松枯れ・空中散布にもどる

n02502#奄美のデイゴ並木〜ドローンによる空中散布をめぐって#20-04
【関連記事】記事n02301

 記事n02301で無人航空機による農薬空中散布の問題点をとりあげましたが、コロナウイルスのせいで、2020東京オリ・パラは一年延期になりました。順延としなかったため、誘致の際の安倍のウソ=福島はアンダーコントロールに始まり、開催年もウソ=2020は単なるロゴ−になりました。おかげで、今年の農薬空中散布時期に、オリ・パラ関係者が受動被曝する懸念はなくなりましたが、あらたな問題がおきています。

★農水省は、マスク不足では農薬が散布できないと
 農水省が、3月始めに発出した『新型コロナウイルス感染症について〜農業者の皆様へ』には、コロナ感染防止のマスク不足のため、”農薬散布用マスクに係るご協力のお願い”として『農薬散布用のマスクを一般用のマスク等の代替として利用すると、農薬散布用のマスクが不足し、今後、本格化する農薬散布作業に支障をきたすおそれがあります。農薬散布用のマスクを一般の生活に使用しないようお願いいたします。 』の一項があります。マスクは農薬散布時に、使用者がを吸入しないために必須の保護具です。家庭で使う希釈不要のグリホサート系除草剤(たとえば、有効成分0.5%)の安全使用上の注意にも『マスク着用』とありますし(住友化学園芸の登録第20706号「フリーパス除草スプレー」)、農家向けには農薬工業会農薬の使用−保護具クロルピクリン工業会マスクの手引きに、使用者のための詳細な解説がありますが、受動被曝する住民への注意はありません。

 ところで、ドローンによる空中散布計画の届出義務不要への懸念が現実化しました。巻頭記事のように、3月下旬、農水省が公表した2019年度の農薬空中散布実施状況では、ドローンの数値はなく、無人ヘリの防除面積、機体数、オペレーター数しか明らかにされませんでした。
 ここでは、もうひとつ、散布状況不開示の事例として、昨年、鹿児島県でのドローン型散布例を紹介します。
 NHK鹿児島が放映したニュースをみた読者からの連絡によりますと、2019年9月、奄美大島南に位置する瀬戸内町加計呂麻島の海岸にあるデイゴ並木でドローンによる空中散布が実施され、不適切な散布ではないかというでのです。

★デイゴ被害と適用のある登録農薬
【参考サイト】鹿児島県瀬戸内町:TopPage町の概要デイゴ
       せとうちなんでも探検隊:Top Page 「デイゴヒメコバチってなあに?」
       神戸大学の黒田慶子さんらの研究:デイゴの軟腐症状および枯死

 デイゴというのは、南方系のマメ科の樹木で、沖縄県や奄美群島などで植栽されています。樹高は10メートルくらいになり、4から5月に開花、赤い花をつけるため、沖縄の県花にもなっていますが、10数年前から、デイゴの樹勢が弱り、枯れるという被害が目立つようになりました。

 当初は、外来の寄生昆虫デイゴヒメコバチが直接の原因と考えられ、農薬登録のあるの殺虫剤は、ネオニコチノイド系で、「樹幹注入」用のチアメトキサム4%の液剤2種とジノテフラン8%の液剤1種、及び「散布」用のイミダクロプリド20%の水和剤2種とクロチアニジン16%の水溶剤3種があります。
 「散布」とある殺虫剤は、希釈倍率2000倍、使用液量200〜700L/10aという条件では地散にも空散にも使用できますが、ドローンによる空散(デイゴの樹高10m+2m以下の飛行高度で、地散より早い速度で散布)には、濃度を地散の10倍以上高くしなければなりませんので、「無人」の登録が必要です。その際、域外の住宅地や農地へのドリフトや散布地域に生息する昆虫や生態系に影響に配慮せず、樹木の病害虫被害防止だけに眼を向けてはなりません。
 また、神戸大学の黒田さんらは、デイゴを枯らすのは、デイゴヒメコバチの寄生により、葉量が減少・衰弱した樹木に土壌から侵入した病原菌が、木部変色を形成・拡大させ、通水を阻害し、枯れ死させるという仮説を提唱しており、殺虫剤だけでは、デイゴ対策は、万全ではないということに注意を払う必要があります。

★鹿児島県瀬戸内町でのデイゴ対策は、木風社が請け負う
【参考サイト】竃リ風(こふ):TopPage(瀬戸内町デイゴの写真あり)、会社情報・理念お知らせ
         FBにあるデイゴ関連記事:2018/09/16:デイゴのピカス診断2019/08/21:並木保存プロジェクト開始
              2019/08/21:治療説明会開催08/22:菌根菌治療08/22:事業進捗報告09/24日:治療作業再開
       XAG JAPAN社:FBのTopPageFbにあるP20型(農林水産航空協会のHPにあるP20型の性能など)
       共同通信:5月19日記事写真

 瀬戸内町加計呂麻島の海岸にあるデイゴ並木でも、枯れ死が進行し、本数が約25%減少しているそうです。報道によれば、町は、2019年に事業費約1570万円を組み、東京に本社を置く木風社に回復策を委託しています。
 同社の業務は『記念樹、貴重木及び街路樹等の診断治療』『公共及び民間外部空間に対する植樹の設計』ほかで、全国各地で、樹木医として、腐朽診断を行い、樹木保護活動をしている会社です。同社のフェイスブックによれば、加計呂麻島のデイゴに関わったのは、2017年で、現地調査によりデイゴの衰弱原因を解析、いくつかの対策を試みています。
 農薬空中散布が浮上したのは2019年のことで、8月1日に、地元の瀬戸内町図書館・郷土館とともに開催された「デイゴ治療説明会」の案内には、『菌根菌の活用やドローンによる薬剤散布も先進的取組みとして実施予定』と記載されています。
 その後、デイゴの腐朽部の除去、土壌灌注作業(高圧をかけて、根っこに液体肥料を散布する)や菌根菌処理が行われ、9月24日のFBの記事には、ドローン空中散布の画像が掲載されていますが、中国系のXAIRCRAFT JAPAN社のドローンP20型(4つのロータをもち、総重量28kgの自動操縦型)のように思えます。当日、実際に散布したのは、鹿児島市のドローン業者で、使用農薬については、『配合済みのものを渡された』ということで、散布状況等は不明です。

★鹿児島県と瀬戸内町らに尋ねましたが・・・
 そこで、デイゴへの農薬散布について、鹿児島県農政部の担当部署に下記の問い合わせをだしました、しかし、『瀬戸内町に問いあわせてください』とのことでした。瀬戸内町からは『回答を差し控えさせて頂きます。あしからず,ご了承いただきますようお願いいたします。もっとも,本町といたしましても,法令に則り,農薬の適正な使用に努めて参りたいと考えております』の返事でした。
 木風社にも問い合わせましたが、住民への説明を踏まえて、適法に実施したとし、散布状況については『瀬戸内町との契約のため、当社から公表できない』と断られました。いつ、だれが、どこで、どのような農薬を何の目的で散布するかは、公表事項なのに、ドローン空中散布では、事実関係すら公けにしないのは、おどろきです。
 この件では、農薬対策室が『指導権限を有する鹿児島県において、事実関係の確認を行ったところ、農薬使用者が適用のない農薬を使用して、農作物等の防除を行っていた/.鹿児島県は、当該農薬使用者及び農薬使用者に防除を委託した瀬戸内町に対して、適用作物等を遵守し、再発防止を徹底するよう指導した』と答えているのに、地元の自治体がダンマリを決め込む実情は、とても、通知「住宅地等における農薬使用について」が遵守されているとはいえません。
 無人ヘリと同様、ドローン空散の実施計画の提出を義務づけ、きちんと公表させるルールを、地方自治体独自の条例や要綱、要領、指針で制定すべきだとの私たちの主張の早期実現が必要です。
      *** 鹿児島県、瀬戸内町への要望と質問 ***

 農薬取締法では、農薬登録のない製剤を植栽管理に使用することを禁止しており、同
法にもとづく、「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令遵守」でも、第二条2
項で、非食用作物についても登録に係る適用病害虫の範囲及び使用方法の守ることが求
められています。そこで、以下お尋ねします。、

【1】瀬戸内町のデイゴには、いままで、どのような農薬を使用されてきましたか、教
えてください。年度別に製剤名と農薬登録番号。希釈倍率、使用方法でお願いします。

【2】使用方法を散布として、デイゴに登録のある農薬製剤は、希釈倍率等が、散布と
同じならば、無人航空機による空中散布は可能です。
 たとえば、登録第20798号のダントツ水溶剤(クロチアニジン16.0%)では、希釈倍数は
2000倍、使用液量は200〜700L/10aとなっており、散布液がこれと同等なら、空中散布が
できます。
 2019年に無人航空機で空中散布されたということですが、散布状況を教えてください。

 (2-1)実施主体、散布者名、散布日時、使用農薬の製剤名と登録番号、希釈倍率、単
位面積あたりの使用量、総散布面積、使用方法の一覧で、お願いします。また、当該散
布で使用された総農薬製剤使用量も教えてください。

 (2-2)空中散布に使用された無人航空機の機種名は何ですか。農薬の最大積載量は何
リットルで、散布装置や電池を含め、機体の最大総重量は何kgになりますか、また、
一回の飛行継続時間は何分ですか。
  
 (2-3)無人ヘリコプターの場合、散布高度は作物上3〜4m以下、マルチローターでの
高度は作物上2m以下となっていますが、デイゴの樹高は何メートルで、散布の飛行高度
は何メートルでしたか。

 (2-4)散布はオペレーターによる目視でしたか。デイゴの樹高が高い個所でも目視が
できましたか。
  それとも自動操縦システムによるものでしたか。

 (2-5)散布当日の気象条件はどうでしたか。風向(海⇒陸か、陸⇒海か)、風速は、
どのようでしたか。

【3】航空法による申請書に関する質問2項目   −省略−
【4】農水省「無人航空機による農薬空散に係る安全ガイドライン」に関する質問4項目−省略−

【5】その他
 (5-1)今回の農薬空中散布で、住民や観光客からのクレームや被害の報告はありまし
たか。

 (5-2)今回、鹿児島県の担当部署や農水省の担当部署から、なんらかの指導がありま
したか。あった場合は、その年月と内容、及びどのような対応策をとられたかをおしえ
てください。

 (5-3)農薬がひとの健康や環境・生態系に影響を及ぼすことが知られており、私たち
は、出来るだけその使用を減らすべきだと考え、特に、空中散布は、高所から高濃度で、
広い範囲に、短時間で散布するため、やめるべきと思います。
 貴県では、どのようにお考えですか。
 また、デイゴの病害虫対策として、今後、どのような方法をとられる予定ですか。

作成:2020-04-30、更新:2020-05-20