登録農薬の虚偽宣伝と成分違反について                             2008年9月4日 農林水産大臣 太田誠一 様 農薬対策室  鈴木伸男 様 5月26日、島根県出雲市で実施された松枯れ空中散布で、農薬スミパインMC剤によると思 われる健康被害が発生しました。この件に関しまして、私たちは林野庁に対し、松枯れ対 策の農薬空中散布及び地上散布の即時中止を要求しています。  ところで、出雲市は健康被害原因調査委員会を設置して、専門家による審議を実施中で す。その会議で、スミパインMC剤の製造メーカーである住友化学が配布した「スミパイン 乳剤及びスミパインMCに関する技術レポート」に、スミチオンの眼刺激性として『ウサギ を用いた試験結果では、眼や皮膚に対する刺激性はない。』との記載があり、登録申請さ れ毒性試験成績の『ウサギの眼に対して、ごく軽度の刺激性ありと判定された』との記載 と異なることが指摘されました。9月1日開催された第六回委員会で、住友化学は眼刺激 性がないとしたことが誤りであることを認め、謝罪したとの報道がありました。  私たちは、04年6月に農薬工業会に対して、FAOの「農薬の流通と使用に関する国際 行動規範」の広告に関する規定を挙げ、農薬を「塩より安全」と言ったり、「普通物」な どという語句で宣伝することを問題視して、同規範を遵守するよう求めました。同工業会 からは『当会においてもFAOの広告に関する諸規範等を参考としたコンプライアンスを 推進することとしております。』との回答がありましたが、今回の住友化学のような事例 を防止できていません。 また、8月15日、貴省は、大原パラヂウムが登録申請した展着剤「パンガードKS-20」(販 売は大塚化学)について、登録申請した製剤と異なる成分の製剤を販売したとして、同社 に報告命令をだされています。  私たちは、農薬検査所報告44〜47号にある農薬製造場への立入検査で、『登録と異なる 製造処方で製造されていた。』と報告されていることについて、昨年11月、貴省に対して、 具体的な検査結果を明らかにすることを求めましたが、『今後の取締の適正な遂行に支障 を及ぼす恐れがあることから、農薬検査所報告に記載のある内容以上のことについてお答 えすることはできません。』との回答をいただいただけでした。このような秘密主義は、 メーカーの不正を助長するだけで、今回の大原パラヂウムのような事例の再発防止には役 立ちません。 これらの件で、下記の要望を行いますので、9月30日までに回答くださるようお願いしま す。     ***** 質問と回答(9月30日) **** 1.農薬の毒性試験成績の開示とその宣伝について (1) 住友化学の事例のような安全性を強調する虚偽の宣伝は、農薬取締法や景品表示法 及びその関連通知に違反しませんか。その他の現行法で取り締まるとすれば、どのような 法律のどのような条項がありますか。 【回答】農薬取締法上の虚偽の宣伝の禁止については、第十条の二第一項及び第二項に規 定されておりますが、今回の事例については、当該規定に違反するものではないと判断し ます。  その他の現行法で虚偽の宣伝や表示の誤認に関連のある法律としては、「不当景品類及 び不当表示防止法」や「不正競争防止法」が考えられますが、今回の事例がこれらの法律 に違反しているかどうかについては、当省は当該法律を所管していないので、判断できま せん。 (2) 今回の事例のように、農薬製造・輸入・販売者が、その宣伝資料や毒性資料概要、 技術資料等に、登録申請時の毒性試験成績の記述と異なる記載をしていないかどうか、総 点検を実施し、その結果を報告してください。 【回答】者の商品購入に係る判断材料になりうることを考慮すると、記載内容が購入者の 誤解を招きかねない表現となっていることから、同社の企業倫理に係る問題であると考え ており、同社に対して、技術レポート(改訂版)の作成、旧版の回収を速やかに行うこと 及び社内のチェック体制見直しを行うよう指導しました。 (3) 貴省におかれましても、FAO「農薬の流通と使用に関する国際行動規範」を遵守する よう農薬製造・輸入・販売者を指導してください。 【回答】農薬工業会においては、これまでも、FAOの示す国際行動規範等も踏まえた行動 規範を自主的に策定し、公正な取引の実施に取り組んできました。農林水産省としては、 今回の事案を踏まえ、この行動規範に基づいて、更に公正で誠実な事業活動を行うよう指 導の徹底を依頼したところです。 (4) 住友化学の虚偽記載が判明したのは、行政文書の開示請求によって、スミチオン登 録時に提出された資料のうち毒性に関する部分が開示されていたからでした。農薬毒性試 験データについては、企業の財産とするのではなく、わざわざ、開示請求しなくとも、だ れでも知ることができるよう、すべて公開することを求めます。 【回答】登録申請のあった農薬については、食品安全委員会において評価が行われ、当該 農薬が登録となった時点で農薬評価書と農薬抄録が公表されています。また、それ以前に 評価された農薬については、申請者に対して自ら公表するよう指導しているところです。 2.登録農薬の含有成分違反について (1) 「パンガードKS-20」についての、成分違反の経緯が判明したら、その内容を公表し てください。 【回答】パンガードKS-20を販売していた大原パラヂウム及び同社の原体を用いてホール ドガードを販売していた大塚化学より提出された報告を踏まえ、パンガードKS-20並びに ホールドガードに関する成分違反の経緯及び講じた措置について9月22日付で農林水産省 ホームページに公表を行いました。 (2) 貴省は、上述のように、農薬検査所の立入検査で判明した製造処方の相違を公表す ることは『今後の取締の適正な遂行に支障を及ぼす恐れがある』とされていますが、どの ような点が支障を及ぼすのか具体的に説明してください。 【回答】立入検査の詳細な結果が公表された場合、他の業者の類似案件の調査に支障を来 す恐れがあると考えています。 (3) 農薬検査所報告44〜47号にある農薬製造場への立入検査で、『登録と異なる製造処 方で製造されていた』事例について、改めて、その内容を明らかにするよう求めます。 【回答】パンガードKS-20の事案に関する主成分の含有量並びに本来存在しえないと考え られる混入物については、(1)で示したホームページ内に公表しました。 なお、その他の事案については、企業秘密にかかわる内容を含んでいることから、現在の 内容以上を公表することは困難と考えます。 (4) 登録製剤の成分違反の有無について、農薬製造・輸入者に総点検を命じて、その結 果を公表してください。 【回答】製造処方の変更を含む農薬取締法の遵守については、定期的に農薬製造業者等に 対する立入検査を行うことで確認し、必要に応じて結果を公表しています。今後とも立入 検査の適切な実施により、確認を行っていきたいと考えています。 (5) 登録製剤の成分について、定期的に分析値を貴省に報告するよう農薬製造・輸入者 を指導してください。 【回答】農薬は、申請書に記載のとおりの方法で製造する決まりとなっており、仮に、届 け出どおりの方法で製造していないことが明らかとなった場合、農薬取締法に基づく措置 を行うことになっています。従って、定期的な分析値の報告を求める考えはありません。 農薬製造者・輸入者は農薬取締法を遵守することが基本であり、これについては、農薬製 造者等に対する立入検査を実施することにより確認しています。