**************************************** 建築物環境衛生維持管理要領等に関する要望 **************************************** 2007年4月9日 厚生労働省健康局生活衛生課 御中 平素より生活衛生等に関する業務にご尽力いただきありがとうございます。 また、先日、第2回建築物環境衛生維持管理要領等検討委員会が開催されたところです が、IPM(総合的有害生物管理)のガイドライン等の公表に向けて検討が開始された ことについて、感謝いたします。ありがとうございました。 ご存知のように、建築物衛生法の平成15年改正以後も、改正の内容が自治体や各施設に 周知徹底されておらず、「防除」を「殺虫剤散布」と誤って解釈したまま、害虫等の発 生状況に関わらず、建築物内において薬剤の定期散布を実施している例が多数あります。 例えば、科学館、観光施設、文化会館等、公共的な施設で室内殺虫剤散布が行われてお り、そのために、化学物質過敏症の子どもたちが、社会見学や音楽会等の学校行事への 参加をあきらめざるをえなくなるなどの実態があります。 また、建築物衛生法以外に、労働安全衛生法、食品衛生法、医療法、興行場法等厚生労 働省所管の法令の他、学校保健法など他の省庁所管の法令でも、衛生害虫駆除を義務付 けている法令や基準が複数あり、建築物衛生法に準じて、定期的な防除や駆除が規定さ れています。例えば、学校、幼稚園、保育園など多くの子どもたちが通う施設や、産科、 小児科を含む様々な病院でも、害虫等の発生状況に関わらず定期散布されている例があ りますが、散布薬剤として、ごく微量でも長期暴露による慢性毒性、特に発達中の脳・ 神経系への影響が懸念されている有機リン系薬剤や、環境ホルモン作用が疑われている ピレスロイド系薬剤が多く用いられています。 平成15年度から平成17年度にかけて、厚生労働科学研究費補助金事業「建築物における ねずみ・害虫等の対策に関する研究」(主任研究者 田中生男(財)日本環境衛生セン ター技術顧問)が実施され、その研究結果のまとめが発表されて以来、私たちはこれま で、IPMのガイドライン等の早期公表や早急の通知発出を重ねて要望してまいりまし た。漸くという感は否めませんが、「建築物環境衛生維持管理要領」の改定と「建築物 における維持管理マニュアル(仮)」の策定により、今後IPMの普及が進み、不要な 薬剤散布が見直されることを願ってやみません。 さて、検討委員会の資料の中で、建築物環境衛生維持管理要領の中の「ねずみ等の防除」 に関する改定案で、IPMの考え方を取り入れた防除体系を導入することについてはも ちろん異論はありません。しかし、現行の「防除を行うにあたっての留意事項」が利用 者への薬剤使用情報の周知徹底を除いてすべて削除されており、健康被害の防止という 点では不十分なものになるのではないかという危惧をもちました。 先日の電話での問い合わせの際には、防除にあたっての留意事項は、昭和50年代当時の 問題で、現在は常識になっているため必要がない、また、特に防護具等の使用について は、作業者のリスクの問題で、業界側で必要ないとの見解を示しているとのことでした。 しかし現在でも、業者が、薬剤の空間噴霧後の処置を実施せず、撒きっぱなしで、数時 間後に建物の使用者が入室し、何の防護対策もとらず、薬剤を洗い流したりふき取った りする作業をしている例がありますし、また、食器類については汚染防止の処置をして も、事務室等で、書類や図書、その他の物品については汚染防止措置をとらず、空間噴 霧を実施している例もあります。図書室などでも同様の散布が行われている例がありま すが、薬剤の染み込んだ絵本や児童書を乳幼児や児童が手にしています。 また、PCOの協会などに加盟していない業者も多数あり、本当に防護具の着用や、作 業衣等の使用後の処置や汚染防止について確実に実施されているのか、疑問です。なお、 屋外の農薬散布については、専門業者による作業でも、防護具等着用せずに散布してい る例が散見されています。 昨今、公共の場所での薬剤散布やその薬剤の残留曝露による健康被害が増加し、問題に なっていることは、これまでにお渡しした資料等ですでにご存知のことと思います。I PMの普及には時間がかかるものと思われますし、IPMの明示と合わせて健康被害の 防止のための対策や留意事項についてもこれまで以上に啓発していくべきと考えます。 以上のことから、下記項目について要望いたします。 お忙しいなか大変恐縮ですが、4月27日までに文書でご回答下さい。 記 要望T.建築物環境衛生維持管理要領の改定案について  1.ねずみ等の防除について、平成19年環境省・農水省通知「住宅地等における農薬使用 について」と同様に、@発生予防の重視、A物理的防除の重視、B薬剤使用の場合、 散布以外の方法の優先検討、Cやむを得ず散布する場合の最小限度の散布、D施設利 用者への周知徹底と健康被害防止のための最大限の配慮等の内容を盛り込んで下さい。 (参考:平成19年1月31日付環境省水・大気環境局長、農林水産省消費・安全局長連名 通知「住宅地等における農薬使用について」) 2.改定案の「第六 ねずみ等の防除」の、(2)総合的有害生物管理の実施にあたっ ての留意事項として、「IPM組み立てに組み入れるべき要素(IPM施工ガイドラ イン)」(以下、「IPMの要素」)と、「防除を行うに当たっての留意事項」が混 在していますが、区別して記載してください。 3.「IPMの要素」については、以下のように、IPM実施の際の手順や優先事項が はっきりとわかるようにしてください。 (ア)生息実態調査の実施、 (イ)目標基準の設定と確認、 (ウ)防除にあたっては人や環境に対する影響を可能な限り少なくすること、 すなわち、 (エ)まず、発生源対策、侵入防止対策を行うこと、特に日常の環境整備を徹底(@) すること、 (オ)次に、防除実施にあたり、まずトラップの利用等の物理的防除(A)を、必要 に応じ防虫・防そ工事等と組み合わせて実施し、薬剤使用を組み合わせる場合も まず、毒餌配置等散布以外の方法を優先検討(B)すること、以上の措置で十分 な効果が出ないなど、薬剤散布がやむをえない場合必要最小限の散布(C)とす ること、 とした上で、 (カ)対策の評価の実施 と続くべきです。 4.「防除を行うに当たっての留意事項」として、日時、作業方法、実施場所、使用薬 剤名、健康影響の例、注意事項等の利用者への周知徹底(D)を、以下に要望する他 の安全対策とともに明記してください。 また、使用薬剤等の情報を掲示する場所についても、入場の際に確認できるよう、わ かりやすい場所に掲示することとし、明示してください。(参考:興行場法「入場者 の衛生に必要な措置基準条例準則」、昭和59年4月24日付厚生省環境衛生局長通知) 5.現行の「ねずみ、こん虫等の防除」で記載のある「防除を行うに当たっての留意事 項」が、改定案では、(1) 利用者への周知徹底についての記載以外、すべて削除さ れていますが、このうち、(2)イ 什器等の汚染防止や、(2)ウ 薬剤散布後の入室禁 止(建物の利用制限)についての他、(3) 食毒剤(毒餌剤)の誤食防止(ベイト剤 への接触防止も追加すべき)の記載は、危被害防止の上でも重要な事項であり、削除 しないでください。 6.薬剤散布後、特に空間噴霧後の残留薬剤の除去等事後処理についても、業者で責任 を持つよう明記してください。 7.散布作業者のリスクを減らすための留意事項については、本当に必要がないのか、 再検討してください。 要望U.建築物における維持管理マニュアル(仮)について 1.ねずみ等の防除については、厚生労働科学研究費補助金事業「建築物におけるねず み・害虫等の対策に関する研究」の研究報告に示されているIPM施工ガイドライン を基にマニュアルを作成されるかと存じますが、上記の要望T.で示した、@発生予 防の重視、A物理的防除の重視、B薬剤使用の場合、散布以外の方法の優先検討、C やむを得ず散布する場合の最小限度の散布、D施設利用者への周知徹底と健康被害防 止のための最大限の配慮等の内容について、できる限り具体的な方法や基準を示して ください。 2.特に防除作業について、以下のような具体的な内容を盛り込んでください。  @密閉収納等の食物管理や残滓の処理等清掃管理などの日常の環境整備(発生源対策) を徹底し、防虫・防そ工事等の侵入防止対策を実施する。  A粘着トラップの他、捕獲トラップ、圧殺トラップ(ねずみ)の利用、吸引掃除機の 利用(ゴキブリ等)、ライトトラップ(飛翔昆虫)の利用など、害虫等の習性に応 じた物理的防除を優先的に実施する。  B薬剤による防除を併用する場合、薬剤の種類、薬量、処理法、処理区域について十 分な検討を行い、まず、ホウ酸団子やベイト剤等の毒餌(固形薬剤)配置を実施す る。  C以上の方法で十分な効果が得られず、乳剤等をやむなく使用する場合も、よりリス クの少ない方法(散布ではなく塗布)を選択し、散布以外に方法がないと判断され る場合も、よりリスクの少ない剤形(水性乳剤やMC剤)を選択し、いずれの方法 でも、処理区域は隙間などを重点に必要最小限の区域とし、薬量も必要最小限の量 とする。 D薬剤を使用する場合には、施設利用者への事前周知を徹底し、安全対策と危被害防 止対策に最大限の努力をはらう等、以下に要望する留意事項を守る。 3.特に、薬剤による防除を行う場合の留意事項として、施設利用者への周知徹底につ いて、次の内容を盛り込んでください。 事前通知は、少なくとも1週間前までに、日時、作業方法、実施場所、使用薬剤名と 想定される健康影響の例(めまいや吐き気、頭痛などの症状等)、注意事項(気分が 悪くなった場合にその場を離れて新鮮な空気を吸うなどの対処方法等)を明記して、 入場の際に確認できる場所に看板等で掲示し、事後も少なくとも1週間は掲示してお く。また、利用者が確認できるよう、防除実施記録を掲示板等わかりやすい場所に通 年掲示しておく。 (参考:農薬散布については、農水省の委託により(社)緑の安全推進協会が作成し た、「人の健康や環境へのリスクを低減した樹木等の病害虫防除に関する手引き」 に具体的な周知例が記載されています。なお、健康影響の例の記載についてですが、 一般市民は薬剤名だけでは、どのような健康影響が出る可能性があるかわかりませ ん。現在、医薬品も副作用の情報提示が義務付けられており、注意事項と合わせて 記載すべきです。) 4.特に、薬剤を散布する場合には、次の留意事項を守ることとしてください。 a.物品の搬出や覆いの使用等、什器等の汚染防止に努める。 b.必要に応じて、薬剤散布後の入室禁止(建物の利用制限)の期間を設ける。 c.空間噴霧を施工した場合、事後処理として、洗浄やふき取り等残留薬剤の除去を 業者で責任を持って行う。 d.残効性の薬剤の塗布や残留噴霧を施工した場合も、空間噴霧で事後処理を実施し た場合も、残留薬剤のガス化による室内空気汚染のリスクがあるため、一定期間 の換気の励行等、施設利用者が留意すべきことを伝える。(室内では、日光や雨 にさらされないため、薬剤成分の残留が長期にわたります。) 5.食毒剤(毒餌剤)の誤食防止、事後の毒餌の回収、ベイト剤への接触防止等につい ても留意事項として記載してください。 (幼稚園、保育園、学校でも害虫駆除が実施されており、殺虫剤散布を行っている例 も多くありますが、特に乳幼児、児童のいる施設では、ベイト剤を導入する際、乳 幼児や児童が接触することのないように施工場所等に留意する必要があります。) 要望V.IPMの全体への普及と、子ども等薬剤弱者への配慮他について 1.建築物環境衛生維持管理要領の改定および建築物における維持管理マニュアル(仮) の策定後、通知等を発出される際には、IPMの理念、方法、基準、留意事項、安全 対策等、要領及びマニュアルの内容について、建築物衛生法だけでなく、衛生害虫防 除を規定する他の法令・基準等を所管するすべての省庁の担当課に情報提供し、さら に、都道府県のそれぞれの担当部署にもそれらの内容を示すよう、依頼してください。 2.特に、保育園、幼稚園、学校、乳幼児・児童の入所・通所施設等、発達途上にある 子どもが多数利用、生活する施設や、病院等(産科、小児科、その他すべての病院、 診療所等)医療施設や福祉施設等、抵抗力が弱く薬剤の影響を受けやすい患者が受診、 入院または入所する施設においては、防除の実施にあたって、極力薬剤散布を避け、 発生源対策、侵入防止対策、物理的防除と毒餌配置等での防除に最大限努めるようマ ニュアルの中で特記するか、あるいは、この件に関して、各省庁の担当課より通知を 発出するよう、取り計らってください。 3.建築物環境衛生維持管理要領の改定および建築物における維持管理マニュアル(仮) の策定にあたっては、最終案に関するパブリックコメントを実施してください。 ***************** 要望団体(順不同) ****************** 子供を有害物質から守る会/浜松農薬汚染を考える会/山口みどりの会 サスティナブル21/くらし・しぜん・いのち 岐阜県民ネットワーク シックハウス連絡会/とよはし市民会議/シグナルキャッチ 子供のいのちを守る会/化学物質による患者の会千葉/ 子どもの未来と環境を守る会名古屋/なごや子供の健康と環境を考える親の会 化学物質から子どもを守る会*愛知/どんぐりの会/子どもの健康と環境を守る会代表者 環境過敏の子をもつ親の会/反農薬東京グループ