空中散布・松枯れにもどる
t01303#市民の大多数が反対−足利市での松枯れ農薬空中散布反対運動#93-05
 栃木県足利市では1980年から松枯れ対策と称して農薬の空中散布が行われてきました。91年には民有林650ヘクタール、国有林214.5ヘクタールにNAC40%の原液が12キロリットル散布されました。
 92年に3月に足利市内の39団体が連名で関係各団体に申し入れ書を提出し、4月に「足利の松くい虫防除のための空中散布に反対する連絡会」が結成されました。この間、国会では「松食い虫被害対策特別措置法」の4回目の延長が決まり、国会審議の中で、「反対運動があるところでは空散はしない」などと大臣も答弁していました。
 連絡会では人口の約1割に当たる14,500名の空散反対の署名を集め、市と市議会に陳情しました。これだけの反対署名があれば国会審議の経過からも当然空散は中止になるはずですが、市は家屋や公共施設から200メートル離しただけで空散を強行しました。貴重な野生生物であるオオタカの生息が確認されると、営巣の恐れのある15ヘクタールを見合わせるとして、民有林346ヘクタール、国有林215ヘクタールに空散されました。これは明らかに住民の意志を無視した暴挙です。
 反対連絡会は、飛散調査、大気汚染調査、落下虫調査、住民へのアンケート調査を行いました。その結果、飛散調査の結果では200〜500メートルの距離の飛散量が非常に多く、市街地と山林が複雑に入り組んだ地形であることや、雨が降ったりやんだりの天候だったため、遠くへ飛散するものがこの地域に落下したものと思われるという結果が発表されました。200メートル離しただけでは何の効果もなかったことが明らかです。
 落下虫調査では、目的害虫のマツノマダラカミキリは見つからず、代わりに広範囲な分類群にわたる昆虫が死んでおり、その殺虫力が実感されたとのことでした。
 こうした事実を踏まえて、反対連絡会では93年度は6883名の個人署名をもって市と市議会に陳情すると同時に、足利市内の団体から空散反対の団体署名を集めました。団体署名には医師会、病院、大学、幼稚園、寺、教会、自治会、スポーツクラブ、自然保護団体など、各方面から193団体が反対署名をしました。これだけ多彩な団体が反対の意志表示をしているところは全国でも珍しいと思われます。足利市民の意志は十分示されたと見るべきです。
 にもかかわらず、栃木県議会と足利市議会は空散中止の陳情を不採択にし、市は今年も空散を強行するとして着々と準備を進めてきました。これは明らかに特別措置法違反です。特別措置法の基本方針には「特別防除(農薬空中散布のこと)は、次に掲げる松林については実施しないものとし、それ以外の松林にあって、被害の程度が終息型の微害を超えており、予防措置を採ることが特に必要と認められるものであって、かつ、特別防除の実施につき地域住民等関係者の理解が得られる見込みがあるものについて実施するものとする」とあります。
 つまり、基本方針では、貴重な野生生物生息地など空中散布をしてはいけない松林をまず規定し、それ以外の松林でも@松枯れ被害の程度が微害を超えており、かつ、A関係住民等の理解が得られる見込みのあるものでないと空中散布はできないということです。
 足利市の場合はどうでしょうか。今年4月30日付けの「栃木県公報」では、足利市の空散地域346ヘクタールは「微害」と明記されています。微害を超えていないわけですから、空中散布をしてはいけない地域なわけです。公報によると、この地域はずっと微害だったということですから、何をかいわんやです。
 さらに、足利市のあらゆる階層の193団体が反対の意志表示をしているわけですから、「関係住民等の理解」は得られていないわけです。
 これほどはっきりした法律違反はないでしょう。これでも空散するとなると、法律とそれに基づいた基本方針は完全に無視されることになり、それを指導した林野庁の責任は重いといわざるを得ません。
 また、昨年のこの法律の延長の審議の中で、田名部農林水産大臣は「環境保全への配慮、この基本方針の趣旨が都府県初め地域の実施者の段階まで徹底するように、各種担当者会議等あらゆる機会を通じて指導していきたいし、万が一、そういうことで反対というところは、これは絶対にやってはいかぬ、そう思います」と答弁しています。いったい、どのように指導したというのでしょうか。大臣の責任も重いといわざるを得ません。
 こうした状況を指摘して、今年の4月21日に衆議員農林水産委員会で、社会党の田中恒利議員が質問しました。田名部農水大臣は昨年の答弁とはニュアンスを変えて「具体的に足利市につきましては、その方針を受けて(管理者の意向を十分確認してとの意味)、昨年度の実施に当たって、住宅地の周辺は散布区域から除外したと報告を受けているわけでありますが、特別防除の実施に当たりましては、今後とも地元の意向を十分把握するなどして、円滑な事業が実施できるように指導してまいりたい、こう考えております」と答弁しています。反対があるところでは絶対にしないという昨年の姿勢はもう見られません。
 こうしたいいかげんな行政に終始符をうつためにも、各地での創意に富んだ反対運動が必要と思われます。足利市の状況はまだ流動的ですので、続きは次号でお知らせします。(辻 万千子)

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作成:1998-04-01