***  公共施設樹木等への農薬使用削減に関する陳情  ***                         平成20年7月28日 議会議長殿                 郵便番号 202-0021                  住所  東京都西東京市東伏見2-2-28-B                  電話/ファックス 042-463-3027                         反農薬東京グループ                         代表  辻万千子   印 陳情の趣旨又は要旨  農水省と環境省は、住宅地等での農薬使用による住民や子ども等の健康被害を防止する ため、農薬使用をできるだけ減らすよう平成19年1月31日付で連名通知「住宅地等におけ る農薬使用について」(以下、住宅地通知という)を出しています。  さらに環境省は、平成20年5月30日、「公園・街路樹等病害虫・雑草管理暫定マニュア ル」を出しました。このマニュアルは、総合的病害虫・雑草管理(IPM)の考え方を基 本とし、各自治体等がそれぞれの環境等に適した管理体系を確立していく上での参考情報 を提供し、農薬によるリスクを減らすことを目的としています。特に行政が委託者となる 公園や街路樹、学校などの樹木管理における農薬使用削減の具体的な方法を示しています。  しかし、これら通知やマニュアルは十分に周知されておらず、未だに行政が農薬散布す る場合も少なくありません。また、一般市民もこうした情報を十分に知らされていません。  そこで、以下の陳情をいたしますので、よろしくお取りはからいください。 陳情事項 1、貴自治体が管理する公園、道路、運動場、その他の公共施設、街路樹等で使用されて いる農薬の使用状況を調査し、公表してください。 2、貴自治体において、農水省・環境省二局長連名通知「住宅地等における農薬使用につ いて」や環境省「公園・街路樹等病害虫・雑草管理暫定マニュアル」の内容を周知徹底す るため、農薬使用を極力使用しないで植栽管理を行うための指針やマニュアルを策定して ください。 *** 参考資料 IPM(Integrated Pest Management:総合的病害虫管理)  従来の化学農薬に依存した方法による病害虫の撲滅ではなく、化学農薬以外の防除方法、 例えば、輪作体系や抵抗性品種、熱による消毒や機械などを用いた物理的な防除、天敵や フェロモンの利用なども組み合わせる総合技術です。こうすることで、化学農薬をできる だけ用いずに、農作物の被害が経済的に許容できる水準以下になるように病害虫の密度を 低く保ちます。 (以上、出典は農林水産省農林水産技術会議 農林水産研究開発レポート No12 「病害虫の総合的管理技術−化学農薬だけに依存しない病害虫の防除−」(2005年))  病害虫だけでなく、雑草管理にも、除草剤に頼らず、被覆植物の利用、水管理、機械除 草などを組み合せたIPM手法があり、この場合、IWM(Integrated Weed Managemen t:総合的雑草管理)といいます。  衛生害虫防除においても、殺虫剤などで虫を撲滅するのではなく、生息調査を実施し、 害虫の侵入経路を絶つ、生息・繁殖場所をなくす、餌をあたえない、トラップや粘着剤な どで捕獲するなどの手法により、害虫の生息密度を減らす手法をIPMといいます。  IPM手法の導入により、化学農薬や殺虫剤の使用回数や使用量を減らすことは、薬剤 耐性の病害虫を作らず、人の健康への影響や他の生物を含む生態系への影響を減らすこと につながります。 1、農水省・環境省二局長連名通知「住宅地等における農薬使用について」は、  農薬取締法第十二条(農薬の使用の規制)に関連した「農薬を使用する者が遵守すべき 基準を定める省令」の第六条「農薬使用者は、住宅の用に供する土地及びこれに近接する 土地において農薬を使用するときは、農薬が飛散することを防止するために必要な措置を 講じるよう努めなければならない。」に基づき、発出されたものです。  通知は、以下のようなものです。 『1 住宅地等における病害虫防除に当たっては、農薬の飛散が周辺住民、子ども等に健 康被害を及ぼすことがないよう、次の事項を遵守すること。 (1)農薬使用者等は、病害虫やそれによる被害の発生の早期発見に努め、病害虫の発生 や被害の有無に関わらず定期的に農薬を散布するのではなく、病害虫の状況に応じた適切 な防除を行うこと。 (2)農薬使用者等は、病害虫に強い作物や品種の選定、病害虫の発生しにくい適切な土 づくりや施肥の実施、人手による害虫の捕殺、防虫網等による物理的防除の活用等により、 農薬使用の回数及び量を削減すること。特に公園等における病害虫防除に当たっては、被 害を受けた部分のせん定や捕殺等を優先的に行うこととし、これらによる防除が困難なた め農薬を使用する場合(森林病害虫等防除法(昭和25年法律第53号)に基づき周辺の被害 状況から見て松くい虫等の防除のための予防散布を行わざるを得ない場合を含む。)には、 誘殺、塗布、樹幹注入等散布以外の方法を活用するとともに、やむを得ず散布する場合に は、最小限の区域における農薬散布に留めること。 (3)農薬使用者等は、農薬取締法に基づいて登録された、当該防除対象の農作物等に適 用のある農薬を、ラベルに記載されている使用方法(使用回数、使用量、使用濃度等)及 び使用上の注意事項を守って使用すること。 (4)農薬使用者等は、農薬散布は、無風又は風が弱いときに行うなど、近隣に影響が少 ない天候の日や時間帯を選び、風向き、ノズルの向き等に注意するとともに、粒剤等の飛 散が少ない形状の農薬を使用したり農薬の飛散を抑制するノズルを使用する等、農薬の飛 散防止に最大限配慮すること。 (5)農薬使用者及び農薬使用委託者は、農薬を散布する場合は、事前に周辺住民に対し て、農薬使用の目的、散布日時、使用農薬の種類について十分な周知に努めること。特に、 農薬散布区域の近隣に学校、通学路等がある場合には、当該学校や子どもの保護者等への 周知を図り、散布の時間帯に最大限配慮すること。公園等における病害虫防除においては、 さらに、散布時に、立て看板の表示等により、散布区域内に農薬使用者及び農薬使用委託 者以外の者が入らないよう最大限の配慮を行うこと。 (6)農薬使用者は、農薬を使用した年月日、場所及び対象植物、使用した農薬の種類又 は名称並びに使用した農薬の単位面積当たりの使用量又は希釈倍数について記帳し、一定 期間保管すること。2以下は省略』 住宅地通知に関する農水省・環境省の研修会資料では、 以下はすべて誤りと記載されています。    ・あくまでも「通知」であり「法律」ではないので守る必要はない     ・住宅地通知は個人には関係がない     ・住宅地通知の対象は農家(農地)だけだ     ・登録されている農薬を使う場合には、住宅地通知を守る必要はない     ・周辺の住民に知らせるのは農家の自由だ 2、平成16年3月、都は「化学物質の子どもガイドライン(殺虫剤樹木散布編)」を策定 し、子どもの身近な環境における樹木散布用殺虫剤の影響を減らすために、子どもが多く 利用する施設(学校、幼稚園、保育園、児童遊園など)の管理者や害虫防除事業者が自主 的に取り組む具体的内容を提案しました。 3、平成20年5月の環境省のマニュアルは、上記ガイドラインをさらに拡大・強化したも ので、植栽管理における農薬使用を減らすため、病害虫の発生しやすい植物の植栽は行わ ないと明記されています。また、「既に植栽されている植物であっても、毎年のように病 害虫の発生が問題となる植物は伐採し、病害虫の発生があまり見られない植物に切り替え る。特に、人への健康被害の発生が懸念される害虫が発生しやすい植物は極力植栽しな い」とあります。これはチャドクガが発生しやすいツバキやサザンカなどを指しています。  また、「病害虫に対する理解の増進」の項では、   ○市町村や関係団体の広報誌等へ病害虫の発生時期に具体的な説明を掲載。   ○町内会の回覧への掲載   ○都道府県、市町村等のHPへの掲載   ○自然体験学習や学校での授業を通して害虫等の生き物としての正しい理解を普及等 が、挙げられています。 4、文部科学省は学校保健法に基づき、「学校環境衛生の基準」をだしていますが、「ネ ズミ、衛生害虫等」の項では、樹木等の害虫も対象となることが明記され、「前記住宅地 通知」の周知徹底も指導されています(「学校環境衛生管理マニュアル」には「住宅地通 知」も添付されている)。 5、グリーン購入法は、国、地方公共団体、事業者や国民の責務として「環境物品等を選 択するよう努めるものとする」とあります。  東京都下の自治体の56.1%は、すでにグリーン購入法に基づく調達方針を策定しており、 15.6%は今後策定を考えるとしています。  同法の「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」には、役務として、平成20年2月 の改訂で、下記のような「植栽管理」の項が追加され、植栽管理に際しては、まず、農薬 以外の病害虫防除手段をとり、農薬の回数や量の削減が謳われています。 植栽管理 【判断の基準】 @植栽管理において使用する物品が特定調達品目に該当する場合は、判断の基準を満たし ている物品が使用されていること。 A病害虫予防として、適切な剪定や刈込みを行って通風をよくし、日照等を確保するとと もに、適切な防除手段を用いて、害虫や雑草の密度を低いレベルに維持する総合的病害 虫・雑草管理を行う体制が確保されていること。 B農薬の使用の回数及び量の削減に努めているとともに、農薬取締法に基づいて登録され た適正な農薬を、ラベルに記載されている使用方法(使用回数、使用量、使用濃度等)及 び使用上の注意事項を守って、適正かつ効果的に使用されるものであること。 【配慮事項】 @灌水の雨水利用に配慮されていること。 A剪定・除草において発生した、小枝・落葉等の処分について、堆肥化等の環境負荷低減 が図られていること。 B施肥に当たっては、植栽管理において発生した落葉等からできた堆肥(土壌改良材)が 使用されていること。 C植替え等が生じた場合、既存の植栽を考慮し、病害虫の発生しにくい樹種の選定等につ いて、施設管理者への提案が行われること。 D植栽管理に当たり、使用する機材・器具等については、可能な限り環境負荷低減策が講 じられていること。 (備考) ・本項の判断の基準の対象とする「植栽管理」とは、庁舎周辺等の植栽地及び屋上緑化等 の管理とする。 ・植栽管理に係る判断の基準Aの「総合的病害虫・雑草管理を行う体制」とは、発生状況 等の調査、被害の早期発見、剪定や捕殺などの物理的防除も含めた防除方法の選択等、経 済性を考慮しつつ健康と環境への負荷の軽減を総合的に講じる体制をいう。 ・植栽管理に係る判断の基準A及びBについては、農薬の使用に係る施設管理者や周辺地 域への情報提供、農薬の飛散防止、適正使用の記録の保持等、「住宅地等における農薬使 用について」に準拠したものであること。 5、東京都は、『緑の東京10年プロジェクト』の名のもと、都市緑化に取り組むととも に、省エネ対策として、屋上緑化、壁面緑化、学校芝生化を推進しています。身近なとこ ろで緑が増えるのは好ましいことですが、その管理のため、農薬の使用が増えては本末転 倒です。  すでに、都議会での答弁で、環境局長は、学校芝生化においては農薬を使用しないとし ていますが、平成18年には、一部の学校で、農薬が使用されました。 6、名古屋市は、市有施設における薬剤散布状況を把握し適正な使用を促進するために、 平成17年度の薬剤散布状況に関する調査し、その詳細を平成19年6月に公表しました。こ の結果を踏まえ、平成20年1月、『市が率先して薬剤の適正使用を推進することにより、 環境への負荷の低減を図り、人の健康と安全を確保するため』として「名古屋市の施設等 における農薬・殺虫剤等薬剤の適正使用に係る基本指針」と適正使用マニュアルを策定し ました。その中では、「病害虫等の生息状況に関らず、一律に薬剤を使用することは、原 則として行わないこととする。」されています。 7、愛知県は、平成18年度県有施設における害虫等防除の状況についての調査結果を平成 20年3月に公表し、同時に「県有施設における農薬・殺虫剤等適正使用ガイドライン」を 策定しました。ここでも『病害虫、ねずみ・昆虫等の防除を実施するに当たっては、物理 的防除などを優先し、定期的に薬剤を使用することはしません。』とされています。 また、『県有施設における農薬、殺虫剤等の薬剤の適正使用を図るため、施設の管理者、 病害虫等防除の責任者、薬剤使用者等を対象に、研修会等を実施し、このガイドラインの 周知徹底をはかります。 また、県内市町村等へもこのガイドラインの普及・啓発に努め ます。』 8、岐阜県は、平成20年4月、県有施設における害虫駆除や植栽管理などの病害虫等防除 時に、できる限り薬剤を使用しない方法を推進することにより、環境への負荷の低減を図 り、人の健康と環境に配慮した公共施設とするため、「県有施設における病害虫等防除に 関する基本方針」を定めています。