空中散布・松枯れにもどる
t06101#農薬空中散布の中止を勧告−滋賀県環境自治委員会が山崎さんの申立てに#97-03
滋賀県の養蚕家・山崎栖野さんは、水稲と松枯れの農薬空中散布による被害を訴え、81年12月に裁判をおこしました。3月27日に大阪高裁で判決が出される予定ですが、裁判とは別に、山崎さんはさまざまな調査や行政への働きかけを行い、農薬空中散布を中止させるための努力をしてきました。
その一つとして、山崎さんは、96年7月1日に施行された滋賀県環境基本条令に基づき、同年8月1日に「滋賀の環境自治を推進する委員会」(以下、環境自治委員会)に対して、「水稲病害虫防除農薬航空散布事業についての指摘」を提出し、農薬空中散布中止を求めました。環境自治委員会とは、県民の申し立てにより有識者が環境保全に関する調査審議を行う機関で、山崎さんの申し立てに対する勧告が最初の勧告となりました。
山崎さんは、滋賀県の空散が、農林水産航空事業実施指導要領、平成8年度農林水産航空事業推進方針(農水省農蚕園芸局長通知)などに違反していることを具体的な例をあげて指摘しました。例えば、危害対策を十分にしろとあるのに、散布除外区域にまで散布されており、無差別散布と思えるほどのひどい状況だった。河川にも飛散しており、住宅・道路も水田と同じように散布したと言えるほどの量の農薬が付着していた。また、通勤の車に飛散したり、余った農薬を水田や農道に捨てるなど、目にあまる状況だったとのことです。
環境自治委員会はこれを受け、6回の審査を行い、申し立て通りの状況などを確認したとのことで、環境に配慮した方法に改善するよう以下のような勧告を知事にしたと山崎さんに通知してきました。
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[審査結果通知書]
審査の結果
平成8年度審査申し立て第20号案件について、滋賀環境基本条令第28条第6項の規定により、滋賀県知事に対し、下記のとおり勧告します。
記
【勧告】
水稲病害虫防除について、航空機を利用して行う方法から、より環境に配慮した方法への転換をその事業主体に対して指導すること。
【理由】
航空機を利用して行う水稲病害虫防除のための農薬散布事業(以下「航空防除事業」という)に関し、農地以外の地点に多量の農薬の飛散があるため、航空防除現場の緊急調査と国及び県の指導要領等を遵守するよう散布者を適切に指導することや、事業を中止することを求めた申立について、当委員会は、担当課から関係資料の提出と意見陳述を求め、調査・審議を行いました。
その結果、県は、農林水産省の航空防除事業に関する要領等に基づき、市町村病害虫防除協議会が実施する航空防除事業が、危害防止対策に万全を期して適切に実施されるよう、事業実施計画のヒヤリングや危被害防止対策協議会の開催など事業実施関係者等の指導を行っているものと認められました。
しかし、県から提出のあった平成6年から平成8年の3年間の飛散状況調査結果では、一部地域で農薬の飛散が改善された地点も認められましたが、農薬散布区域外の多くの地点で、継続して農薬の飛散が確認され、散布区域から100mを越えて飛散している例もみられました。
このようなことから、農村部へ住宅地が進出し、農地と住宅が混在している地域もみられる本県の状況において、航空防除事業は、気象条件等から、ある程度散布区域外へ飛散することは避けられないと考えられ、当委員会としては、環境への負荷を削減するためには、水稲病害虫防除について、航空機を利用して行う方法から、より環境に配慮した方法への転換を図る必要があると判断しました。
なお、本県の農家は兼業農家が多いことから、水稲防除における作業の効率化を求めるという農業事情は理解できるものの、航空防除事業が実施されているのは、近畿地方では滋賀県内だけであり、他の地域においては、地上散布や無人ヘリコプターによる散布など航空防除以外の方法で実施されていること、県内では航空防除事業を実施していない地域もあることから、航空機を利用しなくても、水稲病害虫の防除を実施することは十分可能と判断します。
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この勧告は2月27日に滋賀県の稲葉知事に出されました。新聞報道によると、県は、農薬空中散布をしている26団体に改善を指導するとのことですが、担当課は新しい方法を準備しなければならないので中止まで3年はかかると述べています。
これに対して、山崎さんは、なぜ3年もかかるのか、直ちに中止すべきだと知事に要請しました。知事は「3年といわずできるだけ早期に中止されるよう指導する」と述べています。担当課の課長は山崎さんに対して文書で同様の回答をしてきました。
住民の意向を汲んで、県レベルの行政が空散中止を打ち出したのは初めてのケースではないでしょうか。もっとも、滋賀県は近畿地方で唯一、反対を押し切って水田での農薬空中散布を続けてきた県ですから、ようやく、他県並みになったともいえるかもしれません。
いずれにしろ、有人ヘリコプターによる空中散布は直ちに中止すべきものですが、無人ヘリコプターならいいというものではありません。てんとう虫情報第42号(95年10月)でも指摘していますが、無人ヘリコプターは高度が3〜4メートルあり、飛散量も有人ヘリコプターと大差ありません。また、農水省は無人ヘリを「空中散布等」という言葉でくくり、ある程度の規制をしていますが、有人ヘリに替わるものとして推奨しています。とんでもない話です。
このような方法に逃げるのではなく、農薬散布自体をどのように減らしていくか、環境保全型農業の確立に向けて行政は努力すべきでしょう。
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作成:1998-04-01