農薬空中散布・松枯れにもどる

n00102#法規制の強化がないまま、5月より無人航空機の技術指導指針改訂#18-04
 無人航空機による農薬散布については、その事故の多さや適用農薬の拡大の問題点を取り上げてきましたが(記事t31606記事t31801記事t31802)、国による免許制度をはじめとする法規制の強化を求めるわたしたちに対し、農水省は、従来路線を踏襲し、なおも、空中散布拡大の指針をしめしました。

★技術指導指針の改訂は空中散布拡大への道
 農水省は、「空中散布における無人航空機利用技術指導指針」を3月30日に改訂しました(実施は5月1日から)。主な改訂点は以下です。
   ・指針にあった「空中散布等」の「等」のほとんどを削除した。
     これは、無人航空機による調査を除いて、農薬や種子、肥料など物質の投下を
    規制することに特化したからです。
   ・いままでの、操縦装置を人が操作する遠隔操作型に加え、機体等に組み込まれたプログラムに
    従って自動的に散布する自動操縦型無人航空機についての指針が新たに追加された。
   ・地上散布と同じ使用条件なら、農薬製剤ラベルに「散布」とあっても、無人航空機での
    空中散布を可とした空中散布適用農薬の拡大に伴う改訂(記事t31801参照)。
★自動操縦にも、ナビゲーターは必要
 自動操縦では、圃場での散布範囲をGPSでプログラムできたとしても、圃場にある障害物を完全認識できず、また、瞬間的な風速変化に応じた安定飛行・散布は困難です。
 自動操縦はは万能でないのに、機体の技術的認定基準は示されず、以下のような口先き指導がなされているだけです。
   『実施主体は、自動操縦の可否について十分に検討を行うこと。』
   『設定した飛行経路による空中散布が安全かつ適正に実施できない周辺環境の変化があった場合には、
    飛行経路の再設定や遠隔操作への切替等の安全対策を速やかに講ずること。』
   『遠隔操作にあっては、必要以上に急激な操作や大きな操作を行わないこと。
    自動操縦にあっては、別表2(性能確認された機体の一覧)の高度、速度、飛行間隔のとおり
    適切な飛行経路を設定すること。』
   『不具合が発生した場合には、直ちに散布を停止し、機体を速やかに安全な場所に
    降下させること。自動操縦にあっては、オペレーターが自動操縦システムを停止するなどの
    操作介入を行い、直ちに散布を停止し、速やかに安全な場所に降下させること。』
 そもそも、無人航空機による農薬空中散布は、遠隔型であろうが自動型であろうが、操縦を担当するオペレーター1人では許可されません。飛行状況及び周辺区域の変化等を監視するナビゲーターが必要です。
 指導指針の「6 空中散布の実施に当たっての危被害防止対策」には、危被害防止に、万全を期するとして、『公衆衛生関係(家屋、学校、病院、水道・水源等)、畜水産関係(家畜、家きん、蜜蜂、蚕、魚介類その他の水産動植物等)、他の農作物関係(散布対象以外の 農作物等)及び野生動植物関係(天然記念物等の貴重な野生動植物)』が特記され、7項目の遵守事項が挙げられていますが、オペーレーターについての注意事項が大半をしめています。さらに、『ナビゲーターを機体毎に1名以上配置するとともに、必要に応じて作業補助者を配置すること。また、オペレーター、ナビゲーター及び作業補助者は互いに連携し、一層の周囲の安全確保に努めること。』とあります。散布場所によっては、作業補助者も必要なのです。

★ドローン型についての注意は守れるか
【参考サイト】内閣府:無人航空機による農薬散布を巡る動向について(農水省植物防疫課資料。2018/03)
農業用マルチローター(ドローン)の活用推進について

 遠隔操縦型の無人ヘリコプターによる散布面積が年間約100万ha。そのうちドローン型無人航空機の散布は0.8%で約8000ha台となっていますが、指導指針の別表2の機種リストにある機体名は、増えつつあります。  ドローン型は、飛行時間が短いことに加え、指導指針には、『農作物に近い高度で飛行し、空中散布の均一性を確保することが難しいことから、厳格な飛行高度の保持に努めること。』 『飛行させるための下降気流が小さく、風の影響を受けやすいことから、風向きを十分考慮した空中散布を行うよう努めること。』との記載があります。
 このように散布技術の習熟に難点がある上、当初機体価格が100万円以下だったのが、200万円台、さらには自動操縦では500万円台と跳ね上がってきました。ドローン型もまた、無人ヘリコプターと同様、個人所有よりも、防除業者の比率が高まることでしょう。

★散布農薬の適用拡大で空中散布増がめざされる
 農水省は、小型無人航空機による農薬空中散布を地上散布を補完するものと位置づけ、その拡大を目指し始めました(記事t31801参照)。  いままでの指針にあった、『農薬取締法に基づき無人ヘリコプター散布用として登録を受けた剤のみを使用し、使用上の注意事項を遵守して使用すること。』が『農薬を使用する者が遵守すべき基準に従い実施すること。その際、農作物の形状によっては農薬(特に液剤)散布の均一性を確保することが難しいことから、防除対象に応じて適切な散布機器を選択して実施すること。』と変更されました。
 これと関連して、適用作物ごとに、適用機種とその飛行速度、飛行高度、飛行間隔、及び散布装置の方式が一覧となってた別表2は、24種あった適用作物が水稲・畑作物等、果樹(くり、かんきつ、みかん等)、樹木(まつ(生立木)等)と区分化され、散布装置の方式を指定した項が削除され、自動操縦機能の有無の項が新設されました。  このようなつけ焼刃的な指導指針で、食の安全や散布地周辺の住民の受動被曝や環境・生態系の影響が防止できるかどうか、心配です。

★無人航空機による農薬散布の法規制を求めた要望にはゼロ回答
 わたしたちは、3月はじめ、農水省の担当部署に「無人航空機による農薬空中散布に関する緊急要望」を行いました。その主な回答を下記に示します(要望と回答全文はこちらを参照>。

    【要望1】農薬取締法に基づく、貴省の通知「農薬の使用方法における「無人航空機」
     の取扱いについて」(29消安第4974号)おける「散布」の定義に無人航空機に
     よる散布をいれないでください。

     [理由1] 無人航空機による空中散布の場合、単位面積あたりの農薬成分量を、
          地上散布に適用されると同等であることが要求されるが、使用者は、これを遵守するの
      が困難である。
      特に、「散布」と「空中散布」、「無人ヘリコプター散布」では、希釈倍率や散布速度、
     散布幅、散布高度が異なり、単位面積あたりの使用量を同等にするために、使用者は混乱する。
     [理由1についての回答]
      農薬のラベルには、「散布」、「無人ヘリコプターによる散布」等の使用方法のみが
      記載されている訳ではなく、必ずその使用量又は希釈倍率及び使用液量がセットで
      記載されており、使用者はそれらを遵守する必要があるため、使用する量に関して使用者が
      混乱することはないと考えられます(使用者が、自身で「散布」、「空中散布」、
      「無人ヘリコプター散布」の「単位面積あたりの使用量を同等にするため」に計算等を
      する必要はありません。)
 
     [理由2]貴省の「技術指導指針」にある空中散布等の基準では、散布高度は、無人
        ヘリコプター3-4m、ドローン型2mであり、樹木や果樹園では地面からの高さは、
        樹高よりたかくなる。地上散布と同じ濃度で散布しても、空中散布は、高所から、
        広範囲に、短時間で散布することになるため、気象条件によっては、非対象作物や、
        生活・一般環境へのドリフトを防ぎえない。 
     [理由3]花卉や芝地のある公園やゴルフ場などの非食用作物への使用拡大も懸念される。
      [理由2及び3についての回答]
      農薬の散布にあたっては、防除する対象病害虫及び雑草、適用作物等によって、
      適切な散布機器や散布技術は異なることから、防除の特徴を踏まえて、防除対象に
      応じた散布機器等を選択していただくことが基本です。当該通知にも改めてこの旨を
      記載し、指導しているところです。ご意見で例示いただいた樹木、果樹等に散布する
      場合であっても、木の大きさ、対象とする病害虫等によっては、地上から高所
      に吹き付けるよりも、空中から散布した方が適切に散布できるケースもあると
      考えられます。また、ドローンについては、無人ヘリコプターより低高度で
      散布できることから、ドリフトをより低減するような機種や、GPSを活用して
      圃場の範囲を適確に把握し、人為的ミスの低減とともに、適切な散布を行う
      自動運転技術の開発も進められています。このような最新の技術も活用して、
      ドリフト低減を含めたより適切な農薬散布の指導を進めてまいります。また、
      病害虫防除の現場においても、「空中散布等における無人航空機利用技術指導指針」
     (平成27年12月3日付け27消安第4545号通知。以下「指導指針」という。)に基づき、
      適切な機種の確認や散布方法(風の強い時には散布を中止する、散布高度を
      遵守する等)の指導、オペレーターの育成等を行うことにより、ドリフトの
      防止対策を含めた適切な農薬散布を推進しています。


    【要望2】食用作物の場合、単位面積あたりの農薬の使用量は、「農薬を使用する者が
     遵守すべき基準を定める省令」の第二条により、違反すれば罰則が適用されます。
     農薬の圃場散布試験がない無人航空機による空中散布を、地上散布と同等とみなす根拠を
     お示しください。 −[理由]と[回答]略−


    【要望3】農薬取締法改定に際して、無人航空機による事故防止のため、下記内容を、
     関連の法令・告示等で条文化してください。。
    [回答]    農薬の使用者は、使用する散布機器の種類に関わらず、使用量等の使用基準を遵守     しなければなりません。無人航空機による農薬散布に限らず、使用基準の遵守に     よる適切な農薬散布が行われるよう引き続き指導を行ってまいります。     [コメント]赤字部分は、要望3全般に対する回答で、これにつづく、項目ごとの要望への      回答姿勢も似たようなものです。      1)無人航空機事故防止のために −5つの個別要望と回答省略−(記事t31802参照)      2)農水省「指導指針」強化のために,以下を法令で条文化されたい。       (2-1)農薬取締法では、登録製剤ごとに。適用作物や使用要件(希釈濃度、使用量、使用時期、        回数など)が、また、貴省局長通知「空中散布等における無人航空機利用技術指導指針        (指導指針という)では、適用作物ごとに、無人航空機機体及び散布装置や飛行条件が        決められいる。これらを遵守しない又はしなかった申請者、実施団体、防除業者や        オペレーターには、飛行の許可や承認を規制又は禁止する。       (2-2)指導指針では、空中散布等の実施に関して、散布地周辺への事前周知を求めている。        これを行わない又は行わなかった申請者、実施団体、防除業者やオペレーターには、飛行の        許可や承認を規制又は禁止する。       (2-3)無人航空機の制御が不能になったり、制御者がミスして、万一墜落させても、        人の被害、物損、火災事故等が発生しない場所が確保出来ない地域での、        飛行を許可・承認しない。       (2-4)農薬散布の事故として、機体や人の被害、物損はもちろん、不時着や接触事故、        域外への散布、残留農薬基準違反のような事例も含め、農水部署だけでなく、すべて、        国土交通省へ事故報告を提出することを申請者、実施団体、防除業者やオペレーターに        義務付ける。(−後略−)指導指針にある例外規定は除くべきである。        また、農薬散布事故として、近隣住民の被曝や農作物(有機農産物や非対象作物などへの        飛散、残留基準違反)、水産物、畜産物等の被害を含めることはいうまでもない。       (2-5)上記事故報告を提出しない申請者、実施団体、防除業者やオペレーターには、        その後、飛行の許可や承認を規制又は禁止する。       (2-6)事故を起こした機体(撒布装置を含む)について、その後、飛行の許可や承認を        規制又は禁止する。       (2-7)事故を起こした実施団体、防除業者やオペレーターには、その後、飛行の許可や        承認を規制又は禁止する。     [コメント]各項目ごとに、[回答]はありましたが、散布周知や事故報告の義務化などについては、      『必要に応じて指導等を行ってまいります。』とか、『指導指針により指導しているところです。』      『再発防止策を指導してまいります。』とのありきたりの回答でした。      法規制の条文がないために、法令での規制を求めているのに、指導ですまそうとしているわけで、      無人航空機農薬散布の免許制度導入には、程遠い現状といわざるを得ません

 指導だけで、農薬使用者がすべての通知や指針を遵守してくれるならば、無人航空機事故も、農薬による危被害も起こりません。農薬使用の削減のためには、法規制の強化も必要です。


作成:2018-04-30