「生活環境で使用する殺虫剤等の規制に関する法律」関係にもどる
t10804#急がれる生活環境における化学物質規制法の制定#00-11
                     植村振作(元大阪大学助教授)
★使うなら徹底した管理を
 私は、1975年から松枯れのための農薬の空中散布反対運動を続けてきました。国などは効果という面だけを頭に描いて、それが環境にどういう影響を及ぼすか、人にどういう影響を及ぼすかということを調べずに、空から農薬を撒いてきたわけです。それと同じようなことを生活環境の中でやってきたので、今みたいなことが起こってきているんだろうなと私は思います。
化学物質を全部使うなとかいうような格好いいことは私は言いませんが、使うに当たってはそれ相応の覚悟はいるし、管理して使うべきだろうと思います。

★自然界でより強い毒性を持つ
 たとえばヘリコプターで農薬の一つであるスミチオンを撒いたときにですね、そのスミチオンだけが悪いかというとそうではないんです。これは私がスミチオンをずっと追っかけて分析している中で、気がついたことです。
 朝、スミチオンをヘリコプターで撒けば、雫みたいなものが落ちてしまって、これでいいだろうと思ってみんな昼間そこら当たりに行く。しかし、昼もスミチオンが増えてきているんです。それはいったん、落ちたものが再び蒸発してきているんだろうと思うんです。
 そういうときの空気を測ってみると、実はスミチオンではなくて、スミチオンが紫外線で変わって、スミオキソンという物質になっているんです。スミオキソンはスミチオンに比べればコリンエステラーゼの阻害作用が数千倍から一万倍あるという物質です。それがもう既に自然界の中にできちゃっているわけです。そういうものを呼吸とともに取りこむ恐れがあるんです。

★使ったままの形ではない
 私が何故そういうことを言うかというと、化学物質を使った場合は、使ったものだけじゃなくて、自然界の中で変化した毒性も考えてほしいという思いがあるんです。
 それは水俣病を考えていただければわかると思います。水俣病というのは、チッソが塩ビ用製品の合成過程の触媒などに使った塩化水銀などが水俣湾に行く途中、あるいは行ってから、メチル水銀などの有機水銀に変わってそれが強い神経毒性を現したわけですね。だから、はじめに捨てたものじゃなくて、自然界の中で強い毒性を持つということもあるわけです。

★「有害」より「汚染」にした方が
 今日は、「有害化学物質の規制を考える集会」ということですが、はじめから有害かどうかわからないんですよ。無機水銀はそんなに神経毒性はは強くないんです。そういうことを考えたときに、私は、この集会の名前をつけるのが失敗したなという思いがしているんです。「生活環境を汚染する恐れのある化学物質の規制」というようなことにした方がいいんじゃないか。
 すべての化学物質の毒性評価はあらかじめできるわけではないので、そういうものが生活の場に入っていって、生活の場を汚染する恐れがあるときに、それに対してどうするかということを考えるということにしないと、現段階では有害でないから使ってよろしいなんていうことになるわけですね。
 で、使ってみたら環境ホルモンのように、ホルモンの働きを阻害する作用という視点から見た場合は、過去の毒性では評価できなかったものが問題になってくる。一概に現段階で有害と言えなくても、将来、問題になる可能性がある。そういう姿勢に立つと、生活環境を汚染する恐れのある化学物質という言い方がいいと思います。
 化学物質を使おうとするなら、生活環境にどれだけでていく可能性があるのかということをちゃんと把握した上で、使うなら使えというようなことにしないといけない。
 汚染という言葉は、それまでなかったものが人が使うことによってでてきたということであり、ある意味では非常に客観的なので、そちらの方がいいのではないかという気がしています。

★用途別規制では被害は防げない
 皆さんのお手許に、化学物質規制の関係する既存法というのがありますね。実は非常にたくさんの法律があるんですよ。これらの法律のなかで、「感染症予防及び感性症の患者に対する医療に関する法律」の前身の「伝染病予防法」は明治時代にできたものです。それを除けば、ほとんどが終戦直後です。たとえば、建築基準法だとか消防法だとか、食品衛生法とか、農薬取締法などは昭和22年から24年にできています。
 その当時は、化学物質はそれほどたくさん生産されていませんでした。だから、ある限られたものについて規制をすればいい、それから品質管理みたいな視点を持って決めればよかったわけです。
 現在の規制の全体の流れも用途別規制になっています。薬事法だったら医薬品が対象、農業用だったら農薬取締法。そこから漏れた狭間商品がいたるところで使われだしてきた。たとえば、クーラーのフィルターに抗菌剤が使われています。あるいは、畳に使ってみたり、掃除機に使ってみたり、いろいろあるわけです。こんなのは、それまでに考えていたものと違った分野に使われてきている。そうするとそれをカバーできる法律がないわけです。
 既存の農薬取締法でも、使っている場所でどうなっているかというのをきちんと把握せずに、要するに野菜に効くか効かないかだけしかみていない。そのため、農薬を撒いて人に被害が起こった時に、それが農薬によるものだということも判定もできないし、そういう使い方をしてはいけないということも言えないという状況です。
 そういう用途別じゃなくて、生活環境を汚染するおそれのある化学物質を生産、使用する人たちは、どれだけ環境を汚染するかということを、あらかじめ調べて、使うという対応をとらせるようなシステムを作らないといけないんじゃないかという気がしております。

★急性毒性の強いものだけ規制
 戦前は軍事用だけに化学物質が使われていたんです。戦後、軍事用がなくなってBHCとかDDTという非常に効き目があるものがでてきて、みんな喜んだわけです。今のお年寄りの方は非常に喜んで使ったんですね。
 しかし、それが蓄積して、農作物とか、果ては母乳、畜産物などに残留するということがわかって、しかもそういうものに発ガン性などがあるということで規制しようという動きがでてきました。もう一つはあまりにも農薬などによる死亡者が多くでた。ディルドリンとかパラチオンとかいう類の農薬ですね。
 最初の規制が1971年です。いわゆる公害国会と言われたときです。農薬取締法も大きな改訂が行われました。その時には、人に直接被害を及ぼすような化学物質についての規制でした。そこで、特に急性毒性の強いものなんかが使われなくなりました。世の中は石油化学工業がどんどん進んで、いろんな化学物質が石油からできるようになって、急性毒性の低いのが使われだしてきた。
 その典型的なのがスミチオンですね。これは人が死なないものだから至る所で使われてきたわけです。

★今の被害は構造的なもの
 その結果が今いろんな方々にいろんな形で影響がでてきているんだろうと思います。そういう意味では私は今の被害はある意味では構造的な被害だろうという気がしています。いろんな場所を調べてみると、いろんな農薬や化学物質がでるわけです。全く規制せずにほったらかしてきた形だったので、必然的に起こってきた構造的な汚染と思わざるを得ない。
 それを何とかやめる必要がある。そうしないと、本当にモグラ叩きみたいなことをしなきゃいけないですね。こちらで何か起こる、そういう使い方はおかしいとか、指導がちゃんとできていないというようなことを言わないといけない。
 これまで、反農薬東京グループを中心にいろんな情報を流しながら、こういうのを使わないでほしいということを訴え続けてきましたけれども、もはや、手におえるような状況ではありません。
 そこで先ほど申し上げましたようなことを含めた内容の法律を作ってもらいたいというのが私の希望です。ただ、それに当たっては、徹底した現状の汚染状況を把握するということが必要でしょう。それから、被害の実態の把握、これはもう早急にやる必要があるだろうと思います。これなくしてはどうにもならない。
 今みたいに化学物質をたくさん使っていいのかどうかということを問い直すような形で規制するような法律を作っていただきたい。細かいことはまた機会があったらお話ししたいと思いますが、とにかく、単に有害というのではなくて、汚染するようなものをどうやって規制したらいいだろうかということを考えていただければ幸いです。(10・26のシンポジウム講演より)
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作成:2000-12-20