街の農薬汚染にもどる
t05408#衛生昆虫の駆除−困った農薬殺虫剤の表示#96-09
 4月から10月にかけ、全国ではハエやカの駆除が行われます。東京の下町墨田区では、敗戦後から町会による衛生こん虫の駆除が続いています。
 区では薬剤を無料で配るため、必要のない場所への散布が目立ちます。ここでは通行人にかかったり、食用のシソやパセリにかけてしまうなど、「危険散布のデパート」とも言えるずさんな駆除が続いています。(詳しくはてんとう虫情報53号参照)(注1)
<表示の落とし穴>
 薬剤散布には多くの問題点があります。なかでも墨田区の散布では、「薬事法」における表示の不備が問題となりました。
 一般に殺虫剤などの化学物質は、「毒物及び劇物取締法」(毒劇法)によって、「毒物」「劇物」などに分けられます。
 こうした物質は、表の区分にしたがって表示が義務づけられています。農林業で使う「農薬」も同じです。
 ところが、ハエ・カ・ゴキブリなどの「衛生こん虫」を駆除するときは、「農薬」ではなく「医薬品」や「医薬部外品」(注2)が使われます。薬事法で医薬品として承認されたものは毒劇法の適用を受けません。つまり同じ成分の薬剤が、使う目的によって別々の法律で規制されているのです。
 しかし、医薬品にも毒劇法と非常に似た毒性区分があります。
 こちらは「毒薬」「劇薬」といいます。
 今回、墨田区で使われた有機リン系の医薬品「プロペタンホス」は、ラットの食べさせて半数が死亡する急性毒性の値(LD50)が、薬事法でいう「劇薬」に当たる値であることがわかりました。適用外の毒劇法にあてはめても「劇物」相当の毒性があるのです。
 しかし、これを示す「劇」の表示は容器のどこにもありません。
 このために、一般住民は市販のスプレー殺虫剤と同じようなつもりで使っていたのです。
<劇薬の指定漏れ?>
 なぜ、強い毒性を持ちながら「劇」の表示がなかったのか・・・。薬事法の施行規則(注3)では、劇薬は「厚生大臣の指定する医薬品」と定め、その基準は急性毒性については毒劇法と同じにしています。
 医薬用外なら劇物になるはずの殺虫剤が薬事法では厚生省が指定していないため、こうした表示がなかったのです。そして、同様に毒性のある防疫用殺虫薬のほとんどが、劇薬に指定されていないこともわかりました。
 医薬品のほとんどはヒトに対して使われ、こん虫用は全体のひとにぎりです。また、毒劇薬は医師や専門家による使用が中心です。薬事法は一般人が使うケースを想定してなかったのでしょうか。扱いが不慣れな住民に、最低限の注意表示としての「劇」の文字がなければ、殺虫剤が危ないものであることはわかりません。
 国にはこうした薬剤を劇薬指定するよう求めることが必要です。とりあえず薬剤により危被害を防ぐため「劇物」相当の殺虫剤は使わないよう自治体へ働きかけたいものです。(新巻圭)
 注1:この実態は8月5日と12日にMXテレビで特集された。
 注2:医薬品より作用が緩和なもの(薬事法2条2)
 注3:薬事法44条、薬品名は施行規則52条別表3

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作成:1998-04-01