中央防災会議 御中                 2006/02/06                 要望書  国民の生活を守るため、日々御尽力頂きありがとうございます。  私たちは農薬や殺虫剤、化学物質の乱用に歯止めをかけようと運動している団体や、 化学物質による健康被害を受けた患者団体です。  最近、浸水後の措置の一つである消毒による健康被害の訴えが増えております。  私たちは、2005年9月に来襲した台風14号による浸水被害後の防疫活動で、使 用された防疫用消毒薬・殺虫剤名とその使用状況を、市町村に電話で聞き取り調査して みました。結果は以下の通りでした。    台風被害を受けた市町村で使用・配布された消毒薬・殺虫剤名               ( )内は商品名。*は配布もされた消毒薬 市町村名     使用消毒薬   鹿児島県垂水市  クレゾール、塩化ベンザルコニウム(オスバン)* 宮崎県宮崎市   クレゾール*・塩化ベンザルコニウム 大分県大分市   クレゾール 大分県佐伯市   (明治ゾール77=オルソジクロロベンゼン77%、クレゾール10 %)* 高知県市四万十市 クレゾール、塩化ベンザルコニウム(オスバン)*、 フマテックスDDVP乳剤 高知県土佐市   塩化ベンザルコニウム(オスバン)* 徳島県吉野川市  塩化ベンザルコニウム(オスバン、ザルコニン、オロナイン−K) *          生石灰* 徳島県なか町   クレゾール、塩化ベンザルコニウム*、生石灰 愛媛県大洲市   塩化ベンゼトニウム(ハイアミン)          塩化ベンザルコニウム(シャンゾール)* 山口県岩国市   クレゾール*・塩化ベンザルコニウム(オスバン)* 山口県美川町   クレゾール、塩化ベンザルコニウム(オスバン)・生石灰* 広島県広島市   塩化ベンザルコニウム* 岡山県玉野市   塩化ベンザルコニウム 生石灰* 東京都杉並区   クレゾール、塩化ベンザルコニウム(オスバン)* 埼玉県志木市   クレゾール*  (備考:岩国市は、クレゾールと塩化ベンザルコニウムの両原液を飲用ペットボトル に小分けして住民配布し、県から誤飲防止の通達違反として配布中止の指導を受けまし た。)  15自治体中、10自治体でクレゾールが使用されています。  クレゾール石けん液は、クレゾール50%と植物油、アルカリ成分、水をが成分です。 クレゾールは、劇物指定のある化学物質で、水に溶けやすくするために界面活性剤を添 加してあります。用法では、手・指消毒には1〜2%、汚物・便所には3%に希釈するこ とになっています。ICSC(国際化学物質安全性カード)で、クレゾールは「環境中に放 出してはならない」物質となっています。日本でも病院などでの使用は減ってきていま す。  また、日本芳香族工業会のMSDSによると、消毒剤クレゾールには、発ガン性、変 異原性(DNA合成阻害)、皮膚吸収性、水中生物への毒性、燃焼すると分解し、有毒 で刺激性のフューム(煙、蒸気、ガス)を生じる等の有害性・毒性が記されています。  以下に、消毒剤による最近の事故をあげます。  消毒剤による事件・事故  1996/07 青森県五所川原市、公園で遊んでいた児童5人が、まかれていた       クレゾール石鹸液で化学熱傷、ひとりは意識障害も。 1998/08 東京都文京区、女子中学生が「やせ薬」と称して、クレゾール       液入り容器を郵送  2001/01 長野県上田市、 水道水にクレゾール混入 2002/03 滋賀県信楽町、 第一電工信楽工場からクレゾール漏洩、  2003/11-12 沖縄市比謝川で魚の大量死 河川や魚の死がいから、      クレゾールやナフタリンが検出。  2004/03 鹿児島県串良町、鳥インフルエンザ対策として、町が配布した       逆性せっけん「パンパックス100 」を小1女児が誤飲  2004/12 東京都、地下鉄メトロの座席にクレゾールせっけん液の原液、       乗客 化学熱傷  このような物質が浸水後の地域に広範に使用され、ただでさえ健康に支障を来しやす い被災者にさらに追い打ちをかけるようなことは、厳に慎むべきことと思います。  また、塩化ベンザルコニウムは、0.1から0.2%程度に希釈したものが消毒に使用され ます。一般に生体毒性が低く、クレゾールのような臭いもないと言われていますが、表 のように、経口毒性は劇物に相当します。 塩化ベンザルコニウムの急性毒性    テンジクネズミ経口200 mg/kg    マウス腹腔10 mg/kg    マウス静注10 mg/kg    マウス経口175 mg/kg    マウス皮下62 mg/kg    ラット腹腔14.5 mg/kg    ラット静注13.9 mg/kg    ラット経口240 mg/kg    ラット皮下400 mg/kg    ラット経皮1.56 g/kg                (Arugonda 1999)  浸水時の消毒は水洗い、乾燥で対応するのが基本であり、安易な薬剤の使用は耐性菌 を出現させる恐れもあり、どうしても使用しなければならないときに限定すべきと考え ます。 また、浸水後の感染症防止対策として、殺虫剤や殺そ剤を使用しているところがあり ますが、感染症予防法では、第三十四条(必要な最小限度の措置)『感染症の発生を予 防し、又はそのまん延を防止するため必要な最小限度のものでなければならない。』と され、また、同法施行規則第十五条(ねずみ族及び昆虫等の駆除の方法)には、『次に 掲げる基準に従い行うものとする』として、『二 駆除を行う者の安全並びに対象とな る場所の周囲の地域の住民の健康及び環境への影響に留意すること。』とあり、むやみ に薬剤を使用することに歯止めがかけられています。  そこで、都道府県が作成する地域防災計画の防疫に関して、国の助言として以下のよ うな内容の通知を出していただきたいと思います。                記 1,消毒剤としてクレゾール石けん液は使用しない。 2,浸水時の消毒は水洗い、乾燥や熱湯・日光消毒を基本とする。 3,防疫用殺虫剤・殺そ剤は感染症やそれを媒介するねずみ族及び昆虫の発生状況を見   極め、安易に使用しない。 4、極度の汚染など、やむを得ず、薬剤を使用・配布するときは使用方法、使用上の注   意を遵守する。 5,やむを得ず、薬剤を使用するときは、周辺住民への周知を徹底し、薬剤の影響を受   け易い人に対しては、避難措置等をとる。  お忙しい中、申し訳ありませんが、2月末までに文書でご回答くださいますようお願 いいたします。   要望団体:反農薬東京グループなど26団体と4個人