*** 無人ヘリコプターによる空中散布等に関する通知の一部改正案についての意見 *** 1、総括的意見 【意見1】  無人ヘリコプターによる農薬散布は、地上散布の100倍もの高濃度で、非常に小さい粒子に して広範囲に散布するものであり、周辺住民の健康被害に加えて、環境汚染をもたらす。有機 農業や環境保全型農業を進めている農政からも、推進してはならない技術である。 特に、農地と住宅が接近し、多種の農作物を栽培する集約的農業を行なっている日本では、人 の健康への影響防止や対象外作物への飛散防止の観点から、上空からの農薬散布は厳しく規制 すべきである。無人ヘリ散布のような農薬散布促進の技術ではなく、農薬を削減するための技 術を開発し、推進すべきである。  同時に、必要ない農薬散布をやめさせるために、農政全般を見直さなければならない。 たとえば、水田への殺虫剤散布で一番多いのがカメムシ防除の農薬である。カメムシの斑点米 が1000粒に2粒以上あると、二等米に格下げされ、米の価格ががくんと下がる。そのために、 農家は収量に影響のないカメムシ退治のために大量の農薬を使用しなければならない。無人ヘ リ散布もカメムシ退治が圧倒的に多い。  まず、農薬削減の計画をたて、それを妨げている要因をなくしていくことから進めるべきで ある。無人ヘリ散布を必要悪として容認してはならない。  しかし、今すぐ完全禁止できない場合は、野放し状態の無人ヘリ散布を規制するのは当然の ことであり、その意味では、今回の通知案には一定の評価をしている。しかし、まだまだ不十 分で有人ヘリ散布の規制にすら及んでいない点は早急に改めていただきたい。 【意見2】  今回の「無人ヘリコプター利用技術指導指針」の改定は、「消費・安全局長通知」にすぎず、 法律として罰則も含めて制定すべきである。  既に、農業用の有人ヘリ散布の10倍の面積で無人ヘリ散布が実施されている。通知案ではす べて「努める」としか書かれていない。通知に違反した場合はどうなるのか不明である。これ では不十分で、きちんとした法律で規制すべきである。 【意見3】無人ヘリ散布業者の届出や操作要員の免許制度が必要である。  無人ヘリコプター散布者は、都道府県への届出を義務づけ、農水省が監督・指導すべきであ る。  03年の農薬取締法改定で防除業者の届出が廃止されたことに伴い、無人ヘリ散布業者は野放 しになっている。  現在、無人ヘリ防除業者の届出を求めているのは宮城県と山形県だけである(兵庫県は全て の防除業者の知事への届出が必要)。茨城県は無人ヘリコプターの操作要員の住所氏名、群馬 県も操作要員の住所氏名、教習経験などを報告するなどとなっているが、全ての都道府県で無 人ヘリ散布業者の届出を義務づけるべきである。  通知案では、無人ヘリコプターの研修や認定を(社)農林水産航空協会(以後「協会」)に させているが、法律ではないため、協会の認定を受けていない者が無人ヘリ散布をしても罰則 はなく、協会が機体やオペレーターの認定をするという法的根拠もない。 すでに、協会の認定者は1万人を越えており、今後、操作要員は操縦技術だけでなく、農薬の 毒性に関する知識の有無を問う国家試験による免許制度を導入すべきである。 【意見4】  都道府県で、既に、この通知案より厳しい規制をかけているところに後退させるべきではな い。通知では、上乗せをするよう促すべきである。 2,通知案に関しての意見 【意見1】『第3 無人ヘリコプター協議会及び地区別協議会の役割』 の項について  無人ヘリコプター協議会及び地区別協議会の構成員に周辺住民を加えるべきである。  新設されたこの項で、協議会の構成員は農林水産業者等の関係団体、実施主体、地区別協議 会の関係者、都道府県及び市町村の農林水産関係部局、その他必要な行政機関の関係者等を含 めるとあるが、この構成員はすべて無人ヘリ散布の実施関係者である。周辺住民の意見は無視 されている。昨年、私たちが実施した都道府県へのアンケート調査(結果は送付済み)では、 たとえば、山口県では周辺住民の了解を得ることになっている。実施前に周辺住民の意見を聞 くことは非常に大事である。しかし、この通知案が決まってしまえば、周辺住民はただ散布日 が教えられるだけになる。  林野庁の「無人ヘリコプターによる松くい虫防除の実施に関する運用基準」には、「地域住 民等の関係者の意向が反映されるよう努めるものとする」とあるが、今回の通知案には地元住 民等の意向反映のシステムがない。 【意見2】『第4 空中散布等の実施に当たって遵守すべき事項』 について  実施主体は実施計画をあらかじめ、実績を散布終了後、都道府県を通じて農水省に届けるべ きである。  有人ヘリ散布は、農薬取締法第十二条第一項の規定に基づく「農薬使用基準を定める省令」 第4条「(航空機を用いた農薬の使用)」で、毎年度農薬使用者の住所氏名、航空機を用いた 農薬の使用計画を農水大臣に提出しなければならないと定められている。  無人ヘリ散布も当然、計画と実績を大臣に提出すべきである。  長野県は実施計画だけでなく、実績(終了届)の報告も求めている (http://www.pref.nagano.lg.jp/xnousei/boujo/kuusan/youryo.pdf)。既に実施している県が あるということは、計画を報告することが不可能というわけではない。 【意見3】『第4 遵守すべき事項』を守らなかった実施主体、散布業者には、健康被害や環 境被害、非対象作物への飛散、その他物損を与えた場合の補償を義務づけ、一定期間の散布禁 止、協会のオペレーター資格の剥奪などのペナルティーを科すべきである。 【意見4】『第4の3 実施に当たっての危被害防止対策』について  危害防止対策は、万全を期すとあるが、公衆衛生関係、畜水産関係、他作物関係、野生動植 物関係に対しては「危被害を発生させるおそれがないように努める」としか書かれていない。 その具体的内容は@地図を作成し「必要に応じて」標識を設置する。A実施区域内の立ち入り を禁止する。B対象以外の作物にかからないよう必要な措置をとる。  などしか書かれておらず、これら対象からの緩衝地帯の幅を示すとか、監視員をどう配置す るかなど「危害発生のおそれがないように努める」内容を示すべきである。 【意見5】無人ヘリ散布は地上散布に比較して区域外へのドリフトが大きく、短時間で広範囲 に散布するため、気中濃度が高くなることは、農水省の委託調査で明らかになっている(参照  http://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_topics/yukirin/pdf/h200304d.pdf に、 『地上防除区に比べて無人ヘリ防除区の散布区域外における落下量及び気中濃度が相対的に高 かった。』とある)。  危被害対策に緩衝地帯を入れるべきである。ドリフト防止の一番効果ある方法は、緩衝地帯 を設けることである。また、公衆衛生関係とされる学校、病院、水源周辺での散布禁止を明記 すべきである。 【意見6】『第9 社団法人農林水産航空協会の役割』について  通知案では、農林水産航空協会が無人ヘリコプター関連の事業を実施することになっている。 同協会は、オペレーターの研修や機体等の調査、散布試験などの事業を行うとともに、無人ヘ リコプター散布実績情報をあつめ、これをまとめた上で、農水省消費・安全局長に報告するこ とになっている。  そもそも、協会は有人ヘリ散布のために設立されたものであり、無人ヘリ関連事業を実施す ることは、定款違反である。前述のように、オペレーターに免許制度を導入するなどは、国の レベルでやればいい。  空中散布実施計画や実績は、農水省がまとめて、公表すべきであり、協会の事業とする必要 はない。 【意見7】第4の事項に、以下を追加する 1、事故、苦情等の農水省への報告を義務づける。  通知案には事故等についての報告義務は書かれていない。無人ヘリコプターによる人身事 故・健康被害、農作物や水産物ほかの物損事故はもちろん、機体トラブル事故を含むすべてを 報告させ、再発防止を図るべきである。また、無人ヘリ散布に関する苦情などもきちんとまと め、対応を含めて報告させるべきである。すでに、長野県や広島県のように事故届の書式を定 め、報告させている県もある。 2、無人ヘリコプター空中散布では、現地混用を禁止する。  無人ヘリコプターの場合、地上散布よりも高濃度の希釈液(地上の場合1000倍希釈、空 中散布の場合8倍希釈)が使用されるが、その際、複数の登録農薬を現地混用で使用すれば、全 農薬濃度は単独より高くなる。  混合製剤は、農薬登録に際して、急性毒性試験データの提出が必要だが、現地混用では、農 薬の薬効のみが重視されてしており、急性毒性試験データがない。そのため、農水省は混合剤 の使用を推奨している。  無人ヘリコプターでは、散布効率を重視するあまり、登録混合剤があるにも係わらず、農林 水産航空協会の混用事例集では現地混用を認めたものがある。たとえば、無人ヘリコプター適 用農薬としてスミチオントレボン乳剤があるが、スミチオン乳剤とトレボンエアの現地混用を 認めている(現地混用事例1参照)。  また、環境省が実施した「農薬残留対策に関する総合調査」には、無人ヘリコプターに よるドリフト知見をうるための試験を現地混用で実施している(現地混用事例2参照)。  いずれの事例でも、現地混用により全農薬濃度の高い散布液が使用されているのは問題 である。 <現地混用事例1>登録製剤使用と現地混用の散布液農薬濃度比較(単位:g/L)   農薬の種類         MEP  エトフェンプロックス 全農薬濃度  @スミチオン乳剤 8倍希釈    62.5  - 62.5     MEP50%   *地上散布1000倍希釈        0.5      -     0.5  Aトレボンエア 8倍希釈       -       12.5 12.5   エトフェンプロックス10%   *10%含有剤地上散布300倍希釈   - 0.31        0.3  Bスミチオントレボン乳剤 8倍希釈    MEP40%,エトフェンプロックス10% 50      12.5        62.5   *地上散布1000倍希釈        0.4 0.1      0.5  @+Aの混用           62.5     12.5 75 <現地混用事例2>03年に長野県飯山市での水田で実施された環境省の試験より          散布液中の農薬濃度(単位:g/L) 農薬の種類 トリシクラゾール MEP  BPMC 全農薬濃度 @ビームゾル  8倍希釈   25 - - 25    トリシクラゾール20%   *地上散布1000倍希釈        0.2 0.2  Aスミバッサ乳剤75 8倍希釈    -    56.25 37.5  93.75    MEP 45%:BPMC 30%     *地上散布1000倍希釈      0.45 0.3 0.75 @+Aの現地混用 8倍希釈      25    56.25 37.5  118.75