室内汚染・シロアリ駆除剤にもどる
t05601#パラジクロロベンゼンら4物質の発ガン性が判明、2−ブロモプロパンには生殖毒性−労働省発信#96-11
11月6日付けの朝刊各紙に、労働省の委託した毒性試験で、パラジクロロベンゼン、1,1,1−トリクロロエタン、酢酸ビニル、ビフェニルに発癌性があることがわかり、今後、同省は労働者の健康障害を予防するための必要な措置をとることにしたという、ささやかな記事がでました。これに先立つ10月23日の読売新聞夕刊が、「フロン代替有機溶剤/2−ブロモプロパン 生殖機能に障害/労働省が予防通達」という記事を一面トップで報道した時と大違いです。
私たちの身のまわりの有害物質ということからいえば、前者の記事の方が、より重要度が高いのですが、このような報道の姿勢をみると、記者や新聞社の資質をもっと問うていかねばならない気がします。で、本誌は、まず、前々から疑惑を感じていたパラジクにやっぱり、発癌性があったのか、というところから、とり上げていきましょう。
(1)労働省が委託した発癌性試験
11月5日、労働省労働基準局安全衛生部化学物質調査課は、同省が神奈川県秦野市にある日本バイオアッセイ研究センター(労働省の外郭団体、中央労働災害防止協会が運営している試験機関)に委託した発癌性動物試験の結果、表1と表3−表は略−に示したように4つの化学物質で悪性腫瘍の発生がみとめられたと発表しました。
毒性試験は、各物質とも表に示した濃度条件で、いずれも、対照群を含めた4つの投与群にわけ、雌雄各群50匹、合計400匹のラット及びマウスを用い、2年間にわたって実施されています。
この実験報告をもとに、労働省は『人に対する癌原性は、現在確認されていないものの、労働者がこれらの物質に長期間にわたって暴露した場合に、健康障害を引き起こす可能性が否定できない』との判断をくだしていますが、それぞれの物質は表2−略−に示したように、私たちの身のまわりで使用されているお馴染みのものです。
実は、労働省の記者発表資料には、酢酸ビニルとジフェニルの用途として、表に*をつけた食品添加物としての利用が記載されていませんでした。これは、縦割り行政の悪しき慣習の現われでしょうか。労働省は労働者の職場環境での有害物質暴露による健康への影響のことのみを考えればいい。チューインガムは酢酸ビニル樹脂であって、モノマーではないから関係ないとか、ジフェニルが食品添加物であったとは知らなかったなどと、とぼけるのでしょうか。
食品添加物だけでなく、衣料防虫剤のパラクロロベンゼンも、1,1,1−トリクロロエタンの水道水質基準も厚生省の管轄でしたね。とすれば、厚生省には、記者発表に先だって、毒性試験の結果、これこれの物質に発癌性があることがわかったよと、御注進がいったことは、まず、間違いないでしょう。
私たちは、今回、発癌性の判明した4物質について、労働者の被曝防止の観点からだけでなく、子供を含む一般人の日常生活からも、使用を止めていく必要性を強く感じます。 それには、厚生省に対する働きかけが不可欠です。
酢酸ビニルについては、規制の前に酢酸ビニル樹脂やポリビニルアルコール系製品中
の残留モノマー調査が必要でしょう。1,1,1−トリクロロエタンでは、水質基準の見直し、ジフェニルについては、食品添加物の取消しが、当面の要求になるでしょう。パラジクロロベンゼンについては、80年代後半にトイレタリー用途を禁止したドイツの例をみならって、もらわねばなりません。
(2)パラジクロロベンゼン追放へ向けて
パラジクロロベンゼンについては、衣料用防虫剤やトイレタリーとしての使用の結果、室内大気汚染が深刻となり、一般環境汚染の指標になる魚介類よりも人体汚染の方が、進んでいることが、知られています。アメリカで行なわれた経口投与動物実験では、ラットの雄に尿細管細腺癌が、マウスの雄と雌に肝細胞癌や腺腫が認められています。
日本バイオアッセイ研究所での吸入発癌性試験は、マウスとラットを雌雄各群40匹、全体で400匹をもちい、対照群とともに、気中濃度20、75、300ppmの暴露群が設定されました。それぞれの暴露条件は、1日に6時間、1週に5日間、全身暴露で、104週間の投与が行なわれました。
発癌性が認められたのは、マウスの雌雄であって、表3のような結果が得られました。暴露濃度が0〜300ppmと増加するとともに、腫瘍を発生数が増加する傾向が認められ、特に、300ppmでの数値が高くなっています。
パラジクロロベンゼンは、ベンゼンの塩素化により製造しますが、主なメーカーは、呉羽化学、住友化学、日本化薬、保土谷化学、三井東圧、三菱ガス化学などです。身近で使用されている衣料防虫剤やトイレタリーのメーカーは、これらの会社から原体を仕入れ、製品化しているものと思われます。パラジク製品は、特徴のある化学品臭があるため、身の回りで使われているとすぐに、気づくものですが、なれてしまうと鼻検知器がまひしてしまいますから、知らず知らずのうちに、呼吸によって体内に取り込んでしまう量も相当になって、体内脂肪中にも見出だされるよになります。発癌性の明かになった今、パラジク製品の製造販売禁止を求めるとともに、使用をやめるよう運動を広げていきたいものです。
すでに、てんとう虫情報44号で取り上げたように、中学1年生の理科の教科書では、パラジクロロベンゼンを融点の実験に使う記述があり、日本消費者連盟らは、文部省に対して、この実験を止めるよう行政交渉をしています。また、パラジクロロベンゼンのトイレ用消臭剤を、公共の建物で使用しないようとの運動も行なわれています。
(3)2−ブロモプロパンの生殖毒性について
さて、読売新聞のスクープ?記事では、94年に、韓国の労働者の間で、フロン代替の電子部品洗浄液として使用されていた2−ブロモプロパン(別名イソプロピルブロマイド)によるとみられる生殖機能障害(男性は精子減少、女性では、卵巣機能低下など)が発生したことが紹介されています。この物質が日本からの輸入品であったため、労働省に連絡が入り、その後、韓国産業安全公団産業保健研究院と名古屋大学医学部、労働省産業医学総合研究所が共同でラットを用いた毒性試験を実施、雄では精巣重量と精子数減少が、雌では、性周期の異常が認められていることも報ぜられました。
労働省は、国内で2−ブロモプロパン使用している約20の事業所に対して、95年12月に暴露防止のための緊急措置を講ずるよう行政指導を行ない、現在まで、労働者の被害の報告はないとしています。
2−ブロモプロパンは、CH3−CHBr−CH3という化学構造を有しており、日本で、1958〜80年まで農薬登録されていた殺虫剤DBCP(ジブロモクロロプロパン、商品名ネマゴンなど:構造式CH2Br−CHBr−CH2Cl)と同系のハロゲン
化プロパンです。DBCPは、73年に動物実験で発癌性も認められたものの、そのま
ま製造販売がつづき、77年アメリカのカリフォルニア州の農薬製造工場労働者の間で、精子減少・無精子症の職業病をひきおこすしていることがわかりました。その後の調査で農民にも生殖機能障害がみられた上、79年には地下水汚染をひき起こし、結局、使用
が規制されたという、いわくつきの農薬です(日本では、毒性は問題とされず、メーカーの製造廃止届でこっそりと市場から消えていった)。−中略−
日本の場合、労働省がDBCPの製造工場の労働者の健康調査をしたとも聞ききません。もし、DBCPの生殖毒性をきちんと調べていたら、これと同類の2−ブロモプロパンの生殖毒性を疑い、韓国での職業病発生を未然に防げたかもしれません。薬害エイズ事件にみられたような行政と企業との癒着や行政の怠慢の構図は、ここにもみられるわけです。DBCPメーカーであった東ソーが2−ブロモプロパンを製造しているの知る時、化学業界の懲りない面々が、またもやったかといって済ましていいわけはありません。
ハロゲン化プロパン類といえば、土壌処理用の殺虫剤として年間1万3000klも利用されているD−D(商品名テロン、CH2Cl−CHCl−CH3とCH2Cl−CH=CHClの混合物)の存在を忘れてはなりません。D−Dに発癌性があることは、動物実験でわかっていますが、果たして、生殖毒性の有無はどうなのでしょう。
2−ブロモプロパンの職業病発生を契機に、労働省は、来年度から、既存化学物質の生殖毒性調査に乗りだす方針を打ち出したそうです。調査だけでなく、発癌性実験にみられるような独自の研究もやってもらいたいものです。私たちは、てんとう虫情報51号でふれた「Our Stolen Future」が警告している内分泌系撹乱物質(EDC)である農薬や化学物質を調査研究の対象にするよう、労働省に働きかけていきたいと思います。
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作成:1998-04-01