2007年11月29日 環境省水・大気環境局土壌環境課農薬環境管理室 御中 「食品衛生法に基づく魚介類への残留基準の設定に対応した水質汚濁に係る農薬登録保留 基準の改定について」に関する意見です。ご査収ください。 【意見1】登録農薬の毒性試験成績の提出免除について疑問がある。以下の点を明らかに してほしい。 1、現在登録されている非食用農作物専用農薬で、慢性毒性試験、発ガン性試験、繁殖毒 性試験の提出が免除されているものあるとのことだが、どのような農薬成分で、どのよう な毒性試験を免除されているかをその理由とともに示されたい。 2、農薬の登録申請に係る試験成績についての通知(12農産第8147号)には、27種の毒性に 関する試験成績の提出が求められているが、同通知別表2で試験成績の除外についての条 件があげられている。現在登録されているすべての農薬成分について、どの農薬がどの毒 性試験を免除されているか、その理由とともに示されたい。 【意見2】非食用農作物専用農薬についても、現在、提出を免除されている毒性試験デー タの提出を義務付け、ADIの評価を食品安全委員会で行うべきである。 【理由】1、非食用専用農薬であっても、使用者や散布地周辺の住民が体内に取り込む。 2、非食用専用農薬が水系を汚染し、その結果、飲料水や魚介類、畜産物など人が口にす る食品類の汚染につながることになる。 【意見3】外国での魚介類での農薬の残留基準はどうなっているかを教えてほしい。 また、外国への魚介類の輸出がスムースに実施されるよう、国内基準を設定すべきとの考 えはないか。 【意見4】魚介類についての新たな残留基準を拙速に設定すべきでない。残留基準がない 場合は、一律基準とADIに基づく曝露評価により算定される基準の低い方を基準とすべき である。 【理由】 1、報告案の別添5「魚介類への残留基準の設定法」には、『一義的には、農家等の農薬 の使用現場において止水管理等が適切に行われることが重要であり、不適切な農薬の管理 による河川等への流出を前提に魚介類の残留基準等を策定することは適切でない。』とあ り、魚介類に農薬が残留しないように使用することが第一にとられるべき策とされている。 2、農水省三局長連名通知「農薬適正使用の指導に当たっての留意事項について」(平成 19年3月28日発出)や 農水省・厚労省二局長連名通知「平成19年度農薬危害防止運動の 実施について」(平成19年5月29日発出)において、魚介類への農薬残留を減らす手段を 講ずるよう指導されている。 3、農水省は、基準を超えないよう、水田の止水管理、ドリフト防止、降雨対策、畦畔浸 透防止など適切な対策をとるよう指導している。 4、現在、農薬残留値が一律基準以下のシジミをはじめとする魚介類が販売されており、 一律基準を超える魚介類がどの程度販売されているか明確でない。 5、個々の農薬について、関連水域での当該農薬の使用状況や水質や底質での検出状況と 魚介類での残留農薬量の関係を調べ、科学的データを得るべきである。 6、農薬の残留基準の設定の根拠となった推定残留量の算出に際して、採用した生物濃縮 係数は実測値でなく、オクタノール/水係数から得た推定値に補正係数を乗じたものであ る上、水産PECもいろいろな条件の中で、高い値が採用されている。このような推定残留 量は科学的な数値とはいえない。 7、仮に、、現行残留基準や一律基準より高い数値を設定すれば、上記1−3の農薬使用 についての指導内容を遵守することがおろそかになる。 8、本来、水系汚染がなければ、残留基準を設ける必要がないにも拘わらず、高い数値を 設定することは、汚染を容認することにつながる。 9、魚介類について、高い残留基準が設定をすることは、出来るだけ農薬の摂取量を減ら すことを望む消費者の安心・安全の意向を無視したものである。 10、既に設定されている貝類の残留基準で一律基準0.01ppm以下にく設定されている農薬 成分は下記のようであり、この数値をみても、拙速に高い残留基準を設定する必要はない。 農薬名(*:農薬登録有)  貝類の残留基準(ppm)  アゾキシストロビン* 0.008 アバメクチン 0.005 エマメクチン安息香酸塩* 0.0005 エンドスルファン* 0.004 エンドリン 0.005 カプタホール      0.01 クマホス        0.01 クロラムフェニコール 0.0005 ジフェニルアミン 0.0004 シプロジニル* 0.0004 スルホスルフロン 0.005 テトラコナゾール* 0.0003 テフルトリン* 0.001 トリクロルホン(DEP)* 0.004 トリブホス 0.001 トリフルラリン* 0.001 ピンドン 0.001 フェナミホス 0.005 フェニトロチオン(MEP)* 0.002 フェンピロキシメート* 0.005 ブロディファコウム 0.001 プロポキシカルバゾン 0.004 メチダチオン(DMTP)* 0.001 リン化水素* 0.01 ワルファリン* 0.001 【意見5】まず、実施すべきは、現行の基準を踏襲し、これを超える場合には、関連水域 での当該農薬の使用規制を行うべきである。 【意見6】既に登録されている農薬の水質汚濁に係る登録保留基準の見直しを実施する。 毒性試験データが不足しているものは、新たに提出を求めるべきである。 【意見7】魚介類での推定残留値の算出において、水濁PECを採用するか、水産PEC を採用するかのいずれか明確でないのは問題である。 各農薬毎の水濁PECと水産PECを明らかにされたい。 【理由】1、本年7月6日から厚労省が実施した食品中の農薬クミルロンの残留基準設定に 関するパブコメ募集では『7.魚介類への推定残留量本農薬については水系を通じた魚介 類への残留が想定されることから、農林水産省から魚介類に関する個別の残留基準の設定 について要請されている。このため、本農薬の水産動植物被害予測濃度及び生物濃縮係数 から以下の通り推定残留量を算出した。』とし、水産PECが採用されている。 2、報告案の別添5「魚介類への残留基準の設定法」では、『環境由来により非意図的に 魚介類に残留する農薬の残留基準は、その基礎となる推定残留量を次により算出し、設定 することが適当であると考えられる』として、下記算出式が挙げられている。  水産動植物被害予測濃度(水産PEC)×生物濃縮係数(BCF)×5 3、本年11月1日から食品安全委員会が実施したチオベンカルブに係る食品健康影響評価 に関するパブコメ募集では、チオベンカルブの農薬評価書p16に『(2)魚介類における 最大推定残留値チオベンカルブの公共用水域における環境中予測濃度(PEC)及び生物濃 縮係数(BCF)を基に、魚介類の最大推定残留値が算出された。』とあり、水濁PEC値 が採用されている。 【意見8】新登録保留基準実施の経過措置として、残留基準の設定の途上にあるものにつ いて『(1)暫定基準または同条第三項の一律基準を登録保留基準として適用する規定に ついては、施行を一定期間遅らせることとする。 (2)(1)の施行日までに食品安全委員会に魚介類残留基準の設定の諮問がなされた農 薬については、残留基準が施行されるまでの間は暫定基準または一律基準を登録保留基準 として適用しない。』  との案が提示されているが、いずれの経過措置もとらずに、食品衛生法の現行基準を適 用すべきである。 【理由】1、ポジティブリスト制度では、残留基準のない農薬等-食品の組み合わせは、 適用外農作物へのドリフトや土壌汚染による後作物への移行による残留を含め、すべて、 一律基準や残留基準を適用することになっており、魚介類のみを経過措置で例外にするの はおかしい。 2、ポジティブリスト制度で、魚介類には、農薬等の残留基準が設定されていないものが 多いが、これは、魚介類に農薬等が残留する可能性があることを認めた上で、使用しなけ れば残留するはずのない農薬等が残留することには問題があるとの考えを、国民が支持し たからであり、ポジティブリスト制度に対するパブリックコメント募集の際も、魚介類の 残留基準設定について異議はなかった。