空中散布・松枯れにもどる
t06701#活用しよう、公害調停−松枯れ農薬散布で13件(全国)申請#97-08
松枯れ農薬空中散布、地上散布に反対する手法の一つとして公害調停申請があります。昨年から今年にかけて、全国で13件の申請が出されています。現在の状況について、「松枯れ農薬空散反対全国ネットワ−ク」西日本事務局長の渡部美津子さんに報告していただきます。
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多くの場合、松枯れ農薬散布は行政が実施する「公共事業」であり、それが破綻した理屈で成り立っている。この原則をふまえ効率的に運動を進めれば、容易にとは言わないが、大概の地域で事態は改善できる。面積縮小か全面中止に追い込めるかは、ひとえに運動側の気合と根気の問題であろう。
最近の松枯れ空散、地上散布反対運動の手法の一つとして、公害調停の制度と活用事例を紹介しよう。
公害調停は、「公害紛争処理法」に基づく制度であり、同法は高度経済成長期に多発した各種の深刻な公害事件を教訓に生まれた。公害事件の被害者にとって因果関係の立証、多額の経費負担、解決の長期化等々困難を極める民事裁判による司法的解決とは別に、手続きの形式的厳格性を緩和し、紛争の迅速かつ適正な解決を目的に1960年に制定されている。最近では豊島の処分場問題でよくマスコミに取り上げられているので、ご存知の方も多いと思う。
平たく言えば、公害事件の被害者の救済措置として、「公平・中立」な行政機関が、公害紛争を「処理」する制度で、裁判に比較して手続き的にはかなりアバウト、費用の点でも申請時に4000円程度必要なだけで、後は、資料作成、交通費等の実費程度を考えればいい。メニューにはあっせん、調停、仲裁、裁定があり、松枯れ空散の場合は「調停」がお薦め。行政機関がどこまで「公平・中立」な「処理」ができるか、地方レベルにいけばいくほど混沌としてくる向きがあるが、昨年3月の申請以来先発している島根県の体験でいえば、「使いよう」である。ともあれ、島根県は申請を受理し、調停が進んでいる。
公害調停申請で松枯れ問題が一挙に解決とは考えないが、公害紛争事件として地域住民に申請を起こされ、被申請者として調停委員会に出頭を命じられる行政側(事業主体)にとっては、決して名誉なことではない。
さらに、申請側の意見に対しては、きちんとした反論を資料を添付して行わなければならない。たしかに「止めろ」「止めない」ですれ違う行政交渉よりは、面白い論戦は期待できる。
昨年申請の7件のうち、
1.散布の全面中止
・愛媛県川内町(空散)
・島根県宍道町(地上散布)
2.面積の大幅縮小
・島根県出雲市(地上散布)
同(空散)
・島根県益田市(空散)
・山口県田万川町(空散)
・広島県福山市(空散)
3.変化なし
・島根県宍道町のゴルフ場(空散)
となっている。
1.2.の6件の実施主体はいずれも行政。3.は民間。益田市と田万川町の空散は「県際事件」として総理府の公害等調整委員会に移送され、他は各県の調停委員会または審査会の扱いとなっている。
今年度は6月に香川県高松市で1件(空散)、7月に島根県出雲市で1件(空散)、愛媛県北条市で2件(空散)、同県今治市で2件(地上散布)の計6件と、各地で調停申請が相次いでいる。今年4月の法改正で、防除実施基準に「人によって薬剤の影響の程度が異なる」の文言が盛り込まれ、法的に健康被害が起こり得る可能性が認定された。公害調停における健康被害論争にも追い風になることが期待される。松枯れ農薬散布は環境を汚染し、健康被害が起こっている(あるいは起こるおそれがある)ので、農薬を使わない松枯れ対策に転換せよ、というのが13件共通の申請者側の主張。インチキ松枯れ対策の息の根がこれで止められるかどうかは、今後の展開次第。世論の盛り上がりも大きな要因だと思う。世論喚起の強力な手段としても公害調停申請は有効である。(渡部美津子)
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作成:1998-04-01