松枯れ・空中散布にもどる
n02702#2019年の農薬空中散布事故〜件数は前年20減の48件#20-06
【関連記事】記事n01601、記事n02102(2018年度事故報告)、記事n02001(国土交通省の2019年事故報告)
【参考サイト】農水省:無人航空機(無人ヘリコプター等)による農薬等の空中散布に関する情報にある
農薬の空中散布に係る安全ガイドライン(無人ヘリコプター、マルチローター)
無人航空機による農薬等の空中散布における安全対策についてにある
令和2年度の無人航空機による農薬等の空中散布における安全対策について と
2019年度無人航空機空散事故概要一覧(含む国土交通省への報告)
国土交通省:無人航空機の飛行ルールの頁にある
2019年度無人航空機に係る事故トラブル等の一覧(空中散布以外も含み、全83件)
農薬空中散布による事故については、記事n02001で、国土交通省が昨年9月末までに把握した事故事例を報告しましたが、5月27日に、農水省植物防疫課が、同省と国土交通省への事故報告をまとめた2019年度の一覧を公表しました。
国土交通省と農水省の公表内容の違いは、前者が発生場所を記載しているのに、後者は、場所は特定しておらず、かわりに適用作物の記載がありました。一方、いずれにも、使用農薬名はなく、大まかな事故状況、被害状況、事故原因が公表され、防止策等があげられているにすぎませんでした。また、国土交通省の報告では、航空法上の許可・承認の要否等に関する項目がありましたが、無承認のケースはありませんでした。
昨年7月末に、無人航空機を無人ヘリコプターとドローンに二分して発出された飛行ガイドラインでは、事故については、両機種とも、対応は下記のように、同じでした(記事n01601、記事n01701参照)。
@実施主体は、別記様式3の事故報告書を作成し 実施区域内の都道府県農薬指導部局
に提出する。
A同上指導部局は、地方農政局消費・安全部安全管理課を経由して、 植物防疫課に
当該事故報告書を提出する。
B植物防疫課は、事故報告書の提出があった場合は、これを取りまとめ、都道府県等の
協力を得て、空中散布における安全対策を検討する。また、関係機関との間で、
当該検討結果に係る情報を共有するとともに、実施主体に対し、再発防止を図るよう
指示する。
C植物防疫課は、 取りまとめた事故報告を地方航空局保安部運用課に提供する。
★農薬空中散布事故の発生数の推移〜ドローン型でも、人身事故
農水省と国土交通省により報告された2019年度の無人航空機の農薬空中散布事故は48件でした。最近3年の件数推移は、表1、2のようです。機種別では48件中、無人ヘリコプター41件、ドローン7件でした。
表1 事故内容別発生件数の推移 表2 事故原因別発生件数の推移
事故内容 2019年度 18年度 17年度 主な事故原因 2019年度 18年度 17年度
@人身事故 死亡事故 0 0 0 @事前確認不足による障害物等の見落とし 11 37 25
人身事故 1 1 0 A操縦者と補助者との連携不足 11 13 10
A物損事故 架線に接触 34 46 57 B操縦者の操作ミス、目測誤り 9 6 12
建物等に接触 12 6 1 C不適切な飛行方法 2 11 16
その他物損事故 0 9 6 Dその他 15 1 2
B農薬事故 ドリフト等 1 6 1 合計 48 68 65
合計 48 68 65
★空中散布事故48件〜被害状況の71%は架線接触
2018年度の空中散布事故48件の内訳は、機種別では、無人ヘリコプター41件、ドローン7件でした。補助員がいても、連絡不備などで発生した例もあります。
【事故発生状況】国土交通省の報告には、空中散布対象作物の記載がないので、正確なところはわかりませんが、多くは、水稲への散布中の事故だと思われます(2017年度は86.7%が水稲散布でした)。また、発生年月別では、8月が一番多く、54%の26件ありました。
【被害状況】表1でもわかるとおり、事故は電線や電話線、引き込み線等への架線接触が一番多く、2019年度も71%の34件を占めていました。衝突・墜落した機体の破損はもちろん、架線の切断や建造物の破壊や作物の被害もおこります。そもそも、日本の水田や畑の近辺には、電線類や障害物が多い道路や生活圏があり、樹木もあります。こんなところは、空中散布に不適当なことが、わかっているからこそ、オペレーターによる手動操作にまかせられず、わざわざ補助員をつけて、飛行させているわけです。
無人ヘリコプターがドローン型になって、こまわりが効くと宣伝されていますが、事情はかわらず、多くの場合、高度2m以下で、オペレーターが操作して、目視飛行させねばなりません。自動走行のドローンもありますが、たんぼの中の立ち木など障害物をうまく避けることができるのでしょうか。
人の被害については、幸い、死亡事故はなく、2019年度の人身事故が5月に1件あったと報告されています。これは、25kg級のドローンの操縦者に、風にあおられた機体がぶつかり、右膝4カ所裂傷を負ったものです。
【農薬事故】農薬の飛散による事故ですが、報告されているのは、麦類への空中散布で作物被害が出た事例で、どんな農薬がとんな影響をおよぼしたか、まったく記載がありません。
【無人ヘリコプター事故】無人ヘリ空中散布事故は前年より16件減の41件あり、架線接触が31件、樹木接触4件。電柱接触2件、建物や土手接触各1件でした。原因は、
連携不足11件、事前調査不足8件、操作ミス6件、不明14件、不適切な飛行2件でした。業界の認定を受けたオペレーターの責任によるケースが多く、事故を起こした場合のペナルティー=認定停止や取り消し処分もない状況で、毎年、同じような事故がおこっていることは、表1や表2からもあきらかです。
【ドローン事故】ドローン空中散布事故は前年より4件減の7件でした。無人ヘリよりも高度が低いものの、架線接触4件、建物及び樹木接触各1件で、原因は操作ミスが4件と事前確認不足が3件でした。ドローンの自動飛行による散布はすすんでおらず、無人ヘリコプターと同様、オペレータの目視と指先に頼っていることの顕われです。
【事故原因】事故発生の原因については、表3にしめしたように、○番号の5項目にわけられており(重複ケースあり)、原因別では、不明(=その他)が最多の15件、散布現場の事前確認不足と補助員とオペレーターの連携不足が各11件、操作ミスが9件、不適切な飛行が2件ありました。
表3 2019年度の農薬散布の無人航空機事故の概要
原 @事前確認不足(架線等の見落とし等) : 11件
因 A操縦者と補助者との連携不足(情報共有不足、配置が不適切、指示の遅れ等)11件
分 B操縦者の操作ミス : 9件
類 C不適切な飛行方法(散布高度が高い・低い、架線・建物に向けた飛行等) 2件
Dその他 :15件
発生時期 発生場所/防除作物 機種 事故概要 事故被害 原因 原因分類
04/16 麦防除 無人ヘリ 建物接触 建物一部損傷/機体損傷 連携不足 AC
04/23 麦防除 無人ヘリ 架線接触 架線切断/ハウス損傷/
作物損傷/機体損傷 連携不足 @A
04/26 麦防除 無人ヘリ 農薬事故 作物被害 不適切な飛行 @C
05/10 水稲防除 ドローン 建物接触 建物一部損傷/機体損傷 操作ミス B@
05/22 水稲防除 ドローン 架線接触 機体損傷 事前確認不足 @C
06/25 松防除 無人ヘリ 架線接触 機体損傷 事前確認不足 @BC
07/15 水稲防除 無人ヘリ 架線接触 架線切断/農薬流出/機体損傷 事前確認不足 @A
07/17 水稲防除 無人ヘリ 架線接触 機体損傷 連携不足 AC
07/20 水稲防除 無人ヘリ 土手衝突 機体損傷 連携不足 ABC
07/23 水稲防除 無人ヘリ 架線接触 架線切断/機体損傷 事前確認不足 @C
07/23 水稲防除 無人ヘリ 樹木接触 機体損傷 連携不足 A
07/24 水稲防除 無人ヘリ 架線接触 架線切断/機体損傷 事前確認不足 @
07/25 水稲防除 無人ヘリ 架線接触 架線損傷/機体損傷 操作ミス B
07/25 水稲防除 ドローン 樹木接触 機体損傷 操作ミス B
07/28 水稲防除 無人ヘリ 架線接触 架線切断/作物損傷/機体損傷 連携不足 A
07/29 水稲防除 ドローン 架線接触 機体損傷 操作ミス BC
07/30 水稲防除 無人ヘリ 架線接触 架線切断/機体損傷 連携不足 A
07/23 兵庫県多可郡 ドローン 電線接触 電線損傷。 事前確認不足 @
07/27 北海道石狩市 無人ヘリ? 電柱接触 機体墜落 操作ミス B
07/28 北海道赤平市 無人ヘリ 電線接触 電線損傷。 事前確認不足 @
07/31 新潟県新潟市 無人ヘリ 電線接触 電線損傷。 不明 D
08/01 兵庫県篠山市 無人ヘリ 電柱接触 機体墜落 連携不足 A
08/02 北海道旭川市 無人ヘリ 電線接触 機体墜落 事前確認不足 @
08/03 滋賀県長浜市 無人ヘリ 電柱支線接触 機体墜落 事前確認不足 @
08/04 兵庫県丹波市 無人ヘリ 樹木接触 機体墜落 連携不足 A
08/06 新潟県阿賀野市 無人ヘリ 電話線接触 不時着 操作ミス B
08/06 宮城県大崎市 無人ヘリ 電柱支線接触 機体墜落 操作ミス B
08/07 秋田県能代市 無人ヘリ 電線接触 機体墜落 操作ミス B
08/07 秋田県由利本荘市 無人ヘリ 電柱支線接触 機体墜落 不明 D
08/07 秋田県潟上市 無人ヘリ 樹木接触 機体墜落 不明 D
08/07 熊本県熊本市 無人ヘリ 電柱支線接触 機体墜落 不明 D
08/08 新潟県長岡市 無人ヘリ 電話線接触 機体墜落 不明 D
08/08 新潟県五泉市 無人ヘリ 樹木接触 機体墜落 不明 D
08/08 熊本県山鹿市 無人ヘリ 電柱支線接触 機体墜落 不明 D
08/08 広島県庄原市 ドローン 着陸時に風に煽られ
機体が横転し、操縦者に接触 操縦者右手中指骨折 不明 D
08/09 島根県大田市 無人ヘリ 電線接触 機体墜落 不明 D
08/09 新潟県村上市 無人ヘリ 電線接触 機体墜落 不明 D
08/11 宮城県大崎市 無人ヘリ 電線接触 機体墜落 不明 D
08/12 岩手県奥州市 無人ヘリ 電線接触 機体墜落 連携不足 A
08/12 秋田県大仙市 無人ヘリ 風に煽られ付近の車庫に接触 不明 D
08/13 新潟県新発田市 無人ヘリ 電線接触 機体墜落 不適切な飛行 C
08/15 秋田県能代市 無人ヘリ 電柱支線接触 機体墜落 不明 D
08/19 秋田県潟上市 無人ヘリ 電線接触 機体墜落 連携不足 A
08/20 兵庫県三木市 無人ヘリ 電柱支線接触 機体墜落 不明 D
08/24 岩手県奥州市 無人ヘリ 電線接触 機体墜落 操作ミス B
08/24 広島県広島市 ドローン 電話線接触 機体墜落 事前確認不足 @
08/31 熊本県菊池市 無人ヘリ 電話線接触 機体墜落 事前確認不足 @
09/04 佐賀県鹿島市 無人ヘリ 電話線接触 機体墜落 不明 D
追加情報:2020/07/02、秋田県大仙市で、ドローン型で農薬空中散布中の操縦者が、プロペラに接触、左手小指を切断するけがを負いました(秋田魁の報道より)。
★通知で求められている安全対策では事故が防げない
農水省の通知では、以下の3項にわけて、留意点があげられています。
【1、事前確認の徹底】
(ア)家屋等への引込線や電柱の支線等、見えにくい位置の障害物を見落とさないよう、
操縦者と補助者の経路を含めた実施区域全体を綿密に確認すること。
(イ)実地確認の際に、受託した散布計画と異なる点など不明な点があれば、そのままにせず
実施主体やほ場の持ち主(依頼主)への確認を怠らないこと。
(ウ)実地確認の結果、ほ場の上空に架線が入り込んでいるなど通常の飛行方法による空中散布の
実施が困難な場合は、空中散布を実施しないこと。
以前の指導指針では、都道府県や地元の協議会に、実施計画が提出され、内容が検討されることになっていましたが、新ガイドラインでは、無人ヘリ計画は都道府県の担当部署に届出が義務づけられているものの、ドローン型は実施主体が計画をたてるだけでよく、第三者が散布内容を検討することもありません。地散なみに、実施主体が勝手に散布することになります。ドローン型においても、同一地域で、同一時期に一斉散布が行われますし、一回の散布面積を拡大した機種の導入、さらには、野菜、果樹、樹木など、傾斜地や樹高の高い果樹や樹木への空中散布が拡大されると、飛行高度がたかくなり農薬の一層のドリフトの懸念が増大します。
【2.操縦者と補助者の連携強化】
『ナビゲーターの指示が遅れる、指示の誤解や思い込みなど、お互いの意思疎通が的確に行われていないこと、また、補助者の立ち位置が適切でないことなどにより、住宅や電柱などの建物等への接触事故(5件)など危険度の高い重大な物損事故に繋がることが多く、そのリスクの大きさから特に留意する必要がある』と指摘され、留意点は下記のようになっています。
(ア)作業への慣れによる慢心や「わかっているだろう、見えているだろう」という思い込みは捨て、
安全対策の基本に立ち戻り、互いの役割りを確実に行うとともに、綿密な相互コミュニケーションを
常に心掛けること。
(イ)トランシーバー等の通信不良を防ぐため、事前の実地確認の際にお互いの装備についても
確認を徹底すること。
(ウ)事前に、合図が確認しやすく、また機体が良く視認できる立ち位置を確認するとともに、
散布中は適時双方で連絡を取り合い、障害物等の情報を共有すること。
と、ありますが、域外へ農薬飛散の防止には、高度や風速によって、自動的に散布をとめるなどの機能をもつ自走ドローンの開発が必要です。
【3.無人マルチローターを用いた空中散布に係る安全対策の徹底について 】
この項では、特に、ドローンについて、下記のようになっています。
(ア)事前に取扱説明書やマニュアルを熟読し、機体の機能・性能を十分に理解すること。
(イ)山間部では GPS の受信不良が起こりやすいことに留意すること。また、GPS 制御が
働かない場合に対応できるよう、技術向上に努めること。
(ウ)必要に応じて、操縦技能を維持するため、航空法に規定された飛行禁止空域に該当しない
人の往来や物件が存在しないほ場などで、航空法に規定された飛行の方法に従って
テストフライトを行う。
空散については、生産者が農薬散布を効率的に行うことに主眼が置かれ、農薬の飛散事故の防止については旧態依然としています。人的ミスがあっても、接触・墜落や農薬飛散事故がおこらないようにするため、無人ヘリコプターやドローンの技術的な改善を義務付けるという姿勢もみられません。
農水省の対策では、今後、ドローンの利用が増えると、事故多発することは必須です。私たちは、野放図な住宅地周辺での空中散布をやめさせ、緩衝地帯の設置、事故機体や事故を起こしたオペレーターへのペナルティーの強化により、空中散布事故の減少につなげていくことを追求せねばなりません。
作成:2020-06-30、更新:2020-07-05