内分泌撹乱物質にもどる
t07605#内分泌撹乱物質が未来を奪う(11)ダイオキシン・PCB・その他#98-05
<ダイオキシンの内分泌撹乱作用機構>
 ダイオキシン、その中でも史上最強の毒物と言われる2,3,7,8−TCDDは、人体に様々な悪影響を与える内分泌撹乱物質ですが、いまのところ、女性ホルモンのエストロジェン様物質として、その受容体と結びつく物質とはみなされていません。 現在、ダイオキシンの作用メカニズムとして広く受け入れられているのは、1973年にだされた、ポーランドの仮説を発展させたもので、アリル炭化水素受容体を介するAh受容体説です。
 図1(省略)に示すように、2,3,7,8−TCDDは、まず、細胞内にあるアリル炭化水素受容体(Ah−R)と結合して、ダイオキシン・Ah−R結合体となり、受容体を活性化します。結合の強さはダイオキシンの同族体構造で異なり、2,3,7,8位置に塩素を有するものがもっとも強いとされています。次の段階で、この結合体は、Arnt(核内輸送体)と結びつき、核内を運ばれて、DNA上にある特定の遺伝子に作用し、それが働くためのスイッチをいれます。図では、そのひとつチトクロームp1A1遺伝子に作用する例が示されています。この遺伝子のスイッチがはいると、アリル炭化水素水酸化酵素が生産されだし、体内にはいってきた毒物であるTCDDを代謝しようとしますが、TCDDは、なかなか壊れないため、水酸化酵素はますます大量に生産され、その結果、他の物質−性ホルモンや甲状腺ホルモンなども−が代謝され、生体調節機構に異変がおこる、いいかえると内分泌系が撹乱されることになります。
 Ah−Rは孤児受容体の異名をもち、何と結合し、どのような遺伝子を働かせるかは、明確になっていません。2,3,7,8−TCDDの毒性発現の様子からして、他の遺伝子にも作用し、発がん作用、催奇形性、免疫抑制、生殖異常などの毒性が発現すると考えられます。
 また、ダイオキシンの作用機構として、例えば、2,7−二塩化ダイオキシンは、Ah−Rとの結合性が低いにもかかわらず、免疫抑制を示すことなどから、Ah−Rを介さない場合もあると考えられていますし、TCDDがプロゲステロンや上皮成長因子、プロラクチンなどのホルモンの受容体を変化させることも明らかになっています。
 さらに、TCDDは、甲状腺ホルモンであるチロキシンと類似構造にあるため、ニセホルモン作用をして、中枢神経系の発達を阻害するとの説もあります。
<ダイオキシンの毒性に危機感のない通産省>
 2,3,7,8−TCDDの毒性について、通産省報告書は以下のようにまとめています。
『動物に対する急性毒性は極めて強く(TCDDはモルモット雄では600ng/kgのLD50値を示す)、体内での代謝は緩徐であり、排泄されにくく、脂肪、肝臓に蓄積が認められる。TCDDに曝露された人間では体重滅少、胸腺の萎縮、肝代謝障害、性ホルモンや甲状腺ホルモン代謝異常が見出されている。また塩素ザ瘡、学習能力の低下、中枢神経症状が報告されているが、疫学的に十分論証されてはいない。TCDDはマウスやラツトで肝細胞腫、甲状腺腫を惹き起こすがそれ自身に変異原性はなく、発がんブロモーターの作用を有することが知られている。雄ラットにおける単回投与で性行動の雌性化、精嚢、前立腺、精巣などの重量低下、アンドロゲンレベルの低下が報告されており、雌では子宮の萎縮、黄体の滅少が観察されている。子宮内曝露で雄の出生児の雌性化(たとえばAGDの減少)、雌の出生児においては外生殖器の形態異常や性成熟の遅延がみられる。サルへの慢性混餌投与による子宮内膜炎の発現率上昇や周産期投与による学習能力ヘの影響(上昇/低下)も見られる。さらに動物、人間において広範な免疫毒性を示す。』としているものの、ダイオキシン問題の原点ともいうべき、ベトナムでの枯れ葉剤作戦とヒトの健康被害について、殆ど触れていない点は、反農薬シリーズ12「ダイオキシンが未来を奪う」に述べた厚生省や環境庁の報告と同じです。そのために、両省庁の見解をを追認するだけで、まるで、危機感がありません。
 実験動物とヒトの場合は、毒性の発現のしかたが異なるとのんきに構えていたら、大変なことになります。内分泌撹乱物質の作用は動物種によらない共通な部分も多く、上記のような様々なダイオキシンによる毒性が、ヒトに現われてもなんら不思議ではないとの認識をもち、ダイオキシンをその発生源から断つ対策が求められます。次節にみられるように、ヒトとしての種の本質にかかわる母乳がダイオキシンに汚染されているという深刻な事態に陥っているのですから。
<母乳ダイオキシン汚染をなくすには脱塩素脱焼却>
 98年4月、厚生省は「母乳中のダイオキシン類に関する調査」中間報告を発表しました。図2(省略)には、同報告で明かになった、大阪府下で採取された母乳のダイオキシン類分析値の推移を示しました(73〜96年−87年は除く−の間で、初産婦から得た保存凍結母乳各年19〜39検体を同一年毎に混合したもののダイオキシン類濃度が、その年の検出値としてpgTEQ/g脂肪単位でプロットされている)。70年代前半をピークに、ダイオキシン、ジベンゾフラン、コプラナーPCBとも次第に減る傾向がみられますが、90年代にはいって、その減少率はゆるくなり、10pptをやや下回るところで、横這い状態が続いています。この数値は、あくまで平均値の意味しかもちませんから、いわゆるハイリスクグループ−ダイオキシン発生源の近くに住んでいる人や汚染魚を多食する人−の母乳は、より高濃度に汚染されていることは間違いありません。
 96年においても、3種のダイオキシン類の合計量は、約25pptで、体重3kgの生後数週間の赤ちゃんは、約80pgTEQ/kg体重/日のダイオキシン類を摂取していることになり、環境庁の基準5pg/kg体重/日(コプラナーを含まない基準)をはるかに越してしまいます。同庁は、ヒトの生涯の一時期に基準を越えたからといってすぐ影響がでるわけではないと、いいかげんなことをいっていますが、母乳にこれだけ検出されるということは、母体に汚染があり、胎児期にもすでに胎盤を経由して、ダイオキシンの影響を受けた後、赤ちゃんが誕生しているということになります。
 どの程度のダイオキシン汚染レベルでヒトにどのような影響がでるかは、今のところ、誰にもわかりません。やるべきことは、これ以上ダイオキシンの発生を増やさないことしかありません。そのためには、身のまわりで、塩素系の物質をできるかぎり使用しない−すなはち脱塩素−、燃やさない−脱焼却−ことを徹底するような運動を繰りひろげる必要があります。
 一部の塩ビ大手ユーザーの間で、PVC被覆電線、塩ビやポリ塩化ビニリデン製ラップフィルムを代替する動きがでてきたことに、危機感をいだいた塩ビ環境協会は、塩ビの有用性を宣伝するため、500人もの説得部隊を全自治体に派遣し、塩ビのリサイクル事業やダイオキシン発生を抑制した新型ゴミ焼却炉を紹介をするそうですが、このようなことに無駄金を使うより、協会には、焼却施設に赴き、塩ビ製品の分別作業をしたり、塩ビ焼却により生成するダイオキシンの環境汚染を防止するために余分にかかる施設改修費や運転経費を負担することをお勧めします。
 また、文房具メーカーのぺんてるは、茨城県玉里村にある工場で、回収した農業用フィルムから消しゴムを製造して、官公庁や学校など中心に利用拡大を図るそうです。同社は、塩ビのリサイクルだと鼻高々の様子ですが、フィルムの形から、より眼につきにくい消しゴムかすにして、燃やしてしまえばいいという発想をなんとかしてもらいたいものです。
以下の2節省略
<PCB汚染問題は解決していない>
<フィトエストロジェン−植物由来の内分泌撹乱物質>
<医薬品及び動物薬用のホルモン剤>
 通産省報告書では、医薬品用ステロイドホルモン類や家畜繁殖用のホルモン類がとりあげられていますが、前者の生産が123kg(95年)、後者が約6トン(同年、輸入を含む)あると記るされているだけで、その環境汚染状況は不明です。下水処理水中の女性ホルモンが、魚のメス化の原因と疑う報告もありますから、ピルなどの使用については、注意を要します。
 畜産品への残留について、東京都が95〜96年度に行なった牛肉86検体のホルモン薬検査では、合成型のゼラノールやDESは検出されませんでしたが、12検体から天然型のプロゲステロンが11〜180ppb見出だされました(天然型は残留基準なし)。
 医薬品として使用する場合や家畜への投与でDESの二の舞にならないようにするために、ヒトや生態系におけるこれら薬剤の厳重なチェック体制が必要です。使わなくなった薬剤の安易な廃棄による環境汚染にも気を付けねばなりませんし、生産性を上げるためにだけ使用される家畜用ホルモン剤については、無用のものとして、使用禁止にすべきでしょう。

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作成:1998-06-27