改定農薬取締法にもどる

n00805#農水省が示した遵守省令改定案がボツになる、さらに第三弾・生活環境動植物についての意見募集は12月15日締切#18-11
【関連記事】記事n00701記事n00702

 先月実施された改定農薬取締法に関する政令及び省令関連するパブコメ意見結果とそれぞれの改定条文などが、11月30日に農水省や環境省から公表され、同日付け官報(号外第263号)で、告知されました。当グループのパブコメ意見や官報告知の内容などは、囲み記事の資料にあるリンクをご覧ください。本文中にあるまる番号の対応の説明もあります。

 政令改定については、原案通り、12月1日の施行が告示されています。以下に、多岐にわたる省令関連の意見の中で、いくつか問題点を示します。

★施行規則の改定〜再評価制度で毒性データ公開も現状のまま
 農水省が今回の改定の目玉としている<3年ごとの再登録制度をやめて、概ね登録15年後の再評価制度とする>については、パブコメで提案された内容が省令@のように条文化されています。
 わたしたちは、再評価期間15年に反対し、たとえば、『新登録については、期限を短く限って(再登録制度下では、3 年以内を求めた)、メーカーに使用者等の健康調査、流通食品での残留や一般環境汚染の実態の報告を義務付け、短い期間で、再評価すればい。』と主張しましたが、回答では『毎年、農薬メーカーに安全性に関する報告を求め、、国においても情報収集をすすめ、農薬の安全性を継続的にモニタリングしいる』から、十分だといいます。
 また、省令Aにある特定試験成績に関する条文は、実施すべき試験や試験施設、試験計画や実施手順、報告やその保管ほかについて19条にわたって記述されています。
 しかし、肝心の試験データの公開については、再評価制度で提出免除される資料をすべて、公開する/評価に予防原則の視点を取り入れるべきである、とのわたしたちの主張に対しては、あいかわらす、毒性データを企業の財産だとする考えをかえず、概要を公表するだけ/参照文献も未公表が多いという現状をかえることもなく、『ヒトの健康や環境への影響を評価し、被害を生ずるおそれがあると認められた場合には、入手可能な適切な情報に基づき、暫定的なリスク管理措置を行います。』としか答えません。
 さらに特定試験に、生態系全体への影響評価/発達神経毒性試験、発達免疫毒性試験、環境ホルモン作用による人や生物への影響試験を求めましたが、『ご指摘の試験については、信頼性を確保するための基準が国際的にもまだ設定されておらず、特定試験成績に含めることは困難』との回答で、日本が率先して、実施しようとの意気はみられませんでした。

★遵守省令から、航空機・空中散布の項が消えた
 告知された
省令Bで、なによりも驚いたのは、「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」(以下、遵守省令という)が。農水省の案通りにならなかったことです。もとの省令第四条(航空機を用いた農薬の使用)が消えており、なんと第三条の次ぎは、第五条になった条文が官報に掲載されているのです。
 これまでの第四条では、空中散布の場合、有人ヘリコプターについてのみ、計画書を提出することになっていたのを、農水改定案では、『ドローンを含む無人航空機を用いて農薬を使用しようとする場合には、農薬使用計画書を提出しなければならないこととする。』とされていました。わたしたちは、病害虫の発生状況がわからないうちに、空中散布画を提出するような農薬使用は、予防散布なので、手放しというわけではありませんが、『航空機による農薬使用計画書の農水大臣への届けを無人航空機にも適用することは賛成である。』という意見を述べました。ところが、回答は『無人航空機による農薬の使用における農薬使用計画書の提出については、規制改革推進会議におけるドローンに関する議論等を踏まえて関連制度の見直しを進めており、こうした中で取扱いについて改めて検討してまいります。』です。農薬対策室に聞いてみると、これから内閣府の推進会議の意向を踏まえて。条文を決める、それまでは、いままでどおりだということです。改定案を示しながら、それを引っ込めるなんて、前代未聞です。こんな省令改定ってあるのでしょうか。今後、ドローン型の事前使用計画提出を免除する気でしょうか(記事n00801参照)。

★遵守省令にある多くの努力規定もそのまま
 わたしたちは、遵守省令にあるいくつもの努力規定の義務化を求めました。しかし、 「罰則のない努力規定」として指摘した内容は、いまのままの努力規定です。
  1 有効期限を超えて農薬を使用しない。
   ⇒元の条文にあった「最終有効年月」という語句がなくなり、代りに、対応する農薬取締法条文「第十六条第十一号」をあげてあります。これでは、使用者が理解することはできません。
  さらに、『最終有効年月を過ぎても、ただちに農薬成分が分解・変質するわけではありませんが、時間の経過とともに品質が劣化するおそれがあるため、その遵守を努力義務としています。』ですと。

  2 航空防除の際には,区域外への飛散を防ぐ。⇒改定されなかった第四条の2項のまま
  3 住宅混在地では,飛散を防ぐ。 ⇒次節参照
  4 農薬を使用した年月日,場所,農作物,農薬の種類や量を記帳する。
   ⇒農水省は『適正に農薬を使用する上では、自らの農薬の使用履歴をいつでも確認できることで使用上の間違いをなくすための取組として、帳簿の記載は有効と認識しています。ただし、農薬の不適正な使用には、直接罰則が科せられており、帳簿の記載は、あくまで適正使用に資するための補足的な手段であることから、努力義務とすることが適当と考えています。』
  5 水田からの流出を抑える。
  6 クロルピクリン被覆を必要とする農薬を使用するときは,揮散防止に努める。
   ⇒農水省の回答『努力義務としている事項については、現場の状況や気候条件等によって遵守すべきことが様々であることから、一律に義務化することは馴染まないものと考えています。』となっています。

  そのほか、農薬取締法の使用違反罰則に関連する第二条にある「食用農作物等」には、食用や飼料用以外に、芝、樹木等の非食用作物が入ることを明確化すべきであるとの意見を述べましたが、農水省は『非食用の農作物については、食品としての安全性は求められないものの、適正使用が望ましいことから改正後の同条第2項によって努力義務を課すこととしたところであり、農薬の適正使用のための指導を引き続き実施してまいります。』と答えがありました。たとえ、食べ物に残留しなくても、その不適切な使用によって、大気。水、土壌汚染を通じて、人の健康に影響をあたえることに思い及ばず、記事n00803の事例のように、芝に適用登録のない除草剤を使用して、枯らしても、法的なお咎めはないわけで、適用内容をしっかり守ろうとしている使用者とそうでない使用者との区別がなされないことになります。

★農水省は。住宅地通知は義務化になじまないと
 住宅地に関する第六条(住宅地等における農薬の使用)で、農水省は『住宅地等の定義において「住宅地の他、学校や保育所、病院、公園等が含まれること」を明確化にする』としていました。これは、わたしたちが、長年求めつづけてきた、住宅地での農薬受動被曝による健康被害防止のための条文です。
 わたしたちは住宅地通知で、努力規定となっている、たとえば、農薬使用の削減をめざすこと/散布の事前周知/立入規制ほかを義務化すべきである/登録農薬と同じ成分を含む無登録の除草剤があるが、その使用に際しては、登録農薬と同等な指導がなされるべきである、との意見を述べました。
 しかし、農水省は、『住宅地等での農薬使用において遵守すべき事項は、気象条件や地形、現場の状況等によって異なることから、義務化にはなじまないものと考えています。』とし、さらに、非農耕地専用除草剤の使用者が、周知もせずに使用することには、我関せずという態度を改めませんでした。
 結局、条文は、努力規定が踏襲され、旧第六条の<住宅の用に供する土地及びこれに近接する土地>が、赤字部分のように改定され、『農薬使用者は、住宅、学校、保育所、病院、公園その他の人が居住し、滞在し、又は頻繁に訪れる施設の敷地及びこれらに近接する土地において農薬を使用するときは、農薬が飛散することを防止するために必要な措置を講じるよう努めなければならない。』となりました。

★生活環境動植物パブコメ意見募集中〜生態系への影響評価なし
 ヒトの農薬被害防止を努力規定で、対処しようとする中、さらに改定農薬取締法に関連のパブコメ意見募集の第三弾として、
生活環境動植物に関する意見の募集が、11月16日から12月15日まで、実施中です。
 今後2年以内に実施される予定(2020年4月1日)ですが、従来法にあった水産動植物への影響を評価した登録保留基準を拡大して、生活環境動植物を対象にしようとするものです。
  反農薬東京グループのパブコメ意見はこちら

 環境省の第一次とりまとめ案は、『これまでの水産動植物に係る農薬登録保留基準に代わり、生活環境動植物に係る農薬登録基準を定める必要がある。その際には、評価対象動植物を新たに選定するとともに、毒性試験(試験生物種の選定を含む)、ばく露評価及びリスク評価の方法を検討し、農薬登録申請者等に対する周知期間を勘案して、これらを早期に示す必要がある。』とされています。
 わたしたちは、11月の政令のパブコメ意見で、『「生活環境動植物」の選定においては、試験に供する水産動植物の種をふやし、かつ、個別種への毒性評価だけでなく、食物連鎖を配慮した生態系全体への影響評価を行うべきである』と主張し、以下の [理由]をあげました、
   [理由]1、水生生物の種をふやすだけでなく、両生類、トンボやミツバチなど陸生生物、
       ミミズなどの土壌生物や微生物、鳥類その他への影響評価が必要である。
      2、農薬使用時期に減少した種が、食物連載でその種の上位にある他の生物の生育に
       影響をあたえる点にも留意すべきである。−後略−
 さらに省令のパブコメ意見では、『法改定に伴い、水産動植物を、生活環境動植物と改めるとされているが、具体的な生物種があげられていない。すでに、個体数の減少が問題となっているトンボ、両生類、野生のミツバチその他のポリネーターのほか、土壌微生物やミミズ、野鳥等への影響調査が必要である。生物種の選定においては、国民の意見を聞くべきである。また、個別種だけでなく、食物連鎖を踏まえた生態系全体への影響防止をも責務とすべきである。』と述べました。
、しかし、農水省の回答は『なお、生活環境動植物に係る農薬登録基準を定める際の評価対象動植物の選定やリスク評価の方法等については、中央環境審議会で審議を行っているところであり、現在、現段階における第一次とりまとめ(案)に対するパブリックコメントを実施しているところです。』でした。

★登録保留基準一辺倒には限界がある
【関連記事】鳥類関係:記事t24805記事t26403
  反農薬東京グループの鳥類の農薬リスク評価・管理手法パブコメ意見:暫定マニュアル(案)マニュアル(案)

 環境生物への農薬の影響は、農業生産第一主義の日本では、真剣に考えられることもなく、被害が顕著になってからの事後処理で、適正な使用をすればよいという観点でなされてきました。
生活環境動植物への影響云々を論議する必要性がでてきたのは、大規模の単作、連作で、病害虫の発生状況を科学的に調べずに、農薬を定期的・予防的に使い続けたことにより、生物多様性が妨げられてきた結果です。
 有機農作物の栽培面積比率は0.1%(国の目標は1%)という農業の現状を省みることなく、農薬を使用削減をめざすのに、登録保留基準の強化一辺倒で対処することは、本末転倒です。

 いままでの環境省の取組みで、水産動植物については、生物種を増やしたこと−なかでも、感受性の高いユスリカなどの導入で登録保留基準を策定、鳥類については、上述のマニュアル作成がなされています。
 一方、鳥類以外の陸域生物について、ネオニコチノイド系農薬やフィプロニルなどによる養蜂ミツバチ、野生ハナバチ、トンボ類への影響調査の結果もでてきていますが(記事t30403記事n00401参照)、現実のフィールドでの農薬使用規制にはつながっていません。第一次取りまとめ案では、欧米について、以下の記述があります。
  ヨーロッパでは、非標的生物種、生物多様性、生態系に受け入れ難い影響を生じさせないことを
  目的として、陸域では鳥類、ほ乳類、ハチ類、その他の節足動物、ミミズ、土壌微生物、土壌生物、
  非標的植物、水域では、魚類、無脊椎動物(甲殻類等)、藻類、水草の毒性試験成績を要求し、
  ばく露量との比較によりリスク評価を行っている。
  アメリカでは、農薬の環境への影響評価について、環境への不合理な悪影響を生じさせないことを   目的として、陸域では鳥類、ほ乳類、花粉媒介昆虫(ミツバチ等)、非標的植物、水域では、魚類、   無脊椎動物(甲殻類等)、藻類、水草の毒性試験成績を要求し、ばく露量との比較によりリスク評価を行っている
 そんな中、環境省は、使用されている登録保留基準をいろいろな生物に拡大することに主眼をおき、野生のハチやトンボをターゲットにしたり、長期ばく露による影響評価の導入も必要だとしています。具体的には、藻類、水草等の感受性差に係る知見を収集し、除草剤の水産植物の影響評価試験の実施があげられています。
 個別生物に対して、急性毒性の強い農薬は、使用を認めないことは必要ですが、それだけでは済みません。長期的な繁殖への影響評価が不可欠であることは、いうまでもありません。

★フィールドでの生態系調査を基本とすべし
 種類の多い陸域や土壌生物、なかでも鳥類については、直接被曝だけでなく、食物連鎖の上位にあり、食べ物に残留する農薬の繁殖への影響評価は必要で、取組み案には、以下のようないままでの主張も引用されています。
 ・環境省「農薬生態影響評価検討会」の2002年の第二次中間報告
  今後の検討課題として、『農薬の散布方法等によっては、ミツバチや鳥類など陸域生態系を構成している
  生物に直接影響を与えるおそれのあることや、蓄積のおそれのある農薬については、その影響が食物連鎖を
  通じてより高次の生物の生息にも関与する可能性もあることから、陸域生物等についても、幅広く
  その影響の可能性を検討する必要がある」とされた。

 ・2018年4月に閣議決定された第5次環境基本計画
  環境影響が懸念される問題については、科学的に不確実であることをもって対策を遅らせる
  理由とはせず、科学的知見の充実に努めながら、予防的な対策を講じるという「予防的な取組方法」の
  考え方に基づいて対策を講じていくべきである」とされ、農薬については、「水産動植物以外の
  生物を対象としたリスク評価手法を確立し、農薬登録制度における生態影響評価の改善を図る」
  とされたところである。
、しかし、現実のフィールドでは、複数の農薬−殺虫剤、殺菌剤、除草剤その他−が使用され、昆虫も植物も微生物もそこに生息するすべての生き物が影響をうけることは。はっきりしています。
 ヒトが病害虫とする個別の生き物の生息状況を調べて、農薬を使用することもありますが、多くの場合、予防的に壊滅させようとするのが農薬であり、いったん使用されれば、標的とされる生き物だけでなく、その天敵となる生き物が影響を受け、耐性種が生き残り、新たな生き物の世界が出現することを防ぎえません。

 生活環境動植物への影響評価には、個々の生き物に対してだけでなく、農薬が使用されていない自然環境に、農薬が散布されたら、当該地の生物相はどのように変化するかの調査が必要です。
 低濃度で、個別生物の個体数を減らし、繁殖を抑える毒性の強い農薬を使用しないことは、もちろんですが、水域と陸域生物にわけて、現在の水産動植物のように、理論計算による推定数値との比較で登録保留基準を決めることを最終目標にすること、すなはち、数値第一主義で規制することで、生態系への影響、生物多様性の保持がどこまでできるか疑問です。
 わたしたちは、水生生物、ただの虫、クモ、ミミズ、土壌微生物などを含む生態系全体への農薬影響の評価には、農薬を使わない圃場と使用する圃場の生物相の比較が重要であり、有機農作物の圃場でのいままでの実績、虫見板を用いた水田でのフィールド調査の経験が役立つ、と考えます。
 農薬メーカーには、登録申請しようとする農薬が、自然界でどのような影響を与えるかを判断できるフィールドでの生物調査データ(せめても、ある程度の規模のバイオトープでの試験データ)を提出させ、専門家だけでなく、国民の手で、登録や適用の可否を決めることを求めたいと思います。
 それにしても、農薬使用削減を求めているわたしたちに対し、記事n00801で、明らかにしたように、無人航空機による農薬空中散布をやり易くする方向で、規制緩和が進んでいるのは、どういうことでしょう。地上より高濃度の散布液を自動操縦で、補助員なしで、しかも、散布試験データもとらず、残留性試験もせず、環境中にばら撒かせようとする農水省や内閣府などの動きには、歯止めが必要です。

*** 囲み記事:改定農薬取締法へのパブコメ結果と官報告知内容 *** 

【パブコメ意見関連】
 ・政令関連の意見募集:反農薬東京グループの意見結果概要(2名6件)意見に対する回答新旧対応表
 ・省令関連の意見募集反農薬東京グループの意見結果概要(4名25件意見に対する回答施行規則新旧対応表
  特定試験成績関連の省令遵守省令ほかの新旧対応表
 ・「生活環境動植物に係る農薬登録基準の設定について(第一次とりまとめ)(案)」意見の募集     第一次とりまとめ案参考資料11月16日から12月15日まで実施中     農薬小委員会と農水省農薬分科会:配布資料へのリンク 【官報平成30年11月30日 金曜日 (号外第263号)にある関連告知】   該当する政省令のある官報の最初の頁が表示されます。複数頁にわたる場合は、画面の<次ページ>をクリックしてください。  ・政令   @農薬取締法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令   A農薬取締法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令  ・省令   @農薬取締法の一部を改正する法律の施行に伴う農林水産省関係省令の整備及び経過措置に関する省令   A特定試験成績及びその信頼性の確保のための基準に関する省令   B農薬取締法の一部を改正する法律の施行に伴う農林水産省・環境省関係省令の整備に関する省令   C農薬取締法第十三条の四第二項の規定により地方環境事務所長に委任する権限を定める省令の一部を改正する省令

作成:2018-12-02