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t11202#北海道庁から回答−静内特養ホーム農薬中毒事件は薬剤中毒でない?!#01-03
2000年5月末に、北海道の静内町立特別養護老人ホーム・静寿園でDDVPくん蒸剤処理により入所者・職員に健康被害がでた事件に関しては本誌105号で報告しました
反農薬東京グループはこれまで静内町役場、静内保健所に詳しい状況を報告してほしいと申し入れましたが、いずれも満足いく内容の回答ではありませんでした。
この事件では、散布業者の北海道防疫燻蒸(株)が、農業用の農薬であるDDVP製剤を室内に用いていたため、農水省に善処するよう申し入れました。しかし、農水省は、室内での使用は農薬取締法では規制できないとして、衛生害虫駆除を所管している北海道庁に対応をまかせたとしました。そこで、同庁に下記の内容の質問状を送りましたが、1月29日付けの回答を受け取って唖然としました。なんと、特養ホームの健康被害は、農薬中毒と断定できないというのです。まずは、下記の回答内容をみてください。
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★北海道知事への質問と回答:北海道庁総合規格部政策室広報広聴課主査(道民の声)担当
【質問1】今回の事件の事実経過を散布実施計画を決めた段階から現在まで、日を追って詳細に報告してください。
健康被害者の中毒発生状況、症状の推移と治療方法、環境中の薬剤の検出状況及び薬剤の人体被曝状況(血液中の濃度など)、薬剤の除去方法とその効果なども含めてください。
【回答】静内保健所は、平成12年6月14日に、静内町及びその静内町立特別養護老人ホーム静寿園から、当該施設の入所者等が、5月30日から6月14日にかけて、発熱、咳嗽及び喘鳴等の症状を呈しているとの相談を受けたことから、その原因を調査した。
静内保健所は、健康被害に影響を及ぼすと考えられる結核やインフルエンザ等の感染症のほか、害虫駆除に用いた3種類の薬剤(スミスリン乳剤、スミチオン及びジェットVP−DDVP)等、種々の要因について調査を行なったが、3週間以上に渡って新たな患者が発生していることやその症状等から、薬剤による中毒とは断定できず、また、発生要因も特定できなかった。なお、静内保健所の調査内容は、別紙のとおりであるが、この中には経過不明なものも含まれている。
別紙:
1〜4(事件に直接関連ない項なので略)。
5、当該施設は、5月30日から6月1日にかけて業者委託による害虫駆除を実施した。なお、その際に使用した薬剤は、スミスリン乳剤、スミチオンMC及びジェットVP−DDVPの3種類(有機リン系殺虫剤ママ、注:スミスリンはピレスロイド系です)である。
6、当該施設において、発熱、咳嗽及び喘鳴等の同様の症状を訴える患者が発生したことから、医師は、その都度診察を行なったが、有機リン中毒に特有な縮瞳及び唾液分泌過多等の症状は認められなかったため、有機リン中毒の解毒に用いる硫酸アトロピン及びPAMの投与は行なわず、抗生物質及びステロイド剤の投与を行なった。
7、当該施設は、6月6日に敷地内で野外昼食会を行なった。なお、昼食会には、医師から参加を禁止されている者以外は出席した。
8、当該施設は、6月13日及び14日に施設内の換気、水拭き及び衣服等の洗濯を行なった。なお、水拭きについては害虫駆除を行なった委託業者も参加した。
9、静内町及び当該施設は、6月14日に静内保健所に対して健康被害の対応を相談した。
10、当該施設は、6月14日及び6月21日に入所者の血液検査(コリンエステラーゼ)を行ない、また、6月15日及び6月22日には職員に対しても血液検査を実施したが、有症者が一概に有機リン中毒とは断定されなかった。
11、害虫駆除業者から依頼を受けた環境測定業者が、6月15日に3種類の薬剤について施設内の大気中濃度及び残留物濃度の測定を行なったが、いずれも許容濃度以下であった。
12、患者は、7月24日までに全員回復した。
13、当該施設の医師は、7月31日に北海道急性中毒患者条例に基づき、静内保健所に急性中毒患者発生届けを提出した。
【質問2】、【回答】−省略
【質問3】今回の事件に関連して、貴庁は北海道防疫燻蒸社に対して、どのような法律又は条例に基づき、どのような指導をなさいましたか。罰則を課された場合は、その内容もお示しください。
【回答】害虫駆除に使用した薬剤のうち、ジェットVP−DDVP中のDDVPは毒物及びその劇物取締法に規定する劇物ですが、同法は、毒物及び劇物の製造、販売等の登録や保管管理を定めたものであり、使用にあったっての規制を定めたものではございません。
また、北海道急性中毒患者届出条例は、食品衛生法に定める以外の急性中毒患者の発生に際して、医師の届出を規定したものであり、営業者に対する指導を定めたものではございません。
【質問4】今回のケースは、農業用の薬剤を害虫処理に用いた違法行為が原因で、人に健康に被害を与えた事故であり、北海道防疫燻蒸社の業務上過失傷害にあたるとも考えられますが、貴庁はどうお考えになっていますか。同社を刑事告発なさるお考えはありませんか。
【回答】この業者に対しては、毒物及び劇物取締法並びに北海道急性中毒患者届出条例上、指導及びその刑事告発の対象となりません。
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★原因不明でお茶を濁す?
まず、45人も患者がでたのに原因が不明だということが不思議です。保健所が調査したとのことですが、理由として、@3週間以上に渡って患者が発生している。A症状(農薬中毒の症状ではない?)をあげていますが、これが科学的でしょうか。回答によれば、室内の空気をはかったのは薬剤散布をしてから2週間以上もたってからです。その間、居住室や生活空間にスミチオン、スミスリン、DDVPの3種類の薬剤成分がどれくらいあったのか不明なのに、「3週間以上に渡って患者が発生しているから薬剤中毒」ではないというのは客観性に欠けています。
また、測定業者が測定した結果、「許容濃度以下だった」とのことですが、許容濃度とは何をさしているのか不明です。私たちの知る限り、居住室内におけるスミチオン、スミスリン、DDVPの許容濃度はないのですが。北海道独自の許容濃度があるのでしょうか。
★縮瞳がないから有機リン中毒ではない?
症状について詳しい説明はなく、施設の医者が、縮瞳及び唾液分泌過多等の症状がなかったから有機リン中毒ではなかったと判断したようですが、サリン事件で明らかなように、縮瞳や唾液分布過多だけが有機リン中毒の症状ではありません。縮瞳や唾液分布過多などは重症の有機リン中毒の症状であり、軽症の場合は風邪の症状によく似た症状が現れることは、長年、空散反対運動をしてきた私たちが常に主張していることであり、また、農水省が出している「農薬中毒の症状と治療法」に書かれています。
また、血液中のコリンエステラーゼのみを、しかも、2週間もたった後ではかったのみで、有機リン中毒でなかったとしているのも問題です。松本サリン事件の被害者調査では、コリンエステラーゼ活性値の低下のみで有機リン中毒か否かの判断をしてはならないことが明らかになっています。
静内町では有機リン剤DEPのサクラ並木への散布で、薬剤が飛散して近くの牧場の競争馬が有機リン中毒になりました。馬はよだれをたらしてくれたから、診断もでき、牧場に補償金も支払ったということになるのでしょうか。
結局、散布直後に環境調査が義務付けられていいないため、よほどの重症の中毒にならなければ薬剤が原因だと断定はできない。従って、被害を受けたことを証明できないという現状があるわけです。
★業者は何を撒いてもいいのか
害虫駆除と農業用防除業を兼ねた北海道防疫燻蒸(株)は、農薬であるジェットVP(DDVP30%=公衆衛生用薬剤の6倍の含有量)をヒトの生活する室内で使用していましたが、日常業務としてビニールハウスのくん煙に使用していた高濃度のDDVPを含む農薬を、何の疑問も感ぜずに特別養護老人ホームで使ってしまったというのは恐ろしいことです。
また、この農薬の使用方法及び注意事項には「呼吸器官の弱い人、病中・病後の人は絶対に使用してはならない」と書かれています。このような薬剤が無制限にどこでも使用していいということは納得できません。業者の指導は道の責任なのに、「指導及び刑事告発の対象にならない」というのは自らの責任を放棄した行政の怠慢としか思えません。
★現行法では規制できない
この静内事件は、いみじくも、現在の法体系では、薬剤散布によるヒトの健康被害を防止できないし、薬剤が原因であることを証明できない、従って、被害を受けたヒトの補償もできないということを如実に示した悪しき事例です。
農薬をヒトの居住する室内で使用したという今回の事件のみならず、使用濃度を誤って散布したために起こった事故も多々あります。
そんなことは農薬取締法の想定外で取締まれない。薬事法でも、毒劇法でも、ビル管理法でも、散布業者の取締もできないというのでは、今後も同様な被害がおこることは目に見えています。
生物を殺す目的の化学物質をいろいろな用途に使い、その用途毎に規制の網をかぶせようとする縦割りの法律では、ヒトの健康は守れないことが明確になったともいえます。『生活環境における化学物質を規制する法律』の制定の必要性を一層強く感じます。
★北海道知事宛の再質問−8項目の質問事項省略
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作成:2001-04-23