内分泌撹乱物質にもどる
t07404#連載9 内分泌撹乱物質が未来を奪う#98-03
6、内分泌撹乱物質各論−農薬類(その2)
<教訓にせねばならないDBCPによる職業病>
前回の掲げた内分泌撹乱物質農薬リストには、すでに日本で登録失効したDBCPがあがっています。この薬剤は臭素を含む殺虫剤で、動物実験での発ガン性や生殖毒性が問題になり市場から姿を消していきました。DBCPは、また、ヒトに対する生殖毒性がはっきりしている数少ない農薬のひとつですが、その作用メカニズムはよく解かっていません。
1977年、アメリカのダウケミカルのDBCP工場の労働者仲間が、自分達に子供ができないことに気づいたのが、無精子症発見のきっかけになり、その後、散布した農民も生殖機能に障害を受けていることも明かになりました。その20年も前にメーカーが動物実験で、不妊症の誘発を確かめていたにもかかわらず、何の規制もとられれないまま製造使用が続いたことが、大きな禍根を残しました。
日本では、東洋ソーダが国産化し、土壌処理用の殺虫剤として累積で3115トン生産されましたが、83年にメ−カーが製造を廃止するというかたちで、こっそり消えていきました。そのため、DBCP製造工場の労働者が農民の健康にどのような影響を与えているかは、全くかえりみられていないのです。その結果でしょうか。94年になって、DBCPと構造の類似した2−ブロモプロパンを日本から輸入し電子部品洗浄液として使用していた韓国の労働者に生殖機能障害を引き起こすことになりますが、このことはてんとう虫情報56号をお読みください。
動物実験の結果を真摯に受けとめること、毒性が判明した場合は、その事実を公表し、農薬取締法に基づく製造販売禁止の措置をとること、その農薬メーカーの労働者や農民の健康診断をきちんとすることが、同じような被害を繰り返さないための鉄則でしょう。
<船底塗料トリブチル錫化合物が巻貝のインポセックスの原因に>
有機錫化合物の一種であるトリブチル錫化合物が、メスの巻貝に対して、ペニスを生ぜしめたり、卵形成を阻害し、不妊作用を及ぼすことが、イギリスの研究者らの手で明かになったのは1986年のことでした。この現象はインポセックスと呼ばれ、トリフェニル錫など他の有機錫化合物でも、同様な現象がみられたとの報告もあります。日本では、国立環境研究所の研究者が、1994年にイボニシのインポセックスについて報告しています。トリブチル錫が巻貝で、インポセックスを起こす海水濃度は、0.01〜0.1ppbと極めて低いことが注目されます。
哺乳類への毒性については、トリブチル錫のラットへの投与実験で、副腎皮質ガン、下垂体腫瘍の増加が認められ、ホルモン系にも影響がみられたとする報告もあり、アンドロゲン作用が疑われてますし、胸腺を萎縮させて、免疫系にも影響を与えることや神経伝達物質の機能を阻害しすることも判明しています。
<シロアリ駆除剤と同じ道をたどる有機錫>−略−
<まだ続く有機錫の環境汚染>−略−
<化審法で抜けおちている生態系への安全性チェック>
有機錫汚染をなくすために、早急に、国際的な使用規制措置をとることが必要なのはいうまでもありません。しかし、化審法で、またしても、有機錫の環境汚染は防止できなかったことを反省する必要があります。インポセックスが判明した87年の時点で、イギリス並に船底塗料・漁網処理剤の使用規制をとることもできたはずなのに、通産省は、その時期を3年も遅らせてしまいました。毒性に対する評価が、全然甘かったといえます。
そもそも、この化審法が制定された当時、それまで、使用されていた物質は、フリーパス同然で、既存化学物質のリストにのりました。その後この法律は、環境汚染をおこしている化学物質の後追い規制することに終始しています。毒性に対しては、先見性をもって規制を強化する方向に化審法を改定・運用していくことが重要な課題だと思われます。
船底塗料ついていえば、船の底に貝殻がついて船足が落ちるのを防ぐための、いわば、石油節約・省エネのための製品として、貝の繁殖を抑さえる代替塗料も開発されつつあります。その際、水に溶ける物質を用いれば、有機錫の二の舞になる恐れが十分ありますから、化審法による化学物質の魚介類での濃縮試験のほか、水生生物への影響がどうかを調べるチェック体制をつくるべきでしょう。
ヒトが自分に不都合なものを皆殺しにすることを目的に、環境中にばらまくような農薬やそれに類する化学物質については、ヒトに対する安全性だけでなく、生態系全体に対する安全性を考える必要があります(内分泌撹乱物質や有機リン剤のように、生物に共通の機作で作用する物質は特に)。それがひいては、ヒトの安全性につながるわけですから。
<『メス化する自然』を読んで>−略−
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作成:1998-05-01