■■ 無人ヘリコプターによる空中散布等の安全対策に関する意見 ■■ 農林水産省 農林水産省消費・安全局 植物防疫課 農業航空班 御中     =================================================       ★★★反農薬東京グループ★★★ 代表:  辻 万千子       〒202-0021東京都西東京市東伏見 2−2−28−B        電話/ファックス:0424-63-3027        E-mail:mtsujiアトマークjcom.home.ne.jp URL http://home.e06.itscom.net/chemiweb/ladybugs/      ================================================== はじめに  無人ヘリコプターによる農薬散布の増加に伴い、当グループは、昨年秋、資料集「無 人ヘリコプター農薬散布 現状と問題点」を発刊、その中で、ドリフトによる農作物汚 染、環境汚染、健康被害防止の観点から、いくつかの問題提起を行うとともに、11月29 日付で、貴省に対して、(社)農林水産航空協会(以下、「協会」という)及び無人ヘ リコプター防除業者についての質問状を送り、12月22日に回答を得てもいました。この たび、貴省が、無人ヘリコプターによる空中散布等の安全対策に関連する通知の一部改 正に取り組まれたことは、一歩前進ですが、まだ、十分とはいえないと思います。  今回のパブコメ募集は、以下の2つの無人ヘリコプター農薬散布に係る通知に関する ものです。  ・「無人ヘリコプター利用技術指導指針」(平成3年4月22日付け3農蚕第1974号農 蚕園芸局長通知、以下「指針」という)  ・「農林水産航空事業実施ガイドライン(平成16年4月20日付け16消安第484号消費・ 安全局長通知、以下「ガイドライン」という)  しかし、貴省案には改正の概要しか示されておらず、5項目の提案内容が、いずれの 通知に対応するものかの記載もなく、改正案(1)の協議会の項で「組織」を定義しな がら、改正案(2)の実施主体でいう「組織」の意味とは異なるなど、パブコメを求め るには、あまりにも説明不足です。  無人ヘリコプター農薬散布は、「指針」、「ガイドライン」だけでなく、農薬取締法 第12条に基づく「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」(平成15年3月 7日付農林水産省・環境省令第5号、以下「省令」という)及び通知「住宅地等におけ る農薬散布について」(平成15年9月16日付16農安第1714号消費・安全局長通知)とも、 関連するので、私たちは、個々の提案項目に意見を述べることはせず、これらを総括し て、意見を述べることとします。          **********  意見と理由  *********** 【意見1】無人ヘリによる農薬散布を規制する法律を新たに立法化する。 【理由】  1、無人ヘリによる農薬散布は行政指導しかない。現行では、「ガイドライン」の第    4項と「指針」でしか規制されておらず、これらの内容に違反しても、何ら罰則    を受けない。  2、「省令」では、農薬使用者として、無人ヘリコプター使用者は家庭園芸使用者と    同等にしか扱われていない。  3、「指針」では、無人ヘリコプターオペレーターの研修を「協会」に求めている。    また、「指針」に基づく「産業用無人ヘリコプター運用要領」では、「協会」が    技能認定することになっているが、法的には、誰が無人ヘリコプターで農薬を散    布しても、いいことになっている。  4、現在、無人ヘリコプター機数は、約2000機、「協会」認定オペレーターは1万人    を超え、今後、増大する傾向にある。  5、「協会」が無人ヘリコプター事業を行うのは、「協会」の定款目的に違反してい    るため、法律できちんと責任と権限を定めるべきである。 【意見2】無人ヘリコプター散布は、有人ヘリコプター散布と同等か、より厳しい規制   をすべきである。その際、  1、散布禁止地域を決める。  2、緩衝地帯を設置する。  3、対象外地域への飛散防止を義務づける。  4、人や農作物、愛玩・野生動植物などへの危害防止を義務づける。   などを忘れてはならない。   また、規制基準の設定に際しては、無人ヘリによる農薬飛散だけでなく、散布後の   気中濃度の調査が必要である。 【理由】  1、無人ヘリコプターの登録農薬において、希釈倍率は、地上散布でなく有人ヘリと    同等の場合が多く、微細滴径の農薬を、地上よりも100倍の高濃度で散布する場    合もある。  2、有人ヘリよりも飛散範囲は狭いとしても、遠隔操作による上空からの散布である    ため、地上で人が行う散布のように、きめ細かい制御ができない。  3、小回りがきくということで、有人ヘリの場合よりも、住宅隣接した農地で使用さ    れる場合が多く、高濃度の散布液のドリフト防止に一層の注意が必要である。  4、単機による、短期間での広域散布や複数の無人ヘリコプターを用いた広域一斉散    布が実施された場合、有人ヘリ以上の規制が望まれる。  5、無人ヘリによる農薬散布の飛散距離、飛散量、大気汚染のデータがない。きちん    と調査したうえで、緩衝地帯を設置すべきである。 6、環境省の定めた航空防除農薬に係る気中濃度評価値(平成9年12月 環境庁水質   保全局)は10農薬についてしかなく、農薬大気汚染による人の健康への影響評価   は充分ではない。   【意見3】「ガイドライン」では、特に有機圃場及び学校・通学路周辺へのドリフト防   止対策を求めているが、これらだけでなく、適用外作物等(ミツバチ、蚕、家畜、   水産動植物等を含む)、住宅地や生活環境(水源、野生動植物等)へのドリフト防   止も特記すべきである。   これらについては、無人ヘリコプター使用者の義務として、「指針」にも明記すべ   きである。 【理由】  1、集約的農地利用が進んでいる地域では、多種類の農作物が隣接して栽培されてお    り、無人ヘリコプターによる高濃度の散布液が、適用外作物等にドリフトし、残    留基準や「一律基準」を超える恐れが高まるので、ドリフト防止対策が必須とな    る。  2、学校・通学路だけでなく、住宅地や生活環境へのドリフト防止対策も必要である。  3、現行「指針」には、公衆衛生関係、畜蚕水産関係、他作物関係への注意があるが    有機圃場、住宅地は特記されていない。   【意見4】無人ヘリコプターによる農薬散布によるドリフト調査を実施し、散布区域外   へ農薬がドリフトして、他の農作物や人への被曝がないよう、散布実施条件等(た   とえば、緩衝地帯の設置)を決めるべきである。   「産業用無人ヘリコプターによる病害虫防除実施者のための手引き」では、合図マ   ンは、散布コースから20m以上はなれた風上側にたつことになっているが、この   数値が出てきた根拠を説明してもらいたい。 【理由】緩衝地帯の設置に際しては、農薬の種類、散布地の地形、風向・風速など気象   条件、散布高度、散布装置などから、農薬の飛散距離が、推定できるよう、無人ヘ   リコプター散布データをあつめ、公表することから、はじめるべきである。 【意見5】「省令」で、無人ヘリコプター散布による農薬使用者に以下の遵守義務を負   わせる。  1、都道府県に、無人ヘリコプター保有者・使用者・防除業者届を提出する。    (保有者や所有者、防除業者の住所氏名、保管場所、機種、台数、オペレーター    氏名、その他必要な事項)。  2、無人ヘリコプター使用者・防除業者・散布委託者は、市町村を通じて都道府県に、    農薬散布計画を前もって提出する。  3、散布予定地域の住民、農業者、学校・幼稚園・保育園、老人施設、病院、公共施    設、その他の関係者に、あらかじめ、散布計画(変更の場合も)を周知徹底させ    ることを義務づける。  4、対象外地域(有機圃場、適用外作物圃場、住宅地等を含む)への飛散防止対策を    義務づける。  5、「省令」の第9条(帳簿の記載)を義務づけ、散布実績を、市町村を通じて、都    道府県に届出る。  6、「省令」第6条に基づく、通知「住宅地等における農薬使用について」にある、    住宅地等への農薬飛散防止対策の実施を義務づける。  7、「省令」に、無人ヘリコプターの機体トラブル、物損事故、農作物等へのドリフ    ト事故、環境汚染や人体被曝事故などの報告の義務づけと、補償責任を明確にす    る条文を追加する。 【理由】  1、無人ヘリは有人ヘリと同様、上空から高濃度の農薬希釈液を散布するから、「省    令」の第4条(航空機を用いた農薬の使用)に準じた規制が必要である。  2、すでに、県の要綱や要領で、防除業者届出制度を導入したり、散布計画や散布実    績報告を散布主体に提出させているところもある。  3、無人ヘリコプターが犯罪に使用されるのを防止できる。 【意見6】無人ヘリコプター農薬散布では、農薬の現地混用を禁止する。 【理由】  1、2種以上の農薬を低い希釈倍率で混用した場合、農薬成分の濃度は一層高くなる。    登録混合剤のような急性毒性試験データがないままの高濃度散布は、使用者や周    辺住民等にとって危険性が大である。  2、「農薬の現地混用について」(平成16年2月2日付け消費・安全局農産安全管理    課農薬対策室長事務連絡)では、これまでに知見のない農薬の現地混用の自粛が    求められており、無人ヘリコプターで散布した場合の知見はない。 【意見7】農水省は、農林水産航空協会に対して、法令遵守するよう十分に指導すると   ともに、「協会」が調査・研究してきたさまざまな情報を公開させる。  1、「協会」定款の目的にある通り、有人ヘリを対象とする航空機事業に専心させる。  2、無人ヘリ散布における、農薬ドリフト調査や気中濃度調査、ドリフト防止対策、    過去の機体トラブル・事故例などに関する資料を公表させる。  3、法令違反をした会員や賛助会員を除名するよう指導する。  4、無人ヘリコプターオペレーターの研修・認定事業を止めさせる。 【理由】  1、無人ヘリコプターによる防除面積は、有人ヘリよりも多く、航空機散布の補完事    業といえない。無人ヘリコプター事業は、現在、「協会」の主たる業務になって    いる。  2、無人ヘリコプターに関する事業として、オペレーターの研修・認定など主要な役    割を担っているのに、定款目的に、そのことが記されていない。  3、【意見10】で述べるように、国が免許制度を導入し、研修・認定は国の責任で実    施すべきである。  4、法令違反した会員や賛助会員が、研修・認定事業をするのは好ましくない。  5、「協会」が実施した、無人ヘリコプター散布に関する研究・調査内容の多くは、    公開されていない。 【意見8】無人ヘリコプター使用については、地区協議会を設置し、計画内容を検討し、   散布者をして、散布予定を地域住民や農業者等に周知させることが重要である。   協議会メンバーやその役割としては以下のようなものがあげられる。  1、当該散布予定地域で、無人ヘリコプターにより農薬散布を実施する者(実施主体、    個人農業者、防除業者)、地域農業者団体や個人農業者、住民自治会や地域住民    個人、環境保護団体、健康被害者、自治体関連担当部、都道府県担当部、保健所    ・医療関係者、その他有人ヘリの場合に準じた構成員からなる地区協議会を設置    する。  2、協議会は、市町村を通じて都道府県に提出された散布計画の内容を検討する。  3、協議会は、国や都道府県、農薬散布関係者から無人ヘリコプターに関す諸情報を    得て、その内容を検討し、地域に提供するとともに、協議会で検討された内容を    都道府県等に提供する。  4、協議会は、散布実施者をして、散布地域の住民、農業者、学校・幼稚園・保育園、    老人施設、病院、公共施設その他の関係者に散布予定(予定の変更も)を周知さ    せる。  5、協議会は、農薬の環境汚染調査やドリフト調査の必要性を検討し、調査が必要な    場合は、環境分析の専門研究者に委託し、その報告を受け、データを公開する。  6、協議会は、健康調査票を周辺住民に配布するが、その評価は、疫学の専門研究者    に委託し、その報告を受け、必要なデータを公開する。 【理由】  1、実施計画や実績報告は、市町村を通じ、県が情報を集約し、県から関連する地域    協議会へ、周辺情報を合わせて、提供することになる。  2、散布地域レベルで、散布についての詳細な検討ができる。県レベルの協議会だと    地域の状況が不明。  3、散布の影響を受ける農業者や地域住民が協議会に入り、意見を述べる必要がある。  4、環境調査や健康調査をしても、協議会では、評価できない。プライバシー保護の    問題もあるので、専門研究者に検討、評価、報告してもらう。  5、都道府県等からの情報、地域からの情報の双方向の提供が必要である。  6、有人ヘリ散布は「ガイドライン」で、地区協議会を設置すること、松枯れ対策の    無人ヘリ散布運用案では、利害関係者を含む連絡協議会を設置することになって    いる。 【意見9】地方公共団体に、無人ヘリコプター農薬散布による、農作物等の危害、人の   健康被害、環境汚染等についての相談窓口を設置する。 【理由】通知「住宅地等における農薬使用について」で、健康被害相談のための窓口を   必要に応じて設置することが求められているが、自治体によって、担当部署はまち   まちである。きちんとした農薬被害の相談窓口が必要である。 【意見10】無人ヘリコプターオペレーターの操縦資格に、国による免許制度を導入する。  1、現在、協会がオペレーターを認定しているが、オペレーター資格を取得するには、    研修を義務づけ、国家試験を実施する。試験の合格者以外は農薬散布はできない    ことにする。  2、合図マン、ナビゲーター、作業者等の補助要員にも、研修を義務づける。  3、免許取得に際しては、適切な期間の補助要員経験を必須条件とする。  4、免許期限を設け、更新に際しては、研修等を義務づける。  5、免許取消等の罰則を設ける。 【理由】  1、現在は、「協会」認定者は、約1万人いるが、法的拘束力はなく、認定を受けな    くても、無人ヘリコプターの操作及び農薬散布を行なうことができる。  2、オペレーターには、操縦技術、機体整備、農薬及び農業についての専門的知識が    必要である。  3、オペレーターとペアを組む合図マン、ナビゲーター、作業員等の補助要員にも、    オペレーターに準ずる知識が必要である。  4、安全対策面でも、無資格者の操縦を禁止することは効果がある。  5、耕運機や散布用走行車を道路を走らす場合にも、車両運転免許が必要となってい    る。