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t06805#マウスのガンは人に当てはまらない??−パラジク専門家会議の報告−TDIを越えているのに規制なし#97-09
去る8月28日、厚生省生活化学安全対策室は、パラジクロロベンゼンに関する家庭用品専門家会議の報告書を、公表しました。昨年11月、労働省が動物実験で、発ガン性があることを確認して以来、パラジク追放キャンペーンを行なってきた私たちは(てんとう虫情報56号参照)、国が使用禁止の断を下だすものと期待していましたが、報告書の結論は、以下に示すように、何の規制措置も挙げない、なんともお粗末なものでした。
<人に対する発ガン性はない>
厚生省・国立医薬品食品衛生研究所(旧国立衛試)のメンバーで構成されるリスク評価委員会は、日本バイオアッセイ研究センターのパラジク動物実験(労働省委託研究)をはじめ、欧米とWHOの関連論文を検討し、たたき台となる報告を専門家会議に提出しました。
この中で、発ガン性を認めた労働省委託研究が再評価され、マウスの300ppm投与群で肝腫瘍が増加したという結論が確認されたものの、パラジク(DCB)と関連ありとされていた腫瘍病変のうち、二点がDBC投与に起因すると断定できずとして、採用されませんでした(下表参照)。
さらに、肯定した腫瘍病変については、「マウスの種特異的な高感受性の結果としての肝腫瘍発現」したものであるとした上、「DBCは齧歯類での非遺伝子傷害性発ガン物質であり、その発ガン性に閾値がある」と結論されました。
マウスの腫瘍病変 労働省 厚生省
雄 肝臓 肝細胞癌 関連あり 肯定
肝臓 組織球性肉腫 関連あり 断定できず
雌 肝臓 肝細胞癌 関連あり 肯定
肝臓 肝細胞腺腫 関連あり 肯定
肺 細気管支−肺胞上皮癌 関連あり 断定できず
厚生省の結論は、マウスには発ガン性はあるが、発ガンメカニズムを検討したところ、人が発ガンする危険性はなかったということです。労働省が、「人に対するがん原性については、現在確認されていないものの、労働者がこれらの物質に長期間にわたって暴露した場合に健康傷害を引き起こす可能性が否定できない」としているのとは、大違いです。
パラジクの発ガン性評価については、専門家会議内でも、問題になりましたが、結局のところ、以下の議事録の論議にみられるように、医食衛研の見解に押し切られてしまいました。今後、労働省側からの反論を待ちたい気もします。−中略−
<水質基準より15倍も高いTDI>
発ガン性を認めなかった厚生省は、少しは気がとがめたか、パラジクの耐容平均気中濃度を0.1ppmと設定しました。厚生省の担当者の言によると耐容一日摂取量(TDI)の空気版で、農薬や食品添加物の一日摂取許容量(ADI)と異なり、汚染物質などに使う用語とのこと。パラジクは使う人だけが暴露するわけではないから、一般の人にとってはやっぱり汚染物質だそうです。
この数値は、日本バイオアッセイの雌ラットの実験で得られた慢性鼻腔粘膜組織変化の最大無毒性量20ppmに安全係数100分の一を乗じたものです。体重50kgの成人が一日15立方米の空気を吸うとしていますから、TDIとして、0.177mg/kg/日が採用されたことになります。ところが、厚生省が水道水の監視項目としてあげているパラジクの数値は0.3mg/Lで、体重50kgの人が一日2Lの水を摂取するとすれば、TDIは0.012mg/kg/日となります。同じ厚生省のだした基準で、空気の場合のTDIが水の場合より約15倍も高いのです。
日本バイオアッセイの動物実験は、あくまで労働者を対象としたもので、パラジクの吸入条件も6時間/日、5日/週と週休2日制を想定して実施されています。しかし、一般空気では、46時中すなはち24時間/日、7日/週の被曝を想定せねならず、毒性の現われ方も断続的に被曝する場合と異なると考えられますが、この点を、一顧だにしなかったことが、TDIの矛盾となったのでしょうか。水の場合のTDIだって、アメリカの水道水基準が0.075mg/Lと日本のものよりも低いことを思えば、あやしいものです。
厚生省が検討した文献の中には、モルモットを用いたアレルギー性結膜炎の実験があり、3.2ppbでも影響がみられていることを考慮にいれたら、TDIをずっと低い値においた基準を設定すべきなのです。
もっと問題なのは、現実に報告されているパラジクの室内汚染値が、以下の表にあるように0.1ppmを越えることは、ざらにあるということです。平均個人暴露濃度では、家庭にいる時間が最も長い主婦が0.030〜0.545ppm(平均0.118ppm)と一番高いことも判明しています。
通常の使い方をしていて、厚生省が設定した高めの耐容平均気中濃度をも越えてしまうような物質は、日用品から、直ちに放逐すべきだと思います。パラジクに関していえば、何の規制対策もとらないで、濃度基準だけをうんぬんする段階はもはや、過ぎているのです。厚生省の役人や専門家たちには、生活感覚というものは、ないのでしょうか。1ppmくらいのパラジク雰囲気中で、鼻をしかめながら、一日中、議論をしてもらい、どう感じたか、ぜひ意見を聞きたいものです。
表 家庭内のパラジク濃度(出典:専門家会議報告書)
部屋 試料数 濃度(ppm:カッコ内は平均値)
居間 394 0.00001 〜2.657(0.146)
寝室 276 0.000008〜7.840(0.332)
台所 156 0.000008〜2.429(0.081)
トイレ 2 0.043 〜1.174(0.609)
<パラジク完全追放をめざしそう>
−中略−今後とも、何ら使用規制をしようとしない厚生省になりかわり、トイレ用品だけでなく、衣料防虫剤も含めたパラジク完全追放をめざしてがんばりたいと思います。そして、同省に対しては、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」で、きちんとパラジクの使用禁止を決めてもらうよう運動を続けていきましょう。
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作成:1998-04-01