空中散布・松枯れにもどる
t11602#水稲農薬空中散布に関するアンケート調査結果#01-07
反農薬東京グループ、日本有機農業研究会、食農ネットは、昨年10月から農薬空中散布に関して農水省植物防疫課、同品質課と交渉を重ねてきました。JAS法改正に伴って有機農業生産者のほ場に農薬が飛散しないよう、空散実施団体が防止措置をとるということで合意し、農水省は2月16日付で生産局長通知、「平成13年度農林水産航空事業の推進方針(以下「推進方針」)をだしました。
しかし、実際の運用となると、農水省は「地域での話し合いで決める」として、本来、実施団体が危害防止をしなければならないことをごまかそうとしてきました。空散実施団体は行政、農協、共済などの組織をもち、権力的に対応しているのに対して、有機農業者は地域の中で少数派であり、対等に話し合いが行われるはずがありません。あわよくば有機農業者を黙らせてしまおうとする実施団体が現れても不思議ではありません。現に、実施団体や町が有機農業者に空散の緩衝地帯に農薬をまけと迫った例もありました。
そのため、上記、3団体は5月21日に水稲への農薬空中散布を実施している道府県に「農薬空中散布事業を巡る最近の状況のご説明と質問事項の送付について」と題する文書を送りました。推進方針に書かれた内容の説明と、今年度の農薬空中散布に関する質問です。回答締切の6月15日までにほとんどの道府県から回答がありました。水稲以外の空中散布事業の回答もありましたが、ここでは有人ヘリによる水稲への空散に限って以下の20県の回答をまとめました。
北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県、長野県、新潟県、石川県、福井県、岐阜県、三重県、熊本県、宮崎県、鹿児島県。
以下、質問項目に沿って回答を整理しました(HP掲載記事では、回答した自治体名や回答記載内容を省略しています)。詳細を知りたい方はてんとう虫情報116号をお求めください。
★質問1:推進方針の周知に関して
【回答】◆推進方針の周知(複数回答あり)
○実施主体に対して直接周知した:18
○市町村などを通じて周知した:4
○実施主体には周知していない:0
◆周知の方法(複数回答あり)
○通知文書をそのまま送付した:12
○県独自の解説を作成してそれを送付した:4
○関係者と講習会等の会合を開いた:14
○その他:2
【コメント】有機ほ場への農薬飛散を防ぐには、まず、「必要な措置の徹底」を求めている推進方針を空散実施団体に周知しなければなりません。回答では、実施団体に周知しなかったという県はありませんでしたが、実際には、市町村レベルで推進方針を知らないところが多々ありました。私たちのアンケートが届いてから周知した県もあったようです。
★質問2:有機ほ場に農薬が飛来しないよう、従来とは異なる新たな措置をとることを実施主体に対して指導したか
【回答】◆全県が指導したと回答
指導の内容は−省略−
◆有機ほ場からの緩衝地帯の設置
○緩衝地帯を求めている:11
県 距離
岩手 距離は決めてない
秋田 〃
山形 〃
福島 〃
茨城 〃
長野 〃(国に基準を定めるよう要望)
石川 100メートル
福井 30メートル
三重 距離は決めてない
熊本 〃
宮崎 〃
○緩衝地帯を求めていない:7
【コメント】有機ほ場に農薬が飛散しないようにするためには十分な距離の緩衝地帯を設ける必要があります。農水省との交渉で、私たちはこの点を強く求めましたが、そもそも農水省は飛散調査のデータすら持っておらず、地形、気象条件よって距離が変わってくるの一点張りで最後まで距離を決めようとはしませんでした。(私たちが示したデータでは数百メートル飛散します)。
おそらく農水省は緩衝地帯の距離を決めれば空散面積が格段に減少することを恐れているものと思われます。そのためか、県が緩衝地帯を設けるよう指導しているのは11県ありますが、その中で具体的に距離を示して指導しているのは石川県、福井県のたった2県です。長野県は国に基準を決めるよう要望しているとのことです。緩衝地帯の設置を求めていないのは7県です。
★質問3:衛生関係施設との間に緩衝地帯を設けるよう、実施主体に求めているか
【回答】◆公衆衛生関係施設から緩衝地帯を求めている:15
県 距離
北海道 100メートル以上。
岩手 距離は決めてない
秋田 〃
山形 約100メートル
福島 距離は決めてない
茨城 〃
栃木 原則100メートル(話し合いで変更あり)
埼玉 原則100メートル
長野 距離未定。(国に具体的な基準を示すよう要望)
新潟 100メートル
石川 距離100メートル
福井 水源、浄水場、飲用井戸などの施設は概ね100メートル。
(他の公衆衛生関係は求めていない)
三重 (距離無記入)
熊本 距離は決めてない。
宮崎 〃
◆公衆衛生関係施設から緩衝地帯を求めていない:5
【コメント】有機ほ場と同様、農薬空中散布による危被害防止に努めなければならない場所として公衆衛生関係の施設があります。
公衆衛生関係施設とは、「農林水産航空事業実施指導要領」によると、「家屋、学校、交通機関、水道、井戸及び水源、洗濯物、作業員の飲物、衣類等」となっています。
また、「航空機を利用して行う農薬の散布に関する安全使用基準」には、「市街地等人口密集地、河川等の区域及び浄水場、学校、病院等の区域では散布を行わないこと」となっています。散布除外区域からどれくらい距離を離せという指示はありません。
公衆衛生関係の周辺での空散は以前から反対運動で問題にされてきました。学校・保育園、病院に直接かかるような形で空散がなされてきた事実があったからです。
滋賀県では粘り強い反対運動の結果、公衆衛生関係施設から100メートル離すことが定められてから、空散面積が減少し、最終的に99年に県全体で中止になりました。
今回、公衆衛生関係施設からの緩衝地帯を求めていると回答した県は15ありました。そのうち、距離を明示しているのが7道県で大体100メートルとなっています。具体的に距離を決めない限り、緩衝地帯を求めていると言っても、実際にはないと同じです。松枯れ対策と称して行われている空散では、家屋などから200メートル離すのが標準とされています。
★質問4:無人ヘリコプターによる散布を推進しているか
【回答】◆無人ヘリコプター散布を推進している:12
◆県として無人ヘリは推進していない。または、どちらともいえない:8
【コメント】最近、有人ヘリコプターによる散布が各地の反対運動によって減少していますが、農水省は代わりに無人ヘリコプターによる散布を推奨しています。
無人ヘリコプターも程度の差はあっても、農薬が飛散することに変わりありません。散布する農薬がより高濃度になるため、危険性は増すと考えられます。そこで、県として無人ヘリコプターによる散布を推進しているかどうか聞きました。
推進しているのは11県で、理由としては有人ヘリよりも小回りが利く、環境への影響が少ないなどとなっています。実際に、無人ヘリコプター散布の飛散調査をしていないにもかかわらず、飛散が少ないだろうという見込みで行うのは危険です。また、コスト面でも、国や自治体の補助金がない限り、高くつくものと思われます。今後、無人ヘリコプターによる被害例が多くなるものと思われます。
推進していない、あるいは、どちらともいえないと回答した県でも、無人ヘリコプターを有効な技術としてみており、規制する方向ではありません。
★質問5:来年度以降も農薬の空中散布事業を継続するか
【回答】◆廃止したい:1
◆来年度以降も空散を継続したい:15
◆その他:4
【コメント】最後に来年度以降、有人ヘリコプターによる農薬空中散布事業を継続するかどうか聞きました。何と、長野県を除く19県が継続したいと回答してきました。
さすがに「拡大する」という回答はありませんでしたが、既に、水田への農薬空中散布は27県が中止しており、継続したい県は40%と少数派になっています。この場に至っても農薬空中散布を継続したい本当の理由は何でしょうか。
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作成:2001-08-23