松枯れ・空中散布にもどる

n02301#増える無人航空機用空散農薬&ドローン型は散布計画の届出不要〜当事者まかせで散布周知出来るのか#20-02
【関連記事】記事n01501記事n01601記事n01701
【参考サイト】農水省;農薬等の空中散布の頁=病害虫防除に関する情報にあり)
         ・無人航空機による農薬等の空中散布に関する情報及び農薬等の空中散布における安全対策について(各年度の事故情報あり)
            空中散布ガイドライン無人ヘリコプター無人マルチローター
         国土交通省:無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール許可・承認手続きについて
【追加情報】経済産業省のパブコメ意見募集 (2020/03/04)
   「水素燃料電池ドローンにおける高圧ガスの安全のためのガイドライン(案)」に対する意見募集について
    募集期間;3/04-4/02。ガイドライン案資料
    『農薬空中散布については、大容量・長時間の農薬散布が可能に/予備バッテリーの携行や
     交換が不要となり利便性向上が期待』とされている。


★無人ヘリコプターとドローン型の違いについて
【参考サイト】農水省:ドローンの農業利用の拡大に向けた規制改革に係る関係通知の整備に関する意見・情報の募集について(2019/02/10)
         反農薬東京グループの意見。農水省:募集結果(概要農水省の考え方

 無人航空機による農薬空中散布については、農水省が昨年7月末に、それまでの「空中散布等における無人航空機利用技術指導指針」を廃止、無人ヘリコプターと無人マルチローター(以下、ドローンという)に分けた二つの「農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」を同時に発出・施行しました。両ガイドラインの大きな相違点は、記事n01701の別表に記したとおりで、実施主体が策定した散布計画書散布実績報告書を、無人ヘリコプター場合は都道府県農薬指導部局に届け出なければならないのに対し、ドローン型の場合は、その必要がないことです。
 これは、重要なことで、都道府県担当部署に提出された計画や実績は、農水省植物防疫課にも挙げられます。さらに、都道府県では、計画が安全かつ適正に実施されるよう指導をし、養蜂を担当する畜産部署と連携をとって、実施主体と養蜂家の間での空中散布情報の共有化がはかられます。
 一方、ドローンでの空中散布は、地上散布と同じとみなされ、届出の必要はなく、行政機関が、実施主体と養蜂家の間の散布情報の共有化をとりもつことは業務とされません。そのため、実施主体が自主的に、周辺公共施設や住民、養蜂家等に散布計画を周知することになります。詳しくは、下記の囲み記事に、国土交通省の<空中散布を目的とした申請について適用飛行マニュアル>と農水省の<安全ガイドライン>にある「空中散布の実施に関する情報提供」と「実施時に留意する事項」の項について、実施主体が、無人航空機の機種に関係なく、遵守せねばならない、おもな事項をあげておきますので、参考にしてください。
 果たして、こんなことが遵守されるかは、いままでも、「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」通知「住宅地等における農薬使用について」の努力規定が遵守されていなかったことをみると、はなはだ心もとない気がします。
 無人航空機による農薬空散の操縦者や補助者ら散布実務者には、障害物との接触事故防止や飛行速度・高度・間隔や風向・風速を配慮した適正な風下散布で、域外への農薬飛散防止を法的に義務づけるべきですし、実施主体については、周辺住民や環境保護団体の意見を聞き、ドローンについても実施計画の都道府県と農水省への提出及び周辺への散布周知を義務付けねばなりません。
 このような意見は、昨年のドローンに関するパブコメ意見募集でも述べましたが、示された農水省の考え方は以下のようになっていました。
  【意見】ドローンに関しては、(都道府県担当部署に)、散布計画及び散布実績の報告を求める記述が
    見あたらないとの指摘には、
   『規制改革の議論を踏まえ、登録認定等機関による代行申請が無くなり、実務上必要ではなくなった
    こと等から、新ガイドラインには記載しませんが、地上防除同様に、散布区域周辺への情報提供を
    行うよう指導することとしております。』

  【意見】農薬飛散防止対策として有効な機能や装置(自動操縦ドローンに装備される飛散防止システム等)
    について、無人ヘリコプターや手動操縦ドローンを含め、搭載することを義務づけるべきとの主張には、
   『特定の技術を備えることなどを規定することは、農薬の安全使用を推進する観点であっても、
    機体の技術水準を固定化してしまうことに繋がることから、ドローン開発を阻害する要因となるため、
    適当ではないと考えます。』
★安易すぎる無人航空機による空中散布農薬の登録
 もうひとつの問題点は、農水省がドローン散布を拡大するため。登録農薬を増やそうと躍起になっていることです。
 まず、どのような方針で農薬が無人航空機空中散布に登録されるかをみてみましょう。

 農水省のHPにあるドローンで使用可能な農薬の頁では、『登録の際には。使用できる「作物名」や「使用時期」、「使用量」、「使用方法」などの「使用基準」を決めており、農薬が登録されていても使用基準以外の方法で使用してはいけません。』とし、『ドローンは積載重量が少なく、薬剤タンクの容量が小さいため、高濃度・少量での散布が可能な”ドローンに適した農薬”数の拡大が求められています。』と記載されています。
 さらに、”ドローンに適した農薬”は「使用方法」が、、『無人航空機による散布』『無人ヘリコプターによる散布』『無人航空機による滴下』又は『無人ヘリコプターによる滴下』*1とされている農薬です。なお、使用方法において、散布機器が指定されていない『散布』、『全面土壌散布』などとなっている農薬についても、その使用方法を始め、希釈倍率、使用量等を遵守できる範囲であれば、ドローンで使用可能*2です。』とあります。
 すでに、農水省は2017年12月の「農薬の使用方法における「無人航空機」の取扱いについて」(29消安第4974号)で、使用方法に関する表示「散布」の定義を、地上散布だけでなく、「無人航空機」を含めること。「無人ヘリコプター」の定義を「無人航空機」を意味することを通知しました。この時、反農薬東京グループは緊急要望をおこない、反対の意見を述べました(記事t31801)。
 その後、内閣府が、2018年11月の規制改革推進に関する第4次答申にドローンの活用を阻む規制の見直しを提案しました(この見直しは第五次答申(2019/06/06)でも継続しています)。農薬取締法関連事項としては、
 ・農薬取締法上、いかなる散布機器を用いるかは農薬を使用する者が遵守すべき基準に含まれていない。
   農林水産省は「散布」、「雑草茎葉散布」、「湛水散布」、「全面土壌散布」等の使用態様に
   おいてドローンを使うか否かは、農薬使用者の自律的な判断に任せる旨、解釈を明確化し、
   関係者に通知する。
 ・ 既存の(地上)散布用農薬について希釈倍数の見直しを行う変更登録申請の場合、FAMICの検査において
  作物残留試験を不要とし、薬効・薬害に関する試験のみとすることにより、検査コストの大幅な削減を図る。
 と指摘しました、これを踏まえて、農水省は、2019年2月22日付の通知「農薬の使用方法の表示及び提出を要する試験の取扱いについて」(30消安第5541号)を発出し 『単位面積当たりの有効成分投下量が元の登録の範囲内であれば、当該申請時に無人航空機による圃場での作物残留試験の追加提出を要しない。』としたほか、試験事例数を示した条項がを削除されました(記事n01104)。
 登録に必要な試験成績を簡略化しなくても、上記下線の<*2>については、すでに法改定がなされ、実施可能ですから、何の問題ありません。しかし、それでは、下線<*1>にある散布の効率化はできません。
 上述の内閣府の意向の下、簡素化策で試験のための費用を減らし、短期間で、空中散布用の登録農薬数を増やそうする農水省は、農薬空中散布の機種による性能の違い−無人ヘリコプター(総重量100kg級で、農薬液量25L、飛行高度は作物上3−4m以下)とドローン(総重量25kg、農薬液量5-10L、飛行高度2m以下)−の科学的・技術的検討内容を示さず、農薬成分による人の健康や生活・自然環境への影響、残留農薬量や域外飛散などの抑制を二の次にして、人手による地上散布より高濃度・少量の農薬液を、単時間に広範囲に散布できるという効率のみを強調して、無人航空機用登録農薬をどんどんふやしています。

★無人航空機による粒剤散布や高濃度散布可能な登録農薬は540製剤(延べ数4583)に
 無人航空機の登録農薬数がどうなっているのかを調べてみました。
【調査方法】FAMIC(農林水産消費安全技術センター)にある農薬登録情報提供システムの詳細検索で、使用方法”無人”で検索しました。
 その結果を、表1のように、用途別、剤型別、作物別に分けて、登録製剤数と延べ製剤数で示しました。無人空中散布可能な製剤数は540種ですが、異なる登録申請者の同じ農薬製剤を別個に重複カウントしています。また、延べ数はすっと多く4583剤となっていますが、これは、一つの製剤が、複数の作物の複数の病害虫や草に適用され、重複カウントしているからです(登録製剤1件で平均8.5の適用あり)。

【用途別及び作物別】用途別で、登録製剤数が一番多いのは、除草剤の284種(延べ数3801)で、稲の水田除草が大部分で、多種類の草に適用されるため、延べ数も圧倒的に多いです。
 ついで、殺虫剤109種(延べ数432)で、豆類用57種(殆どがダイズでハスモンヨトウ、マメシンクイガ、カメムシほか)、稲用56種(ニカメイチュウ、カメムシほか)が目立ちます。野菜類に適用できるのは19種(エダマメ、キャベツ、ショウガ、ダイコン、タマネギ、ラッキョの害虫)、果樹類では13種(柑橘、ミカン類の害虫)に限られています。
 殺菌剤95種(延べ数178)では、稲用が59種と多く、イモ類と野菜類がそれぞれ19種づづあります。前者では、ジャガイモ、ヤマトイモ、後者では、アスパラガス、カボチャ、タマネギへの適用剤があります。
 殺虫殺菌剤43種(延べ数43)では、稲に43種、ダイズに3種の製剤が適用されます。

【剤型別】水和剤は、水で希釈して散布する農薬で、一番多く247種あります。そのほか散布液のかたちで使う農薬が乳剤39種、液剤12種、マイクロカプセル剤9種などがあります。粒剤は198種で、その多くは、稲の除草剤として、水田で使用されています。農薬の種類名に剤型記載がない製剤を表中*印をつけ「その他の剤」としていますが、殆どが稲用の除草剤(粒径5-8mm)です。

【複合剤について】登録農薬の63%の340種(延べ数3891)は複合剤でした。内訳は、殺虫剤:8製剤(延べ数31)、殺菌剤:26製剤(延べ数45)、殺虫殺菌剤:43製剤(延べ数162)、除草剤:263製剤(延べ数3653)で、水田用除草剤が目立ちました。殺虫剤と除草剤の農薬成分別の登録数は次節以降に示します。
 表1 無人航空機による散布適用のある登録農薬数
(a)用途別             (c)剤型別            

 用途     登録    延べ     剤型       登録   延べ 
        製剤数   製剤数         製剤数 製剤数  
 殺虫剤      109      432      水和剤     247     1658 
 殺菌剤       95      178      粒剤      198     2297 
 殺虫殺菌剤     43      162      粉粒剤       4       22 
 除草剤      284     3801      液剤       12       31 
 植物成長調整剤   7      8      乳剤       39      236
 農薬肥料         2        2      マイクロ
  合計         540     4583       カプセル剤     9       16
                    農薬肥料       2        2
                    水溶剤       3        6
                    その他の剤*    26      315
                    合計         540     4583
(b)作物別-用途別
 作物名      製剤数  殺虫剤 殺菌剤  殺虫   除草剤  植物    農薬  延べ
                                     殺菌剤          調整剤  肥料   製剤数 
 稲          445    56      59       43       281      4   2      4166
 麦         26       13    13     0        0     0      0     64 
 はとむぎ      1        0       1        0         0       0     0        1
 とうもろこし  8     7       1        0         0     0     0        8
 てんさい     7    4    3    0        0     0   0      7
 さとうきび      3    3       0       0        0     0   0      5 
 豆類        67       57       7       3        0       0      0     156 
 いも類       24       12   12    0        0     0      0      30 
 野菜類        33    19      13       0        1       0      0      48 
 果樹類        17       13    4    0        0     0      0      62 
 樹木類       14       12    0    0        2     0      0     32 
 芝        3     0       0        0         0       3   0        3
 その他      1        0       0        0         1       0      0        1
  合 計        649    109    96    43      284     7   2     4583 
★殺虫剤成分ではMEP(フェニトロチオン、スミチオン)が多い
 殺虫剤の登録製剤に含まれる農薬の成分別内訳をカウントしました。複合剤は含有成分ごとに分けて、重複カウントしており、製剤数及び延べ数は実登録数とはちがいます。
 有機リン剤MEPを含む単剤と複合剤が合わせて22製剤(延べ数177)と一番多く、ついで、ピレスロイト系エトフェンプロックス、ネオニコチノイド系ノジノテフランでした。総じて、イネのカメムシなどに適用される製剤(MEP、ジノテフラン、エチプロール、エトフェンプロックス、クロチアニジンなど含有)が多いです。これらの農薬は、大気汚染だけでなく、水田経由で河川水らの汚染原因ともなります。
 林業用では、松のマツノマダラカミキリ駆除に、MEPやアセタミプリド、クロチアニジン、チアクロプリド製剤が使われます。
 このほか、MEPはダイズ、コムギ、サトウキビ、ミカンなどに適用、エトフェンプロックスはコムギ、ダイズなどに、ジノテフランはダイズ、ラッキョ、エダマメに、エチプロールはダイズ、イネに適用があります。
 表2 殺虫剤の成分別製剤数(複合製剤は、成分名で重複カウントしている)
 成分名      製剤数 延べ数              
 MEP         77    22 
 エトフェンプロックス 76   14 
 ジノテフラン     71   17 
 エチプロール     49   14 
 クロチアニジン    40   14 
 イミダクロプリド   31    7 
 アセタミプリド     5    3 
 チアクロプリド     2      2
★除草剤は、稲用がほとんどで、複合粒剤が多い
 除草剤の成分別登録農薬数を表3に示しました。製剤は284種(延べ数3801)で、剤型では粒剤が166種(延べ数2246)、稲用が281種(延べ数3776)でした。製剤数及び延べ数は、複合剤の各成分ごとに重複カウントしていますが、稲用の延べ数が多いのは、多種類の草への適用があるからです。そのためか、たとえば、茨城県での農薬の水系汚染調査では、多数の除草剤が検出されています(記事t30204)。
 稲以外に適用のある除草剤は4種(延べ数25)で、野菜用(クワイ、セリ、レンコン)1種、樹木用(スギ、ヒノキ)2種でした。
 登録除草剤の詳細をまとめると
  ・除草剤:284種(延べ数3801)。うち複合剤は263種(延べ数3653)で261種(延べ数3633)が稲への使用である。
  ・原液で散布する除草剤:87種(延べ数1184)で、すべて水和剤。稲への使用である。
  ・除草剤剤型:粒剤190種(延べ数2555、剤型記載のない製剤も含む)
                  /水和剤93種(延べ数1245)/液剤1種(延べ数1)
  ・水田除草以外の「無人」適用の空散農薬は樹木用()2種である。
  ・非選択性の除草剤で、「無人」の適用があるのは次節で述べる1種のみである。
 表3の農薬成分別では、ピラクロニル含有除草剤が62種(延べ数988)で、一番多く、ついで、テフリルトリオンが39種、プロピリスルフロンが38種の製剤に含有されていました。粒剤の散布と水和剤の原液散布が主流となっているのは、水田での人力による散布より、無人航空機の方が効率的というわけでしょうが、地上散布よりも高度から、しかも、プロペラローターの風圧を受けで、散布するわけですから、微小液滴ミスト、粒径の小さなものや粒剤がくだけた微粉の飛散が気になるところです。
 表3 除草剤の成分別製剤数 (複合製剤は、成分で重複カウントしている)
 成分名      製剤数 延べ数   成分名       製剤数 延べ数 
 ピラクロニル     62   988   フェントラザミド    32  384 
 テフリルトリオン   39      627     トリアファモン     24    371 
 プロピリスルフロン  38      658     イプフェンカルバゾン 18    291 
 イマゾスルフロン   35      435     ピリミスルファン    17    222 
 ダイムロン      30      415     シクロピリモレート   14    219 
 オキサジクロメホン  26      404     カフェンストロール   16    198 
 ピラゾレート     30      389     フェノキサスルホン   14    168 
★要注意!除草剤の空中散布拡大がめざされている
【参考サイト】佐賀県林業試験場プレスリリース:
 ・先端技術を活用した下刈作業の省力化に向けた技術開発を始めます(2019/07/12)と事業概要
 ・第2回さが林業スマート化実証事業検討会議(2020/02/19)と事業概要

 前述ほか、もう1種、東北大震災による津波被害を受けた6県の農地に限定された無人ヘリコプターによる茎葉空散可能な除草剤があります。この登録製剤(登録番号第22975号)はグリホサートカリウム塩48%含有で、希釈倍率2倍、使用液量800ml/10aとなっています。しかし、「無人」の記載のない同種の48%液剤(ラウンドアップマックスロード、登録番号第21766号)では、休耕地での地散の使用条件は、薬量200-2000ml/10a、希釈水量は通常散布50-100L/10aと、また、林地、造林地(地ごしらえ)では、地散使用条件は薬量1000-2000ml/10a、希釈水量30L/10aとなっています。
 すなはち、休耕地や林地苗場では、現状でも、下草への空中散布は可能なのです。茨城県、宮崎県、佐賀県などでは、より効率的に実施したいとし、たとえば、佐賀県の事業概要には、『除草剤では裸地化、土砂流出・崩壊の恐れがあるため、単位面積当たりの使用量を標準より少なくして散布するか「抑草剤」を使用する。』となっており、どのような除草剤をどのような条件で、空中散布するかの検討がなされています。
 一方、林野庁は「標高の高い山では正確な散布が難しく、周辺に飛散する懸念がある」としていますし、宮崎県では環境汚染を懸念する市民団体らが反対の声をあげています(日本母親連盟無人ヘリを使った森林への薬剤散布に関する申し入れ参照)
 今後、除草剤だけでなく、樹木の殺虫剤、殺菌剤、はたまた、衛生害虫対策の空中散布が、道路や競技場などの生活環境にも広がらないよう注意が必要なことを忘れてはなりません。

★空中散布は、地上散布より10-100倍の高濃度散布
 登録農薬で、地上散布と無人航空機等に適用ある農薬について、その使用方法を比べるため、イネ、マツ、ダイズ、キャベツ、タマネギを適用作物とする、いくつかの使用条件を表4に示します。表中の使用方法の項にある「散布」は地上散布、「無人航空機」は無人ヘリコプター又はドローンによる散布、「空中散布」は有人ヘリコプターによる散布を意味します。
 ドローン散布は、地上散布よりも、単位時間での散布面積が広いため(10Lのタンクを積込めば、1回10分の飛行で1ha散布可能との宣伝もみられます)、単位面積あたりの農薬成分量を地散なみにするには、空散の農薬成分濃度を地散よりも低い希釈倍率=すなはち、高濃度での散布となります。表でわかるように、空中散布の農薬濃度は、マツなどでは、地散のおよそ10倍、イネや野菜では、50-100倍くらい高いケースが多いです。
 平地の水田や畑で地散よりも高所から、高濃度の農薬を散布すると、風速・風向によって、散布域外への飛散が大きくなります。また、単機散布だけでなく、防除業者による、複数機による散布も同一地域で行われますから、生活環境・自然環境への影響も大となり、人が受動被曝する危険も増します。また、ローターによる強い下降気流=ダウンウォッシュにより、対象作物への付着や域外作物への残留量も増えます。
 表4 作物別、地上散布と空中散布の使用条件(希釈倍率、単位面積あたりの使用液量)の比較

【4962号 MEP50%乳剤 住化スミチオン乳剤】
 作物名	 適用病害虫名            希釈倍数     使用液量     使用方法
 イネ   ニカメイチュウ       1000〜2000倍  60〜150L/10a     散布
     ニカメイチュウ、カメムシ     300倍    25L/10a     散布
     ニカメイチュウ、カメムシ      8倍     0.8L/10a       無人航空機
     ニカメイチュウ、カメムシ   30倍    3L/10a      空中散布
     ニカメイチュウ、カメムシ    8倍     0.8L/10a     空中散布

 【21258号 クロチアニジン20%水和剤 ダントツフロアブル】
 作物名	 適用病害虫名           希釈倍数     使用液量     使用方法
 イネ   ウンカ、カメムシ     5000倍   60〜150L/10a   散布
      メイガ、カメムシ         1250倍     25L/10a    散布
      ウンカ類、カメムシ類	90倍      3L/10a    空中散布
      ウンカ類、カメムシ類	24倍      0.8L/10a    空中散布
	                        24倍      0.8L/10a    無人航空機

 【21259号 ジノテフラン10%液剤 スタークル液剤10】		
 作物名	 適用病害虫名          希釈倍数    使用液量       使用方法
 イネ   ウンカ類、カメムシ類    1000倍   60〜150L/10a   散布
      ウンカ類、カメムシ類     300倍     25L/10a    散布
      ウンカ類、カメムシ      8倍    0.8L/10a    無人航空機
      ウンカ類、          16倍   1.6L/10a    無人航空機 
      ウンカ類           30倍      3L/10a     無人航空機
      ウンカ類            8倍      0.8L/10a    空中散布
      カメムシ類	           8倍      0.8L/10a    空中散布
      ウンカ類、カメムシ類     30倍       3L/10a     空中散布
 ダイズ  カメムシ類        1000倍    100〜300L/10a     散布
      カメムシ類          8倍       0.8L/10a       無人航空機
      カメムシ類                  8倍       0.8L/10a    空中散布

 【21471号 エチプロール10%水和剤 キラップフロアブル】
 作物名	 適用病害虫名          希釈倍数      使用液量       使用方法
 イネ   ウンカ類、カメムシ類	    500倍	 25L/10a       散布
      イナゴ類         2000倍     60〜200L/10a    散布
      ウンカ類、カメムシ類   1000〜2000倍  60〜200L/10a    散布	
      ウンカ類、カメムシ類    8〜16倍     0.8L/10a     空中散布
      ウンカ類、カメムシ類    8〜16倍    0.8L/10a	   無人ヘリ
      イネドロオイムシ	   16倍     0.8L/10a     無人ヘリ

  【15042号 MEP80%乳剤 住化スミパイン乳剤】	
 作物名	 適用病害虫名         希釈倍数     使用液量       使用方法
 マツ     マツノマダラカミキリ   150〜200倍  3L/本(樹高10m)  散布
 (生立木)              4〜6倍   800ml/10a          空中散布
                      15〜45倍	 3〜6L/10a       空中散布
                       60〜180倍  12〜24L/10a       空中散布
                     18倍	  3L/10a       無人ヘリ1

 【20838号 アセタミプリド2%液剤 マツグリーン液剤2】
 作物名	 適用病害虫名          希釈倍数    使用液量        使用方法
 マツ   マツノマダラカミキリ  50〜100倍  3L/本(樹高10m)  散布
 (生立木) マツノマダラカミキリ   10倍     4L/10a       無人航空機


 【20897号 アクロプリド3%水和剤 エコワン3フロアブル】		
 作物名	 適用病害虫名          希釈倍数    使用液量       使用方法
 マツ   マツノマダラカミキリ   20倍   3L/10a       無人航空機
 (生立木)              20倍   3L/10a       空中散布
                   40倍	6L/10a       空中散布
                   7.5倍	3L/10a       空中散布
                  100〜200倍 3L/本(樹高10m)   散布

【4991号 MEP50%乳剤 ホクコースミチオン乳剤】		
 作物名	 適用病害虫名        希釈倍数    使用液量         使用方法
 ミカン   アザミウマなど     1000倍  200〜700L/10a    散布
                    10倍   5L/10a      無人航空機

 【13175号 アセフェート50%水和剤 ホクコーオルトラン水和剤】
 作物名	 適用病害虫名      希釈倍数     使用液量       使用方法
 タマネギ  ネギアザミウマ  1000〜1500倍  100〜300L/10a        散布
                300倍      25L/10a        散布
                 16倍      1.6L/10a       無人航空機

 【16589号 シペルメトリン6%乳剤 アグロスリン乳剤 】
 作物名	 適用病害虫名      希釈倍数     使用液量       使用方法   
 タマネギ アザミウマ       2000倍    100〜300L/10a       散布
                    48倍    2.4L/10a        無人ヘリ
              
 【14230号 チオファネートメチル40%水和剤 ホクコートップジンMゾル】
 作物名	 適用病害虫名     希釈倍数     使用液量           使用方法
 タマネギ 灰色腐敗病    600-1000倍  100〜300L/10a          散布
                5倍     0.8L/10a               無人航空機
               16倍     2.4L/10a             無人航空機

 【14500号 プロシミドン50%水和剤 日農スミレックス水和剤】
 作物名	 適用病害虫名     希釈倍数     使用液量     使用方法 
 タマネギ 灰色かび病      1000倍  100〜300L/10a     散布
                  16倍   2.4L/10a       無人ヘリ

 【17733号 テフルベンズロン5%乳剤 クミアイノーモルト乳剤 】
 作物名	 適用病害虫名           希釈倍数     使用液量    使用方法
 キャベツ   コナガ        2000倍   100〜300L/10a      散布
                   16倍   1.6L/10a     無人航空機
★樹木や果樹の高所散布では飛散は広まる
 樹木における空中散布では、上述のスギやヒノキの下草用除草剤のほか、松枯れ対策として、マツノマダラカミキリ駆除目的の殺虫剤が、山や海岸の松林で有人ヘリのほか無人航空機でも散布され、有機リン剤MEPやネオニコチノイドが多く使われています。
 果樹については、イミダクロプリド水和剤2種が柑橘類用に、MEP乳剤10種と殺菌剤5種がみかん用にあり、その他の果樹には地散登録製剤が空中散布に適用されます。
 散布高度は、無人ヘリは作物上3-4m以下、ドローンは2m以下となっており、樹木や果樹の場合は、樹高が高いので、飛行散布高度は10mを超えるでしょう。それなのに、風速規制は、平地なみの地上1.5mで3m/秒以下とかわりありません。地上の風速が低くても、高所ではもっと強い風が吹き、機体があおられて墜落する危険性が増すだけでなく、飛散範囲が、一層増大します。
 平地よりも高い飛行高度で、高濃度の農薬を短時間で広範囲に空中散布すると、傾斜地の場合は山風により、海岸林の場合は海風により、風下にある対象外作物、道路や生活圏への飛散は、一層拡大し、人が受動被曝したり、作物への付着残留量が増える危険性は、地散よりも大きくなることは自明です。仮に、連絡が不十分で、蜜蜂の巣箱が、果樹園の数キロ以内にあったら、大変なことはいうまでもありません。
 樹木に遮られて、目視散布ができなくても、プログラムによる自動散布ができる、ドリフト防止のプログラム制御装置が整備されていて、地上15mでの風速を測定して、散布をとめることができるという声が、無人航空機メーカーや実施主体からが聞こえてこないのが心配です。

★2020東京オリンピック・パラリンピックへの懸念
 今夏の東京オリンピック・パラリンピックへの不安・倍増は、コロナだけでなく、無人航空機による農薬散布も気になります。
 昨年成立した平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法には、第四章に「第四節 重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律の特例」という条項があり、第二十九条(対象大会関係施設の指定等)、第三十条(対象空港の指定等)、第三十一条(対象大会関係施設及び対象空港に係る重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律の適用等)で、テロ対策のため、「小型無人機等飛行禁止法」を適用することになっています。
 報道によれば、三月下旬からはじまる聖火リレーコースにも、無人航空機の飛行禁止を適用することが検討されており、これには、当然ながら、農薬散布用空中散布も対象となるでしょう。その際には、散布する農薬で、聖火コースが汚染されることのないよう取締られるのでしょうか。また、農薬空中散布の最盛期は夏場です。各地に散在する大会会場だけでなく、国内外の選手や関係者の合宿場所や練習場にも空中散布の影響がでないよう対策がとられているのでしょうか。
 さらに、大会では、国際GAP(農業生産工程管理)に見合った食品が供給される必要もあります。日本GAPは、農産物の安全に偏っており、環境への影響を配慮した国際GAPと異なっています。すなはち、農産物の生産では、農薬の使用条件や安全な管理などクリアできればいいのですが、国際GAPでは、人や対象外作物、蜜蜂、野鳥、水生生物など自然の生態系に影響をあたえる空中散布のような農薬使用が問題視されることを忘れてはなりません。

★このままでは、延べ数4500の空散農薬が大気や水によどむ
 無人航空機のメーカーや防除業者は、上記のような空中散布による農薬飛散に目をつぶり、散布効率の面だけをとらえ、さらには、ドローンを使えば、病害虫発生個所にピンポイント散布ができ、散布量を減らし、残留量も少なくできるとの宣伝に躍起で、農業団体や農業高校などを集め、デモ飛行を実施し、参加者に農業イノベーションのイメージを植え付けようとします。もし、空散で農薬散布量を減らそうとするなら、散布量を散布速度や高度、風速・風向で、自動的に散布制御できる装置をすべての無人航空機に組み込めばすむことです。
 農薬の人や環境への有害性を説明せず、ドローン飛行を見せるだけで、興味をひこうとするのは、コロナ休校で、飼育家畜の世話を気にしている生徒たちには気の毒です。このような状況が続き、高濃度の高所散布で農薬使用量がさらにふえ、環境中に漂うことを危惧せざるをえません。


農薬空中散布に必須の遵守事項
国土交通省:<空中散布を目的とした申請について適用飛行マニュアル>より
  ・飛行させる際には、安全を確保するために必要な人数の補助者を配置し、相互に安全確認を行う体制をとる。
  ・第三者の往来が多い場所や学校、病院等の不特定多数の人が集まる場所の上空やその付近は飛行させない。 
  ・高速道路、交通量が多い一般道、鉄道の上空やその付近では飛行させない。 
  ・高圧線、変電所、電波塔及び無線施設等の施設付近では飛行させない。
  ・人又は物件との距離が30m以上確保できる離発着場所及び周辺の第三者の立ち入りを制限できる
   範囲で飛行経路及び散布範囲を選定する。
   注:ここでいう立入管理区画は、無人航空機の墜落による人・物件の被害防止のための領域であり、
     散布された農薬が域外へ飛散して、人や非対象農作物等に被害及ぼすことは、想定されていない。
農水省;<安全ガイドライン>にある「空中散布の実施に関する情報提供」と「実施時に留意する事項」の項より
  ・空中散布の実施区域及びその周辺に学校、病院等の公共施設、家屋、蜜蜂の巣箱等がある場合、
   実施主体は、当該施設の利用者、居住者、養蜂家等に対し、農薬を散布しようとする日時、
   農薬使用の目的、使用農薬の種類及び実施主体の連絡先を十分な時間的余裕を持って情報提供し、
    必要に応じて 日時を調整する
  ・実施主体は、作業中の実施区域内への進入を防止するため、告知、表示等により空中散布の
   実施について情報提供を行うなどの必要な措置を講ずる。
 、・実施主体は、操縦者、補助者等の関係者及び周辺環境等への影響に十分配慮し、 風下から
   散布を開始する横風散布を基本に飛行経路を設定する。
  ・操縦者は、散布の際、農薬の散布状況及び気象条件の変化を随時確認しながら、農薬ラベルに
   表示される使用方法(単位面積当たりの使用量、希釈倍数等)を遵守し、散布区域外への飛散
   (以下「ドリフト」という。)が起こらないよう十分に注意する。
  ・飛散等を防ぐため、架線等の危険個所、実施除外区域、 飛行経路及び操縦者、補助者等の経路を
   あらかじめ実地確認するなど、実施区域及びその周辺の状況把握に努めるとともに、必要に応じて
   危険個所及び実施除外区域を明示しておく。
  ・実施主体は、散布装置については、適正に散布できることを使用前に確認するとともに、適時、その点検を行う。
  ・周辺農作物の収穫時期が近い場合、 実施区域周辺において有機農産物が栽培されている場合、
   学校、病院等の公共施設、家屋、水道水源、蜂、蚕、 魚介類その他水産動植物の養殖場等が
   近い場合など、農薬の飛散により危被害を与える可能性が高い場合には、 状況に応じて、
   無風又は風が弱い天候の日 や時間帯の選択、 使用農薬の種類の変更、飛散が少ない剤型の農薬の
   選択等の対応を検討するなど、農薬が飛散しないよう細心の注意を払う。

作成:2020-02-29、更新:2020-03-08