空中散布・松枯れにもどる
t09106#環境ホルモンNACはこれだけ松枯れ空中散布に使われた#99-07
 環境ホルモン農薬として問題になっているNAC(カルバリル)は、松枯れ空散用農薬とて1977年から96年まで全国で使用されてきました。林野庁の運用基準によると、NAC和剤(商品名セビモールNAC40%)を原液で1ヘクタール当たり5〜10リットルをマツノマダラカミキリの成虫発生初期及び発生最盛期直前の2回、樹冠部を中心に全面むらなく散布するなど細かく決めています。
 NACは以前から動物実験で催奇形性や精子数の減少など生殖毒性が知られていました。WHO/FAO合同専門家会議(JMPR)の一日摂取許容量(ADI)も63年には最大0.02mg/kg/日だったものが、96年には0.003mg/kg/日と6倍近く厳しくなっています
。  JMPRは96年に更に、厳しい試験をするよう原体メーカーのローヌプーランに求めました(てんとう虫情報第66号に詳述)。結局、ローヌプーランはそのデータを出すことができず、原体の出荷停止をしたということです。日本の製剤メーカーの井筒屋化学は、突如、空散用NAC製剤の製造を中止しました。97年の空散予定にNAC剤使用を決めていた林野庁や自治体は大あわてで空散を中止したり、急遽、スミチオンに変更したりしました。
 その後、NACは環境ホルモン農薬として国際的に問題になりましたが、ローヌプーランの出荷停止もこのような国際的な動きを睨んでのことかもしれません。しかし、日本では松枯れ空散用NAC製剤の製造は中止になりましたが、畑作などに使用されているNAC剤について何の規制もありません。安全な農薬であるとして、20年に渡って、全国の松林でNACを散布させてきた林野庁はどのように責任を取るつもりなのでしょうか。
 今年3月、岡崎トミ子参議院議員は国土環境委員会で松枯れ空散に関する質問をしました(てんとう虫情報81号掲載)。質問の中でNACの県別、年度別使用量の提出を求めたところ、最近、林野庁から不十分なデータが出てきました。林野庁は、NACがどの県でどれくらい使用されていたのか知らないというのです。莫大な国庫補助金を出しておきながら、これではあまりにも無責任です。林野庁は、取り敢えず、県に聞いてわかったことだけをお知らせしますということで、NACの使用量を提出しました。
 それによると、NAC剤で松枯れ空散に使用されていたのは、セビモール(NAC40%)、デナポン水和剤(NAC50%)の2種類だそうです。
 一度も松枯れ空中散布をしていない県は、松枯れ被害のないとされる北海道、青森の他は神奈川、高知の4県です。
 これ以外の43県中、NACを使用しなかった県は秋田、群馬、東京、新潟、長野、静岡、大阪、奈良、和歌山、広島、徳島、福岡、沖縄の13県です。これらの県はスミチオンを使用したわけです。
 残りの30県がNACを使用したわけですが、松くい虫被害対策特別措置法が制定された1977年から空散をやめるまでの期間、きちんと使用量を出してきたのは三重県と滋賀県のみです。
 空散面積の多い宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県、愛知県、兵庫県、鳥取県、島根県、岡山県、山口県、香川県、愛媛県、佐賀県、大分県、宮崎県、鹿児島県などは資料がないということで、93年以降の数字しか出してきませんでした。これらの県は、全く、無責任と言わざるをえません。
 鳥取県、島根県、長崎県、大分県は93年以降の数値すら満足に報告していません。ちなみに、93年までに松枯れ空中散布を中止した県は山形県(1989年)、埼玉県(1986年)、富山県(1978年)、山梨県(1991年)、東京都(1997年)、岐阜県(1996年)、滋賀県(1990年)、京都府(1987年)、大阪府(1987年)、沖縄(1986年)です。もとからやってない4県を加えると14都道府県(30%)が、現在、松枯れ空散をやってないことになります。
 下表に、林野庁が提出したNAC剤の使用量を県別に示しました。これで見ると、NAC使用が多かった県は、山口、栃木、岡山、石川となっています。元々、NACはスミチオンがヒノキに薬害を与えるということから、ヒノキの近くにある松林に散布するために決められた農薬です。しかし、以上の4県が特にヒノキが多いとも考えられませんから、薬剤の選定はいい加減になされた可能性があります。
 そもそも、なぜNACが松枯れ対策用農薬として決められたのか、その際に、どのような安全性の評価がなされたのか不明です。このあたりをきっちり明らかにして、環境ホルモンを大量にばらまいてしまった責任を取らせるべきです。未だに70%の県が松枯れ空中散布を行っており、決して少ない数ではありません。今も使われているスミチオンをやめさせるためにも大事なことだと思います。
表 NAC剤の県別使用量

    1993年    1994年    1995年    1996年
    ha リットル kg   ha  リットル kg   ha   リットル kg   ha  リットル  kg
岩手   15    210  -     15    210  -    15      210  -    15    210   -
宮城   185  2,090  -    185  2,090  -    183    2,060  -    183  2,060   -
福島   472  6,608  -    322  4,508  -    322    4,508  -    322  4,508   -
茨城   310  4,650  -    155  2,325  -     80    1,200  -     73  1,095   -
栃木 2,687 37,408 288 2,600 36,218 250 2,572   35,828 250 2,553 35,560 250
千葉   575  8,050  -    587  8,078  -    564    7,896  -    492  6,888   -
石川 1,595 20,695  -  1,595 21,101  -  1,439   19,038  -  1,388 19,138   -
福井   935 13,050  -    975 13,610  -  1,025   14,350  -    995 13,930   -
岐阜   258  3,612  -    258  3,612  -    195    2,730  -    205  2,870   -
愛知   292  3,504  -    292  3,504  -    290    3,480  -    290  3,480   -
三重   404  5,656  -    396  5,544  -    359    5,026  -    349  4,886   -
兵庫   910 12,740  -    910 12,740  -    877   12,278  -    854 11,956   -
鳥取   536  6,968  -    172  2,236  -    145    1,885  -
島根   397  5,156  -    260  3,380  -   
岡山 1,616 22,624  -  1,547 21,685  -   1,211  16,954  -  1,211 16,954   -
山口 7,807 109,298 -  7,031 98,434  -   6,647  93,058  -  6,052 84,728   -
香川   196  2,744  -    195  2,730  -     170   2,380  -    170  2,380   -
愛媛    15        240    15        240     13         208    13    208   -
佐賀    38    535  -     38    535         38     535  -     38    535   -
長崎
熊本   334  5,406  -    319  4,458  -     319   4,458  -    277   3,870  -
大分   243  4,944  - 
宮崎   572  8,008  -    563   7,882  -    454   6,356  -    454   6,356  -
鹿児島 203  3,248  -    203   3,248  -    203   3,248  -    199   3,184  -

計  20,595       528  18,570       490  17,131       458  16,133       458
          285,392            257,219           237,618           224,590

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作成:1999-08-27