空中散布・松枯れにもどる
t10806#農薬空中散布で被害対策は実施団体が「危害」には「汚染」も含まれると農水省#00-11
 本誌106号(9月号)で、長野県の柴本さんが「有機農業の畑に農薬空中散布をされて」と題する報告をしています。柴本さんは長野県小布施町のキュウリ畑に被覆用のシートをかぶせている時にヘリコプターから水稲の農薬を空中散布されました。
 この件に関して、反農薬東京グループは日本有機農業研究会、食農ネットとともに農水省植物防疫課、品質課と10月12日、11月9日の2回に渡って交渉してきました。
今年、JAS法が改訂され、有機農産物の基準と認証制度が発足するため、有機農業者にとって空散による農薬飛散は死活問題になっていました。
 交渉の結果、農林水産航空事業実施指導要領で「危害防止に万全の対策をとる」となっている「危害」に、JAS法の「汚染」が入ること、及び、危害対策は実施団体がやることなどの確認が取れました。実施要領にそう書いてあるわけですから当然のことなのですが、実際には今までそれすら無視されてきたのです。
 今回の農水省の回答によって、今まで何度交渉しても回答の得られなかった公衆衛生関係、すなわち、家屋、学校、交通機関、水道、井戸水及び水源、洗濯物などへも農薬飛散が許されないことになります。もちろん、有機農家の圃場には実施団体が農薬がかからないよう「万全の対策」を取らなければなりません。
 この情報を実施団体に周知して来年度の空散を止めさせましょう。どうしても実施されそうな地域では、飛散調査の準備をすすめた方がいいでしょう。

★40年前の通達で実施
 農薬空中散布には法的根拠がなく、昭和37年(1962年)にでた通達「農林水産航空事業促進要綱」と、昭和40年(1965年)の「農林水産航空事業実施指導要領」(以下、要領)に基づいて行われています。こんな古い通達が今も生きていること自体がおかしいのですが、柴本さんの事件はこの通達さえ守らずに起こったものです。しかも、106号に掲載しているように、小布施町の農薬空中散布協議会は「無農薬栽培にこだわるならば自己責任において、当該防護策を講じるべきであった」などと居丈高に述べ、あまつさえ、次年度以降も農薬空中散布を実施する予定なので「施設栽培をされるか、他に場所を求めて有機栽培をされることを望みます」などと追い出しにかかっていたのです。こうした流れは柴本さんに限らず、全国の有機農業者に起こっていました。
 農水省ははじめ、町の協議会と柴本さんが話し合って解決してほしいなどと人ごとのような態度をとっていましたが、要領自体がJAS法を無視していること、また、農薬汚染が現在のように問題になる以前に出されたものであり、早急に廃止するべきだと指摘されると、少し言うことが変わってきました。

★他作物がある地域での空散は違反
 2回目の交渉の際、「小布施町の空散区域で、柴本さんの圃場だけは散布除外区域になっているが、同じように転作田で他の作物を作っている圃場は空散をしている。これは要領違反ではないか」と、地図を見せて質問すると、植物防疫課長は「おっしゃるとおりで、防除区域に防除対象外の作物があれば除外しなければならない」と回答しました。
 他の地域からの参加者も、転作田でモザイク状になっている場所で、除外区域にしないまま空散していることを指摘し、全国的に違反が行われている状況が明らかになりました。現在、来年度の空散計画が立てられつつあるので、直ちに、通達を出して違反しないよう空散実施団体に周知すべきだと要求しました。植物防疫課長は「指導はするが、文書でやるかどうか検討したい」と回答しました。いつ出すのかという質問には「来年度の空散に間に合うように、年明けに」ということでした。

★被害防止には汚染も含まれる
 今年6月、農水省はJAS法を改定し、有機農業基準と認証制度を発足させました(認証の義務化は2001年4月1日から)。この法律は、外部からの汚染防止などすべて有機農家に押しつけるものです。また、認証機関を新たに登録し、その認証を受けないと有機農産物として販売できないことになっています。
 そのため、認証を取ろうとする有機農家は外部からの汚染がないよう、慣行農業の隣の畑では緩衝地帯を自分の畑で作らなければならないことになっています。空中散布の場合、100メートルや200メートル離しても農薬が飛散するのはわかっています。これでは有機農業を行う圃場がなくなってしまいます。
 交渉中、要領にある「危害防止」はJAS法による「汚染」とは違うのではないかとの質問に対して、植物防疫課長は「危害防止の中にはJAS法による汚染も含まれる」とはっきり回答しました。
 これは新しい見解です。JAS法の汚染は非常に微量な汚染も入ります。農薬が飛散してはならないわけです。

★汚染防止は実施団体が行う
 また、危害防止は空散実施団体が行うべきことであり、実際、要領にそう書かれています。植物防疫課長もそれを認めました。
 ということは、空散実施団体は有機圃場に限らず、危害防止対策をとるべき場所に農薬が飛散しないよう万全の対策をとらなければならないということになります。
 今まで、学校のプールに農薬が飛散しないようシートで覆うことが実施団体の費用で行われるケースはありましたが、今後、学校に農薬が飛散するなどとんでもないことになります。これは有機農家にとって朗報ですが、同時に、空散区域周辺の住民にとっても朗報になります。
 もはや、ここまでして農薬空中散布をやることはないでしょう。直ちに空散を中止すべきです。

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作成:2000-11-28