****************************************************** 有機農業の推進に関する基本的な方針(案)についての意見            (反農薬東京グループ3月7日提出) ****************************************************** 農林水産大臣 松岡 利勝 殿 食料・農業・農村政策審議会委員各位 殿 食料・農業・農村政策審議会生産分科会委員各位 殿   「有機農業の推進に関する法律」が、昨年12月15日に公布・施行されました。この法は、 化学的に合成された農薬等を使用しない有機農業の推進をめざしており、第三条(基本理 念)の第一項には、 『有機農業の推進は、農業の持続的な発展及び環境と調和のとれた農業生産の確保が重要 であり、有機農業が農業の自然循環機能(農業生産活動が自然界における生物を介在する 物質の循環に依存し、かつ、これを促進する機能をいう。)を大きく増進し、かつ、農業 生産に由来する環境への負荷を低減するものであることにかんがみ、農業者が容易にこれ に従事することができるようにすることを旨として、行われなければならない。』となっ ています。  『環境』には、自然環境だけでなく、人の生活環境も入ります。農薬の環境負荷を考え る時、農薬で汚染された水や空気を通じて、人や野生生物が影響を受けていることを忘れ てはなりません。近年、農薬の使用による生活環境汚染、なかでも大気汚染のため、散布 地域やその周辺の人々に健康被害がでていることに鑑み、貴省が策定される基本方針に、 下記の3つの内容を取り入れるべきだと考えます。 【意見1】  基本方針に、住宅地内及び住宅地に近接した農地では、有機農業を優先的に実施するよ う明記してください。  さらに、国や都道府県が、該当する農業者等に対し、有機農業の実施に際して、経営的 かつ技術的な支援をすることを明記してください。 【理由】  2003年9月16日に、農水省は、消費・安全局長名で「住宅地等における農薬使用につい て」の通知を出しました。その前文は、以下のように記されています。  『農薬は、飛散することで人畜に危害を及ぼすおそれがあり、近年、学校、保育所、病 院、公園、街路樹、住宅地周辺の農作物栽培地等において使用された農薬の飛散を原因と する住民、子ども等の健康被害の訴えの事例が多く聞かれるようになっている。  このような状況を踏まえ、今般、農薬取締法第12条第1項の規定に基づく農薬を使用 する者が遵守すべき基準を定める省令第6条において、農薬使用者は、住宅の用に供する 土地及びこれに近接する土地において農薬を使用するときは、農薬が飛散することを防止 するために必要な措置を講じるよう努めなければならない旨規定したところである。』  また、その第2項の(1)では、次のような指導がなされています。 『2 住宅地内及び住宅地に近接した農地(市民農園や家庭菜園を含む。)において栽培 される農作物等の病害虫防除に当たっては、次の事項の遵守に努め、農薬の飛散が住民、 子ども等に健康被害を及ぼすことがないよう最大限配慮することとする。 (1)病害虫に強い作物や品種の栽培、病害虫の発生しにくい適切な土づくりや施肥の実 施、人手による害虫の捕殺、防虫網等物理的防除手段の活用等により、農薬使用の回数及 び量を削減すること。』 2007年1月31日には、上述通知にかわり、農林水産省消費・安全局長と環境省水・大気環 境局長の連名の新通知「住宅地等における農薬使用について」が出され、指導はさらに、 強化されました。。  新通知の第1項は、以下のようになっています。 『1 住宅地等における病害虫防除に当たっては、農薬の飛散が周辺住民、子ども等に健 康被害を及ぼすことがないよう、次の事項を遵守すること。 (1)農薬使用者等は、病害虫やそれによる被害の発生の早期発見に努め、病害虫の発 生や被害の有無に関わらず定期的に農薬を散布するのではなく、病害虫の状況に応じた適 切な防除を行うこと。 (2)農薬使用者等は、病害虫に強い作物や品種の選定、病害虫の発生しにくい適切な 土づくりや施肥の実施、人手による害虫の捕殺、防虫網等による物理的防除の活用等に より、農薬使用の回数及び量を削減すること。特に公園等における病害虫防除に当たっ ては、被害を受けた部分のせん定や捕殺等を優先的に行うこととし、これらによる防除 が困難なため農薬を使用する場合(森林病害虫等防除法(昭和25年法律第53号)に基づ き周辺の被害状況から見て松くい虫等の防除のための予防散布を行わざるを得ない場合 を含む。)には、誘殺、塗布、樹幹注入等散布以外の方法を活用するとともに、やむを 得ず散布する場合には、最小限の区域における農薬散布に留めること。』  *注:通知でいう「住宅地等」とは、学校、保育所、病院、公園等の公共施設内の植物、 街路樹並びに住宅地に近接する農地(市民農園や家庭菜園を含む。)及び森林等をさしま す。  農薬の地上散布では、散布区域外に50m以上飛散する例もありますが、防止のための緩 衝帯幅すら決められておりません。また、無人ヘリコプターによる空中散布(地上散布の 約100倍もの希釈率で散布される)が住宅地近くで実施されている場合もあります。  新通知の第1項(3)から(6)は、農薬使用方法や周辺への通知に関する事項ですが、 これらを守っても、生活環境へ農薬が飛散し、大気を汚染することは避けられません。  そのせいか、農地に近接する住民から、農薬による体調異常や健康被害を訴える声が止 むことはありません。  環境保全、公害防止対策としては、発生源を断つことが、最も有効です。  農薬汚染に関していえば、その発生源である農業経営者が、防止の責を負うことが必要 です。農業経営を継続しながら、農薬汚染を防止をするには、化学的に合成した農薬を使 用しない有機農業の実施が最も有効です。  農薬汚染による健康被害に苦しむ人々をなくすには、住宅地内や住宅近接地の農業者に 対して、有機農業の実施を促す方針をたて、それを経営的かつ技術的にサポートしていく ことが重要です。 【意見2】 基本方針に、地方公共団体等が行っている市民農園の類では、有機農業の実施を義務付け るよう明記してください。 【理由】  市民農園は、住宅地内や住宅地に近接している場合が多い上、小規模に区切って、多く の人が利用する仕組みになっています。農薬についての知識の少ない一般市民がまわりの 利用者のことを考えず、勝手に農薬を使用した場合、ドリフトにより他の区画の対象外農 作物が汚染され、食品衛生法で定められた残留基準や一律基準違反につながる恐れが大き いと考えられます。このような農園は、化学的に合成した農薬を使用しないという条件で 運営すべきです。また、地方公共団体の中には、ゴミ量削減のため、剪定材等から有機肥 料を製造するリサイクル事業が行われているところもあり、これらを有効に利用できます。 【意見3】 基本方針に、樹木・芝生など景観保全のための、あるいは、屋上・壁面緑化な ど省エネのための、非食用作物の栽培についても、有機農業の手法を取り入れるよう明記 してください。 【理由】市街地、学校、公共施設、公園などでは、景観保全のため、種々の非食用作物が 栽培されています。また、省エネルギー対策として、植物による建物の屋上緑化や壁面緑 化が推奨されています。  不特定多数の人々が活動するこれらの場で、植物を育種栽培することは、生活環境の改 善につながりますが、その管理・維持のため、化学的に合成された農薬を使用すれば、周 辺環境を汚染し、人や野生生物に影響を与え、逆効果となります。  前述の「住宅地等における農薬使用について」の新通知第1項は、これら非食用作物の 栽培にもあてはまります。生活環境をよくするための植栽管理には、農薬等を使用しない 有機農業の手法が最もふさわしいと考えます。