松枯れ・空中散布にもどる
n02102#農水省調査:漸増する農薬散布の無人航空機事故〜2018年件数は前年3件増の68件#19-12
【関連記事】記事n00302(2017年度事故報告)、記事n01601、記事n01701、記事n02001(国土交通省の2019年事故報告)
【参考サイト】農水省:無人航空機(無人ヘリコプター等)による農薬等の空中散布に関する情報にある
農薬の空中散布に係る安全ガイドライン(無人ヘリコプター、マルチローター)
無人航空機による農薬等の空中散布における安全対策についてにある
令和元年度の無人航空機利用における安全対策の徹底についてと2018年度無人航空機空散事故概要一覧
国土交通省:無人航空機の飛行ルールの頁にある2018年度無人航空機に係る事故報告、2019年度報告
前号で、国土交通省による農薬空中散布の無人航空機事故事例を報告しましたが、11月27日、農水省植物防疫課は、2018年度の無人航空機による農薬空中散布事故の概要を公表しました。同課の示した発生事故の一覧には、発生年月日と大まかな事故状況、被害状況、事故原因が開示されているだけで、私たちが開示要求している発生場所や使用状況は、相変わらず、伏せられたままでした。
しかも、この一覧は、2月25日の「農薬等の空中散布に係る技術検討会」の資料です。当グループは、本年度の農薬危害防止運動月間前の3月末、農水省に「2018 年度の農薬空中散布無人航空機の事故例を教えてください。無人ヘリコプターとドローンの区別もお願いします。」と求めましたが、その回答は、『事故事例については、例年どおり、年度分を取りまとめ、事故の再発防止及び未然防止のため、事故防止のポイントとしてその要点を整理した上で、関係者に通知を発出するとともに、下記HP で公表することとしています。』でした。ところが、同省は、毎年、6月ごろに発出してきた通知「無人航空機利用における安全対策の徹底について」も出さず、結局、11月末のHPでの公表となったのです。しかも、7月末に、それまでの、無人航空機空中散布についての指導指針を廃止し、飛行ガイドラインに変更してしまいました(記事n01601、記事n01701参照)。こんなことでは、空中散布事故が減らないのも道理です。(
★農薬空中散布事故〜ドローン型は11件、人身事故も
事故の発生状況等をを表1、2、3に示しました。
件数は、2017年より3件増え、68件(無人ヘリコプター57件、マルヂローター=ドローン型11件)でした。直近の3年間の事故件数は年間60件台で、漸増傾向にあります。
【事故発生状況】水稲への散布に伴う空中散布事故が、91%の62件で、8月の発生が三分の二を占めており、うち、8件がドローンによるものです。
表1 2018年度の月別空中散布事故数
()はドローンの内数
発生月 事故件数 散布対象別件数
総数 水稲 麦類 大豆類
5 4(2) 1(1) 3(1)
6 3(2) 1(1) 1 1(1)
7 18(1) 18(1)
8 40(4) 40(4)
9 3(2) 2(1) 1(1)
合計 68(11) 62(8) 4(1) 2(2)
【被害状況】2018年は、68件中、90%が物損被害で、電線や電話線、引き込み線等への接触による事故が46件を占め、倉庫や壁、破風板、ビニルハウスなど建物への接触が6件、その他の物損としては、重複事例を含め、立ち木1や車両3(停車中にバスや走行中の車にあった例)、墓石1、石垣1、電柱3、道路標識1がありました。これらの事故で機体損傷が54件発生しています。
人の被害では、死亡事故はなく、人身事故が5月に1件ありましたが、ドローンの操縦者が右膝4カ所裂傷を負ったものです。
表2 年度別事故被害状況
事故内容 2018年 2017年 2016年
人身事故 1 0 0
物損事故 架線等接触 46 57 52
建物に接触 6 1 2
その他物損 9 6 2
農薬事故(飛散等) 6 1 6
合計 68 65 62
【農薬飛散事故】下記のような6件の飛散事故があり、いずれも事前確認が不十分であったのが原因とされています。作物だけでなく、近隣住民が被曝した事例もありました。
・6月4日 ドローンによる大豆散布で、周辺水稲・葉たばこの変色等
・7月10日 無人ヘリによる水稲散布で、周辺で栽培しているサンショウで残留農薬基準値超過
・7月27日 無人ヘリによる水稲散布で、近隣のインゲンマメにドリフト被害
・7月30日 無人ヘリによる水稲散布で、農薬飛散
・8月20日 無人ヘリによる水稲散布で、農薬飛散
・9月6日 ドローンによる黒大豆散布で、近隣住民に農薬が付着
【ドローン事故】ドローンによる空中散布事故は11件ありました。無人ヘリよりも高度が低いものの、人や作物へのドリフト被害も2件ありました。操縦ミスやオペレーターとナビゲーターの連携ミス、事前確認不足などに起因する事故が殆どで、ドローンの自動飛行による散布はすすんでおらず、無人ヘリコプターと同様、オペレータの目視と指先に頼っていることがわかります。
★事故原因〜ままならぬ安全対策
事故原因について、農水省は下記の6項目に分類しています。直近3年間の原因別件数(重複する原因を含む)の推移は、表2のようです。
表3 事故原因別件数の推移(重複原因あり)
事故原因 2018年 2017年 2016年
@事前の確認不足による障害物の見落とし 46 28 23
Aオペレーターとナビゲーターの連携不足 36 31 42
Bオペレーターの操作ミス、目測誤り 17 16 39
C飛行の高度、方向等が不適切 24 18 20
Dその他(通信機器の故障等) 6 5 7
農水省は、@については、『事前確認不足を主要因とする事故は、年々増加していることから特に留意する必要がある。』『オペレーター及びナビゲーターが、空中散布等の実施前に共同で実地確認を実施し、危険箇所等の情報を確実に共有すべきだ。』とし、具体的には、ほ場の上空に架線が入り込んでいるなど、空中散布等の実施が困難な場合は、空中散布等を実施しないことをあげています。
Aについては、『ナビゲーターの指示がない、又は遅れるなど、お互いの意思疎通が的確に行われていないことにより、建物等への接触事故(2件)や、走行車両及び電柱への接触といった危険度の高い重大な物損事故(その他物損:2件)が多く、そのリスクの大きさから特に留意する必要がある。』と指摘し、作業への慣れによる慢心や「見えているだろう」という思い込みを捨て、基本に立ち戻り、互いの役割りを確実に行うとともに、綿密な相互コミュニケーションを常に心掛けることと注意を促しています。
無人ヘリコプター事故についての、上記のような対策は、いままでも指導されているのに、事故が減らないことは明確な事実であり、行政指導がうまくいっていないことを示しています。
さらに、ドローン型無人航空機の事故が増えたことについても、次の(ア)から(ウ)の点に留意して、空中散布等を実施する必要があるとしているだけです。
(ア)事前に取扱説明書やマニュアルを熟読し、機体の性能を十分に理解すること。
(イ)必要に応じて、操縦感覚を取り戻すため、人の往来や物件が存在しないほ場で、
航空法に規定された飛行の方法に従ってテストフライトを行う。
(ウ)山間部では GPS の受信不良が起こりやすいことに留意すること。
また、GPS 制御が働かない場合に対応できるよう、技術向上に努めること。
政府は無人航空機による上空からの主要機関や原発/基地などの施設の撮影飛行をテロ犯罪対策と称して、告示等で規制を強化しています。2020オリンピック・パラリンピックの来年は、事前合宿・キャンプ地、聖火リレーコース、本大会開催地などで、飛行の監視を強化することは請け合いで、農薬散布時期と重なる地域では、法令順守が厳しく求められるでしょう。
しかし、空散については、生産者の農薬散布を効率的に行うことに主眼が置かれ、農薬の飛散事故の防止については旧態依然としています。人的ミスがあっても、接触・墜落や農薬飛散事故がおこらないようにするため、無人ヘリコプターやドローンの技術的な改善を義務付けるという姿勢もみられません。
農水省の対策では、今後、ドローンの利用が増えると、事故多発することは必須です。私たちは、住宅地周辺での空中散布禁止、緩衝地帯の設置、事故機体や事故を起こしたオペレーターへのペナルティーの強化により、空中散布事故の減少につなげていくことを追求します。
作成:2019-12-30