反農薬東京グループ提出 ******************************************** 食の安全・安心のための政策大綱についての意見 ******************************************** 【1】<政策展開の基本的考え方>に関する意見  食品のリスク評価・リスク管理が声高に叫ばれ、「食品安全基本法」など新たな法規制が 実施されようとする背景には、リスクの高いやり方でたべものを生産・供給しているという 現実があるからです。  最近の事例をみても、自然では起こらない共食いがBSEを拡大させたわけですし、薬に 頼らざるを得ない水産養殖や家畜の飼育方法、海外からの食品の輸入増大が一層の薬剤残留、 未認可食品添加物、カビ毒を産み出し、有害な菌の出現につながってもいます。  地球環境のことを考えずに、いままでと同じように、人工化学物質の過剰な使用や遺伝子 組換え食品で、みかけの食生活を豊かにしても、それは、一時的なもので長続きしないでし ょう。  化学合成物質である、農薬・動物用医薬品・水産養殖用薬剤・飼料添加物・食品添加物の 使用や種の異なる遺伝子を操作した新たな食品開発を前提にしていては、それらの毒性評価 や残留検査の義務付けなど、ヒトと金を必要とする監視・検査体制を強化せざるを得なくな るのは当然です。    現在、提案されている「食品安全基本法(案)」は、食品安全委員会に重きをおいた「食 品リスク評価に関する法律」というべき内容でしかなく、基本法と名乗るには、あまりにお こがましい法律であるため、私たちは、下記のような事項を基本として、自然環境や生態系 にできるかぎり影響を与えず、ヒトが病原菌や有害物質をできる限り摂取しないよう、たべ ものを生産・供給し、その安全・安心をはかることを目的とした真の「食品安全基本法」の制 定をめざせねばと考えているところです。  (a)ヒトの生命と健康を維持するためには、病原菌を含まず、有害な物質を含まない   食べものが、生産・供給される必要がある。  (b)ヒトは地球上に生きる種のひとつで、食物連鎖の上位にあり、自然環境と切り離し   て、安全・安心なたべものはあり得ない。  (c)自然環境や生態系への影響をできるかぎり少なくして、たべものを生産・供給する。  (d)人工合成した化学物質の使用をできるかぎり減らして、たべものを生産・供給する。  (e)異なる種の遺伝子組込みや自然の摂理に反するバイオ技術を利用して、たべものを   生産・供給しない。  「大綱」にある<政策展開の基本的考え方>の中で、貴省は『土壌や畜舎、漁場など農畜 水産物を生産する環境を良好に維持する』、『環境中にある化学物質などのリスクを低くす るよう生産方法などを工夫する』などを挙げていますが、現状では、これを実現させるため の環境保全型農業の促進等に、それほど力が入れられているとは思われません。農薬や化学 肥料の使用量を減らすべく、数値目標をたて、実現に一層努力すべきです。 【2】<政策の展開方向>についての意見 (1)情報公開の強化を求める  (a)貴省が指摘されているように、食品に含まれるおそれのある有害微生物や化学物質など   によって、健康にどのような内容と程度の悪影響が生じ、その確率(リスク)はどのく   らいかを科学的に検討することは、必要ですが、専門家が密室の中で検討しているだけ   では、いままでとかわりがありません。「食品安全基本法(案)」では、残念ながら、   リスクを評価する食品安全委員会は、いままでの省間の縦割り行政を別組織にしただけ   で、情報公開の程度は相変わらずであり、私たちのめざす、開放された機関ではありま   せん。  (b)昨今の食品にまつわるさまざまな事件の原因のひとつに、情報公開が不十分であること   があげられます。    行政の入手した情報を、国民の不安をあおるとか、生産者に不利にはたらくなどの理   由で、開示しない例がみられましたが、このようなことは、止めにしてもらいたいと思   います。また、企業秘密を楯に公開を拒むことがあってもなりません。  (c)例えば、農薬の毒性について登録申請時にメーカーが提出した毒性試験成績の情報公開   を求めると試験データの詳細そのものは、もちろん、使用された農薬の純度ですら、   メーカーの企業秘密ということで公開されません。製剤の不純物や補助成分もすべてブ   ラックボックスの中にあります。   人の健康や環境や生態系の影響に関する試験データは、たとえ、企業が作成したもので   あっても、公開を原則とすべきです。企業がその経済活動上、不利益を被らないよう、   公開されたデータの盗用を防止する策をとれば十分です。毒性試験データを例にとれば、   そのデータが何時、どのような機関で実施されたかが判明しておれば、それが盗用され   たデータであるか否かはすぐに判明するはずです。物質そのものやその製造方法、組成   や用途は特許で保護されます。技術を特許にするかノーハウとして非公開にするかは、   企業の自由にまかせ、毒性データなどは、公開を義務づけるのが筋です。  (d)さらに、農薬や食品添加物や動物用医薬品等のメーカーは自ら製造販売しようとする化   学物質の毒性や環境汚染等に関する既存文献調査を実施し、その内容をすべて公開する   よう義務付けるべきです。  (e)健康影響評価だけでなく、食品の生産過程で使用される物質の環境への影響評価、食品   中の有害物質等の残留分析調査などが実施された場合、調査結果のすべてが公開される   べきです。  (f)貴省が提言するリスクコミュニケーションの推進は、上意下達の一方的なもので、あっ   てはなりません。最近、行政がパブリックコメントを求めることが多くなってきました   が、意見を聞いて、施策に反映するという本来の趣旨を実施するにしては、募集期間も   短く、単にに国民の意見を聞きましたとする形式的なものなってしまては、、何のため   の制度だったかということになります。 (2)現在の省庁の枠組みを超えた管理体制が必要  リスク管理体制について、貴省は、「産業振興」と「リスク管理」とを同じ部局で実施し てきたことを反省されていますが、それだけでは、不十分です。貴省は、前述のように『環 境中にある化学物質などのリスクを低くするよう生産方法などを工夫する』と主張されてい るわけですから、いま、一歩踏み込んで、省の枠を超えた体制づくりをめざすことがのぞま れます。たとえば、農薬については、同じような化学成分が農業以外にも使用されているこ とを思えば、アメリカのように環境保護庁−日本でいえば、環境省の管轄下におくことも配 慮されてはいかがかと思います。 (3)食の安心・安全に逆行するグローバル化には反対  (a)貴省は、地産地消のような生産者と消費者との「顔の見える関係づくり」をめざす政策   を提言されていますが、その実現は食の安全・安心にとって重要です。食品の遠距離輸   送や長期保存に頼っていては、酸化防止剤、保存剤、防黴剤、その他の食品添加物数・   使用量を減らすことにつながりません。  (b)食糧の自給率を増やすことは、食品の監視・検査の経費を減らことにもつながるので、   積極的に推進すべきです。  (c)貴省は、国際機関、主要国との連携がうたわれていますが、国内の実情を考慮せず、   食品安全に関す規制・基準などを国際協調とかグローバル化の名の下にて、画一的に   決めてしまうことは、反対です。食品添加物も、外国で認可されているからといって、   国内で認める必要はありません。農薬の残留基準なども外国産農作物の輸入の障壁と   なるからといって、数値を緩和したり、国内で使用が認められない農薬のポストハー   ベスト使用を認めることには納得できません。国内に実情を加味した規制・基準を   設定することを求めます。 (4)消費者に眼をむけた行政を  貴省は、生産者よりも消費者に眼を向けた農政に転換するとされましたが、現実に行われ  ている政策をみると、これが、言葉だけであることがわかります。  農薬については、3月10日より施行された改正農薬取締法においては、農薬と称するに  は問題のある「特定農薬」制度を導入した上、消費者に対して何の説明もなく、農作物の  グループ化を実施し、さらに、マイナー作物については、法律では禁止されている適用外  使用を容認する経過措置がとられ、生産者にしか眼を向けないという、従来となんら変ら  ない姿勢が明かになりました。同時に、防除業者の届出制度を廃止し、非食用作物への適  用遵守義務を設けないなど、生活環境への農薬汚染を軽視している点も看過できません。 (5)リスク分析法について  貴省は「リスク分析」手法の導入をすることとしたと述べておられますが、その手法にお  いては、以下の点に配慮願いたいと思います。  (a)「リスク評価」方法によって得られた数値を絶対視しない   従来の「リスク評価」の手法は、(a)環境汚染についていえば、自然の力によって回復す   る、(b)ヒトについていえば、化学物質の作用は摂取量が低いほど小さくなり、多くの場   合、ある量以下になると作用を及ぼさない、という二つの大きな仮定の上に なりたっ   ています。   さまざまな不確実な要素が評価の対象からはずされ、毒性評価モデルの単純化と数値化   が行なわれます。そのため、複数の化学物質を比較するには一見便利だが、得られた数   値が絶対視されてしまう恐れもあります。   また、「リスク評価」の手法はリスク-ベネフィット(危険性-便益)比較に結びつき、    リスク削減のための経費(コスト)に数値化されて、コスト-ベネフィット(費用-便益)    比較として、行政や企業の主張に取り入れられることが多いといえます。   リスク-ベネフィット比較では、発がん性のある農薬を使用せず収穫量が減少すると果実   や野菜が食べられなくなる人もいる。それより、その農薬が多少残留した野菜や果物を   食べた方が多くの人にベネフィットとなるとの論理がまかり通っています。しかし、そ  の農薬を身近かで散布されている人にとっては、農作物に残留する農薬より切実なのは、   空気から取り込む農薬であり、このような場合、「リスク評価」の手法は みんなのた   めにがまんしろという、受忍強要に手をかすことになります。   「リスク評価」の手法は、毒性試験データや環境データなど科学的な要素を含むもので   すが、実際は、多くの不確実ないくつもの仮定の上に成り立った、いわば砂上の楼閣的   側面があることを念頭におかねばなりませんし、リスクとベネフィットの双方を受け入   れねばならない一般の人に対して、それぞれの内容が恣意的に解釈されないよう、きち   んと説明されていなければ、科学を装ったまやかしの手法に終わってしまう恐れがあり   ます。  (b)予防原則の導入   ヒトの健康や生態系に被害を及ぼすおそれのある化学物質は、因果関係が科学的に完全   に立証されていなくとも予防的措置を講ずるべきであるという、いわゆる予防原則を導   入すべきです。予防原則手法は(a)ヒトの活動は、環境になんらかの影響をあたえるので、   環境への負荷をできる限り減らす、(b)ヒトに対する化学物質の作用には不確実なものが   ある、という立場にたっています。   「リスク評価」方法で得られた数値を利用するものの(ただし、そのリスク評価の根拠   となるすべての情報がリスクを被る一般の人に公開されていることが必須条件である)、  不確実なことを不確実と認識して、ことにあたるのが予防原則の手法であり、すでに、   1992年、国連環境開発会議での”環境と開発に関するリオ宣言”には「環境を守るため   に、各国はその能力に応じて予防的アプローチを広く採用する。重大なあるいは回復不   能な損害の脅威がある場合、充分な科学的根拠がないことを理由に、費用対効果の高い   環境悪化防止策が先延ばしされてはならない」との原則があります。   生殖系や神経系、免疫系などへの不可逆的な影響が心配される化学物質の場合、ヒトや   生態系への影響がどのようなものになるかが完全に究明されてから、規制するのでは、   遅すぎるますから、予防原則の手法がとられるべきです。 (6)オルタナティブ制度の導入  化学物質の使用において、私たちは、用途毎に、使用される化学物質の製造から廃棄まで の環境負荷評価を行ない、環境に対する負荷が低い化学物質の使用を推奨する制度をつくる べきであると主張してきました。農水畜産物の生産においても、環境負荷のより少ない、手 法をとることが必要です。この際、経済性を優先に走らず、環境に優しい代替技術の採用を 予算的裏付けをもって、推進することが望まれます。 (7)消費者からの申立て制度の導入  現行法では、行政が下した認可や登録などについては、申請した事業者からの異議申立て  制度はありますが、消費者・市民団体らからの提言、申立てを受けいれて、審議する制度  はありません。  個々の化学物質についての毒性試験、再評価、規制の実施を求める消費者等の声を反映さ  せる申し立て制度を導入すべきです。 (8)食品中の残留化学物質について  主に農薬について、以下の諸点で、改善を望みます。  (a)食品に残留する農薬、動物用医薬品、食品添加物ほかの摂取量をできるかぎり減らすよ   う、設定物質や基準の見直しの実施を求めます。  (b)いままで、残留基準のない農薬についてはフリーパスでしたが、ポジティブリスト制度   にすることにより、基準のない農薬が使用されたものは、食品として流通できなくしま   す。残留基準を設定する農薬数が多かったり、基準値が高くては、総農薬摂取量を減ら   すことにつながりませんから、できるだけ農薬数を減らし、基準値を低くする必要があ   ります。  (c)現行の残留基準は、毒性評価をもとにした数値であり、国内流通品の実測値よりも、高   い値に設定されています。国際平準化と称して、外国の高い数値に合わすのでなく、残   留実態を配慮して、日本独自のものであっても低い値をとり、輸入品についても、国産   並の値を求めるべきです。  (d)たべものには、複数種の農薬が残留している場合が、しばしばみられます。個々の農薬   が基準以下でも、総農薬残留量が高いこともあり、化学構造や作用機構が類似した農薬   は、グループ化して、総残留基準として規制すべきです。  (e)ポストハーベスト使用される殺虫剤や発芽防止剤は、高い残留値が設定され、農薬の摂   取量を大きくしています。いままでも、臭化メチルやEDBなどは薬剤を使用しない保   存方法に代わってきました。国産、輸入品を問わず、ポストハーベスト使用を禁止し、   残留基準を下げるべきです。  (f)中国産冷凍野菜にみられたように、加工食品にも農薬が残留していました。また、水田   除草剤などが魚介類へ、殺虫剤などが畜産品に残留していも基準がありません。   農産物(飼料を含む)だけでなく、水産品、畜産品、さらには加工食品についても農薬   残留基準を設定する必要があります。  (g)たべものに残留する農薬の毒性については、ヒトの健康に影響を与えることを思えば、   できるかぎり、安全サイドで、評価すべきです。  (h)環境汚染は、飲料水だけでなく、食品の二次汚染につながります。たとえば、魚介類に   ついては、農薬の水系汚染の結果、数100から数1000倍も生物濃縮されることも   ありますから、水系の汚染防止対策は万全を期するべきです。また、農薬の大気汚染、   特に、散布地周辺の住宅地については、農薬使用の法規制も視野にいれた対策をとるべ   きです。