内分泌撹乱物質にもどる
t07505#内分泌撹乱物質が未来を奪う(10)農薬類(その3)#98-04
<トリアジン系除草剤>
 通産省報告書では、除草剤アトラジンが、内分泌撹乱物質であると指摘されており、ラットのオスで前立腺重量増加、メスで性周期の休止期延長・交尾率低下、乳癌・乳腺腫瘍、また、ラットでテストステロンの代謝阻害などがみられたなどの毒性試験結果が解説されています。
 また、前々回の一覧表にはあがっていない、同じトリアジン系除草剤シマジン(一般名CAT)の名が、「アトラジン、シマジン、ビンクロゾリンなどは、わが国で農薬に要請される環境データは整備されていると考えてよく、シマジンが一昨年水質汚濁農薬に指定されたのを見ても必要な規制措置はとられていると考えてよい。」と、唐突にでてきてます。
 シマジンは非農耕地の芝地用除草剤としても多用され、ゴルフ場や公団団地でも散布されたため、周辺大気を汚染し、住民が使用中止を求めた経緯がありますが(てんとう虫情報24号)、そんなことには、ひとことも触れず、規制が実施されたのは、あたかも、農薬取締法が、十分機能している結果であるかのような印象を与える表現になっているのは解せません。同剤は95、96年度においても、それぞれ2237、1508トンと生産が続いていることを忘れてはなりません。
 欧米では、畑作での使用量が多いアトラジンの地下水や飲料水汚染が問題となっていますが、日本では、トリアジン系除草剤の中でも、水田での使用が目立つシメトリン(96年製剤生産量6603トン)、ジメタメトリン(同3257トン)、プロメトリン(同550トン)による水系汚染に注意せねばなりません。ちなみに、92年の環境庁の調査では、水質78検体中6検体に、0.1から0.27ppbのシメトリンが検出されています。上記のアトラジン系農薬の中で、水道水質基準があるのは、シマジンの3ppbだけです。
 ほかに、トリアジン系農薬としては、除草剤アメトリン(同29トン)、シアナジン(同21トン)、ヘキサジノン(同10トン)、メトスルフロンメチル(同0.1トン)、メトリプジン(同60.4トン)及び殺菌剤トリアジン(アニラジン:同159トン)があります。
 これら、トリアジン系農薬の内分泌系撹乱作用をきちんとチェックする必要があるでしょう。
<ジチオカーバメート系殺菌剤>
 通産省の報告書で解説されている登録農薬は、一覧表にあげた農薬の中のごく一部−ジコホール、アトラジン、シマジン、ビンクロゾリンの4種−にすぎません。しかも、「4農薬についても特に今後現行の農薬取締法を越えて問題視すべき点が生ずるとは余り考えられない。」とあるだけで、他の農薬については、あたかも現行の農薬取締法で十分だといいたげですが、とんでもありません。
 まず、下垂体−甲状腺軸に作用し、甲状腺ホルモンの産生に影響を与える内分泌撹乱物質として挙げられているジネブ、ジラム、マンゼブ、マンネブらは、エチレンビスジチオカーバメート系化合物で、殺菌剤として登録されており、この4農薬で、年間5143トン(95年度)の製剤が生産されています。いずれも、動物実験で、発ガン性や催奇形性があることが指摘されているだけでなく、その不純物・代謝物であるETU(エチレンチオウレア)の毒性も問題となります。これらの薬剤に、残留基準がないことも気が懸かりですし、一覧表にはありませんが、同系の化合物であるチウラム(農薬以外にゴム添加剤としも使用され、水道水質基準が6ppbとなっている)やポリカーバメートの内分泌撹乱作用の有無も調べる必要があります。
<要注意の農薬がいっぱい>
 一覧表をみると、ほかに製剤生産量が年間500トンを越える農薬だけでも、トリフルラリンを筆頭に、NAC(カルバリル)、メソミル(ランネート)、ベノミル(ベンレート)、ベンゾエピン(エンドスルファン)、2,4−PA(2,4−D)らがあることがわかります。
 トリフルラリンは、マウスで肝細胞ガン、肺胞・細気管腺腫、胃ガンなどが報告されていますし、魚の下垂体らに影響を与えることも分かっています。また、妊娠マウスへの投与で肋骨奇形や心臓欠陥がみられました。
 カーバメート系の殺虫剤NACについては、97年、松枯れ空中散布用の薬剤の製造・販売が、メーカーの自主的判断で、突然中止されましたが、これは、同剤の毒性に問題があったためだと思われます。この農薬はラットでの発ガン性があきらかになっているほか、動物実験で、精巣の重量増加、精子数の減少と運動性の低下も報告されています(てんとう虫情報66号参照)。また、NAC製造工場の労働者の調査では、精子の奇形が増えるとの報告もあり、早急な使用規制が望まれます。
 同系の殺虫剤メソミルは、ラットで、甲状腺から分泌されるチロキシンや下垂体からの成長ホルモンであるソマトトロピンのレベルに、また、殺菌剤ベノミルは、ラットへの投与で、オスの生殖器の重量や精子数が減少し、精子形成能に、影響を与えることが明かになっています。
 殺虫剤ベンゾエピンは、有機塩素系の水質汚濁性農薬で、妊娠マウスへの投与で、胚死亡や胎仔の骨格奇形が報告されています。
 除草剤2,4−PAは、ベトナム戦争でアメリカ軍が使用した枯れ葉剤の成分のひとつで、ダイオキシン類が含まれており、環境保護団体グリーンピースは、アメリカの農民を対象とした疫学調査で、2,4−PAとリンパ系の癌である非ホジキンスリンパ腫の発生との関係が認められとして、同剤の生産を中止するよう求めていますが(てんとう虫情報22号)、日本では水稲用だけでなく、非農耕地用にも使用されています。
 以上6農薬は、さまざまな毒性が懸念されるにもかかわらす、NAC以外、残留基準がないことも懸念材料です。
 さらに、一覧表には、日本では、既に登録は失効していますが、有機リン系のパラチオンの名がみられます。この薬剤がウズラの実験で黄体形成ホルモンの産生に影響を与える内分泌撹乱物質とされているのが不安です。私たちは、いままで、農薬空中散布やシロアリ駆除剤・防虫畳・家庭用殺虫剤に使われる有機リン剤の空気汚染の結果、同剤が神経系の毒物としてヒトの健康に影響を与えることを問題視してきましたが、例えば、スミチオン(MEP)★DDVP/マラチオンのように動物実験で精子形成異常が報告されている薬剤もあることを思えば、身近に使われ、しかも生産量が多い有機リン系薬剤の内分泌撹乱作用も早急に調べる必要があります。
−以下の節略−
<毒性データを公開し再評価をあおぐべき>
<農薬毒性試験を見直す必要がある>
<内分泌撹乱農薬はゼロリスクの原則で>

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作成:1998-06-01