内分泌撹乱物質にもどる
t07304#連載8 内分泌撹乱物質が未来を奪う#98-02
6、内分泌撹乱物質各論−農薬類(その1)
 内分泌撹乱物質に関して、厚生省はプラスチック容器から食品中への溶出試験で、従来の食品衛生法による基準の見直しを、環境庁は水質・土壌・食品を対象に汚染実態の調査行なう意向を示すなど、遅蒔きながら、この連載で、指摘してきたことの一部を、行政サイドが実行に移し始める気配が感じられます。しかし、今回から触れる農薬については、いまだ、アクションがとられる様相がみえません。
<あぶない農薬リストはおなじみのもの>
 通産省の委託調査「内分泌系(エンドクリン)に作用する化学物質に関する調査研究」報告書(日本化学工業協会97年3月作成、以下通産省報告書という)に、内分泌撹乱物質としてリストアップされている農薬を表−略−にあげました(個々の農薬のほかに、有機リン系、コナゾール系、ピレスロイド系などとして化合物群の名前があがっているものもあります。また、これとは別に連載第6回で述べたノニルフェノール系の農薬や展着剤があることを忘れてはなりません)。
 表には、日本での現在の農薬登録状況、95年の各農薬の製剤生産量及び農薬の毒性を示しました。毒性については、「農薬毒性の事典」を参考にしてあります。
 この表を見て、まず、気づくことは、何だ、あぶない農薬の殆どは、いままで、私たちがその毒性を問題にしてきたものではないかということです。発ガン性、催奇形性、生殖毒性なと従来の動物実験の知見から、充分危険であることが判かっており、その使用をやめるよう求めてきた農薬が、大部分をしめています。
 従来の動物実験の内容を、その生体内での作用メカニズムから解釈すると、どうも内分泌系への作用結果らしいことがわかってきたことの現われかも知れません。
<有機塩素系農薬の問題は終わっていない>
 もうひとつ気がつくのは、表に挙がっている農薬で、現在日本で登録されていないものや登録が失効したものが、多くあることです。なかでも、2,4,5−T、DDT、BHC、HCB、NIP、ディルドリン、アルドリン、エンドリン、クロルデン、ヘプタクロル、クロルデコン、カンフェクロン、ミレックス等々の有機塩素系農薬が眼につきます。
 報告書では、この点に関連して、次のようなまとめの記述がみられます。
「DBCP、DDT、アルドリン、ディルドリン、エンドリン、クロルデン、ヘプタクロル、PCBがわが国で全面使用禁止になってから、最低10年を経過した。このような使用の実態といくつかの環境庁、厚生省関連機関による環境試料の微量分析に基づけば、これらの化合物のホルモン様作用に起因した人体や野生生物への悪影響を懸念すべき材料は見当たらない。」
 確かに、リストアップされた有機塩素系化合物農薬の多くは、化審法で規制されたり、農薬登録が失効したり、日本では登録されていないものですが、このことで、環境汚染問題がかたづいたわけではありません。
 DDTやBHCは、農薬取締法で、販売禁止措置がとられた1971年頃に、農水省の指示で埋設処理されました。しかし、93年に入り、鳥取県をはじめとする全国で、当時のずさんな処理方法が問題となり、掘り起こして安全管理するようにとの住民運動が起こっています(てんとう虫情報20〜22号参照)。
 ダイオキシンを含む2,4,5−Tも同じ時期に、林野庁の指示により、山林の中に埋立られ、同様な時限爆弾問題をかかえています。
 ディルドリンやクロルデンは、農薬登録失効後、シロアリ駆除や木材処理剤として使用され、環境汚染をひきおこしたため、化審法による製造・販売禁止措置を受けることになりましたが、処理木材が廃材となり、環境汚染の機会をねらっていますし、燃やせばダイオキシンの発生につながる恐れもあり得ます。
 有機塩素系農薬が、日本で現在使用されていないからといって、過去の問題となってしまったのではなく、私たちは、かって使用したつけを今後、何十年にもわたって負わねばならないのです。
 また、海外では、DDTやBHCほかの有機塩素系農薬が、依然として使用されており、輸入食品に残留して、私たちの口にはいってくるとともに、POPs(残留性有機汚染物質)として、地球規模で、生態系を侵し続けています。カーソンが「沈黙の春」で、コルボーンが「私たちの奪われた未来」で例示したいくつもの自然界の異変に関して、報告書が、独自な調査をすることなく「人体や野生生物への悪影響を懸念すべき材料は見当たらない。」と断ずるのは、あまりにも無責任ないい方だと思います。
<フェノトリンが男性ホルモンを邪魔する、OPPは大丈夫?>
 表中には、日本で、農薬登録が失効したり、登録されていなくても、他の用途で使用されているものもあります。
 フェニルフェノールは、食品添加物OPPとして、柑橘類の防カビ剤に使うことが認められており、数ppmのオーダーで、レモン、グレープ・フルーツ、オレンジなどに残留していますし、マーマレードなどの加工品にも検出されていますから、内分泌撹乱物質としての作用が気になります。
 ピレスロイド系殺虫剤のフェノトリンは、農薬ではなく、シラミ退治用の薬剤として活躍しています(スミスリンパウダーという商品名で、96年の売上高は約21万本です)。主に学童の頭ジラミを殺すために頭髪に処理されますが、これを散布されたハイチ難民の男性に乳房が膨らむという現象がみられとの報告があります。フェノトリンが、男性ホルモンであるアンドロジェンの受容体に作用し、アンドロジェンが結合するのを妨害するためと考えられています。表には、ピレスロイド系のペルメトリンも内分泌撹乱物質として挙がっています。この薬剤は、農薬としてだけではなく、家庭用殺虫剤や電車内消毒にも使われ、その室内汚染状況が報告されていますので(てんとう虫情報44号に詳しい)、身近かなものとしてホルモン系への影響が心配です。
表  内分泌系撹乱物質として挙げられている農薬リスト
                  (通産省報告書を元に作成)

農薬名      用途          登録失効  生産量   毒性
                          年月日    t又はkl

2,4,5-T     除草剤        75/04/17          催奇形性・発癌性のダイオキシン含有 
2,4-DB      除草剤        未登録*1          ダイオキシン含有
2,4-PA      除草剤                   807    催奇形性、ダイオキシン含有
BHC(リンデン)  殺虫剤、家庭用 71/12/30          マウス・犬で生殖毒性、鳥類の繁殖異常 
DBCP        殺虫剤        80/02/12          マウス・ラットで発癌性、労働者に無精子症 
DDT*2      殺虫剤、家庭用 71/05/01          マウスで発癌性、鳥類の繁殖障害 
EDB     殺虫剤        90/12/18          マウス・ラットで発癌性、精子数減少、行動異常
HCB         殺菌剤        未登録            ハムスターで発癌性、マウスで催奇形性 
NAC         殺虫剤                 2166     ラットで発癌性、精子形成能などに異常
NIP         除草剤        82/06/29          マウス・ラットで発癌性                   
PCP         除草剤、シロアリ   90/02/19          ラットで催奇形性                      
TCTP        除草剤                   12     発癌性・催奇形性のHCB含有          
アイオキシニル     除草剤                  126     マウスで仔の成長抑制                  
アトラジン      除草剤                  708     ラット・マウスで発癌性、妊娠ラットで胎仔数減 
アミトラズ      殺虫剤                   58 
アミトロール(ATA) 除草剤        75/03/31          ラットで発癌性
アラクロール      除草剤                  370     ラット・マウスで発癌性
アルディカルブ   殺虫剤        未登録            免疫抑制
アルドリン      殺虫剤        75/02/19          ラットで発癌性
エンドリン      殺虫剤、殺鼠剤 75/12/18          ラットで発癌性
カルベンダゾール 殺菌剤                          ラットで催奇形性、妊娠ラット・ウサギで胎仔の
                                            死亡率増加
カルボフラン     殺虫剤        未登録 
カンフェクロン     殺虫剤        未登録            マウスで発癌性
キザロホップエチル 除草剤                   11
クロルデコン     殺虫剤        未登録            労働者にホルモン異常・精子減少
クロルデン*3    殺虫剤、シロアリ   68/12/17          マウスで発癌性
クロルフェナミジン  殺虫剤        82/05/29          発癌性
ジコホール      殺虫剤                  217     マウスで発癌性
ジネブ       殺菌剤                  175     妊娠ラットで催奇形性、ラットで精子成長阻害
ジノセブ      除草剤        89/06/22          マウス・ラットで催奇形性 
ジラム        殺菌剤                  669     妊娠ラットで胚の分化抑制
ディルドリン    殺虫剤、シロアリ   73/08/07          マウスで発癌性、マウスで胎仔の大きさ減少 
トリフォリン      殺菌剤                   57
トリフルラリン     除草剤                 5121     マウスで発癌性、妊娠マウスで催奇形性     
トリブチルスズ   殺菌剤、防汚剤 77/01/28          ラットで発癌性、免疫毒性、胎仔毒性     
パラチオン      殺虫剤        71/02/25                                           
ビンクロゾリン   殺菌剤                   69     ラットで発癌性、ラットで副生殖腺萎縮
フェナリモル      殺菌剤                   56
フェニルフェノール   殺菌剤、食添   69/02/22          ラットで発癌性、妊娠ラットで胚死亡率増加 
フェノトリン      殺虫剤、家庭用 未登録 
フェンチンアセテート  殺菌剤        75/07/08
フルアジホップ   除草剤                   15
-ブチル
ブロモキシニル    除草剤        未登録            発癌性
プロシミドン    殺菌剤                  120
ヘプタクロル     殺虫剤、シロアリ   72/08/09          代謝物ヘプタクロルエポキシがマウスで発癌性、
                                            ラットで繁殖力低下
ベノミル       殺菌剤                  521     ラットで催奇形性、ラットで生殖器重量・
                                            精子数減少
ベンゾエピン   殺虫剤                  889     ラットで催奇形性
ペルメトリン     殺虫剤、家庭用           292
マンゼブ      殺菌剤                 3168    催奇形性・発癌性のETUを含む、ラットで
                                           精子の成熟阻害
マンネブ       殺菌剤                 1131    ラット・マウスで発癌性、ラットで催奇形性     
ミレックス       殺虫剤        未登録           マウス・ラットで発癌性                   
メソミル        殺虫剤                  938
メチラム        殺菌剤        75/03/04 
メトキシクロル     殺虫剤        60/06/14 
メトリブジン    除草剤                   30
モリネート       除草剤                  108
リニュロン       除草剤                  332    ラットで催奇形性

  *1:日本では登録されていない農薬
  *2:代謝物DDEを含む
  *3:オキシクロルデン、トランス−ノナクロールを含む

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作成:1998-04-01、 更新:1998-06-01