内分泌撹乱物質にもどる
t06704#連載2 内分泌系撹乱物質が未来を奪う#97-08
2、「Our Stolen Future」を読みましたか
<なぜか遅れる翻訳出版>
 本号が出る前には、書店に並んでいると思われていた「our stolen future」の翻訳書の出版は、翔泳社への問い合わせによると、予定より遅れて、10月1日になるそうですが、実は、霞が関界隈では、マル秘印の押されたワープロA4版で219頁の全訳文書が、すでに出回っているのです。この資料には、公けにするにはどうかと思われる誤訳や悪訳がありますが、96年7月の日付がはいっており、アメリカで出版後、4ヵ月あまりで、一応の仮訳が完成していたことになります。行政や企業の連中は、早くから、この書に目を通しているにもかかわらず、正式な翻訳出版が遅れているため、一般大衆が、内分泌系撹乱物質に関する重大な警告を知らずにいるということは、テオ・コルボーンら原著者の意図するところではないでしょうから、翻訳権を有する翔泳社は、「神々の指紋」というベストセラーの出版に浮かれて、その社会的責任を放棄しているとしか考えられませんね。
 ともかく、この連載では「our stolen future」に沿って、話を進めていくことにしましょう。
<テオ・コルボーンのひらめき>
 それまでの人生で、バードウオッチングに情熱をもやし、環境運動にも関心を示していたテオ・コルボーンは、51才の時、ウイスコンシン大学の大学院に入学し、動物学の博士号をとりました。1985年、58才で、孫をもつ身のテオは、生まれてはじめて、ワシントンにでて来て、五大湖の魚の腫瘍や人の癌と汚染物質の関連の調査に携わるうちに、野生生物の生態の変化に強い興味を抱くようになりました。
 五大湖にすむ生物を長年調べてきたカナダの研究者たちとの交流が、テオに大きな影響をあたえました。セグロカモメでは、交尾に無関心な雄、雌同士のつがいによる巣作り、親鳥が抱卵をしない、巣を放棄するなどの行動異常がみられるという報告。一見正常に見えた雛が、突然、消耗症状を示して、死んでしまうという報告。鳥類の生殖器官の異常や雛の先天奇形の報告等々。多くの文献情報を整理し、そこに、何か共通するキーワードはないかと模索していたテオは、やがて、これらの異常の原因は、内分泌系の阻害と関連するのではないかという考えに行き当たりました。そして、一旦、ホルモンの作用ということに眼を向けると、これまでバラバラだったジグゾーパズルの断片が、ひとつの絵としてまとまるように、野生生物の異常を統合的に理解できるようになったのです。
 では、自然界に存在し、内分泌系を阻害している物質とは、なにでしょうか。テオの説によると、それは、内分泌系撹乱物質であるとうことになるのですが、その前に、内分泌物質、いわゆるホルモンの働きについて概観してみましょう。
<ホルモンとは>−略−
<ホルモンの微妙な作用−フォン・ザールの研究より>
 内分泌系作用の中で、テオが特に注目したのは、フォン・ザールの一連の研究です。彼は、実験用マウスのある行動−六匹の雌を入れる飼育箱に一匹を戻そうとする時、多くの場合、中の雌のうち一匹が侵入者に対して攻撃的であること−に気づきました。彼以前の研究で、この攻撃性は、雄に特有のもので、男性ホルモンであるテストステロンの作用によるものとされていました。雌のマウスの出生第一日にテストステロンを注射し、30日齢で卵巣を摘出し、成熟後にテストステロンを投与すると攻撃性を示すが、出生後に溶剤油を注射した対照の雌は、同様の処理をしても攻撃性を示めさなかったとの報告もあります。このことは、成熟前の性ホルモンの影響が成熟後にも残ることを意味しています。
 フォン・ザールは、出生前に子宮内でテストステロンの影響をより高いレベルで受けた雌が、出生後、雄に特有の攻撃性を示すのではかと考えました。多胎のマウスでは、子宮の中で、丁度さやえんどうの豆のようにいくつかの胎仔が並んで成育しています。中には、雄と雄に挟まれた位置に雌が受胎されていることもあるでしょう。雄は出生の一週間前にテストステロンを分泌しはじめます。とすれば、その雌は両隣の雄から流れでたテストステロンの影響を受けやすいということになり、そのため攻撃性という性格をもつようになるのではないかという仮説をたてました。
 計算上、このような雌が生まれる確率はおよそ六匹に一匹の割合だということが、彼の仮説を支持しているようでした。その後、フォン・ザールは、帝王切開によって生まれた胎仔に印をつけることにより、攻撃性をもつ雌と胎内の位置の関連に関する仮説が正しいことを証明しました。
 この実験が、ヒトにあてはまるかどうかは、わかりませんが、その意味するところは重要です。発生の段階でのわずかなホルモン環境の相違が、生殖器の分化に影響を与えることは、いうまでもなく、成育中の脳・神経系や免疫系にも影響を与え、出生後の肉体や性格をも左右する恐れがあるということです。そして、そこに、ホルモンの作用を撹乱する物質があったとしたら・・・。

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作成:1998-04-01