改定農薬取締法関係にもどる

n01801#農薬再評価制度が動き出す〜14農薬の試験成績提出期限告示したが問題は山積み#19-09
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【参考サイト】農水省:農薬取締法施行令施行規則
           再評価の頁にある再評価に係る優先度の規準グループ分け

 昨年、12月から施行された改定農薬取締法の目玉のひとつは、登録農薬の再評価制度の導入でした。この制度は、同省の資料「再評価制度について」にあるように、最新の科学的根拠に照らして、農薬の安全性等の再評価を行うことが目的とされ、いままでの三年ごとの再登録制度にかわるものです。

   農水省は、『再評価の際に、原体規格の設定を行うとともに、提出されたデータを基に最新の評価の考え方により、毒性指標、残留基準値等を確認。必要に応じて、登録の変更、取消し』につなげるとしています。  既存登録農薬については 再評価実施前に、対象となる有効成分、提出すべき資料、提出期限を告示することになっており、2021年度から優先度に応じて順次、再評価が実施されることになります。
 具体的には、国民の健康や環境に対する影響の大きさを考慮し、国内での使用量が多い農薬から優先的に実施され、その優先度は、4つのランクにわけて、公表されています。  優先度の規準優先度のグループ分けを参考にしてください。
  農薬(有効成分名)ごとの具体的な再評価の実施時期については、再評価実施の2年程度前に、順次公表するとされており、今回の農水省告示第804号はその第一回目で、14の農薬成分が提出期限付きで、あげられています(告示本文は下段参照)。これらは、いずれも優先度Aにある農薬に含まれるものですが、どのような理由で、二つの期限にわけられたかは、わかりません。

★優先度Aの14農薬〜ネオニコチノイド類やグリホサート系が対象に
 我が国で多く使われている126農薬が、優先度Aに区分されていますが、その中で、表のような14成分が対象となりました。
、 優先度Aの基準は、@殺虫剤の場合、生産量が年あたり概ね 20〜30トン以上のもの
  A除草剤、殺菌剤の場合、生産量が年あたり概ね50トン 以上のもの
 となっています。生産量の注には『農薬要覧における、原体の国内出荷量(H23〜27農薬年度の平均)が。原則として、国内生産量+輸入量として』とありますが、要覧の国内生産量には、輸出用も含まれる上、輸入は原体と製剤があるため、成分の算出が簡単にできません。表には、環境省のデータベースにある出荷量を記載しています。また、製剤数は、2019年9月現在のもので、主な商品名と主な申請者名を例示しました。
 登録日は、当該農薬を含む製剤が最初に登録された日時を示してあり、現在もその日に登録された製剤が継続製造されているとは限りません。
 提出期限については、告示にある成分ごとの期日を@とAの二つにわけて、記載しました。

  表 告示された再評価対象農薬一覧  表中赤字はEUで登録なし又は失効中    * : @は2021/10/1〜12/28 、Aは2022/1/4〜3/3

No. 農薬名            用途    製剤数  主な商品名          主な申請者           登録日    2017年出荷量  提出期限*

1   アセタミプリド    殺虫剤    23    モスピラン/マツグリーン  日本曹達/住友化学園芸      1995/11/28    50.27トン   A
2   イソチアニル      殺菌剤    47    スタウト/ルーチン      住友化学/クミアイ化学
                          バイエルクロップサイエンス/北興化学   2010/5/19     64.98       A
3   イミダクロプリド  殺虫剤    63    アドマイヤー/ガウチョ    バイエルクロップサイエンス 1992/11/4     64.32       @
4   グリホサート
   アンモニウム塩  除草剤     4    ラウンドアップハイロード 日産化学                   1990/11/07    14.12       A
5   同イソプロピルアミン塩 除草剤 96  ラウンドアップ           日産化学/ニューファム      1980/9/22   2402.12       A
6   同カリウム塩     除草剤    11    ラウンドアップKロード   日産化学/                  2003/12/3   3248.35       A
                                 ラウンドアップマックスロード  シンジェンタ ジャパン
7   同ナトリウム塩   除草剤     3    フレピオン               三井化学アグロ             1990/11/7      2.7        A
8   クロチアニジン    殺虫剤    91    ダントツ                 住友化学                   2001/12/20    75.91       A
9   D−D 保留中     殺虫剤    10    D−D/ソイリーン/テロン ダウケミカル/鹿島ケミカル/
                                 バイエルクロップサイエンス/アグロカネショウ/サンケイ化学 1950/3/10   8220.6        A
10  ジノテフラン     殺虫剤   120    スタークル               三井化学アグロ             2002/4/24    156.84       A
11  チアメトキサム    殺虫剤    29    アクタラ                 シンジェンタ ジャパン     2000/8/15     48.36       @
12  チオベンカルブ   除草剤    17    サターン/クリアターン    クミアイ化学               1969/9/25    100.27       @
13  チフルザミド     殺菌剤    18    グレータム/フルサポート  ダウ・アグロサイエンス日本/
                                                               日産化学                   1997/12/22    26.83       @
14  ブタクロール     除草剤    19    マーシェット/クラール    日産化学/日本モンサント    1973/5/15    133.06       @

★どんな試験の提出が求められているか 不明のまま
 農水省は、登録申請者に、登録後、明らかになった人や環境・生態系への影響、残留農薬の実態などの知見を報告させ、追加すべき試験を指示することになりますが、リストアップされた農薬について、それぞれ、どのような試験を求め、どのように評価するかはよくわかりません。IRACが発がん性ランクを2Aにしたグリホサート系の4つの塩が再評価の対象となり、ミツバチへの影響を理由にEUほかで使用規制が強化されたネオニコチノイド系4種も対象になっていることは、国民の声や世界の動きに影響された結果でしょうか。ただ、確実に言えることは、このままでは、グリホサートもネオニコチノイドも国内での使用に規制がかるのは、2022年以後になるということです。
 また、再評価の対象になった農薬で、人や環境への影響が懸念されているものは、当該成分を含む新規製剤の登録や新たな適用拡大が追加されれば、汚染がさらに広がる恐れもあります。そのような事態が起こらないよう、農水省がどんな対応策を考えているかも不明です。
 そもそも優先度Aについては、農薬毒性や環境への影響をどのように評価するかも不明確なままです。EUでは、神経毒性のある多くの有機リン剤や刺激性の毒物クロルピクリン、人の中毒死が多いパラコートなどは再評価により、すでに、登録失効しています(記事t31601参照)。しかし、日本では、代替がないとの理由で、有機リン剤やクロルピリンが使用し続けられています。これらも早急に再評価し、使用規制しないと、世界の趨勢に遅れることは、必定です。
 今回対象とされた14農薬について、表中に赤字で示したように、EUで登録がなかったり、失効しているものがあることを忘れてはなりません。どのような試験の見直しや追加が求められているかを明らかにさせ、試験内容について、公開し、国民の意見もとりいれる体制づくりの構築も必要です。
 食品安全委員会が設定するADIやARfD、厚労省が設定する残留農薬基準の見直し、なかでも、ADIの80%以下なら、安全と評価する、ADI数値至上主義をあらためないかぎり、再評価制度は、安心・安全につながらないと思われます。


  *** 農水省告示第804号(2019年9月9日)***

  農薬取締法 (昭和二十三年法律第八十二号)第八条第一項(同法第三十四条第六項に
  おいて準用する場合を含む。)の規定に基づき、再評価を受けるべき農薬の範囲を指定
  したので、同法第八条第一項及び第三項(これらの規定を同法第三十四条第六項において
  準用する場合を含む。)の規定に基づき、当該農薬の範囲並びに再評価を受けるべき者が
  提出すべき資料及びその提出期限を次のように告示する。
         令和元年九月九日     農林水産大臣  吉川 貴盛
 一 農薬の範囲
   農薬取締法第三条第一項又は第三十四条第一項の登録を受けている農薬のうち、別表に
   掲げる有効成分を含む農薬
 二 再評価を受けるべき者が提出すべき資料
   農薬取締法施行規則及び特定試験成績及びその信頼性の確保のための基準に関する
   省令の一部を改正する省令(令和元年農林水産省令第十一号)第一条*の規定による
   改正後の農薬取締法施行規則(昭和二十六年農林省令第二十一号)第二条**第一項各号
   (第三号及び第四号を除く。)に掲げる資料。
    ただし、農薬の使用方法その他の事項からみて当該資料の一部の提出を必要としない
   合理的理由がある場合においては、当該資料を提出することを要しない。
 三 提出期限
  1 別表第三号、第八号及び第十一号から第十四号までに掲げる有効成分を含む農薬
   令和三年十月一日から令和三年十二月二十八日まで
  2 別表第一号、第二号、第四号から第七号まで、第九号及び第十号に掲げる有効成分を
   含む農薬 令和四年一月四日から令和四年三月三十一日まで

(注*)農薬取締法施行規則及び特定試験成績及びその信頼性の確保のための基準に関する省令の
  一部を改正する省令(令和元年農林水産省令第十一号)第一条の規定
 <第一条農薬取締法施行規則(昭和二十六年農林省令第二十一号)の一部を次のように改正する。
  次の表により、改正前欄に掲げる規定の傍線を付した部分(以下「傍線部分」とい
 う。)でこれに対応する改正後欄に掲げる規定の傍線部分があるものは、これを当該
 傍線部分のように改め、改正後欄に掲げる規定の傍線部分がないものは、これを加え、
 改正前欄に掲げる規定の傍線部分でこれに対応する改正後欄に掲げる規定の傍線部分
 がないものは、これを削る

(注**)農薬取締法施行規則(昭和二十六年農林省令第二十一号)第二条第一項各号(第三号及び
 第四号を除く。)に掲げる資料
 <第二条法第三条第二項の農林水産省令で定める資料は、次に掲げる資料とする。た
 だし、当該申請に係る農薬の使用方法その他の事項からみて当該資料の一部の提出を
 必要としない合理的理由がある場合においては、当該資料を提出することを要しない。

 一〜八(略)
 九 生活環境動植物及び家畜に対する影響に関する試験成績
 十・十一(略)

  改定前の各号
   一 農薬及び農薬原体の組成に関する試験成績
   二 安定性、分解性その他の物理的化学的性状に関する試験成績
   三 適用病害虫又は適用農作物等に対する薬効に関する試験成績
   四 農作物等に対する薬害に関する試験成績
   五 人に対する影響に関する次に掲げる試験成績
    イ 動物の体内での代謝に関する試験成績
    ロ 急性毒性、短期毒性、長期毒性、遺伝毒性、発がん性、生殖毒性、神経毒性
     その他の毒性に関する試験成績
   六 植物の体内での代謝及び農作物等への残留に関する試験成績
   七 食肉、鶏卵その他の畜産物を生産する家畜の体内での代謝及び畜産物への残留
     に関する試験成績
   八 環境中における動態及び土壌への残留に関する試験成績
   九 水産動植物及び家畜に対する影響に関する試験成績
   十 第一号及び第六号から第八号までに掲げる試験成績の試験に用いられた試料の
    分析法に関する試験成績
   十一 その他農林水産大臣が必要と認める資料

作成:2019-09-30