街の農薬汚染・住宅地通知にもどる        通知「住宅地等における農薬使用について」(略称:住宅地通知)

n03803#天草市での農薬散布訴訟について   植村振作 (その2)#21-05
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★初めに
 「てんとう虫情報」2020年8月号の記事n02903で、天草市が市立公園のサクラとウメの樹皮病防除と称して実施した「石灰硫黄合剤」散布は農薬取締法に反する適用外使用に相当し、違法な農薬散布に公金を使ったのは、地方自治法第2条第14項、第16項及び地方財政法第4条第1項(下記参照)に違反しているとして、天草市長を被告とする裁判(住民訴訟)を起こしたことをお知らせしました。その後、これまで5回の口頭弁論が開かれました。次回は6月23日(水)の予定です。これまでの訴訟進行の概要を報告します。

 参考:地方自治法や地方財政法の関連条文    地方自治法第2条第14項:「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の      増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」      同     第16項:「地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。      なお、市町村及び特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない。」    地方財政法第4条第1項:「地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。      なお、市町村及び特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない。


★訴訟の趣旨の変更
 前回にも書きましたが、住民訴訟は住民監査請求結果が通知されてから30日以内に起こさなければなりません。
 農薬取締法上の適用登録のないサクラ及びウメに石灰硫黄合剤を散布する市の業務に公金を使用しても法に反することではない、という余りにも理不尽な、2万字余りの監査結果がどのような論理ででっち上げられたのか理解すべく、監査結果を何度も読んでいるうちに、あっという間に提訴期限日が近づき、慌てて訴状を書き上げ提出しました。
 しかし、弁論開始後に、本件薬剤散布契約は都市計画課長の専決事項であることが被告からの反論で判明しました。つまり本件薬剤散布か係る公金196,570円支出の決裁には市長は関与していないことが明らかになったのです。
 当初提出の訴状では、請求の趣旨の一つに「被告は,中村五木に対し, 196,570円を支払うよう請求をせよ。」と決裁権のない天草市長中村五木に公金の返還を求める請求をしていました。
 本件農薬散布決裁に係わっていない天草市長に公費支出返還請求をしても、訴えを退けられることが必至です。そこで、民事裁判に詳しい知人に教えを乞い、当初の訴状の請求の趣旨を変更した下記の「請求の趣旨の変更申立書」を第3回口頭弁論(2021.1.10)で提出しました。
 簡単に言えば、当初の訴状では、公金196,570円を違法に支払った責任は市長にあるので、市長が196,570円を天草市に返還せよ、というものでした。
 請求の趣旨の変更後は、散布業者である村川緑宝園(代表村川喜八郎)に「広瀬公園外サクラ等樹皮病薬剤散布業務」を委託契約して、石灰硫黄合剤を散布したものの、石灰硫黄合剤にはサクラ及びウメの樹皮病の適用はないので、天草市が委託したサクラ及びウメの樹皮病業務を履行しているとはいえず、村川緑宝園が受け取った196,570円は村川緑宝園の不当利得であるので、天草市長は不当利得返還請求権に基づき、散布業者である村川緑宝園に、金196,570円及びこれに対する令和2(2020)年3月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求すべきである、というものです。被告は、請求の趣旨の変更に同意し、裁判はそのまま続いています。

★虚偽の問答について
 そもそも本件訴訟の前提となる住民監査請求の審査結果が虚偽問答に基づいています。「住民監査請求にかかる監査の結果について(通知)」(天監第163−フ号 令和2年5月28日)によると、「監査委員の質問に対して、都市計画課から次のとおり回答があった。」として、以下の報告がされています。

(質問) サクラの樹皮病及び病害虫に対して適合する合法的な薬剤はあるのか。あるとしたら、      名称と価格はいくらか。  (答え) サクラの樹皮病への適合薬剤としてトップジンM水和剤があり、価格は、500g当たり平均で      2, 405円。また、病害虫に対して適合する薬剤としてオルトラン水和剤があり、価格は500gで      3, 360円である。樹皮病と病害虫防除のどちらにも適合されるとする薬剤は、現在のところ      確認されていない。

 しかし、開示された全問答文書の中には、上記の問答はありません。上記の問答は虚偽です。 監査委員が「住民監査請求にかかる監査の結果について(通知)」に虚偽事実を記載することは、 地方自治法198条の3第1項「監査委員は、その職務を遂行するに当たっては、常に公正不偏の 態度を保持して、監査等をしなければならない。」に違反するばかりでなく、刑法156条の 虚偽公文書作成等に該当すると思慮され、このような犯罪を構成する部分を含む監査結果には 正当性がない、と原告は主張しました。
 これに対して、被告は、上記質問回答は「原告提出の証拠(監査委員と都市計画課との間で交わされた文書)の記載を要約したものである。原告は、一言一句同じ文言でなければならないと主張するかのようであるが、事実が確認できれば要約して何ら問題はない。」と反論してきました。
 因みに、要約とは「文章などの要点をとりまとめて、短く表現すること。」(第7版「広辞苑」:岩波書店)であり、監査委員と都市計画課との間で交わされた文書には、上記質問回答に 記載されたような問答事実はなく、要約ではない、と反論しました。

★熊本県は、天草市の散布は農薬使用基準違反と認識していた
 本件石灰硫黄合剤の違法散布について、私が市長へ申し入れをしたことや住民監査請求をしたことを受けて、天草市都市計画課は熊本県農業技術課に相談をしたようです。
 県農業技術課職員を散布現地に招き、口頭で指導を受けたことは都市計画課が知らせてくれました。しかし、その指導内容については文書として残していないというのです。口頭だとしても、指導機関(本件の場合、農薬取締法関係ですから熊本県農業技術課)から行政指導を受けた内容については、通常何らかの記録を残しているはずです。
 記録を全く残していないというのには呆れました。何か隠しているのではないかと感じましたが、それ以上の追求はできず、熊本県農業技術課には指導内容の記録が残っているはずだと矛先を転じて、メールで質問をして、情報提供を求めたところ、数日して農業技術課から「農薬適用外使用農薬指導士に対する対応について」と題する回答がありました。
 県からの回答を見て、都市計画課が県から受けた詳しい指導内容を教えてくれなかったことが分かりました。
 質問の表題は、熊本県農薬指導士認定事業実施要項違反の農薬指導士に対する対応についてとしていますが、天草市に対する指導内容も問うています。回答によれば、県農業技術課が「天草市に対して、サクラ及びウメへの石灰硫黄合剤の散布が適用外使用にあたり、農薬使用基準の違反となるため、農薬取締法に基づいて、農薬使用基準を遵守するよう指導した。」とのことです。本件石灰硫黄合剤散布が農薬使用基準の違反になることを明確に指摘しています。これではなく、かたくなに指導内容の詳細を教えてくれなかったはずです。

★被告提出の和解案を拒否
 第4回口頭弁論(2021.3.17)で、上記農業技術課からの回答を本件石灰硫黄合剤散布が農薬使用基準違反の証拠として提出する予定で出席しました。ところが、突如裁判所から和解勧告が出され、第5回口頭弁論(2021.4.23)で被告側が和解案を提出することになりました。
 なぜ、和解の話が突如出てきたのか、すぐ理解できました。私が農業技術課に問い合わせたこととその回答が、第4回弁論直前に被告天草市にも情報提供として伝えられていたのです。その回答で、本件農薬散布が農薬使用基準違反だと指摘されていることから、このまま裁判を続行することは得策でないと被告が判断し、和解を申し出たものと思われます。
 第5回口頭弁論(2021.4.23)を前にして被告側から出された合意書(和解案)の概要は 

  1)今後、都市公園のサクラとウメ樹皮防除に石灰硫黄合剤は使用しない   2)農薬取締法に基づく農薬使用基準及び「住宅地における農薬使用について(25消安第175号)」を遵守する   3)原告は、和解後は本件訴訟における訴えをすべて取り下げる   4)本訴訟に関する手続き費用は各自の負担とする   5)原告・被告は本件に関して、原告・被告間には債務債権関係のないことを確認する

 というものでした。  1)は既に市長が約束しことです。天草市は何も譲歩もしていません。約束を守り、法を遵守して農薬散布するので、訴訟費用は各自負担して訴訟を取り下げろ!ということと同じです。天草市が違法な公金を支出したことの返還に関することは何も書かれていません。強い憤りを覚えます。第5回口頭弁論で、和解は拒否しました。

 次回弁論(2021.6.23)では、本件農薬散布が農薬取締法農薬使用基準違反であることを証する証拠として原告側から出された証拠(前記熊本県農業技術課ヘの質問及び回答)等についての準備書面が被告側から提出されることになっています。次回弁論で結審になるのではないかと予想しています。                                     以上
作成:2021-05-28