*** 早急な無人ヘリコプター散布の規制強化に関する要望 (2007年11月7日) *** 農林水産大臣 殿  貴省は、2006年1月に「無人ヘリコプターによる空中散布等の安全対策に関する意 見・情報の募集」と題するパブリックコメントを行いながら、1年以上もたった2007 年11月現在、何の方針も出しておりません。「今後、本案については、提出いただいた 意見・情報を考慮した上、決定することとしております。」と言っておきながらあまりに も無責任ではないでしょうか。  その間にも無人ヘリ散布面積は年10%の割で増え続け、各地でさまざまなトラブルを 起こしています。国がきちんとした規制をせずに、無人ヘリ散布を推奨している以上、当 然のことと言えます。いっぽう、ポジティブリスト制導入に伴い、ドリフトによる農作物 汚染の懸念から無人ヘリ散布を中止したり、群馬県のように人の健康への影響を防止する ため、有機リン系農薬の無人ヘリ散布自粛を要請するところも現れ、その安全性に疑問が 高まりつつあります。  私たちは地上散布よりも高濃度の散布液を使う無人ヘリ空散は禁止すべきと考えていま すが、すぐ禁止できないのなら、当面、都道府県および国が無人ヘリ散布の実態を把握し た上で、厳しい規制をすることが必要と考えます。貴省も当然そのような対応を取ろうと しているはずです。  私たちは、07年10月に、47都道府県に無人ヘリ散布の安全対策、都道府県独自の 指針の有無などのアンケート調査を行い、44都道府県から回答を得ました(【参考資料】 参照)。  現在、無人ヘリ散布をしていない県は東京、神奈川、和歌山、沖縄の4県しかありませ ん。このうち、神奈川県は、平成15年の農産園芸局長通知「無人ヘリコプター利用技術 指導指針」(以下「国の指針」)が出された時点で、農業者などと話し合いを持った上で、 無人ヘリ散布はしないと決めたということです。ほとんどが混住地帯であれば賢明な方針 だと思います。  また、国の指針以外に県独自の指針などを作成している県は27ありました。それぞれ、 国の指針を元に作成していますが、中には国の指針を超えた規制をしているところもあり ます。しかし、これらは強制力のないものであり、違反したからといって罰則はありませ ん。  アンケート調査の結果を踏まえて以下の要望をいたします。12月15日までに文書で の回答をお願いいたします。  なお、この要望は2006年1月に貴省に提出したパブリックコメント(【参考資料2】参 照)にプラスするものとお考え下さい。          ******   要望事項   ***** 1,無人ヘリによる農薬散布を推進する方針を改め、規制する法律を新たに立法化する  この点に関して何度も要望していますが、貴省の回答は(05年12月22日付)「有人ヘリ コプター及び無人ヘリコプターによる空中散布については、依命通知、ガイドライン、指 導指針等により、安全かつ適正に実施するよう指導に努めているところであり、安全に実 施されているものと考えています。このため、現時点では法律を制定する必要牲はないと 考えています。」という主観的なものでした。事故が続発すれば法律を考えるということ でしょうか。ガイドラインや指針に違反しても何ら罰則はありません。  また、指針では、無人ヘリコプターの研修や認定を(社)農林水産航空協会(以後「協 会」)にさせていますが、法律ではないため、協会の認定を受けていない者が無人ヘリ散 布をしても罰則はありません。また、協会が機体やオペレーターの認定をするという法的 根拠もないわけです。  国の指針では、実施主体を組織と個人に分け、個人の方の規制を緩くしていますが、こ のような分け方は必要ないと思います。都道府県アンケート調査でも、独自の指針で事前 届出する府県ではほとんど、組織であろうと、個人であろうと区別をしていません。散布 すればドリフトし、空気を汚染するのは同じですし、複数の機体で同時に散布する場合は より厳しい規制が必要です。 2,無人ヘリ散布の計画段階での届出と計画の審査を義務づける  国の指針には、計画の事前届出義務もなければ、その審査もありません。散布実施計画 (実績)の記録を整備して置いて、関係機関から求めがあった場合には記録を提出するとあ るだけで、これでは無人ヘリ散布の実態を把握できません。すでに、いくつかの県では、 計画を提出させており、安全面から計画自体の検討をしているところもあります。  貴省は2005年11月22日付の私たちへの回答で「ほとんどの府県において、無人ヘリコプ ターによる散布計画等の情報の把握に努めていると聞いています。」と書いていますが、 実際に計画届出を義務づけている県は15しかありません。ちゃんと調査してから回答して ほしいと思います。  さらに、届け出た計画が妥当かどうか審査をすべきです。散布禁止区域、その周辺区域 などを現地調査して、詳細な地図を作成することを義務づけた県があります。 3,散布禁止区域と緩衝地帯の幅を明記する  公衆衛生関係とされる学校、病院、水源への散布禁止を明記すべきです。また、それら の周辺に散布する場合、どのくらい離せばいいのか緩衝地帯の幅を明記すべきです。岐阜 県のあるJAは病院から200メートル離しています。石川県の自主基準では30メート ルとなっていますが、有機圃場や対象外農作物へのドリフト防止対策としても、これでは 不十分です。   今年6月、青森県がつがる市の道路に散布した除草剤ラウンドアップハイロードが農 作物に被害を与えました。地上散布であるにもかかわらず、被害は道路から50メートル の範囲が全体の88%、50メートルを超える範囲は12%で、最高110メートルの場 所まで農薬が飛散し、被害を与えています。  このような状況を考えると、無人ヘリ散布の場合、最低200メートルは離さなければ 汚染は防げないのではないかと考えられます。 4,周知のみならず、周辺住民等の了解を得る  事前に散布予定の周知をするのは当然ですが、守られていない県もある一方、県の指針 で、周知する対象を国の指針の「学校、病院等の公共施設、居住者」よりも多くしている ところがあります。どこに周知しなければいけないのか、どういう方法で周知するのか明 記すべきです。  山形県では事前に公衆衛生関係の周辺で散布する場合は事前に了解を得るとされていま す。また、山口県も自治会や地区の代表者、学校や病院、事業者等と事前に協議して、了 解を得ることになっています。単なる事前周知ではなく、周辺住民の了解を得ることを条 件にすべきです。 5,事故、苦情等の報告を義務づける  国の指針には事故等についての報告義務は書かれていません。無人ヘリコプターによる 人身事故・健康被害、農作物や水産物ほかの物損事故はもちろん、機体トラブル事故を含 むすべてを報告させ、再発防止を図るべきです。また、無人ヘリ散布に関する苦情なども きちんとまとめ、対応を含めて報告させるべきです。すでに、苦情を報告させている県も あります。 6,無人ヘリ散布業者の届出や操作要員の免許制度が必要である  03年の農薬取締法改定で防除業者の届出が廃止されましたが、無人ヘリ散布業者も同様 で、野放しになっています。無人ヘリ防除業者の届出を求めているのは宮城県と山形県だ けです(兵庫県は全ての防除業者の知事への届出が必要)。茨城県は無人ヘリコプターの 操作要員の住所氏名、群馬県も操作要員の住所氏名、教習経験などを報告するなどとなっ ていますが、全ての都道府県で無人ヘリ散布業者の届出を義務づけるべきです。  また、操作要員は操縦技術だけでなく、農薬の毒性に関する知識の有無を問う国家試験 による免許制度を導入すべきです。 7,現地混用を禁止する  無人ヘリコプターの場合、地上散布よりも高濃度の希釈液(地上の場合1000倍希釈、空 中散布の場合8倍希釈)が使用されますが、その際、複数の登録農薬を現地混用で使用すれ ば、全農薬濃度は単独より高くなります。混合製剤は、農薬登録に際して、急性毒性試験 データの提出が必要ですが、現地混用では、農薬の薬効のみが重視されてしており、急性 毒性試験データもありません。そのため、農水省は混合剤の使用を推奨しています。  しかし、混合剤があるにも係わらず、農林水産航空協会の混用事例集では現地混用を認 めたものがあります。たとえば、無人ヘリコプター適用農薬としてスミチオントレボン乳 剤がありますが、スミチオン乳剤とトレボンエアの現地混用を認めています(現地混用事 例1参照)。  また、環境省が実施した「農薬残留対策に関する総合調査」には、無人ヘリコプターに よるドリフト知見をうるための試験を現地混用で実施しています(現地混用事例2参照)。  いずれの事例でも、現地混用により全農薬濃度の高い散布液が使用されているのは問題 です。 【現地混用事例1】登録製剤使用と現地混用の散布液農薬濃度比較(単位:g/L)   農薬の種類         MEP  エトフェンプロックス 全農薬濃度  @スミチオン乳剤 8倍希釈    62.5  - 62.5     MEP50%   *地上散布1000倍希釈        0.5      -     0.5  Aトレボンエア 8倍希釈       -       12.5 12.5   エトフェンプロックス10%   *10%含有剤地上散布300倍希釈   - 0.31        0.3  Bスミチオントレボン乳剤 8倍希釈    MEP40%,エトフェンプロックス10% 50      12.5        62.5   *地上散布1000倍希釈        0.4 0.1      0.5  @+Aの混用           62.5     12.5 75 【現地混用事例2】03年に長野県飯山市での水田で実施された環境省の試験より          散布液中の農薬濃度(単位:g/L) 農薬の種類 トリシクラゾール MEP  BPMC 全農薬濃度 @ビームゾル  8倍希釈   25 - - 25    トリシクラゾール20%   *地上散布1000倍希釈        0.2 0.2  Aスミバッサ乳剤75 8倍希釈    -    56.25 37.5  93.75    MEP 45%:BPMC 30%     *地上散布1000倍希釈      0.45 0.3 0.75 @+Aの現地混用 8倍希釈      25    56.25 37.5  118.75