松枯れ・空中散布にもどる
n03602#2020年度の無人航空機事故65件について〜農薬空中散布は全事故の30%#21-03
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【参考サイト】国土交通省:無人航空機の飛行ルールの頁(一般ルール空港周辺での飛行ルール
             無人航空機に係る許可承認申請件数の推移。事故トラブル一覧表(2018年度2019年度2020年度
       内閣府無人航空機に関する航空法の許可・承認状況と今後の環境整備について
       首相官邸空の産業革命に向けたロードマップ2020

 2019年度の無人航空機(無人ヘリコプター、ドローン型を含む)飛行申請は年間48,364件ですが、無人ヘリコプターにしろドローン型にしろ航空機の墜落等の事故による被害を防止することが、至上命令なのは、いうまでもありません。その上、農薬などの危険物を輸送し、投下する空中散布においては、地上散布より高濃度の農薬液が、散布対象外の作物にかかったり、自然環境や生活環境を汚染し、生態系や人の健康に被害をあたえることにもなります。ここでは、国土交通省が調べた2020年度の無人航空機の事故例の原因をまとめ、その中の空中散布事故状況を下表に示しました。

★2020年の無人航空機事故は65件
 無人航空機の事故は、農水省と国土交通省の統計があり、それぞれの省に報告されている事例が異なり、国土交通省は、『2019年7月30日より、農林水産省消費・安全局長通知「空中散布における無人航空機利用技術指導指針」の廃止等に伴い、これまで農林水産省に報告のあった空中散布における無人航空機の物損事故等の情報についても航空局に報告されることとなった。』とし、農水省に報告のあった空中散布における無人航空機の物損事故等を加えた年度別の事故件数の推移は、2015年度:65件、2016年度:113件、2017年度:127件、2018年度:144件(国土統計では79)、2019年度:83件(同83)と報告しています。
 2020年度の国土交通省統計の事故事例は65件で、前年より18件減少しました。月別発生件数を表1に示します。月平均6.5件、()に示したのは、内数で空中散布事故(合計20件→詳細は後述)です。
  表1 無人航空機の2020年度の月別事故発生件数   
                ()は空中散布の内数
   年/月  件数     年/月  件数
   2020/4    6件(3)   2020/9    6  (3)
      5  11  (2)       10    4  (0)
      6    7  (1)          11    5 (0)
          7    4  (2)          12    4 (0)
          8   13  (9)      2021/1    5 (0)
                           合計   65 (20)
★事故機はドローンが75%の49件〜空撮時が多い
 無人航空機の事故事例65件は機種別では、無人ヘリコプターが16件(すべて空中散布)、ドローン型が49(業務別:空撮24、調査6、訓練・試験5、空中散布4、救助1、その他不明の業務など9)となっています。原因別にまとめると以下のようでした。なお、文中 ()のdはドローンの、hは無人ヘリコプターの事故件数です。
【突風や強風に煽られる】 9件(うち空散:1。d:9)
  すべて軽量のドローン型で、強風に煽られ、制御できなくなり、墜落するケースが多いです。
  機体が流され、車に接触したり、走行中のトラックの屋根に衝突下事例もあり、機体の
  紛失につながったのは4件でした。

【電線、電話線、カーブルテレビ、電柱など接触】11件(うち空散:9、h:9、d:2)
  空中散布の無人ヘリコプター9件が目立ちます。電線や住宅への引き込み線などへの接触事故のほか、
  電柱や照明ポールに当たったケースもあります。

【樹木接触】8件(うち空散:1、h:1、d:7)
  ドローンが多く、斜面に生育する樹木に衝突したり、木の枝に巻き込まれ位置が確認できなった
 ケースもありました。
  無人ヘリコプターの1件は、農薬空中散布中に、操縦不能で樹木に接触したものです。

【バッテリーの残量低下】5件(d:5)
  飛行に充電バッテリーを使用するドローンでは、電池残量の低下により飛行ができなくなります。
  1件は、出発点にもどる自動帰還機能が働いたもの、電線に接触してしまいました。
  空中散布の事例がなかったのは、それなりに、予備電池を準備しているからでしょうか。

【電波途絶や送受信不能】12件(d:12)
   事故のすべてはドローンによるものです。機体を操作する装置のトラブルで、電波が発信されなかったり、
  受信側が不良であれば、飛行制御ができず、墜落や行方不明につながります。

【操縦や制御不能】4(うち空散:1、d:4)
  ドローンが制御不能になった状況がはっきりしませんが、通行人が接近したとの記載した事例もありました。

【操作誤り】3件(うち空散:1、d:2、h;1)
  オペレーターの操作ミスは避けられません。特に、障害物のある圃場では、空中散布は規制されるべきです。

【飛行経路設定誤り】1件(d:1)
  ドローンで、飛行経路の設定を誤り機体を見失い 通信が途絶、紛失の事例がありました。
  自動飛行なのに、このような誤りは看過できません。

【オペレーターと補助員の連携ミス】2件(うち空散2、d:1、h:1)
  日本の圃場では、補助員がいても、近隣に架線や建物が多く、接触事故があとを絶ちません。
  その防止のための、補助員との連絡ミスなどもってのほかです。

【その他操作不能など】5件(d:5)
  理由は不明ですが、ドローンの事故として、バランスを崩してコントロール不能になったり、
  ホバーリング中にプロペラが止まった例がありました。

【紛失事故について】
  ドローン事故で機体が紛失するケースは23件もあり、その多くは、操作ができなくなったためですが、
  具体的要因として、上述の強風によるもの4件のほか、制御電波の送受信不良が8件あり、海や河川に墜落した例もあります。

【自動飛行について】
  ドローンでは、プログラムによる自動飛行が事故防止に役立つとされていますが、その実施比率は不明です。
  すくなくとも下記の2件の事例がありました。
    ・自動航行を実施したところ、隣接する斜面に生育する樹木に衝突
        ・自動航行により無人航空機を飛行させていたところ、飛行経路の設定が誤っており、
     機体を見失い、その後通信が途絶。紛失した

【その他のドローン事故】
   農薬空中散布ではありませんが、類似した事故が2件ありました。
    ・広島県福山市では、目視外で飛行させていたところ、操縦不能となり紛失した。
     発信機の画面にはバルコニーが確認されたので、建物のバルコニーに不時着したと思われる。
    ・宮崎県児湯郡では、カワウの生息状況調査のため飛行させていたところ、突風により
     墜落しそうになった機体を操縦者が受け止めようとし、手を負傷した。
★空中散布事故20件の実態をみる〜防止には免許制度が必要
 空中散布事故は20件で、機体別では、無人ヘリコプター15件、ドローン型5件で、事故状況は下記のように架線接触事故9件、建物への接触が5件が目立ちます。
 無人航空機の飛行が、ひとの操縦に頼る限り、操作ミスはさけられないことを思えば、農薬散布で、目視飛行、補助員をつけるという小手先の事故防止努力だけでは万全ではありません。
 突風を予測した上、高度を作物上2mを超える場合には、農薬散布を停止したり、散布地域近くの民家や建物、電線・電柱、障害物を避けるなどの飛行プログラムによる自動制御できる無人航空機の使用が義務付けられていない現状をみれば、散布事故をなくすことが困難なことは明らかです。
 飛行の免許制度は、航空法の改定で、巻頭記事のように、実現の方向にあります。農薬空中散布についても、免許制度を導入し、散布者には、飛行だけでなく、農薬の毒性や農薬取締法についての試験、自動車運転なみに散布操作認定の講習・試験、散布計画の周辺の住民への周知などを義務付けた上、事故・トラブル原因者の免許停止など、国による法規制が求められます。
 要は、農水省も法律で免許制度化した上、農薬空中散布ガイドライン(無人ヘリコプタードローン)による指導だけでなく、その記載事項を実施義務として法律で条文化することが第一で、必ず、事故防止につながります。


  表 2020年度の農薬空中散布による事故例20件 発生日 飛行場所 機種と機体  事案の概要  2020/4/3 熊本県菊池市 h ヤマハRMAX   散布業者:電線に接触し損傷  2020/4/15 愛知県弥富市  h ヤマハFAZER  散布業者:鉄柱と倉庫外壁に接触し損傷  2020/4/23 広島県山県郡 d DJI社 AGRAS   散布業者:民家の屋根の雨樋のパイプに接触・ 損傷  2020/5/7  静岡県浜松市 h ヤマハYMR-08 個人散布者:機体操作を誤り圃場隣接民家の  外壁に接触し墜落。民家外壁の接触傷3カ所  2020/5/26 新潟県新発田市 h ヤンマーAYH-3  松枯れ空散で、操縦不能となり樹 木に接触墜落  2020/6/2  広島県福山市 d FLIGHTS-AG 散布業者:除草剤の空散中、民家の物置の壁に                          衝突して墜落、物置外壁の破損  2020/7/21 滋賀県守山市 h ヤンマーAYH-3 散布業者:民家の屋根に接触、水稲圃場に墜落  2020/7/29 山形県西置賜郡 h ヤンマーYF390 散布業者:電話線の支線にメイン ローターが接触し、                          機体が水田に墜落  2020/8/3 山形県東根市 h ヤマハRMAX 散布業者:ホバリング待機時、操作を誤り、                          圃場周辺に駐車の接触、損傷させた  2020/8/6  山形県酒田市 h ヤンマーYF390 散布業者;オペレーターとの連携ミスにより飛行方向を誤り、                          電柱の支線に接触し、機体が法面と水路の間に墜落  2020/8/10 山形県東置賜 h ヤマハ FAZER 散布業者:電話線に接触し、機体は水田内に墜落 2020/8/11 島根県仁多郡 d DJI社 MG-1   散布業者:操縦不能となり付近の住宅に衝突墜落  2020/8/13 山形県東置賜 h ヤマハ FAZER 散布業者:電線に接触し、機体は水田内に墜落  2020/8/18 福島県石川郡 d ナイルワークス 散布業者:風に煽られスライドし Nile-T19 付近にいた人と 車に接触し墜落人の負傷、物件損傷あり。  2020/8/18 島根県安来市 h ヤマハ FAZER 散布業者:ケーブルテレビ回線に接触、切断させ、墜落  2020/8/19 山形県西置賜郡 h ヤマハ FAZER 散布業者:電柱に接触し、機体は道路に不時着  2020/8/27 高知県香美市 h ヤマハ FAZER 散布業者:ケーブルテレビ回線に接触、切断させ、墜落  2020/9/2 山形県酒田市 h ヤンマーYF390  散布業者:電話線に接触、切断させ、機体墜落  2020/9/2 大分県国東市 h ヤマハ FAZER 散布業者:電線に接触、切断させ、機体を緊急着陸 2020/9/11 愛媛県西条市 d DJI社 AGRAS -20 散布業者:補助者との連携がうまく取れず、倉庫へ接触墜落

作成:2021-03-30