改定農薬取締法にもどる


2018年農薬取締法改定案についての反農薬東京グループの資料
てんとう虫情報掲載記事のまとめ


n00201#改定農薬取締法の国会審議議〜衆議院農林水産委では原案可決#18-05
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【参考サイト】農水省:2018年農薬取締法改定案
      概要 法律案要綱 法律案 理由
      新旧対照条文 参照条文 現行の農薬取締法条文

★急を告げた農薬取締法改定審議
 農薬取締法改定で、農水省が目指すのは、記事t31702で示したように、再評価制度の導入と登録審査の簡素化によるジェネリック農薬の普及ですが、3月に、法案が閣議決定されたものの、国会での趣旨説明が実施されたのは、衆議院では、5月30日の農林水産委員会で、翌31日、3時間に満たない審議で、採決が行われ、賛成起立が総員で原案通り、後述の付帯決議付きで可決、6月1日の本会議でも可決されました。
 わたしたちは、昨年来、改定内容の問題点を指摘してきましたが(本稿のトップに記した「てんとう虫情報掲載記事のまとめ」を参照)、その根底にあるのは、『農薬に頼らない農業をめざすため』といいう考えです。
 農薬取締法の改定は、国民の農薬摂取を減らし、生物多様性や生態系保全のため、生活環境や一般環境での農薬汚染を防止しすることを第一に考え、農水省のような農業競争力強化支援法の一環としての農取法改定とは明確な一線を引き、以下のようなことが実現されるべきだとしてきましたが、農水省案は、程遠い内容のまま、6月5日には、審議は参議院に移り、8日の本会議で全員一致で可決されました。
  @登録の際の毒性や残留性試験、環境への影響試験の内容を強化し、試験データを公開する。
  AEUで、登録が失効している農薬成分を点検し、日本での規制を進める。
  B再評価制度は15年間という期限でなく、三年間ごとの再登録期間中に、申請者に、人や環境への
   影響を調査させ、新たな毒性や環境への悪影響が判明したものは、使用規制する。
  C農薬登録や適用拡大ついて、国民の意見を聞く。
  D住宅地通知や無人航空機による空中散布の技術指導指針などの内容を法令の条文にいれる。 
 今号では、まず、改定農薬取締法の条文がどのように変えられるか、農水省が改定の目玉としている、後発農薬の申請簡素化と再評価制度について、安全性がどこまで、担保されるのかをみていきます。
 なお、反農薬東京グループの改定法案への条文別コメント全文はこちら

★登録申請内容はどう変るか〜生活環境動植物の被害防止ガ目指される
 改定法第三条(農薬の登録)は、登録に関する条文で、現行の第二条が大きく改変されました。
 1項では、登録が必要な農薬の要件に関するものですが、「人畜及び水産動植物」あった現行条文が、「人畜及び生活環境動植物(その生息又は生育に支障を生ずる場合には人の生活環境の保全上支障を生ずるおそれがある動植物をいう)に変更されました。
 他の条文でも、「水産動植物」とあった個所の殆どが「生活環境動植物」と変更され、水系生物への影響評価を偏重する現行法を変えることが、条文でも明確になりましたが、どのよう生物をどのような方法で影響評価するかは、不明です。
 衆院農水委員会の審議で、農水省は、『陸域を含めて一定の動植物に対する農薬の影響を考慮し、登録事項とすることとしておりまして、環境省と連携して、登録時の審査を適切に行ってまいりたい』と、環境省は『改正法案の成立後に、国際標準との調和、これまでの科学的知見等も勘案して、中央環境審議会において審議いただいた上で選定したいと考える』としているだけで、現在問題となっている、ミツバチやその他のポリネーター、トンボ類への影響のほか、わたしたちが問題としている、天敵、ただの虫、両生類、ミミズや土壌微生物、野鳥などに与える影響をどのように評価するかは、今後の課題として残されています。
 農水省が関与する農耕地だけでなく、生物多様性の保持を求める国際的な動きとあいまって、環境省所管の一般環境の生物への影響を無視されないよう、わたしたちの声を反映させる必要があります。
 なお、これに関連して、衆院農水委での付帯決議に『五 生活環境動植物についてのリスク評価手法を早急に確立し、登録の際に必要となる試験成績の内容等を速やかに公表すること。』と述べられています。

 2項では、登録の申請に際して提出すべき資料等があげられ、省令で定める「特定試験成績」と「基準適合性試験」が必要となります。
 申請書への記載や提出すべき具体的な項目は、現行制度の通知等にある事項が整理・追加され、一から十三項目として、より明確化された。たとえば、以下の項目がくみこまれています。
  ・使用方法及び使用期限( →第十六条の表示にある最終有効年月との相違が不明)
  ・使用に際して講ずべき被害防止方法  
  ・生活環境動植物に有毒なもの
  ・農薬の貯蔵上の注意事項
  ・農薬原体の有効成分以外の成分の種類及び含有濃度
  ・農薬原体を製造する者の氏名及び住所並びに農薬原体の製造場の名称及び所在地
  ・農薬原体の主要な製造工程
 3項は、提出すべき資料の一部を省略することができるケースを示したもので、現に登録のある農薬について、農薬原体がそれ同じ成分であり毒性も同等とされた場合、提出書類の提出を一部省略できる、となっています。

 4、5項は、提出された資料の審査に関する条文で、農水省と農林水産消費安全技術センター(FAMICのこと)が登録審査を担うことになり、審査事項は省令で決められます。なお、現行法下で、農薬審査報告書が公開されつつあり、現在40件が公開されています。
 既存の登録原体との同等性が確認できたら、審査は不要とされるでしょうし、だれが、どのように審査するか、国民の意見がどのようにとりいれられるかが、課題です。

 6項として、新設されたのは、優先審査です。これは、類似する他の農薬と比較して特に安全性が高いものと認めるときに実施されるとあります。

 9項は、現行法条文にある下記の内容を、改変したものですが、 見本の検査がなくなっており、登録に必要であった生活環境動植物への影響の有無の表示の指示はありません。
  『3 農林水産大臣は、前項の申請を受けたときは、独立行政法人農林水産消費安全技術センター
   (以下「センター」という。)に農薬の見本について検査をさせ、次条第一項の規定による
   指示をする場合を除き、遅滞なく当該農薬を登録し、かつ、次の事項を記載した登録票を
   交付しなければならない。
     一    登録番号及び登録年月日
     二    登録の有効期間
     三    申請書に記載する前項第二号及び第三号に掲げる事項
     四    第十二条の二第一項の水質汚濁性農薬に該当する農薬にあつては、
        「水質汚濁性農薬」という文字
     五    製造者又は輸入者の氏名及び住所
     六    製造場の名称及び所在地』

★ジェネリック農薬の毒性試験等の簡素化
 上記の第三条の3項は、後発農薬=ジェネリック農薬に関するもので、 既に登録された農薬と同じ原体成分をもち、それと同等である後発農薬について、登録に必要な試験の提出が免除されるようになる条文で、すでに現行の省令等で決められていることです(記事t30201記事t30504記事t30702参照)。
 農水省は、いままでの登録に要する経費14億円が簡素化により、1億円で製品化できると試算しており、先発農薬に類する後発農薬の普及により、農薬使用量が拡大することへの懸念は無視され、農薬コスト安につながることのメリットのみを強調しています。

 ジェネリック農薬の早期登録とともに、同条の6項に優先審査の項目が新設されていますし、 第七条(申請による変更の登録)4項には、第二条の6項と同様な審査優先の努力規定がありますが、これらは、いずれも努力規定です。
 反農薬東京グループでは、メーカーが、登録に際して、類似製剤との違いをあきらかにし、登録の可否について、国民の意見を聞くこと。また、新たな申請資料が不要な場合は、当該資料が公開されていることを条件とするよう求めています。
 衆院委員会付帯決議では、『先発農薬の規格に係る情報を迅速かつ適切に公開し、ジェネリック農薬の開発・普及を促進すること。』となっています。
 審査簡素化して、登録申請時に免除した毒性や残留性試験結果は、すべて、公開することを、条件にしてもらいたいものです。
 また、この簡素化は、すでに、マイナー作物用に適用できる登録農薬を、個々の作物でなく作物群として、また、残留試験事例を減らして(通常6事例を2事例で可とする)、使用拡大をはかっていることとも共通点があります。(記事t30802参照)。

★再評価制度の導入
 現行法第四条(登録の期間)で、登録の有効期間3年とあった条文が削ったことの替りに、導入されるたのが再評価制度です。これに関連して、現行法、第六条の三( 職権による適用病害虫の範囲等の変更の登録及び登録の取消し)も、大きくかわり、第八条(再評価)らが新設されることになりました。重要な条文ですが、どんな農薬を対象にするかは、これから提示されることになります。

 条文で決まっているのは、農水大臣が@農薬の範囲を指定して再評価を受けるべき旨を公示する。A当該農薬の有効成分が最初に登録された日から起算して農林水産省令で定める期間ごとに行うものとする。B再評価を受けるべき者が提出すべき農薬の安全性その他の品質に関する試験成績を記載した書類その他の資料(特定試験成績は、基準適合試験によるもの)及びその提出期限を併せて公示する。C再評価においては、最新の科学的知見に基づき、資料に基づき、農薬の安全性その他の品質に関する審査を行う(FAMICによる業務可)。D審査の実施に関して必要な事項は、農林水産省令で定める。
 としかなく、これから詳細を決めて、省令で告示するということです。
 農水省は、提案前から、登録後15年を経た農薬について、再評価するとしており、国会質疑でも、再登録の3年をやめ、いきりなり、15年経過した農薬とすることに疑問が呈せられましたが、優先するのは、@国内での使用量が多い農薬から優先的に進めていく、A次に、使用量は少ないが、一日許容摂取量が低い農薬 であるとし、具体的な農薬ごとの再評価時期は検討中で、改正法案が成立後、速やかに再評価の優先度を示すし、各年ごとに評価対象となる有効成分名について順次告示するとのことでした。
 また、農水大臣は『再評価制度におきましては、定期的に農薬メーカーにデータの提出を求め、最新の科学的水準で新規登録と同等の評価を行うとともに、安全性に関する重要な知見が明らかになった場合には、再評価を待たずに随時評価を行い、登録の変更、取消しを行うこともある。そのため、毎年、国が農薬メーカーに安全性に関する情報の報告を求めるほか、みずからも情報収集を進め、農薬の安全性を継続的にモニタリングする。こういったことによりまして、農薬の安全性の一層の向上を図ることとしているところでございます。』と、答えています。
 いままで、3年ごとの再登録期間中に、追加試験を実施するよう求めてきましたが、実現したためしがありません。
 まだ、具体的に対象となる農薬名はあげられていないですが、古い農薬の登録を失効させて、病害虫対策に支障がでないよう、配慮しろとの声が聞こえます。
 わたしたちは、日本で、登録されているが、EUでの再評価結果、現在、ヨーロッパでは登録のない農薬を記事t31601にリストアップしています。まず、これらの再評価を実施してもらいたいと思います。

★その他の条項
 第十四条(情報の公表等)と第十五条(科学的知見の収集等)が新設され、農水大臣は 『農薬の安全性その他の品質に関する試験成績の概要、農薬原体の主たる成分その他の登録を受けた農薬に関する情報を公表』『農薬の安全性その他の品質に関する科学的知見の収集、整理及び分析を行う』ことになりましたが、これは、努力規定にすぎません。  農水大臣だけでなく、環境大臣、厚労大臣も協力すべきです。
 まず、登録申請された毒性資料等の公開をもっと、まえびろに実施すべきですし、そもそも、科学的な試験結果を、企業財産として、保護する必要はありません。特に、ジェネリック農薬で、申請を免除された資料は、全面公開を義務づけるべきです。
 食品安全委員会が公表する「農薬評価書」にある<参照>には、多くの報告書や資料がリストアップされています。その90%以上は一部公表か未公表です。
 また、一般の研究者の論文などを、FAMICや食品安全委員会で評価する際に、たとえば、GLPに依拠していないというだけで、評価対象から、はずしてしまう事例もみられるのは、科学的とはいえません。

 第十六条(製造者及び輸入者の農薬の表示)は、 現行法第七条にあった容器表示内容に関するもので、章立ての関連でしょうか、第三章の販売の規制で、第十六条となりました。
 使用に際して講ずべき被害防止方法、生活環境動植物に有毒な農薬については、その旨、農薬の貯蔵上の注意事項などが追加されているほかは、現行法とあまりかわりません。
 表示が細かい文字で、容器や包装に記載されても、使用者が読んで、理解するのに苦労するのが現状です。また、最終有効年月を過ぎたものや残農薬の廃棄についての指示もなくては、農薬メーカーがいうように、圃場の隅に捨ててしまうことになります。  第十九条(回収命令等)の条文の強化とリンクしてもらいたいものです。また、表示を明確にすることは、わたしたちが、使用者に、農薬使用履歴記載の義務化を求める際にも役立ちます。

 第二十七条(農薬の使用に関する理解等)は、現行法第十二条の三 にもあった農薬使用者に対する努力規定ですが、『農薬の使用に当たっては、農薬の安全かつ適正な使用に関する知識と理解を深めるように努めるとともに、』が追加され、都道府県知事が指定するものの指導が求められています。
 そもそも、農薬使用者を、一般人と防除業者を同一視したのは2002年改定法からで、それまでは、届出制度がありました。防除業者は、空中散布の請負いなどを含め。多種類、多量の農薬を使用するのに、届出る必要もないのはとんでもないことです。彼ら専門業者は、たとえば、農薬使用履歴の記載を義務づける、毒性のつよい農薬の使用資格を求める。周辺への周知義務を科するなどが必要でしょう。

 さらに、今回の改定案では、第二条(定義)に、「草」及び「除草剤」という語句がはいり、農作物を害するものにいままでなかった「草」が、また、「その他の薬剤」とされていたものから、「除草剤」が分離表記されました。農薬取締法の条文に「除草剤」がはいったのは2002-03年の改定が、はじめてで、現行法第十条の三(除草剤を農薬として使用することができない旨の表示)や第十三条(報告及び検査)にでてきます。
 改定法では第二十二条らにそのまま、残っており、非農耕地用の除草剤は、登録農薬と同じ成分であっても、農耕地に使わなければ、製造・販売・使用になんの規制もなく、登録農薬のように住宅地使用での周知指導もせず、勝手に使用ができるという現状はかわりません。農薬取締法で規制できなければ、新たな法令で、製造・販売・使用に網をかける必要があります。

 今回の改定案では、わたしたちが一番に求めていた農薬使用に関する規制条文は、現行法のママで、受動被曝防止には役立たないことが明らかになりましたが、この件は、参議院での審議内容とともに、次号でとりあげます。

衆議院農林水産委員会の付帯決議(5月31日)
 農薬は、農産物の安定生産に必要な生産資材であるが、その販売・使用については最新の
 科学的知見を的確に反映し、安全性を向上させることが不可欠である。
 よって、政府は、本法の施行に当たり、左記事項の実現に万全を期すべきである

 一  登録された農薬の再評価制度の実施に当たっては、農薬の安全性の更なる向上を
 図ることを旨として行うこと。また、農薬に係る関係府省の連携を強化し評価体制を
 充実するとともに、新規農薬の登録に遅延が生じないようにすること。

 二 最新の科学的知見に基づく定期的再評価又は随時評価により、農作物等、人畜
 又は環境への安全性等に問題が生ずると認められる場合には、当該農薬につき、その
 登録の内容の変更又は取消しができるようにすること。また、定期的再評価の初回の
 評価については、可及的速やかに行うこと。 

 三 マイナー作物に使用できる農薬については作物群を単位とした登録が可能な品目
 を揩竄キための作物のグループ化の動きを促進する等の必要な措置を充実させること。

 四 良質かつ低廉な農薬の選択肢を広げるために、先発農薬の規格に係る情報を迅速
 かつ適切に公開し、ジェネリック農薬の開発・普及を促進すること。

 五 生活環境動植物についてのリスク評価手法を早急に確立し、登録の際に必要となる
 試験成績の内容等を速やかに公表すること。

 六 安全な農産物の生産及び農薬使用者の安全を確保し、農薬による事故を防止する
 ために、登録に係る適用病害虫の範囲及び使用方法、 貯蔵上又は使用上の注意事項等を
 農薬使用者にわかりやすい手法で表示及び情報提供が行われるよう措置し、農薬の安全
 かつ適正な使用及び保管管理の徹底を図ること。また、農薬使用の際に、農薬使用者
 及び農薬散布地の近隣住民に被害が出ないようにするため、 農林水産大臣及び都道府県
 知事は農薬使用者に対して十分な指導及び助言を行うこと。

 七 制度の運用及び見直しについては、規制改革推進会議等の意見は参考とするにとどめ、
 農業生産の安定を図り、国民の健康を保護することを前提に、農業者等の農薬使用者、
 農薬の製造者・販売者、農産物の消費者等の意見や、農薬の使用実態及び最新の科学的
 知見を踏まえて行うこと。


作成:2018-06-05、更新:2018-06-08