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n00903#<投稿> 図書館の書籍消毒機に香料 鶴田由紀(大阪府) #18-12
【関連記事】記事n00605(ケイト・グレンヴィル著、鶴田由紀訳『香りブームに異議あり』紹介)。
【参考サイト】豊中市立図書館:Top Page
TRC図書館流通センター:Top Page、 音と香りの頁と書籍消毒機の頁
書籍消毒機って知ってますか? 全国に3000館ほどある公共図書館のうち、約一割で設置されているそうです。本についたゴミを風で飛ばし、紫外線や抗菌剤で「消毒」する機械です。香料で「消臭」する機種もあります。「本がタバコくさい」といった苦情があるため、設置されているとか(『毎日新聞』2016年10月12日)。電子レンジくらいの大きさから冷蔵庫くらいの大きさまでいろいろあって、利用者が自分で操作するパターンと、図書館スタッフがバックヤードで操作するパターンがあります。
★本がクサい!
さて私の住む大阪府豊中市では、市立図書館の本がべらぼうに香料クサいのです。本そのものがクサいだけじゃなく、本を触った手にも匂いがつきます。人工的な匂いが苦手な私にとっては、とても読めたもんじゃありません。でも、すべての本がクサいわけではなく、何年も誰も借りてなさそうな本(たとえば文化人類学系のハードカバーとか)はクサくないのです。ただ、古い紙の匂いというか、図書館の本特有の匂いがするだけです。
これはぜったい消毒機のせいだろうと思い、11月16日、市のホームページの「市民の声」というコーナーに「本の消毒に香料を使わないで」と要望しました。
12月3日にメールで市の広報課から回答が来ました。「消毒機は使用しているが、香料は使用していない」という回答でした。
そんなはずあるかと思って、いつも利用する最寄の図書館(豊中市には図書館が9館あります)に電話しました。職員に、「使用している消毒機の商品名と型番を教えてほしい」と言ったところ、商品名は「ブックシャワー」だと教えてもらえましたが、「型番はわからない」と言われました。
インターネットでブックシャワーの仕様書を見つけました。そこには香料を使うと確かに書いてあります。ただ、その製品のすべての機種が香料を使うのかどうかまではわかりませんでした。どこの業者から買ったかわかれば型番がわかるだろうと思い、再度図書館に電話して納入業者を尋ねました。すると先の職員が、私の質問には答えずに「香料は使っていませんから」と言ったのです。私が「納入業者は教えてもらえないってことですか?(怒)」と言うと、「時間がかかるが良いか」とか言ってようやく調べてくれたのですが、結局は「業者はわからない、型番は〇〇〇〇だ」という回答でした。
★香料だった!
適当なことばっかり言われてすっかり頭にきていたので、次はどうしてくれようと作戦を練っていると、翌日、図書館の別の職員から電話がありました。
「消毒機に香料を使っていました。申し訳ありませんでした」。その職員は、「豊中市立図書館9館中4館に消毒機が設置されていて、そのうちの3館は装填されていた香料を使い切ってしまった。今はもう香料を使っていない。ただ運悪く(なにが運悪くじゃ)残りの1館(電話の主の勤め先)の消毒機だけ香料が入っていた」と説明しました。「さっそく、消毒機から香料の容器をはずしました」と平謝り。この人に怒ってもしょうがないので、「ご対応ありがとうございます」と電話を切りました。
★消毒機のメーカーは・・・
【参考サイト】IVS(アイヴィエス)社;Top Page、ブックシャワーの頁と機能とスペック
そういうわけで上記の件は一応の落着を見たのですが、インターネットで調べた「ブックシャワー」についてもう少しお話しますと、韓国のIVSという会社が製造元でした。会社のHPを見ると設立は2009年で、ブックシャワーだけ作っている会社のようです。HPは2010年以降、更新されていません。
製品のパンフレットには「新型インフルエンザにも効果がある」などと書かれていますが、HP上に掲載されている試験結果は、大腸菌と黄色ブドウ球菌だけです。試験もしないで、効果があるかどうかどうしてわかるんでしょう?
しかも紫外線でタバコ臭はとれないんだそうで(そりゃそうでしょう)、結局は香料でタバコ臭をごまかすしかないみたいです。まったくお粗末な話です。
この会社のメールフォームを使って香料成分について問い合わせてみました。でも、待てど暮らせど返事はなし。ブックシャワーを扱ったことのある事務機器販売会社、内田洋行によれば、「この商品はすでに製造中止になっている」とのこと。もしかすると、この会社はすでに存在しないのかもしれません。
★本を消毒する必要って???
【関連記事】記事t19207(週刊朝日等表紙の消毒加工問題)
そもそも、図書館の本を「消毒」する必要があるんでしょうか? 図書館の本が細菌やウイルスに汚染されているんじゃないかという研究は20世紀初頭からあって、1911年には、結核菌、天然痘ウイルス、赤痢菌、チフス菌などなどがくっついているというショッキングなことが書かれた論文が発表されたりしています。
まず図書館の本を介してインフルエンザに感染することがありうるのか、厚生労働省感染症相談窓口に電話で聞いてみました。「インフルエンザウイルスはヒトなど生き物の体の中で生息・繁殖し、生き物から離れると間もなく死滅する。だから物を介して感染することはない」と明快なお答えでした。
細菌はどうでしょう? 同窓口の回答は、「本を介して感染したという症例報告はないと思うが、詳しくはこちらではわからない」というものでした。
ネットで調べているうちに、『ウォール・ストリート・ジャーナル』の面白い記事を見つけました。タイトルは「図書館の本にムシやバイ菌はいるのか?」*。感染症が専門のシカゴ大学医学部マイケル・Z・デイヴィッド助教授の次のようなコメントが紹介されています。「本についた菌やウイルスで病気になった人の話など聞いたことがない」。デイヴィッドさんによれば、感染症になるためには、かなりまとまった数の菌やウイルスが必要なんだそうです。仮に図書館の本に菌やウイルスが多少くっついていたとしても、感染症の心配をするほどの数ではないとのことです。デイヴィッドさんは「お金の方がよっぽど汚い」と言っています。そして「心配なら、本を読む前と読んだ後、手を洗って」とも。ごもっともです。
冒頭にも書きましたが消毒機によっては殺菌剤を使うものもあります。化学物質に反応する人の中には、香料だけでなく殺菌剤に反応する人もいるでしょう。図書館の本は小さい子も触るのだし、薬剤を吹きつけるのは感心できませんね。
*Heidi Mitchell, "Are There Critters and Germs in My Library Books?", Wall Street Journal, Nov. 16, 2015.
★文科省も日本図書館協会も知らん顔
文部科学省と日本図書館協会に、書籍消毒機がどのくらい普及しているか問い合わせしてみました。どちらも「設置館数は調査していません」との回答でした。
文科省(総合教育政策局地域学習推進課)に「消毒機についてどういう認識ですか?」と聞いたら、「(設置について)特に指導はしていない。設置者がサービスの一環でやっていることだと思っている」と言っていました。文科省は、図書館の本の消毒機のことなんて、考えたこともないようでした。
豊中市立図書館はとりあえず香料使用をやめてくれましたが、本についた匂いはそう簡単には消えません。菌やウイルスを怖い怖いとやみくもに騒ぐより、合成化学物質の恐ろしさこそ、もっと知ってほしいですね。
2018-12-30