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n03303#著書紹介:本当は危ない国産食品―「食」が「病」を引き起こす―(奥野修司著、新潮社)#20-12

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 表記の書籍は、今年12月に出版された新書です(下記の新潮社の案内)。
 執筆者はジャーナリストの奥野修司さん。今年の5月〜6月に、週刊新潮に連載された記事をベースに、副題にある『「食」が「病」を引き起こす』とあるように、食品における残留農薬の摂取に焦点があてられ、主にネオニコチノイド系殺虫剤とグリホサート系除草剤(商品名 ラウンドアップ)がターゲットにされています。

 『私自身の無知をさらけ出すようだが、農業取材に関わる前の私などは、農薬が体によくないことは理解していても、中毒さえ起こさなければいいんじゃなぃか、くらいで、肝臓障害や発がん性がどうのといわれても、今ひとつ実感ができなかた。』とする著者が、研究者の取材を通じ、さらに、多くの論文や行政の報告などをもとに、判明した農薬についての科学的知見をまとめる過程で、到達したのは、『知らなぃとぃうのは怖いものだ。』『今は「病気になるのも自己責任」と言われる時代である。農薬のことを知らなくても生きることに困るわけではなぃが、 発達神経毒性や世代を越えた毒性などから目分の家族を守りたいと思うなら、やはり知つておいたほうがいい。』ということでした。
 章立ては、以下のようで、その内容は、農薬の中でも、最近問題になっているネオニコチノイド系殺虫剤とグリホサート系除草剤に限られ、前者が第一章から第四章、後者が第五章から第八章となっています。
   第一章 「国産は安全」神話   第二章 密室で決められる安全基準
   第三章「現代病」と農薬     第四章 脳細胞が“発火”する
   第五章 複合毒性        第六章 “不自然”な食べ物
   第七章 食べてはいけない「食パン」リスト
   第八章 パスタと野菜に気をつけろ
    終章 「農薬工業会」の批判に反論する
 まず、第一章のお茶の残留基準の高いことからはじまり、ネオニコチノイド系殺虫剤が、PETボトル入りの飲料茶に検出されたこと、この農薬が多くの農作物での残留により、人体に取り込まれ、母体を通じての胎児にも移行する実態が示されます。

 第二章では、農薬の安全基準の根拠について述べられています。動物実験をはじめとする試験で、毒性が評価され、これ以下なら、生涯摂取しつづけても、健康への影響が現れない量としてADI(一日推定摂取量)が決められます。食品安全委員会が設定するわけですが、評価の前提となる試験の内容も安全証明には不十分な上、データそのものは企業秘密として、公開されることはありませんし、個人研究者の論文の多くは、評価の対象になっていません。そんなADIをベースにして、個々の食品の残留基準が設定されています(日本食品化学研究振興財団の残留農薬基準値検索システムにある農薬別・食品別一覧表はこちら)。

 第三章、第四章では、ヒトに対する無毒性量が現行の動物試験だけでは、評価できないことが、いくつもの、事例を挙げて、解説されています。たとえば、
 ・佐渡では、トキがネオニコチノイドをやめることにより、繁殖能力が回復した。
 ・ウズラに無毒性量より少ない量を投与すると、精巣の細胞が破壊され、メスでは、
  産卵に影響がでた。
 ・アセタミプリドをウズラ授精卵に投与すると、孵化したヒナの体重や脳重量が減少し、
  イミダクロプリドでは脳重量低下と顔面形成の異常もみられた。
 ・ラットにクロチアニジンを投与すると、腸内細菌叢が変化し、炎症を抑える善玉菌が
  減少した。免疫系だけでなく、脳にも影響がでる可能性が考えられる。
 ・無毒性量とされたネオニコチノイドをあたえると、迷路実験で不安性行動が、
  オープンフィールド試験で多動様症状が認められた。
 ・異常行動をとったマウスでは、精子数が減少した。
 ・母胎から移行摂取したマウスの仔では、オスに性行動や攻撃性の増大がみられ、
  明暗箱試験での、不安性行動は、オスがメスより低下の度合いが大きかった。
 ・妊娠マウスに、投与したクロチアニジンは、胎児の血中に移行し、出産後は、母乳を
  通じての移行がみられた。 などです。
 第五章は『複合毒性』との標題です。農薬の複合毒性として@複数の農薬成分の被曝・摂取、A農薬製剤では、活性成分と補助成分の複合摂取、B農薬と他の用途からの化学物質の複合被曝が、考えられますが、本書で論議されているのはAに関してで、登録製剤の除草剤『ラウンドアップ』は、活性成分のグリホサートと界面活性剤系の補助添加剤との混合組成物で、原体のグリホサートのみで実施されている動物実験とは、異なると考えるべきであるとの指摘が見られます。
 ・ヒトの胎盤由来細胞を用いた試験では、グリホサートでは1000ppmでも死滅しないが、
  ラウンドアップでは、100ppmで完全死滅する。
 ・ラウンドアップを用いたラットの二年間慢性毒性試験(ラウンドアップ添加水の供与及び
  ラウンドアップ使用した遺伝子組換え作物供与)では、無投与グループの2〜3倍の
  腫瘍が認められた。
 ・従来のグリホサートの毒性試験では、発がん性なしとされていたが、2015年3月に、
  IRACがグリホサートを発がん性ランクを2A(ヒトに対して恐らく発がん性がある)にランクアップした。
   グリホサート農薬評価書では『ヒト集団での細胞遺伝学的調査において、グリホサート製剤が
    血液細胞に染色体損傷を誘発するとの報告があり、ヒト細胞を用いて、in vitro試験
    (試験管で実施)及び実験動物を用いた試験において、グリホサート、グリホサート製剤及び
    代謝物 B が酸化ストレスを誘導する強いエビデンスがある』と評価された。
    このことは、グリホサート本体だけでなく、添加物を含めた製剤についての毒性試験は、
    現行の急性毒性試験だけでなく、より長期の試験が必要であることを意味する。
  なお、グリホサートの毒性については、記事t28401記事n01604除草剤グリホサートについての参考資料記事n02005を参考にしてください。

 第六章から第八章は、グリホサートの食品残留についてで、小麦、遺伝子組換え大豆。テンサイが三大摂食経路として問題視されており、特に、輸入小麦由来の小麦製品であるパン、パスタでの残留がとりあげられています。しかし、本書では、触れられていませんが、グリホサート系除草剤の使用者や散布地域周辺での経気、経皮経路による被曝も忘れてはなりません。
  ・グリホサートの残留量が高いのは、収穫前の散布=プレハーベスト使用される小麦で、
      つぎに多いのは、グリホサート耐性の遺伝子組換え大豆である。
  ・小麦粉、小麦粒はもちろん、これを原料とするパン製品、マカロニ、パスタ類にも
      グリホサートが残留する。これは、日本では使用できないプレハーベスト使用が
      行われているアメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入小麦を原料としている
      からである(記事n02005参照。国内産米麦の残留農薬等の調査結果はこちら)。
  ・農薬とともに、コメには、プラスチック製農業資材由来の可塑剤成分が検出されていた。
 終章は、『「農薬工業会」の批判に反論する』で、先の奥野さんのHP連載記事に対して、農薬工業会が主張した内容と、それに対する反論が追加されています。
 工業会は『国のガイドラインを守っているから、安全性だ』といい、毒性評価にかかわる食品安全委員会*は『農薬は少量なら安全だ』いう立場で、安全性の根拠についての国民の疑問には、真摯に答えないという現状が批判されています。中でも、以下の指摘は重要です。
 『農薬の毒性は、急性だけでない。より深刻なのは、ごく少量の農薬による発達神経毒性や
  世代を越えた毒性などだ。国が求める基準では、急性中毒や発がん性などのリスクは評価できても、
  発達障害などの異常を検出することが難しいのは、最先端の研究なら周知のことである。』
 『(業界の)批判には、農薬が安全であると証明する証拠があるように記されているが、
  これらは非公開か充分なデータがなく、私たちには検証できない。』

   *注:てんとう虫情報にある食品安全委員会の記事
     食品安全委員会が「ヒトの発達障害と農薬に関する情報収集調査」結果を公表(11-05)
     農薬の脳・神経系への影響〜食品安全委員会のADHD(注意欠陥・多動障害)文献調査から(11-08)
 最近の研究から毒性試験で明らかにされたネオニコチノイドやグリホサートのの問題点を再認識するためにも、この書をぜひ、読むべきでしょう。
 ただし、本書では、殆ど述べられていませんが、EUでネオニコチノイドの使用規制又は禁止されたのは、ミツバチをはじめとする環境被害の防止を目的としたためであること、日本では、ネオニコチノイド類の4倍にあたる神経毒物の有機リン剤がいまだ、使用され続けていること(記事n01303記事n02605)、さらには、農薬登録なしのグリホサート系除草剤が、空き地や家庭などの身の回りの雑草退治に使用されていること(記事n02402など参照)を含め、農薬使用による大気経由のヒトの健康被害にも注意を払ってください。


*** 週刊新潮の掲載記事と農薬工業会などの反論〜反農薬東京G 新聞報道等の頁(2020/05/01)より ***
年月日出典 タイトル 備考
2020/05/01週刊新潮 「食」と「病」 実は「農薬大国」ニッポン
 第1回 「妊婦」「子ども」は避けたい「食品」
 第2回 中国超えで世界一に
 第3回 トキ絶滅危機で分かった「不妊リスク」
 第4回 子どもの脳細胞が「発火」する
 第5回 「パン」「パスタ」に発がん性疑惑
 第6回 知らずに食べている全身殺虫剤
 第7回 買いだめした食品は大丈夫?「発がん性疑惑成分」検出の「食パン」実名リスト
 最終回 「発がん性疑惑成分」検出の「パスタ」実名リスト
目次:3月19日号3月26日号4月2日号4月9日号4月16日号4月23日号4月30日号5月7・17日号6月18日号

 農薬工業会の記事への見解統合版-インデックス形式(10/30)。第一回第二回第三回第四回第五回第六回,第七回第八回番外編)
 日産化学週刊誌記事について(4/27)−週刊新潮4月16日号第五回について(4/22)



 

 新潮社の出版案内  



本当は危ない国産食品―「食」が「病」を引き起こす(目次ヘのリンクあり)
  奥野修司/著  定価  814円(税込)
  発行:2020-12-17 新潮社
 「国産食品だから安心、安全」というのは嘘(ウソ)である。
 実は日本では一部の農薬の規制が世界的に見ても緩(ゆる)い。
 それらが残留した日本茶、野菜、果物、コメ、パン、パスタなどを
 私たちは日常、口にしているのだ。研究者たちが指摘するのは、
 肥満、アレルギーのみならず、脳の萎縮(いしゅく)、自律神経の
 失調、神経伝達の異常、発達障害など、数々の重大なリスクである。
 最新の科学データと緻密(ちみつ)な取材をもとに、大宅賞作家が
 警鐘を鳴らす問題作。


作成:2020-12-30