*** 一般用医薬品及び医薬部外品としての殺虫剤の室内使用時の ***  リスク評価方法ガイドライン」についての意見                           2007年12月20日 厚生労働省医薬食品局審査管理課 御中  下記のように、総括的な内容と提案内容にわけて、意見を述べますので、ご査収くださ い。     =================================================       ★★★反農薬東京グループ★★★ 代表:  辻 万千子       〒202-0021東京都西東京市東伏見 2−2−28−B        電話/ファックス:042-463-3027        E-mail:mtsuji@jcom.home.ne.jp      ================================================== 【T】ガイドラインに係る総括的意見 【意見1】衛生害虫用殺虫剤に使用される製品の規制は薬事法で行うのでなく、不快害虫 用殺虫剤、衣料用殺虫剤、シロアリ防除剤、木材防蟻・防腐剤(合板接着剤用も含む)な どや、すでに登録制度が実施されている農薬を含め、統合的にで取り締まるべきである。 【理由】1、上記薬剤、殺虫剤には農薬と同じ成分が多い。 2、上記殺虫剤で法的規制のあるのは農薬だけで、他は関連業界による自主規制だけであ る。 3、いずれも生活環境で使用されるため、用途ごとに規制するよりも、まとめて規制すべ きである。 4、アメリカでは、FIFRA(Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act:殺 虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法)で統合的に薬剤を取締まっている。 【意見2】衛生害虫用殺虫剤に使用される化学物質の健康影響評価を薬事法に限ったガイ ドラインに基づく評価方法で行うのではなく、同じ成分が使用されている、農薬、不快害 虫用殺虫剤、衣料用殺虫剤、シロアリ防除剤、木材防蟻・防腐剤(合板接着剤用も含む) などを含めて、統合的に実施すべきである。 【理由】1、同じ化学物質を用途毎に、毒性評価の手間も経費もかかり、効果も疑問であ る。 2、農薬についてはADI評価がなされている。 【意見3】医薬品や医薬部外品扱いの殺虫剤の承認を誰が実施するか不明確である。  現行薬事法で規制するならば、殺虫剤成分及びすべての製剤について、承認を行う部署 を一本化し、国が審査、承認を行うべきである。 【理由】1、現状では、新成分を含む製剤については、薬事・食品衛生審議会での審議を 経るが、既成成分と同等で、安全性に問題がないとみなされる製剤は、医薬品医療機器総 合機構で審査されるだけで、審議もなく、自動的に承認されるわけで、不合理である。 2、殺虫剤指針に掲載されていない殺虫剤の成分については承認されているかどうか不明 確である。 3、農薬では、たとえ同一成分、同一剤型であっても、製剤ごとに申請し、毒性試験成績 等が提出され、審査の結果、登録される。 4、製剤に含有されている補助成分についての毒性や混合剤殺虫成分の複合毒性評価がな おざりにされる。 【意見4】室内など生活環境での殺虫剤使用による健康への影響だけでなく、自然環境に も殺虫剤は散布されるから、環境や生態系への影響も評価する必要がある。 【理由】1、化学物質の製造・使用については、化審法があるが、農薬取締法及び薬事法 で規制される化学物質は化審法の対象外である。 2、蚊・ハエ対策では、一般環境に殺虫剤が散布される。 3、感染症が発生していない、平常時でも散布される。 【意見5】殺虫剤を医薬品や医薬部外品として承認するか否かの基準が明確にされていな い。用法・用量の規制だけでは、人の健康や環境被害を防止できないため、承認するかし ないかの判断基準が示されるべきである。 【理由】1、農薬の場合は、登録保留基準があり、薬効があっても、これをクリアしない と登録されない。 2、人に直接投与される医薬品には、再審査制度があるが、殺虫剤についてはそのような 制度がない。 3、農薬は3年ごとに再登録せねばならないが、医薬品の殺虫剤はいったん承認されると、 承認は継続する。 【意見6】農薬成分に適用されている毒物及び劇物取締法の毒物、劇物指定と薬事法の毒 薬、劇薬指定が異なるとの指摘がなされているが、この点を改めるべきである。 【理由】1、薬事法の毒薬劇薬の判定基準は、急性毒性(概略の致死量=半数致死量を推 定したもの)経口投与の場合、毒薬が30mg/kg以下、劇薬が300r/s 以下のものとなって いる。一方、毒劇法では動物実験の結果、LD50(半数致死量)がひとつでも毒物相当であ れば毒物に、劇物なら劇物に指定するとあり、経口毒性に関する判定基準は、毒物がLD50 が50mg/kg以下のもの、劇物がLD50が50mg/kgを越え300mg/kg以下のものとなっている。 2、薬剤別では、以下のような相違がある     薬剤名     薬事法          劇毒法     MPP     5%以上は劇薬      2%以上は劇物     プロポクスル  1%以上は劇薬      1%以上は劇物     DEP     20%以上は劇薬     10%以上は劇物     DDVP    5%以上は劇薬      劇物(すべて)   クレゾール石けん液 劇薬指定なし       濃度5%以上は劇物 3、殺虫剤は、室内で使用されることも多いのに、農薬よりも毒劇指定基準が緩いのは問 題である。 【意見7】不適切な使用で健康被害がでても罰則等の規定がないのは問題である。 @薬事法で承認されている殺虫剤で、ラベル表示の用法・用量に違反したり、使用上の注 意遵守を怠ったり、散布の周知をしなかった使用者に、罰則が適用されない A薬事法の承認のない薬剤(不快害虫用殺虫剤、農薬ほか)を衛生害虫駆除に用いること を禁止する法律がない。 B衛生害虫の防除業者に届出義務がない。 【理由】1、防除業者が、用法・用量を守らなかったり、散布器具の洗浄不足など不適切 な使用で、事故が発生しても、刑事罰は科せられない。 2、建築物衛生法では、防除業者の届けがなくとも営業できる。 3、個人使用によっても、雑居ビルなどでの不適切な使用により、受動被曝による一般人 の被害が発生している。 4、PCO業者が農薬を室内のゴキブリ駆除に使用したため、健康被害が発生した例があ ったが、適用法がないということで、処罰されなかった。 5、食用作物に適用される農薬の場合、製剤ごとにラベルに記載された適用作物、希釈濃 度、使用時期と回数を遵守しないと使用者には罰則が科せられる。 【意見8】既に承認されている殺虫剤成分を含む製剤について、どんな場合に、どんな毒 性試験データを新たに提出する必要があるか明確でないので、明らかにされたい。 【理由】毒性試験提出が免除される条件が不明である。 【意見9】毒性試験データを公開することを医薬品、医薬部外品承認の条件とすべきであ る。 【理由】1、農薬の場合、農林水産省農産園芸局長通知「農薬の登録申請に係る試験成績 について(平成12年11月24日付け12農産第8147号)に、『農薬の毒性に関する試験により 得られた知見について、その登録後原則として3年以内に専門の学会、学術雑誌等に公表 するよう努めるものとする。』とある。 2、農薬の場合、農薬抄録や農薬評価書で、毒性試験データの概要が公開される。 【意見10】ペット用殺虫剤についても、一般用殺虫剤に準じたリスク評価方法を適用す る。 【理由】1、室内で飼育する場合は、ペットに投与された動物薬が室内環境を汚染する。 2、抱いたりすることにより、人の衣服にも薬剤が移行することが知られている。 【意見11】今回のリスク評価方法のガイドラインと殺虫剤指針及び医薬品の承認制度の 関連について、分かりやすく解説してほしい。 【理由】ガイドラインと殺虫剤指針の関連はどうなるか不明である。 【意見12】殺虫剤指針は、殺虫剤の承認を簡素化するための指針にすぎないと考えられ るので、廃止することも視野にいれて、指針そのもののあり方を検討すべきである。 【理由】1、殺虫剤指針に掲載された成分も掲載されない成分も医薬品・医薬部外品とし て承認されている。一般消費者にとっては何が承認されているか知るすべがない。 2、指針は、メーカーにとってメリットがあるかもしれないが、製造・販売される製剤の 種類が多くなり、消費者にとっては混乱する原因となる。 3、製品数が多くなり、規制や監視が行き届かなくなる。 【U】ガイドライン案について *** TDI算出に関して *** 【意見1】多くの殺虫剤成分で、ADIが設定されているが、ガイドラインで、リスク評価 にTDIを用いたのはなぜか。また、TDIとARfDの相違について教えてほしい。 【意見2】殺虫成分だけでなく、その代謝物や補助成分についても毒性評価すべきである。 【理由】1、溶剤、乳化剤、噴射剤、共力剤ほかによる事故や人体汚染が判明している。 2、農薬では活性成分だけでなく、製剤について急性毒性ほかの毒性試験成績の提出が求 められている。 3、有機リン剤では、代謝物のオキソン体の毒性の方が強い。 4、料理や暖房用加熱器具の熱・炎や蛍光灯などの光、塩素系漂白・殺菌剤の影響、室内 のカビや細菌により、新たな分解代謝物が生じる。 【意見3】どのような行政機関の部署が、健康影響評価を行うか不明である。TDIはADIと 同様な手法で評価・設定されるので、現行の法体系からいえば、食品安全委員会が評価す べきである。既に、食品安全委員会がADIを設定した成分は、その値をTDIに準用する。  ただし、慢性・発ガン性試験、催奇形性試験、繁殖試験、発達神経毒性試験、90日間反 復吸入毒性試験の提出が免除されている成分は、各試験成績の提出させ、無毒性量を求め る。 【理由】1、食品安全基本法に基づき、食品安全委員会が農薬等について健康影響評価を 実施している。 2、殺虫剤の場合、経口経路による暴露も想定されており、食品安全委員会が実施するこ とに問題はない。 3、すでにADIが設定されている農薬と同じ成分については、TDIをあらたに設定する必要 はないが、毒性試験データが不足している場合は、無作用量を求めるためには、当該デー タの提出が必要である。 4、一般に急性経気毒性の方が、急性経口毒性よりも強い。たとえば、MEPでは、経気 急性毒性のほうが経口急性毒性より約4倍強い。 5、薬事法における毒性試験については、原則として「医薬品の製造(輸入)承認申請に 必要な毒性試験のガイドライン(平成元年9月11日)とOECD試験ガイドライン等に基 づいて実施された試験結果を用いる」とあるが、このガイドラインは、基本的には、疾病 を有する人が用いる医薬品について、薬効を前提に、出来るだけ薬害をなくすための用 法・用量を決めるためのもので、毒性試験としては、(1)単回投与毒性試験(急性毒性 試験)、(2)反復投与毒性試験(亜急性毒性試験、慢性毒性試験)、(3)生殖・発生 毒性試験、(4)皮膚感作性試験、(5)皮膚光感作試験の5種類だけである。胎児から 老人まで、一般人が非意図的に取り込む恐れのある殺虫剤に課せるべきなのは、農薬の場 合と同等以上な毒性試験であり、殺虫剤の毒性評価も農薬と同様に食品安全委員会が行う べきである。 6、長期放出型や残効性ある殺虫剤が使用されるケースでは、室内環境中に、長期にわた り残留した場合の経気毒性や発ガン性、発達神経毒性についての評価が必要であるのに、 そのようなデータは不足している。 【意見4】子どもに対するUFを10、90日間反復吸入毒性試験のない場合のUF10を追加 する。 【理由】1、妊婦、乳幼児、病人、老人、過敏症患者らの殺虫剤弱者と健康な成人の間に、 化学物質に対する感受性に10倍しか個人差がないととしているのはおかしい。 2、心身や脳・神経系や解毒機能が発達途上にある子どもは、小型の大人と考えるべきで ない。 3、室内汚染が顕著であったシロアリ防除剤クロルピリホスについて、シックハウス(室 内空気汚染)問題に関する検討会が行ったリスク評価で、子どもの室内濃度指針値は大人 の10分の1とされた。 【意見5】化学物質過敏症患者に対して悪影響を与える成分については、TDI評価ができ ないケースもあり、使用規制を強化する以外、解決できない。 【理由】1、過敏症は現行動物実験では、判定できないので、試験方法を開発すべきであ る。 2、使用に対しては、患者の受動被曝に対する注意を喚起するだけでなく、公共の場での 使用規制も行う。特に、有機リン剤は、公共施設等で使用すべきでない。 *** 暴露量に関して *** 【意見6】乳幼児のマウシングについては、日本の家屋と生活習慣にあったデータをもと にすべきである。 【理由】案では、アメリカのEPAの文献が参考にされている。 【意見7】殺虫剤の気体だけでなく、殺虫剤を吸着又は含有した溶剤・粉塵・ほこりなど の微粒子やミストを吸入すること、室内を汚染した殺虫剤が食品へ移行することによる暴 露も考慮すべきである。 【理由】1、気体だけでなく、室内の微粒子やミストに含まれる殺虫剤成分の暴露量を測 定する必要がある。 2、揮発性成分は、室内空気を汚染したり、家具や建材等の表面に付着・残存するだけで なく、空気を汚染した成分が食品(特に油脂分)に溶け込み、それを経口的に取り込む恐 れがある。 【意見8】薬剤使用後の入室基準を明確にするため、現行の室内空気濃度測定ガイドライ ンを強化する。殺虫剤の気中濃度や付着量、残存量の経時変化の測定に際しては、剤型、 用法だけでなく、変動要因として室内環境や生活状況などを追加する。 【理由】1、現行の「一般用医薬品及び医薬部外品としての殺虫剤の室内空気中濃度測定 方法ガイドライン」に基づくモデルチェンバーによる実験だけでなく、現実の室内環境及 び生活状況に即したモデルで検討する。 2、変動要因の条件付けは、室内空気中濃度測定方法ガイドラインの標準的条件の結果と 実際の居住環境の違いを勘案して判断すると記載されている。 3、換気や窓・ドアの開閉だけでなく、暖房・加熱器具、什器・家具類・カーテン類など のインテリア、畳・絨毯・合成樹脂・コンクリート、木材、壁紙・漆喰・石膏などの建材 も変動要因となる。 3、一般住宅や集合住宅だけでなく、商業施設や飲食店などのモデルで検討する。 4、温暖地や寒冷地モデル、室内暖房器具使用時の影響も検討する。 【意見9】以下の製品についての暴露評価が不明確である。 @畳床に使用されている防虫加工紙、防虫加工畳糸(MEPやMPPが使用されている) A殺虫剤含有繊維や製品(衣料、蚊帳、網戸、防虫網など、ペルメトリンらが使用され る) B殺虫剤入りインクで印刷されている製品(防虫団扇など、ピレスロイド系殺虫剤らが使 用される) C人体に適用する衛生害虫用忌避剤(DEETらが使用される) D人体装着型製品における暴露量の測定方法。特に幼児への装着と、装着したまま室内に 入る場合の室内汚染について検討されていない(ピレスロイド系殺虫剤が使用される)。 E複数の製品の併用するケースについて検討されていない 【理由】1、何種類もの剤型や成分の異なる薬剤が使われるケースがある(畳防虫紙、ゴ キブリ用くん蒸剤、蚊取り器などが併用されている)。 2、衣料や蚊帳は直接、体に触れたり、舐めたりする懸念がある。 3、戸外で個人が人体へ装着する小型ファン付き蚊とり製品あるが、そのまま室内へはい った場合の暴露評価が不明である。室内に複数の稼動中の製品が持ち込まれた場合が懸念 される。 4、畳防虫紙が使用されているかどうかわからないで、別の殺虫剤を使用する懸念がある。 *** リスク評価に関して *** 【意見10】経口、経皮、経気などの各経路の暴露量の合計がTDIを超えてはならないと あり、占有率が10%〜100%までは、「リスクは低い」と評価されることになっている。 TDIを超えなければいいというわけだが、殺虫剤だけで、100%までいいというのは納得で きない。 【意見11】リスク評価には、殺虫剤からの経路別暴露量の合計だけでなく、シロアリ防 除剤、木材防蟻・防腐剤(合板接着剤用を含む)、衣料防虫剤、その他の殺虫剤由来のも のを合わせて、TDIの占有率を10%以下にすべきである。 【理由】1、農薬等で食品安全委員会が設定しているADI(1日摂取許容量)の按分は、食品 で80%、飲料水で10%、その他が10%となっている。TDIがADIと同等ならば、大気からの 摂取はTDIの10%以内に納めなければならない。 2、殺虫剤と同じ成分が他の用途で使用され、室内を汚染している。 【意見12】リスクが高い製品は承認せず、既存製品は承認を取り消す。また、製品ごと にリスクをTDI占有率又はMOE数値の表示を義務付ける。 【理由】1、高リスクの製品は、製造販売を禁止する。 2、消費者に、使用する製品のリスクを知らせる。 【意見13】提案された評価方法は、平成20年1月下旬〜2月上旬から施行になっているが、 既に承認されている薬剤については、毒性データや室内環境汚染データの総点検と再審査 が必要である。期限を決めて、不足データの提出を求め、提出されない場合は、承認を取 り消すべきである。