改定農薬取締法にもどる

n00301#改定農薬取締法が成立〜農薬使用者の安全性はいままで以上に確保されるか#18-06
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  記事n00201で報告したように、農薬取締法の改定案は、5時間あまりの国会論議で、原案どおり、自民党から共産党にいたるまで、全会一致で可決され、6月15日公布となりました。
 改定法案の概要には、農薬の安全性の一層の向上を図るとあり、さらには、登録審査の充実として農薬使用者に対する影響評価、動植物に対する影響評価が挙げられているものの、具体的にどのような評価方法をとるのかはっきりしません。  わたしたちが、農薬散布地周辺の住民の受動被曝による健康への影響を訴えても調査がなされることは殆どありません。農水省は、使用者の安全を図るといいながら、使用者やその家族の健康への影響に関する調査はなにもなく、今回の改定で、安全性の評価を強化するとしていますが、安全性とは何か、どう改善されるかが明確になっていません。

★農水省がいう農薬使用を減らすための策
 農薬の負の影響を受けない、もっとも確実な方法は、農薬を使用しないことですが、農水省は、農薬取締法の改定で、いままでより安全な農薬が、安価に供給できるといいます。安全というのは、再登録制度をやめ、再評価制度にすることと、水産動植物への影響重視から、生活環境動植物類への評価を拡大することで、農薬使用者、その家族、散布地周辺の住民らの健康調査をするという考えは見受けられられません。安価というのは、登録要件を簡素化し、特許のきれたジェネリック農薬の使用比率を現在の5%から、欧米なみの15〜20%にすることで、農薬使用量の削減ではありません。逆に、低価格になれば、使用量が増える可能性もあります。  わたしたちは、農薬の使用規制による使用量の削減をめざしていますが、農水大臣は、以下のような削減方針をあげるだけです。
  『農薬を使用する上では、人の健康や環境に対する安全を確保することが基本でありますので、
   農薬登録制度によりまして、安全と認められる農薬だけを製造、販売、使用できるようにする
   とともに、遵守すべき使用方法などを定めて、農薬の適正使用というものを進めているところ
     であります。
   農薬の使用に当たりましては、安全を確保するため定められた使用方法を守ることはもちろんの
   ことですけれども、農薬だけでなくて、さまざまな方法を組み合わせた総合的な病害虫防除の
   推進ですとか、(中略)予防的防除から発生予察情報に基づく適時適切な防除への転換、
   こうすると農薬使用量を減らすことができるということですので、そういったことも推進をして、
   防除に必要な量だけを的確なタイミングで使用するように、より一層取り組んでいきたいと考えております。』
 この主張が完全に実現すれば、確かに、農薬使用者への危被害は減るでしょうが、いままでの農薬行政を考えると、疑問視せざるを得ません。すなはち、

 (1)農薬に頼らない総合的な病害虫防除の推進は、すでに実施されつつあります。なかでも、有機農業推進法に基づく、有機農業の推進に関する基本的な方針(2014年年4月)には、 『新たに有機農業に取り組もうとする者が潜在的に相当数見込まれ、有機農業により生産される農産物に対する需要の増加も見込まれることから、有機農業の一層の拡大を図ることとする。このため、おおむね平成30年度までに、現在0.4%程度と見込まれる我が国の耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を、倍増(1%)させる。』とありますが、数値目標の桁が違うのではないでしょうか。
 さらに、現実は厳しく、1999年からはじまったエコファーマー制度での認定件数は、2011年の21万6341をピークに減少しつづけ、2017年度は13万件をきっています。

 (2)植物防疫法による発生予察情報に基づいて実施される病害虫対策の主軸は多種類の農薬散布であることにかわりありません。
 水田では、自然環境や生活環境への配慮が足りず、育苗箱剤やカメムシ防除の殺虫剤散布、除草剤の多用で、対象外の天敵を殺し、生物多様性を崩し、場合によってはただの虫の害虫化につながっていくことを否定できません。果樹や野菜でのダニ、アブラムシは薬剤耐性を獲得し、つぎつぎと新剤の開発で対応することになります。

 農薬使用は、容器表示にある使用方法や使用上の注意にもとづき、適正に実施すれば、ヒトの被害は防止できるという主張も、危ういものです。農薬使用者は、暴露防止のための保護具着用を遵守することで、健康被害を抑えられるというのですが、単作・連作をやめ、生物多様性を生かして、耕種的に病害虫の発生を抑える対策をとれば、農薬使用量は減らせます。
 農薬使用者の家族をはじめ、農村地域で生活する保護具のない人々や市街地での住民・生活者の農薬散布による健康被害防止のため、住宅地通知があるのに、農薬使用者の遵守事項は努力規定にすぎず、受動被曝を防げないのが現状です。

★参議院農水委の付帯決議
 原案は修正なしで、成立しましたが、衆議院農水委につづいて、参議院でも付帯決議が採択されています。衆議院と異なり、前文に『販売・使用については最新の科学的知見を的確に反映し、安全性を向上させるとともに、人の健康や環境への影響を考慮し、安全かつ適正に使用していくことが不可欠である。』と、赤字部分が追加されました。さらに、下記のように3項目がふえました。
   農薬の登録制度の見直しにおいて農薬メーカーの負担にも配慮し農業者への良質かつ低廉な
   農薬の提供を推進すること。

   試験に要する費用期間の効率化や国際的な動物試験削減の要請に鑑み定量的構造活性相関の
   活用等を含む動物試験の代替法の開発活用を促進することまた国内外の法制度で明記されている
   動物試験における3R(代替法活用、使用数削減、苦痛軽減)の原則に鑑み、不合理な
   動物実験の重複を避けるなど3Rの有効な実施を促進すること。

  八 では、赤字が追加され、『農林水産大臣及び都道府県知事は防除業者を含む農薬使用者に対して
   十分な指導及び助言を行うこと』

   非農耕地用除草剤が農薬として使用されないよう表示の徹底や販売店に対して十分な指導を行うこと。
   七項について、動物実験により、ヒトへの毒性を評価するという現状をあらためようという主張です。動物試験の内容だけでなく、動物を犠牲にした試験をやめて、細胞試験などを採用することは、時間も経費をかからないので、大賛成です。
 わたしたちは、『農薬は環境中に放出されるもので、登録時に提出される現行の試験成績だけでは、環境や人への影響について、ただしく判断することができない。以下のような試験成績の提出が必要である。
 (1)生態系全体への影響評価が必要である。 (2)発達神経毒性試験、発達免疫毒性試験、環境ホルモン作用による人や生物への影響試験を実施すべきである。
 (3)上記について、動物実験にかわって評価できるインビトロな試験方法を開発・実施 すべきである。』との意見を農水省に述べています。

 八項については、以前の農薬取締法にあった農薬防除業者の届出制度の廃止の復活をめざし、『多種多量の農薬を散布する防除業者』とすることを求めましたが、単なる一般の農薬使用者と区別して、並列的に防除業者をいれることができました。

 九項は、原案では『非農耕地用除草剤の安全かつ適正な使用及び保全管理を徹底するために、用途を問わず成分で規制する方策について法整備を含めた検討を行うこと。』で、わたしたちのいままでの主張を踏まえたものでしたが、委員会メンバーの討議の結果、改定農薬取締法第二十二条(除草剤を農薬として使用することができない旨の表示)と第二十三条(勧告及び命令)の閾をでないものとなりました。

 参議院での質問主意書Top Page ⇒ 詳細は記事n00701
 ・川田龍平議員による7月17日の改正農薬取締法の運用に関する質問主意書本文答弁署
 ・小川勝也議員員による7月19日の改正農薬取締法の施行並びにその方法に関する質問主意書本文答弁書

★再評価は2021年から
 そもそも、再評価というのは、登録の際に、ヒトや環境への悪影響が予測できず、使用開始後、現実に被害が明らかになったり、あらたな科学的知見が報告された農薬の事後対策にすぎません。多くの動物を犠牲にして得た試験結果を、ヒトと実験動物とは異なるといったり、生態系への影響にはあれもこれもあり、農薬だけを使用規制するのは科学的できないとし、あげくは、毒性との関連が判明しても、代替農薬がないとして、対策を遅らせてきたのが、いままでの農水省です。  農水大臣は、いいます。『2021年度以降、国内での使用量が多い農薬から優先的に進めていくということでありますけれども、欧州で使用規制の対象となっておりますネ オニコチノイド系の三農薬、クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム及びグリホサートにつきましては、使用量が比較的多いことから、優先的に評価を行いたいと思っています。』と。
 EUでは、本年までに、開放系でのネオニコ3種は、使用禁止となります。この農薬取締法改定で、日本は、少なくとも、3年は、遅れることは確実です。それだけではありません。農薬使用者や生態系にに多大の被害を与えてきた有機リン剤の多くの登録がなくなっているEU並の規制は、いつになるのでしょうか(記事n00304参照)。
作成:2018-07-01、更新:2018-07-30