれば、このような食品衛生法の趣旨に反することはない。 【理由】 (1)二次案において、残留基準は、食品衛生法第11条第1項による食品規格であり、毒  性や残留性データがなく、残留基準が設定されていないものには同条第3項の「人の健康  を損なうおそれのない量」を1.5μg/人・日と仮定して決めた「一律基準」0.01  ppmとすることになっていた(私たちは、0.001ppmが妥当としているが)。  本来、「人の健康を損なうおそれのない量」は毒性・残留性試験データから科学的に決定  されるべきものだが、そのようなデータがない農薬−農作物の組み合わせにまで適用する  ため、さまざまな理由をつけた上で、安全だといえるとして提案された値が1.5μg/  人・日であり、「一律基準」と称する0.01ppmであったはずだ。それを、0.01ppm  まで分析する方法が確立していないことを理由に、変更するというのは、問題のすりかえ  である。  「人の健康を損なうおそれのない量」と分析法上の検出限界を同列視してはならない。 (2)農薬を使わなければ、あるいは、使用基準が遵守されておれば、「人の健康を損なう  おそれのない量」を超えることもなく、残留基準をクリアできる。きちんとした分析方法  が確立できない農薬は、そもそも使用してはならないとの方針で対応すべきである。 (3)最終案では、類型6−4適用の農薬と動物薬を合わせ、95種に0.02〜1ppm  (最大値はシアン化水素)の暫定基準が設定された。  また、類型6−5適用の農薬と動物薬を合わせ農薬13種と動物薬39種について、0.  009〜0.0001ppmの基準が設定された。  このうち、農作物の基準が設定されたものについて、表2に、その数値をあげたが、97  種の農薬のうち、0.01ppmより高い値のものが86種あり、▼印をつけた13種の農  薬が、0.001ppmのオーダになっていることは、農業者や分析者を混乱に導く。  表2 「人の健康を損なうおそれのない量」の例外となる農薬とその基準(単位:ppm) 品目名                基準  1−ナフタレン酢酸          0.1   2,2−DPA            0.05  4−クロルフェノキシ酢酸       0.02  DBEDC              0.5   Sec−ブチルアミン         0.1   アシュラム              0.02  アセキノシル             0.02  アゾキシストロビン          0.02  アバメクチン            ▼0.008 アロキシジム             0.1   イオドスルフロンメチル        0.02  イソウロンI             0.02  イプロジオン             0.05  イマゼタピルアンモニウム塩      0.05  イミノクタジン            0.02  エチクロゼート            0.05  エチプロール             0.02  エトキシキン             0.05  エトプロホス            ▼0.005 エマメクチン安息香酸        ▼0.001 エンドリン             ▼N.D.  オキサジクロメホン          0.02  カルプロパミド            0.1   クミルロン              0.02  クロジナホッププロパルギル      0.02  クロフェンテジン           0.02  クロルフルアズロン          0.05  酸化フェンブタスズ          0.05  シアン化水素             1     シクロキシジム            0.05  シクロプロトリン           0.02  シフルトリン             0.02  シモキサニル             0.05  シラフルオフェン           0.05  シロマジン              0.02  ジアフェンチウロン          0.02  ジウロン               0.02  ジクロメジン             0.02  ジチオカルバメート          0.02  ジフェンゾコート           0.05  ジフルフェニカン          ▼0.002 ジフルフェンゾピル          0.05  ジフルベンズロン           0.05  ジベレリン              0.02  ジメチピン              0.04  スルフェントラゾン          0.05  テフルベンズロン           0.02  テブチウロン             0.02  テプラロキシジム           0.05  テルブホス             ▼0.005 テレフタル酸銅            0.5   デメトン−S−メチル         0.05  トリアゾホス            ▼N.D.  トリクラミド             0.1   トリクロピル             0.03  トリシクラゾール           0.02  トリネキサパックエチル        0.02  トリフルミゾール           0.05  トリフルムロン            0.02  二臭化エチレン           ▼0.001 ニテンピラム             0.03  ノバルロン              0.02  ハロスルフロンメチル         0.02  バミドチオン             0.02  バリダマイシン           ▼0.007 ヒドロキシノニルフェニル硫酸銅    0.04  ヒメキサゾール            0.02  ビアラホス             ▼0.004 ピラゾリネート            0.02  ピリダリル              0.02  ピレトリン              0.05  フィプロニル            ▼0.002 フェノトリン             0.02  フェンチン              0.02  フェンピロキシメート         0.02  フラザスルフロン           0.02  フラメトピル             0.1   フルオメツロン            0.02  フルオルイミド            0.04  フルフェノクスロン          0.02  プロヘキサジオンカルシウム塩     0.02  プロベナゾール            0.03  ヘキサフルムロン           0.02  ベンジルアデニン又は         0.02        ベンジルアミノプリン         ベンスリド              0.03  ベンスルフロンメチル         0.02  ベンタゾン              0.02  ペンシクロン             0.1   ホキシム               0.02  ホセチル               0.5   ポリオキシン            ▼0.008 マレイン酸ヒドラジド         0.2   ミルベメクチン            0.02  モリネート              0.02  リニュロン              0.02  リンデン(γ−BHC)       ▼0.002 ルフェヌロン             0.02  【意見5】最終案で、No61:オドスルフロンメチルは、小麦の残留基準が0.01とな  っているが、多くの農作物で類型6−4を適用し、残留基準を0.02としたのはなぜか。  個別暫定基準表で、   No.77:イマザキンが類型6−4で0.05ppm、   No.508:フェノキシカルブ  が類型6−4で 0.05ppmとなっているが、これらの農薬は類型6−4にリストアッ  プすべきでないか。 【意見6】貴省は「基準値により適否の判定を行う場合には、実験値は基準値より1けた多  く求め、その多く求めた1けたについて四捨五入し、基準値と比較することにより判定を  行う。」とされており、分析方法の開発もこの方針のもとで、行われていると理解される。  「一律基準」を0.01ppmとするからには、今後、早急に0.001ppmレベルで分析可  能な分析技術を開発すべきである。  このことに関して、以下の質問に答えられたい。 (1)貴省が4月13日の部会で示された資料3「分析法とその対策について」で、現行分  析法における定量限界のデータを示し、0.01ppmを超えるものが約37%であるとし  ているが、現行分析法で、検体量をふやすことにより、定量限界を一桁多く求めることが  できる残留農薬分析方法には、どのような農薬があるか、一覧で示されたい。  また、検体量をふやしても、妨害物質があり、検出限界を一桁さげることが出来ないのは、  どのような農薬があるか、一覧で示されたい。 (2)今後、開発する分析法では、定量限界は「一律基準」0.01ppmの1/10レベル  を目標とするのか。それとも残留基準の1/10とするのか。明確にされたい。 (3)クロルプロファム(IPC)について、1992年10月27日に告示された分析法  「クロルプロファム試験法」で、定量限界は、0.001ppmとなっていた。     出典:厚生省生活衛生局食品化学課監修の「残留農薬基準便覧」       第一版(日本食品衛生協会 1994/07/15発行)       第三版(日本食品衛生協会 1999/07/15発行)   その後、1999年11月22日に試験法の改定が行われ、「エスプロカルブ、クロル  プロファム、チオベンカルブ、ピリブチカルブ及びペンディメタリン試験法」で、クロル  プロファムの定量限界は0.01ppmとなった。 定量限界を緩和された理由はなにか。 【意見7】残留分析の実施とその結果について、以下の疑問点と要望がある (1)ポジティブリスト制度が実施された場合  ・残留農薬等の分析のため市場より検体を収去(サンプリング)するのは、どのような機   関か。  ・残留農薬等の分析を実施するのは、どのような機関か。  ・農薬の場合、すべての農作物検体について、設定対象とした農薬をすべて検査するのか。  ・各農作物等について、年間に分析に供する検体数は、現在どの程度で、制度実施によ   りどの程度になると考えているか。  ・生産団体や流通機関が実施している分析結果や輸入品で海外で実施された分析結果は、   どのように評価されるか。それらは、食品衛生法による流通規制判断の対象となるのか。 (2)公的な残留農薬等の分析調査結果は、個々の検体のデータをすべて、インターネット  で公開されたい。 (3)残留農薬検出率の公表に際しては、総分析農薬数ベースでなく、検体数あたりの検出  率を発表されたい。 【理由】 (1)現在、残留農薬調査結果については、「食品中の残留農薬」と題して、CD−ROM  版が販売されているが、リスクコミュニケーションを円滑にするためにも、ホームページ  での公開が必要である。 (2)貴省はHPで、  http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu2/040621-1.html  で残留農薬調査結果を公表し、総農薬分析数をベースに算出した検出率を示し、  『検査の結果、国産・輸入品を含む全検査中で農薬を検出した割合、また、そのうち基  準値を定めている農薬で当該基準値を超えた割合がいずれも低かったことから、我が国  で流通している農産物における農薬の残留レベルは極めて低いものと判断される。』と  結んでいる。   一方、下記5ヵ所の地方衛生研究所の報告では、  http://www.chieiken.gr.jp/koseirodo/kensa/kensa.pdf  『その結果、総計28 万5 千件(検体数×分析項目数)の入力されたデータベースを用  いて、検出農薬、濃度、食品群との関係等を検索した。総検査件数に対する検出農薬数  の割合は0.54%(H11年厚生労働省全国集計での検出比率0.7%)、又検体総数(2,012  件)に対する農薬検出率は38.9%で、国内産検体では41.4 %、輸入品全体では36.2 %  の検出率であった。』と記されている。 (3)ポジティブリスト制度実施で、分析対象農薬数が増えると、分析農薬数ベースでは、   ますます検出率が低くなり、意味をなさなくなる。 【意見8】「人の健康を損なうおそれのないことが明らかである物質」について物質ごとに  その根拠を明かにしてほしい。 【理由】食品安全委員会は『「人の健康を損なうおそれのないことが明らかである」物質に  ついては、指定される物質ごとにその根拠を明確化すること。』としているが、最終案で  は、根拠が明確に示されていない。 【意見9】ミネラルウオーターの残留基準については、EUの水道水基準(単一農薬で0.  1μg/L、総農薬で0.5μg/L)を採用すべきである。  また、清涼飲料水は、ミネラルウオーターの基準に準ずるようにすべきである。 【理由】  (1)世界保健機関の「飲料水水質ガイドライン」に定める基準が採用されたが、日本の水  道水関係の目標値すら配慮されていない。  日本の天然水が原料になっているミネラルウオーターを国内の農薬等の使用状況を考慮し  ないで、国際基準を採用するのはおかしい。  表3に示すように、農薬等34種の基準値があがっているが、日本の水道法の水質関連の  基準とくらべて見ると以下の点がわかる。  ・日本の水道法の水質管理目標設定項目の対象となる農薬101種のうち、12種しか基   準値が設定されていない(候補農薬を加えても18種)。  ・日本で使用されていない農薬(POPs系農薬も含む)や日本が管理対象にしていない   物質が16ある。  ・日本の目標値(mg/L単位)とWHOのガイドラインの数値の比較を表の中に不等号   と等号で示したが、日本の目標値より高いものが8、低いものが7、同じものが2種あ   る。 表3 ミネラルウォーター類の暫定基準(案)  単位:mg/L 農薬名              暫定基準       日本の水道法*                             目標値  項目内容  アラクロル            0.02    >  0.01  管理 アルディカーブ          0.01              −  アルドリン/ディルドリン     0.00003           −  アトラジン            0.002   <  0.01  管理 カルボフラン           0.007   >  0.005 管理 クロルデン            0.0002            −  クロロトルロン          0.03              −  クロルピリホス          0.03    =  0.03  管理 シアナジン            0.0006  <  0.004 3次候補 2,4−D            0.03    =  0.03  3次候補 2,4−DB           0.09             3次候補 DDT及び代謝物         0.001             −  DBCP             0.001             −  1,2−ジブロモエタン      0.0004            −  1,2−ジクロロプロパン     0.04              −  1,3−ジクロロプロペン(D−D)0.02    >  0.002 管理 ジクロロプロップ         0.1     >  0.06  3次候補 ジメトエート           0.006   <  0.05  管理 エンドリン            0.0006            −  フェノプロップ          0.009             −  イソプロツロン          0.009             − リンデン             0.002             − MCPA             0.002   <  0.005 3次候補 メコプロップ(MCPP)     0.01    >  0.005 管理 メトキシクロル          0.02              −  メトラクロル           0.01    <  0.2   2次候補  モリネート            0.006   >  0.005 管理 ペンディメタリン         0.02    <  0.1   管理 ペンタクロロフェノール      0.009             −  ピリプロキシフェン        0.3     >  0.2   管理 シマジン(CAT)        0.002   <  0.003 管理 2,4,5−T          0.009             −  テルブチラジン          0.007             −  トリフルラリン          0.02    <  0.06  管理 *:日本の水道法では、個々の農薬の水質基準は設定されておらず、農薬類として 水質管理目標設定項目で、総農薬方式により管理されることになっている。 具体的には管理対象農薬101種について、検出値と表に挙げた目標値の比の総和が 1以下となっている。表の項目内容(管理:前記101農薬/2次及び3次:現在管 理対象ではないが、その候補農薬/−:日本で使用されていないので対象外。 (2)日本の水道水質基準の場合、農薬類が水質基準にならなかったのは問題だが、単一農  薬の監視だけでなく、総農薬方式が採用された点は評価すべきであった。私たちは、EU  の水道水で採用されている絶対濃度基準を求めるが、日本の総農薬方式すらとられなかっ  たことは、飲料水規制の後退と思わざるをえない。 (3)現在、インドでは、市販のコーラ飲料に含有される農薬(使用する水に含有される)  が大きな問題になっているが、これは、同国での農薬水系汚染と密接に関係がある。 【意見10】二次案の加工食品等の国際規格について、その設定経過が不明なため、説明を 求めたが、回答が示されない。機械的に国際規格を採用せず、日本の食習慣にあうよう、基 準を見直すべきである。 【理由】発がん性や生殖毒性の疑われる殺虫剤カルバリル(NAC)のように、米ぬかの残 留基準が170ppmと設定されたものもある。玄米1ppmや家畜配合飼料の5ppmに比べて異 常な高値で、日本独特のぬか漬け用途は全く考慮されてはいない。 【意見11】二次案でも述べたが、以下の点は、今後の検討事項とされたい。 (1)農薬補助成分として使用されている化学物質を調べ、残留基準の設定対象とする。 (2)最終案では、2種以上の農薬活性成分をひとまとめにして、残留基準を設定している  場合がいくつかあるが、類似化学構造や類似毒性発現機構を有する農薬をグループ化して、  基準を設定することが望まれる。 (3)複合毒性が判明していない現状では、総農薬摂取量を規制することも考慮されたい。 【理由】 (1)加工食品は、複数の農薬が残留してくいる可能性が高いから、農薬総含有量で規制す  ることが望まれる。 (2)原料農作物もグループ化して残留基準が決められているから、農薬もグループ化  して規制することも考慮すべきである。 (3)現実に、人が摂取するのは複数の農薬であり、個別の農薬だけでなく複合毒性を評価  することが、より科学的である。 アメリカのNRCレポート(National Research Council発行,"Pesticides in the diet   of infants and children"(1993年))では、まず、共通の作用機構を有する個々の物質  の毒性等価因子を選定し、これに、個々の農薬の実際の残留レベルを乗じ、その結果を加  算することにより全残留農薬量を算出する方法を提示している。  例として、コリンエステラーゼ活性阻害という共通の機構で作用する有機リン剤をとりあ  げると、アセフェート、クロルピリホス、ジメトエート、ジスルホトン、エチオンの5種  の有機リン剤を選び、各農薬についてその無作用量を基準にしたクロルピリホス換算係数  を設定した上、8種の食品(リンゴ、オレンジ、ブドウ、マメ、トマト、レタス、モモ、  洋ナシ)でのクロルピリホス等価残留値と消費量を基に、2才児の場合についてのシミュ  レーションが行なわれた。  その結果、単独の農薬の残留値は、すべて一日摂取許容量以下であったにもかかわらず、  5種の合計量では、1.3%の子供がクロルピリホスの許容量を越える値の農薬を摂取し  ていることが明かになった。これに子供たちがよく飲むジュース(リンゴ、オレンジ、ブ  ドウ)の消費を加えると許容量を越える子供の比率は4.1%と高まった。  共通の機構で作用する農薬の合算した影響は、1農薬の個別的影響よりも大きいから、同  じ種類のすべての農薬に対して、毒性等価因子を確立し、トータルとしてのリスクを算出  するリスクアセスメント方法を発展させることは大切であると、NRCレポートは述べて  いる。 (4)すでに、水道水の場合、日本では、101種の農薬を対象に相対比の総和で規制する  総農薬方式で監視されており、ヨーロッパでは、総農薬の絶対濃度規制基準がある。 【意見12】国内での農作物の栽培について、使用者には、農薬取締法により「農薬を使用 する者が遵守すべき基準」の遵守が義務づけられおり、貴省が3月22日に、農水省へ 農 薬適正使用の指導強化を依頼されたことは、時宜を得たものと思う。  ポジティブリスト制度を実効あるものにするには、農作物等の生産段階での適正使用が不 可欠だと考える。私たちは、農薬使用者の免許制度、農薬使用履歴の記帳の義務化などを農 水省に求めている。これらの実現は、農薬適正使用やドリフト防止を促し、残留農薬の低減 化につながると思われる。貴省においても、その実現を推進してほしい。 【意見13】海外では、国内で適用されない農薬や使用方法で農作物が栽培されており、こ のことが、残留分析をわずらわしくさせる原因のひとつとなっている。  そこで、以下のことをお願いしたい。 (1)海外からの農作物の輸入に際しては、農薬使用履歴の提出を求める。  このことは、農薬取締法「農薬を使用する者が遵守すべき基準」で、国内の農薬使用者に  求められている事項であるから、貿易障壁としての非難につながらない。 (2)海外諸国に、日本の残留基準等を通告するだけでなく、日本での農薬等の使用状況  (例えば、日本での登録農薬名と適用作物の一覧、日本で使用できない農薬等のリスト)  の情報を周知させ、できるだけ、日本の使用状況に近づける努力をするよう促されたい。  これは努力目標なので、貿易障壁としての非難につながらない。