内分泌撹乱物質にもどる
t08302#「農薬と環境ホルモン:議論よりまず、使用を控えよう」植村振作#98-11
 環境ホルモンのリストが公表されたとき、あるいはその後のマスコミの取り上げ方を見ていると、現在、日本で使われている農薬とどういう関係があるかという話がないんですね。それはどうしてかというと、イギリスとか、アメリカあたりで、生態学者や生物学者などが問題にした実験のリストをそっくりそのまま日本に持ち込んできているわけなんですよ。そこで上がってきた化学物質だけが問題になっている。
 それも特に生態関係の人が生態系の異常に気づいて、それがなんであるかということを追求していった中で、でてきたという背景もあって、水系での話が主になっているんですね。要するに川とか池とか、湖とか、海とか、そこで生息している動物等に起こる異変が主たる話題になっているわけです。
 私は今日はそういうのは全部省いてしまって、われわれの身の回りでホルモン撹乱作用をもっていると思われるようなものが、どう使われているかという視点で考えてゆきたいと思います。それが非常に大事だと思うんです。
★呼吸を通して摂取する方が多い
 ヒトは化学物質を口からだけじゃなくて、呼吸を通しても取り込んでいます。これは今のホルモン撹乱物質で問題になっているところではあまり気にされていません。
 図1−省略−は、横浜市の衛生研究所の方が調べたもので、どのくらいの頻度で有機リン系の殺虫剤を取り込んでいるかという頻度を表したものです。マラソン、スミチオン、クロルピリホス、こういうのが呼気を通して入ってきます。非常に高いですね。そういうのを無視してはいけないだろうと思います。
 食事を通してはマラソンとスミチオン、それからクロルピリホスメチルがありますが、これはいずれも小麦に使われているいわゆるポストハーベスト農薬から取り込むものです。もちろん、それも多いのですが、空気からも多いということを考えてほしいと思います。
 北里大学の宮田先生たちのグループがスミチオンをモルモットに投与したときのアレルギー反応の強さを調べて、非常に少ない量のところで反応が強くなって、その後また反応が弱くなるというデータを出しています。その投与量が6×10-4mg/kgあたりでピークになっています。
 スミチオンを散布すると0.1μgから1μg/m3くらいの濃度で広がります。このくらいの濃度のところにどのくらいいたらアレルギーがひどくなる量になるかということを計算したのが図2−省略−です。
 子供の呼吸量は一時間あたりに0.03m3くらいですが、かけ算するとこの程度。もし一日ならどうなるかというと、7.2×10-5ないし10-4mg/kg。
 ということは、薬剤をまいたところにしばらくおれば、アレルギー反応が強くなる程度の薬剤量を摂取していることになるということが言えます。それによって、すぐ死ぬということがないから、撒くわけですね。あるいは、行政も何とも思わずに撒いているわけですが、そういうアレルギー反応、言い換えると免疫反応が起こってきている。
★奇妙なカ−ブの毒作用量
 ホルモン撹乱物質と考えられているような物質は、用量−反応曲線が非常に奇妙な形になります。毒作用というか、生理作用がずっと上がっていって、そこで飽和するんじゃないんですね。例えば、女性ホルモンであるエストラジオールを調べると、増えていって、また下がって行くというふうになります。同じようなことがビスフェノールAでもいえます。これが非常に厄介なことなんです。
 昔の化学物質だったら半数致死量や最大無作用量を決めることができたわけです。その最大無作用量の何分の1かであれば人にも影響がないだろうと、いわゆるADIが設定されてきた。この場合は、量を減らしていくと、この作用がなくなるような場所があるんじゃないかと考えられるんです。閾値があるかもしれない。
 環境ホルモンの場合はそういうものが設定できるかどうかという非常に大きな問題を投げかけています。果たして閾値があるのかどうか、一旦こういう具合に減っていくので、この辺を細かく調べてもどこに閾値があるのかわからないんです。かなり幅広い範囲に渡って毒性を調べて見ないといけない。用量反応曲線が普通の化学物質とは違ったような形になるということから、毒作用の推定が困難になるんですね。
★いっぱい使っている
 以下、あちこちで使われている例をあげておきたいと思います。
 畳にスミチオンとか、ダイアジノンとか、バイジットが使われています。畳の芯を薬剤を含んだ紙をくるむのです。その上に畳表が被せてある。これを作っている工場を見学したことがあるのですが、それはもう臭くて大変でした。
 ですから、商品として売ることにも反対ですけども、働いている畳職人の健康被害が気になって、畳業界の人たちにそういうものの取り扱いについて注意すべきだというようなことも出したことがあります。だけど、市場では防虫畳ということで結構喜ばれています。
 そういう畳からどれだけ、薬剤がでるか、反農薬東京グループが東京都に調査してもらったところ7μg/m3のフェンチオン(バイジット)が出てきました。そういうものを使っていれば出てくるんですよ。それが、例えば、体温の高い子供たちが裸で寝ていたりなんかすると、蒸気となっているのを吸い込むだろうし、それから皮膚を通して取り込む。いろんな形で取り込んでいるんですね。
 最近、家の中でちょっとした虫がいても嫌うという人がいますが、これは代表的に蚊取り線香を書きましたけれども、蚊取り線香だけではありません。ダニだとかゴキブリだとかを殺すために売られているスプレー式の殺虫剤がありますね、ああいう類いのものにはいろいろなものが使われていますが、一般的にはピレスロイド系の殺虫剤が使われているようです。
 蚊取り線香の場合、煙がでるのとでないのがありますが、どちらも殺虫成分は同じです。どういう方法で部屋の中に広げているかの違いがあるだけです。部屋の中に広がっているから飛んでいる蚊が接して落ちたり、死んだりするわけです。同時に、人もそこにいれば取り込んでいます。そういうものはできるだけ減らして行くべきです。そういうのを余り気にしないで使っていると、間違いなく体内に入って変になるという気がしています。
 家の中で使う程度なら自分たちが被害を受けるだけですが、シロアリ駆除なんかに使われたら他人に迷惑になるんです。シロアリ駆除剤を使ったために、隣の人に薬剤の蒸気が飛んでいって、それを吸って被害を受けたという相談も結構ありますし、裁判になっているケースもあります。
★フタル酸エステルの室内汚染
 農薬とは違いますが、今、フタル酸エステルにもホルモン撹乱作用があるのではないかということで、話題になっているのですが、その時も、口を通して入ることが問題になっています。それらが水の中に入っていると。
 私は実はそれよりも大気を通して取り込んでいることのほうが多いのではないかということを言いたいのです。表1−省略−は環境庁が大気中とか水の中のフタル酸エステルの一つであるDOPとかDBPなどを調べているんですね。それを見ると、水の中の最高の汚染度はDOPの場合、15ppbになっています。
 部屋の中の濃度は奈良女子大の先生がやっていますが、空気中から36,000ng/m3出ています。
 そういうところに人が一日いたときにどれだけ摂取するか、それから、水を介して一日にどれだけ摂取するかということを計算してみました。
 そうしますと、空気から0.72mg、水から0.03mgです。桁違いに空気が多いですね。こういう具合に、水からとりこむ量よりも、空気を介して取り込む量が多いように思われるのです。
 ですから、水ばかりだけでなくて、あるいは食べ物だけではなくて、空気のことも配慮してほしいと思います。
★まず、いかに減らすかを考えよう
 今、環境ホルモンのことをいろいろ言いましたけれども、結局、われわれが化学物質をたくさん使っていて、それがあるときは、ある側面から見て、こういう作用があるということで殺虫剤として使っているというところがあると思います。
 それを別の毒性の面からみると、催奇性の物質に見えるし、それを内分泌学なんかを通してみるとホルモン撹乱物質にみえてくる。また別の方から見るとまた全然違うものが見えてくる可能性があります。そのうちに脳内神経撹乱物質だといわれてくるんですね。  決して新しい環境ホルモンというのがあるんじゃないんです。今までたくさん使ってきた化学物質を一つのフィルターを通してみると、ホルモン撹乱作用があるということだけです。
 われわれがそこから何を学ぶかというと、結局は化学物質はいろんな性質をもっている。生理活性作用があるからこそ、その化学物質を使うわけですが、その化学物質というものが今あまりにたくさん使われだしてきて環境に増えてきて、生態系を乱して行く。それと同時に、室内で何でも使っていて、人にも影響があるのではないかということです。
 ですから、どれが撹乱物質でどれが撹乱物質でないかという議論をするよりも、今、いろいろたくさん使っているものをいかに減らすかということを市民の側としては考えるべきではないかと思います。

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作成:1998-12-25