「土壌残留及び水質汚濁に係る農薬登録保留基準の改定について」の意見 -------- 2004/09/13 環境省水環境部土壌環境課農薬環境管理室 御中 *********** 意見と質問 *********** 【1】土壌登録保留基準についての質問と意見 (1)後述の後作物での残留判断基準が科学的でないため、ヨーロッパ諸国で実施している、  土壌中半減期が3ヶ月以上、かつ90%消失期間1年以上の農薬を登録しないとするEU  の登録保留基準の方が望ましいと思いますが、  この基準を採用されなかった理由は何ですか。 (2)現行の登録保留基準を1年から180日に変更されたことにより、登録保留になる恐れ  のある農薬成分名を挙げてください。 (3)国内適用のない農作物(当然作物残留試験等はなされていない)は、ポジティブリ  スト制度下で、基準を設定しないというのが、私たちの基本的考えです。従って、  具体的な判断基準は、後作残留性試験を行い、後作物に該農薬が検出されないことを  原則とすべきです。  ・私たちは、毒性・残留性試験が実施されておらず、人畜に影響をあたえない量である   ことが科学的に証明されていない一律基準の設定に反対していますので、これを判断   基準にすべきでないと主張します。  ・後作物の汚染の判断基準を、現在提案されているポジティブリスト制度下での残留基 準案においてはならないと思います。何故なら、残留基準には、該農薬を使用するこ   とを念頭においた緩い外国基準を援用して設定されているものが多いからです。   事例として、改定前の農薬取締法で土壌残留性農薬に指定されていたディルドリンの   現行及び新提案中の残留基準の一部を下表に挙げておきます。 この場合、ばれいしょを後作物として栽培した時、0.005ppm以上検出されれば、栽培   してはならないとなりますが、かんしょの場合は、0.1ppm以上の汚染がなければ、栽   培してよいということになります。   このような新提案値には、わたしたちは反対ですが、他の農薬でも、同様な残留基準   が設定され、後作物の残留判定基準にならないよう、貴省もポジティブリスト下の新   基準値案については十分検討してください。  ディルドリンの残留基準(単位:ppm)      NDは0.005ppm、-は設定されていない 作物名   現行 新基準案 作物名   現行 新基準案 米     ND ND にんじん  -  0.1  小麦   ND  ND パセリ   -  0.1 大麦    -   0.02 みつば  ND  ND ばれいしょ   ND  ND たまねぎ  -  0.05 さといも  -  0.1 きゅうり  0.02  0.02 かんしょ -  0.1 かぼちゃ  -  0.1 こんにゃくいも  -  0.1 すいか  ND  ND だいこん根 0.02  0.02 メロン  -  0.1  かぶ根 -  0.1  ほうれんそう  ND  ND  きゃべつ  0.02  0.02 おくら  -  0.1  カリフラワー  ND  ND 未熟えんどう  ND  ND  こまつな  ND  ND えだまめ   -  0.05  ごぼう   -  0.1 みかん  ND  ND  しゅんぎく  -  0.05 レモン   -  0.05 (4)ほ場試験では、土壌の性質・成分、土壌中の生態系・微生物相、気温・降雨などの   気候条件、散布時のバラツキなどをどう評価するかが問題となると思います。   寒冷地で使用される場合/多雨地で使用される場合/水田で使用される場合/   土壌処理剤で殺虫・殺菌した場合/マルチで被覆やハウス・温室での栽培の場合   など、使用条件に応じた保留基準を決めるべきと考えますが、貴省のお考えをお   示しください。 (5)農薬成分だけでなく、その代謝分解物や不純物についての土壌残留性を調査して、  基準値に反映さす必要があると思いますが、貴省のお考えをお示しください。 (6)ディルドリンのような現在使用されていない農薬の土壌汚染ついては、土壌浄化さ  れるまで、残留が懸念される後作物の栽培を禁ずるべきです。 (7)昨年、山口県でダイコンに対して、ラベル通りに使用した土壌処理殺虫剤ホスチア  ゼートが、基準を超えて残留していたことが判明しましたが、現行の土壌残留性試験  方法に問題はありませんでしたか。 (8)人畜への影響だけでなく、土壌中のミミズ・昆虫・微生物等への影響の評価がなさ   れるべきと考えますが、貴省のお考えをお示しください。 (9)新たに登録保留基準が設定された農薬については、環境汚染状況の調査を義務づけ、  2、3年以内に基準の見直しを実施すべきと考えますが、貴省の考えをお示しくださ  い。 (10)農薬の補助成分についても、活性成分と同様土壌汚染につながると思います。  その成分を明らかにした上、基準を設定すべきではないでしょうか。 【2】水質汚濁に係る登録保留基準についての質問と意見 (1)基準値を水田水中150日間平均濃度から、公共用水域の水中濃度と変更されますが、  現行基準のある133農薬の基準値はそれぞれどのようになりますか。現行基準と対比し  てお示しください。 (2)基準値について、以下の点をお尋ねします。  ・いままでの環境省の公共用水域での水中濃度規制値は、使用場所の排水等の濃度   の10分の1になっていますが、新基準は、従来基準の10分の1になると考えてい   いですか。  ・水道法による水道水について、農薬は監視項目として総農薬方式が適用されます。   その際、評価値は、原則として、ADI×体重(50kg)×0.1÷2として(参照    http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/02/s0203-3c.html)、設定されていますが、   水道水の評価値(101農薬、第2候補群、第3候補群が挙っている)は、登録保留   基準に採用されるのですか。  ・生物濃縮性の高くない農薬について、貴省の基準の算出式は、ADI×体重(53.3   kg)×0.1÷2と考えていいですか。そうであれば、前述の水道水の場合との整合性に   ついては、どうお考えですか。また、排水濃度基準の10分の1を公共用水域での濃度   とされてきた従来の算出方式との整合性はどうなりますか。 (3)農薬については、その殆どが環境中に直接散布されることを思えば、すべての農薬  で生物濃縮試験を義務づけ、生物濃縮係数を加味した基準値を設定すべきと思います。  提案のように生物濃縮係数5000で線引きし、この数値未満のもののADIの配分を、  農作物80%/水10%/その他10%、5000以上のものは、農作物+水+魚介類90%(うち  魚介類5%)/その他10%と2段構えにすることもありません。また、貴省の推算に  みられるように、濃縮係数1000倍でも、現行基準の5分の1と安全サイドの基準値を  設定できます。 (4)ADIの配分率は、今後、魚介類や畜産物の残留基準が設定されたり、大気濃度基  準が設定された場合、どのようにかわるのでしょうか。 (5)予測濃度(PEC)の算出には、さまざま仮定が含まれますが、より安全サイドに  たつ算出方法を望みます。  一般に 農薬の水系汚染は、使用時期の5〜10月に高く、冬期には、低い傾向があり  ます。予測される濃度は、通年平均でなく、使用時期の高い濃度を採用すべきです。 (6)下記の点、わかりにくいので、説明してください。  ・「水産動植物の毒性に係る登録保留基準」における予測濃度算出方法と「水質汚濁   に係る登録保留基準」のそれとは、どのような差違があるのですか。  ・「平成17年4月から施行する水産動植物に係る登録保留基準において採用している   PEC(短期曝露)の算出法を参考にしつつ長期曝露を考慮して算定することとす   る。」とありますが、短期曝露と長期暴露のPECについても、両者がどう違うか   具体的に説明してください。   (7)汽水域での生息する魚介類の場合は、内水面系と海面系のどちらにはいりますか。 (8)淡水魚で一日平均2g以上、海水魚で一日平均48g以上食べる魚好きの人は、貴省  案で、安全性が保証できるのでしょうか。また、濃縮係数は魚介類の種類や食べる  部位によって結構異なるものですし、単純に淡水魚と海水魚にわけるだけでいいの  かとの疑問が生じますが、この点、貴省はどのようにお考えですか。 (9)水系の底質中に残留している農薬やその代謝分解物について、魚介類への生物濃縮  は、どう評価されるのでしょうか。特に、泥の中で生息する魚介類の場合、現行の  生物濃縮試験では、評価が十分ではないと思いますが、この点について、貴省はど  のようにお考えですか。 (10)界面活性剤の共存化で、魚介類への生物濃縮係数が高まる農薬があり、その評価  をすべきであると考えます。ほとんどの場合、水系はなんらかの界面活性剤で汚染  されています。生物濃縮試験で代表的な界面活性剤を共存させた場合の生物濃縮試  験の実施も必要と思いますが、貴省の考えをお示しください。 (11)現在登録ある農薬でLogPow=3.0以上の農薬成分名と同係数の値をお示しください。   そのうち、生物濃縮係数が判明しているものはその数値も併記してください。 (12)前述の水道水の評価値には、ミジンコの半数致死濃度を超えた数値が設定されて  いる農薬(DEP,MEP、ダイアジノンなど)やニジマスの半数致死濃度に匹敵  する数値が設定されている農薬(PAP、クロルピリホス、マラチオンなど)があ  りますが、「水産動植物の毒性に係る登録保留基準」の方が、「水質汚濁に係る登  録保留基準」の基準値よりも、低くなる例がありましたら、その数値と農薬名を教  えてください。 (13)農薬汚染された魚介類を食べる、食物連鎖上位にある野鳥や哺乳類への長期的影  響は、この登録保留基準では、どのように評価されることになりますか。 (14)農薬の補助成分についても、活性成分と同様水系汚染につながると思います。  その成分を明らかにした上、基準を設定すべきではないでしょうか。 (15)新たに登録保留基準が設定された農薬は、環境汚染状況の調査を義務づけ、  2、3年以内に基準の見直しを実施し、予測値との乖離がないようにすべきと思い  ますが、貴省の考えをお示しください。  現行における公共用水域の農薬汚染調査が、1年に数回計測されるだけであり、  季節変動や時間変動などをとらえるには極端にサンプリング数が少ないことを鑑み、  また、地域での農薬使用状況や耕作時の用水使用量や、降雨状況などを十分考慮して、  正確に水質汚染の実態を把握する調査を実施することが大切だと思います。