室内汚染・シロアリ駆除剤にもどる
t09901#室内空気汚染実態の一端が明かに−43物質が外気よりも高濃度で検出#00-02
 国立医薬品食品衛生研究所が、昨年12月、居住環境内における揮発性有機化合物の全国実態調査の結果を発表しました。私たちが、96年2月にパンフ「住宅が体をむしばむ−深刻な室内化学物質汚染」を発行後、関係省庁と何度か行政交渉をしたことが今回の調査につながったと思います。ただ、残念なことに、もっとも問題視していたシロアリ防除剤や殺虫剤、可塑剤らの汚染実態についての報告は今のところなされていません。
 ここでは、今回の報告で重要だったと思われる点をまとめました。
   下の図表の掲載略
   表 揮発性有機化合物の室内外環境調査結果
   図 室内濃度及び個人暴露濃度の濃度別度数分布

【空気試料の採取】
 97年と98年の2年にわたって実施された調査では、385の家屋の室内空気536検体と室外空気318検体について、表に示した44物質が分析されました。  空気試料の採取は、全国29の地方衛生研究所などで、夏季(8−9月)と秋季(10−11月)と冬季(2−3月)にわけて実施されました。室内外での採取場所は、対象家屋室内空気については、部屋の中央・床上1.2mの位置で、対象家屋室外については、戸建住宅の場合は地上1.8m、集合住宅の場合はベランダ等で、24時間空気の吸引が行なわれました。
 また、98年には、個人曝露調査が、202検体について実施されました。測定は、行動・移動中にもポケットやカバンに吸引ポンプをセッティングしておいて、24時間にわったり、空気を採取する方法がとられています。

<室内検出値が室外よりも高い>
 表には、検出された化学物質を種類別に並べ、室内及び室外での検出値の平均と 最大を示した上、最右欄に室内値/室外値(I/O)の比を記しました。
 44物質中で、平均値のI/O比が1以下なのは、ヘキサデカンのみで、他の物質はすべて、室内空気の方が外気よりも汚れていることを意味する1以上のI/O比を示しており、室内汚染源のひどさを如実に物語っています。
 平均値I/O比の上位3を、エタノール(45.4)、p−ジクロロベンゼン(=パラジク、33.1)、スチレン(23.5)が占め、10を超えたのはリモネン、ジブロモクロロメタン、オクタン、α−ピネンの順でした。エタノールは溶剤や消毒殺菌剤、アルコール飲料に由来するものでしょうし、パラジクは衣料防虫剤やトイレタリー製品から、また、スチレンは、畳・断熱材・包装容器・塗料・浴槽などの身の回りの建材や製品からの放出による室内汚染と思われます。
 有機塩素系のジブロモクロロメタンやトリクロロエチレンの最大値におけるI/O比 が、それぞれ、490.1と129.5高いのも驚きです。

<室内汚染ワーストワンのパラジクから使用規制を>
 室内空気で、最大値が1000μg/m3を超えたのはp−ジクロロベンゼン(6058.7)を筆頭に、トルエン(3389.8)、1,2,4−トリメチルベンゼン(2988.6)、エタノール、α−ピネン、トリクロロエチレン、テトラデカン、2,2,4−トリメチルペンタン、1,3,5−トリメチルベンゼンでした。また、平均値のワースト3はエタノールの281.2とパラジクの125.8、トルエンの98.5各μg/m3です。
 また、個人曝露調査でのワースト3は、パラジク(最大値2782.7、平均値170.7)、トルエン(最大値2534.5、平均値110.8)、α−ピネン(最大値2239.6、平均値92.5)の順になっています。

 図には、98年度に実施された、パラジクとトルエンの室内汚染濃度と個人曝露濃度の濃度別度数分布を示しておきます。先のI/O比で明かなように、室外に比べ室内汚染濃度が高いため、測定数の濃度別分布が両者で同様な傾向があることがわかります。
 報告書によると、WHO空気質ガイドラインのある8物質について、基準と比較した結果、超過事例の割合は、97年度では、トルエン6%、クロロホルム28%、キシレン0.3%、98年度では、トルエン6%、クロロホルム17%であったということです。また、パラジクについては「1997年、厚生省は耐容平均気中濃度0.1ppm(590μg/m3)*を示しているが、このレベルにたいして平成9年度で15例(4.7%)、平成10年度で、10例(5%)が超過していた。」と記述されています。
 パラジクは、発癌性があるだけでなく、アレルギー疾患や肝機能障害を起こす可能性があり、低濃度でも化学物質過敏症を起こすことなどが分かっています。厚生省が実施している内分泌系撹乱物質の調査研究で、長野県衛生研究所では、成人60人全員の血液中に0.36から211ppbのパラジクが検出されてたことを報告しているそうですから(小島記者;毎日新聞99年11月11日)、行政は、原因解明などと悠長なことをいっている段階ではなく、衣料防虫剤やトイレタリー用品など身近な製品のへのパラジクの使用禁止措置を早急にとるべきです。

*:96年11月、労働省の委託したパラジクの吸入毒性実験で、マウスに発癌性があることが確認された(てんとう虫情報56号参照)。厚生省は、97年8月、この結果を再評価した際に、ヒトに対する発癌性を認めず、水質基準よりも15倍も高いTDIをもとにこの基準を公表した(てんとう虫情報68号参照)。以後、全国各地で、公共施設や学校、駅などで使用されているパラジク製トイレタリーの追放運動が起こっている。

<農薬や環境ホルモン物質の調査を求める>
 今回の調査で、家屋の種類と室内汚染との関連が検討されましたが、報告書では、 @新築家屋(建築3ヵ月以内)と中古家屋を比較した場合、前者では、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、スチレン、α−ピネン、酢酸ブチル等の濃度が高い。
A建築年数との室内汚染の関係では、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等で、負の相関関係がみられた。
B一戸建と集合の住宅様式の違いや木造と鉄筋・鉄骨の住宅構造の違いで、全般的におおきな差は認められない。
 とあります。これを見ると、塗料溶剤に由来すると考えられるトルエンなどの芳香族系炭化水素は、神経毒性を示す物質だけに、新築家屋での高濃度の被曝による健康への影響が心配されます。

 また、今回実施された、調査対象家屋の住民に対する健康アンケート調査で、頭痛・めまい・倦怠感・眼喉の痛み・その他咳などの症状を訴えたのは97年度で17人、98年度で11人だったということですが、検出された化学物質との因果関係は不明です。もっとも、調査対象物質に、シロアリ防除剤などが入っていないので、因果関係の姿が見えないのは当然です。
 「今後は個々の化学物質の毒性評価と曝露評価をあわせてリスク評価を行ない、健康影響の点から優先度の高い物質を絞り込む必要がある」との報告書の結論をみれば、室内汚染の調査研究は、やっと始まったばかりだということがわかります。
 農薬関連や環境ホルモンとして挙げられている化学物質をも対象としたきめ細かい室内汚染調査と健康被害調査を広範に実施してほしいものです。

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作成:2000-02-28