街の農薬汚染にもどる
t07801#都下62区市町村対象に「衛生害虫駆除実施状況」アンケート#98-07
 反農薬東京グループは以前から衛生害虫(ハエ・カ)の駆除のためとして行われている街中での殺虫剤散布に反対して運動してきました。
 衛生害虫の駆除は主に伝染病予防法に基づいて行われてきましたが、この法律は衛生状態も悪く、伝染病が多発した明治時代にできた法律であり、現在にそのまま通用するものではありません。しかし、伝染病が発生していないいわゆる平常時での殺虫剤散布が非常にずさんな形で続けられてきました。
 98年になって、政府は伝染病予防法などを廃止して、新たに「感染症予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」を国会に上程しました。この法律は感染症を4つに分類してそれぞれ強制措置の内容を定めているものですが、外国から侵入するかもしれないと感染症の恐怖をあおり、社会防衛的思想が強く現れたものでした。
 そのため、人権を無視している、感染症の患者を差別する、健康な保菌者まで対象にしている、平常時でのハエ・カの駆除がそのまま残されているなど強い批判が出され、反農薬東京グループもふくめて反対運動が起こりました。その結果、この法案は参議院で若干の字句の修正をして通過しましたが、衆議院で継続審議になり、第142国会では成立しませんでした。(てんとう虫情報第75号・77号)
 いっぽう、96年、97年と東京のローカルテレビのMXテレビが墨田区や江東区で行われているハエ・カ駆除の実態を放映しました。フェンチオンやDDVP、フェニトロチオンなどの有機リン系殺虫剤を水でも撒くように樹木や家、道路などあらゆるところに散布していました。撒かれたあとはびしょびしょに濡れ、殺虫剤が自転車や道路ぎわの野菜などからたれていました。作業しているのは自治会役員などでマスクや手袋といった最低限の防備もしていませんでした。
 そもそもハエ・カの駆除に何故、樹木や道路などに殺虫剤を散布するのか理解に苦しみます。健康被害を訴える人から相談の電話もあり、こうした撒き方では事故が起こるのは必至であると反農薬東京グループは、東京都に要望書を出しました。
 東京都の回答は「強く指導したい」との内容でしたが(てんとう虫情報第74号に詳細)、実態把握はしていませんでした。そこで、反農薬東京グループは4月に都下62区市町村にアンケート調査をしました。
 自治体が殺虫剤などを散布する場面には
 (1)衛生害虫の駆除としてハエ・カを対象に町内会での散布、薬剤配布、側溝や
  雨水ますなどへの殺虫剤散布(伝染病予防法)
 (2)樹木の毛虫などを対象に行う殺虫剤散布。街路樹、自治体管理の施設、学校・
  保育園の樹木などにも散布される。(地方自治法)
 (3)特定建築物やそれに準ずる施設などのネズミ、ゴキブリなどの退治を目的に
  行う殺虫剤散布。館内消毒ともいう。学校、保育園など小さな子どものいる場
  所での散布も行われている。(ビル管法)
 (4)ユスリカなどの不快害虫退治(地方自治法)
 (5)スズメバチなどの危険な昆虫退治(?)
 などでしょう。それぞれ法律が根拠になっているとされていますが、法律には薬剤散布の義務づけはなく、伝染病予防法ですらまず清潔にと発生源対策をするよう書かれています。しかし、現実には防除業者にまかせきりにしたり、害虫の発生状況を確かめもしないで惰性で散布が続けられている場合が多いようです。
 今回のアンケート調査は(1)の衛生害虫駆除に限っています。最終的な回収率は100%で、市民グループのアンケート調査としては珍しい数字です。もちろん、回答したがらない自治体もありましたが、情報公開の一環として回答するようお願いし、理解してもらったものです。以下にアンケートの結果を記します。
★アンケート結果
期間−−98年4月から5月
対象−−東京都下62区市町村
回収率−−100%
  97年度に衛生害虫の駆除をしなかったのは25区市町村(40.3%)
  97年に衛生害虫駆除を行った自治体は37区市町村(59.7%)
★ハエ・カ駆除をやめてもなんら不都合がはなかった
 97年度に衛生害虫の駆除をしなかったのは25区市町村で40%でした。中止年度はさまざまですが、最初からしてなかったという自治体が青ヶ島村、八丈町、東村山市でした。1960年代にやめたのが瑞穂町、70年代にやめたのが昭島市、清瀬市、小金井市、三鷹市、80年代にやめたのが板橋区、日の出町、90年代になってやめたのが江戸川区、立川市、羽村市、東大和市、御蔵島村、武蔵村山市です。中止時が不明か無回答なのが稲城市、大島町、小笠原村、狛江市、田無市、東久留米市、日野市、保谷市です。
 中止の理由としては、「下水道の完備」、「生活環境の向上」が多く、中には「環境に配慮したため」(東大和市)、「行革」(立川市)という理由もありました。
 中止したことによって何か不都合がありましたかという質問に対して、板橋区の「当初は神社やお寺からのやぶ蚊駆除の要請を断るに苦労したが現在はない」という回答以外は、すべて、特に問題はないとの回答でした。今後の方針に関しても、「実施予定なし」がほとんどで、衛生害虫の駆除をやめても問題ないことが明らかです。
 また、既にやめているところは予算はゼロであり、無駄な費用が節約できています。その上、環境も汚染しないわけですから他の自治体も見習うべきでしょう。
 とにかく、既に40%の自治体が平常時でのハエ・カの駆除を止めているのです。
★法的根拠は伝染病予防法が(省略)
★費用は最高で4120万円
 97年度にハエ・カの駆除を行った37自治体がどのくらいの費用を使ったのかみますと、圧倒的に23区が多くの税金を使っています。
(1)1000万円以上使っているのが11区 29.7%
 1000万円以上使っているのが江東区、大田区、北区、台東区、文京区、墨田区、新宿区、目黒区、杉並区、中央区、品川区の11区です。江東区は実に4120万円使っています。
東京湾に面した東側の地域に集中していますが、この地域はまた、94年に日本臨床環境医学会で日本体育大学女子短期大学の上野純子氏らが発表した報告「視力不良をもたらす環境要因−特に有機リン系殺虫剤について」で、子どもたちの視力が低いと指摘されている地域と重なります。上野氏らは、原因を東京湾内でのゴミ埋立処分場で散布される有機リン系殺虫剤の影響を示唆していましたが、衛生害虫駆除で身近なところで撒かれている有機リン系薬剤の影響も考えられるのではないでしょうか。
 (中略)
(2)500万から1000万までが8区 21.6%
 葛飾区、渋谷区、千代田区、練馬区、港区、足立区、中野区、豊島区の8区が500万から1000万円までの税金を投入しています。500万以上使っているのが18区で23区の82.6%を占めるわけです。
(3)100万から500万まで 5市 13.5%
 国分寺市、福生市、府中市、八王子市、あきる野市が入ります。(あきる野市は総費用の記入がなかったのですが、事業ごとの費用が記入してあったのでこちらで計算しました)。多摩地域で一番多いのが国分寺市の359万です。23区に比べて多摩地域の方が衛生害虫駆除事業は少ないといえます。
 (中略)
(4)100万円以下の自治体 8区市村 21.6%
 新島村、神津島村、青梅市、町田市、世田谷区、小平市、利島村、武蔵野市です。新島村は全戸に配布しています。小平市では山林(寺社)3箇所にプロペタンホスを年3回散布しています。
 (中略)
(5)費用について無回答の自治体5区市村 13.5%
費用に関して回答がなかったのは、多摩市、荒川区、国立市、調布市、三宅村です。もっとも、記入がないのをこちらで計算したのが2自治体あります。荒川区の事業内容を見ると、おそらく1000万以上使っているものと思われます。
 (中略)
★「事故はない」と(略)
★健康被害に関する調査
 「薬剤防除による健康被害に関する調査をしたことがありますか」という質問に対して、千代田区だけが「はい」と回答してきました。千代田区では、2年に1回(殺鼠剤と薬剤散布を1年おき)、薬剤撒布後、町内会あてアンケートを実施しているそうです。「町会長にお願いし任意に抽出、概ね5%」とありますが、詳しい内容はわかりません。
 健康調査をしていない自治体は34あり、ほとんどの自治体は薬剤配布や、撒布後の住民に対する健康調査をしていません。きちんと調査をすれば、「被害を受けた」という人も出てくると思います。なお、この質問に対して無回答は、荒川区、文京区でした。
★MSDS(化学物質安全データシート)はもっていない(省略)

 以上、アンケート調査の結果を大まかに記しました。結果を見ると、既にハエ・カ駆除の薬剤散布をやめているところが40%あり、この事業が実質的に必要ないことを示しています。
 現在、実施しているところも今後の方針をみると、事業の見直しをするところが結構あります。少なくとも、町会への薬剤配布、希望世帯への配布は、薬剤の危険性を十分に知らない住民が散布しており、事故が起こる前に早めに中止する必要であると思われます。
 また、使用薬剤に関しては、フェンチオン、フェニトロチオン、ジクロルボス、ダイアジノンなどが多く使われています。これらは有機リン系殺虫剤であり、農薬としても多く使われているものです。化学物質過敏症やアレルギーの悪化を引き起こすため、綿密な健康被害調査をやれば、必ず、健康被害を訴える人がでてくると思われます。つまり、既に、被害が出ている可能性があるわけです。
 今回の調査はハエ・カの駆除に限って行いましたが、最初に記したように行政が薬剤使用をしている場面はまだたくさんあります。惰性で続けるのではなく、本当に必要かどうか十分見極めて、薬剤使用は最小限に押さえる努力が必要と思われます。
■事務局より
 アンケート結果は、詳しい回答内容とともに、使用されている薬剤の毒性などの解説を加えた上、「てんとう虫情報」増刊号−資料集(送料込み500円)として、8月上旬に発行する予定です。出版・催し案内の項をご覧ください。

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作成:1998-07-27