内分泌系撹乱物質にもどる
t09804#環境庁が内分泌系撹乱物質の環境調査結果を公表(その3)プラスチック関連化学物質等による環境汚染#00-01
<つぎつぎと明かになる農薬の環境ホルモン作用>
 昨年12月神戸市で開催された環境ホルモン学会第二回研究発表会で、新たな農薬のホルモン撹乱作用が明かになりました。
 労働省・産業医学総合研究所の本間らは、土壌処理用殺虫・殺菌剤であるD−Dの成分のひとつ1,2−ジクロロプロパン(ほかにも工業用洗剤としての用途がある)を用いた雌ラットの吸入実験で、性周期が延びたり、排卵数が減少するなどの影響がでることを見つけました。私たちが、てんとう虫情報56号で懸念した通りの結果になったわけですが、D−Dは年間1万2千トン以上も使用されている大型殺虫剤だけに環境汚染の拡大が気になるところです。
 また、三重大学・医学部の山下らは、エストロゲン依存増殖性乳腺腫瘍細胞(MCF−7)を用いたピレスロイド系殺虫剤のバイオアッセイで、デルタメトリン、トラロメトリン、ビフェントリン、フェンバレレートが活性を示すことを報告しています。トラロメトリンは、網戸用殺虫剤にも使われており、99年の幸手市の倉庫火災でも環境中に放出された薬剤です(てんとう虫情報91号)。
 星薬科大学のKotakeらは、ラットの小脳顆粒細胞を用いた実験で、殺菌剤キャプタンとその代謝物チオホスゲンに神経毒性があるとの報告をしていますが、後者は、すでに登録失効しているフォルペットやダイホルタン(カプタホル)の代謝物のひとつでもあり、キャプタンを使い続けることの危険は目にみえているといっても過言ではありません。
 どうやら、研究が進めば進むほど、農薬の環境ホルモン作用が明かになってくるようです。とりあえず、私たちが、一昨年提案した「’98危ない農薬ダーティー12(ダズン)」(てんとう虫情報82号参照)でノミネートした農薬の一日も早い追放を求めていきましよう。

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 記事中下記の表はすべて省略してあります。
  表1 土壌の内分泌系撹乱物質汚染調査
  表2 アルキルフェノール類の水質汚染
  表3 野生生物中のアルキルフェノール類の検出率と検出範囲
  表4 フタル酸エステル類の水質汚染
  表5 野生生物中のフタル酸エステル類の検出率と検出範囲
  表6 ビスフェノールAの水質・野生生物汚染
  表7 野生生物中のスチレンダイマー・トリマーの検出率と検出範囲
  表8 野生生物中の環境ホルモン物質の検出率と検出範囲

 さて、この連載の最後に、非農薬系の内分泌系撹乱物質の汚染状況にふれておきます。99年10月に公表された「農薬等の環境残留実態調査」では、農薬以外の物質については、土壌(各県2検体)のみが分析対象となっていおり、7種のアルキルフェノール類、8種のフタル酸エステル類、3種のスチレンダイマー類、5種のスチレントリマー類と2,4−ジクロロフェノール、ベンゾ(a)ピレン、ベンゾフェノン、n−ブチルベンゼン、アジピン酸ジ2−エチルヘキシル、オクタクロロスチレン、、ビスフェノールA、4−ニトロトルエン、PBB(7種のポリ臭化ビフェニル類)、PCB(10種のポリ塩化ビフェニル類)の報告がなされています。その中で、検出された物質は、表1に示す11物質です。

【アルキルフェノール類】
 アルキルフェノール類は、界面活性剤やプラスチック添加剤の原料として使用される化学物質ですが、土壌中に検出されたのは、4−n−ペンチルフェノールが15μg/kg(福岡県)、4−t−ブチルフェノールが6μg/kg(栃木県)の2検体でした。
 魚のメス化の原因となるノニルフェノールは、土壌中で検出限界以下でしたが、すでに公表されている水質調査では、表2のように、4−t−オクチルフェノールとともに、高い検出率で見出だされており、最大で21μg/Lでした。また、ハト、タヌキ、ネズミなどの野生生物中にも、オクチルフェノールやノニルフェノールが高検出率、高濃度で検出されていることが注目されます(表3)。特に、タヌキでのノニルフェノール検出率は93.3%で、最高値は2000μg/kg(=3ppm)でした。これらが生きものにどのような影響を与えているかをきちんと調べる必要があるでしょう。

【フタル酸エステル】
 塩化ビニル(PVC)製品の可塑剤として使用されるフタル酸エステルは8種が分析され、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)、フタル酸ジ−n−ブチル(DBP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)の3種が土壌中に検出されました。ことに、前2者は大気中濃度も高いせいか、環境汚染は広範囲にわたっており、土壌の場合の検出率は50%以上と高いものです。
 土壌中のDEHP濃度は広島県335、埼玉県217、青森県137、宮城県120で100μg/kgを超えて見出だされ、DBPは長野県816、埼玉県444(前述DEHPと同時検出)、山梨県284、新潟県226、愛知県174μg/kg、BBPは愛知県599(前述DBPと同時検出)でした。
 表4、表5には、いままでに報告されたフタル酸エステル類の水質および野生生物の調査結果を示しました。ここでも、DEHPとDBPの検出率が高くなっており、タヌキで363000μg/kg(=363ppm)、ドバトで3290μg/kg(=3.29ppm)などというのは、汚染の深刻さを窺わしめます。
 ヨーロッパ各国では、おしゃぶりをはじめとする子供用玩具に環境ホルモン作用の疑われるこれら可塑剤を使用した軟質塩ビ製品を禁止する動きが活発化していますが、日本でも、行政による早急なる使用規制が望まれます。

【ビスフェノールA】
 ポリカーボネートやエポキシ樹脂、それに塩ビ製品用安定剤の原料であるビスフェノールAは栃木県土壌で2700、山梨県で89各μg/kg検出されました。
 表6に示したように、水質での検出率は60%を超えていますが、魚類での検出率は6%弱でした。
 この物質が極微量で、環境ホルモン作用を示すことが、動物実験で明かになっていますが、化学産業界は、その毒性を認めようせず、ビスフェノールAの生産量は増加の一途をたどっています。製品からの直接の人体汚染だけでなく、ゴミ埋立処理などの浸出水からの環境汚染の拡大も気懸かりです。

【スチレンダイマー/トリマー】
 食品容器や畳床や断熱材などの材料となるポリスチレン、家電製品ハウジング用のABS樹脂、塗料やFRPに使われる不飽和ポリエステルなどの原料として多用されているスチレンの重合の際には、低分子量のスチレンダイマーやトリマーが生成し、製品中に入ってきます。ダイマーやトリマーには多くの異性体がありますが、その中で、分析されたのは、合わせて8種だけです。土壌中には、トリマーの1種トリフェニルヘキセンが新潟県と千葉県でで検出されました。
 水質でのトリマー検出率は5.4%で、魚類でのダイマー、トリマー検出率は各々7.8%、26.2%で、タヌキでは、トリマー検出率さらに高く46.7%でした(表7)。
 先の環境ホルモン学会では、スチレンやそのダイマー、トリマーの毒性について、日清食品の大野らが行なったヒト乳癌細胞MCF−7を用いたE−スリーニングアッセイが、陰性という結果であったのに対し、東京都立衛生研究所の大山らの研究では、5種のダイマーとトリマーで細胞増殖がみられたと報告されています。
 また、日本スチレン工業会の郷古らは、ポリスチレンから抽出したオリゴマーをラットに経口投与した結果、子宮重量法及び次世代仔への影響試験で、エストロゲン活性や仔の発達、生殖、行動・機能の変化はみられなかったと報告しています。一方、東海大学医学部の相川らの妊娠ラットへのスチレン投与実験では、成長後の仔の自発行動や電撃回避学習行動に影響がみられ、スチレンが発達途上の中枢神経系になんらかの作用を与えたもの考えられます。
 業界サイドの研究は影響なし、学者グループの研究は影響ありという対立する結果のまま、スチレン系製品の生産は拡大しているわけで、どこかで、ブレーキをかけないと取り返しのつかないことになる危険をはらんでいます。

【その他】
 土壌中には、ほかにPCB(10種合計)、4−ニトロトルエン、n−ブチルベンゼン、ベンゾフェノンが5.3〜8.5%の検出率で見出だされました。
 いままでに報告された水質調査では、2,4−ジクロロフェノール、ベンゾフェノン、アジピン酸ジ2−エチルヘキシルが8.4〜21.5%の検出率で見出だされたほか、野生生物には表8のような物質が検出されています。特に、アジピン酸ジ2−エチルヘキシルが、タヌキに57230μg/kg(57.23ppm)検出されたのは塩ビ製品可塑剤としての使用に由来すると考えられます。
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作成:2000-02-28