室内汚染・シロアリ駆除剤にもどる
t12204#シックハウス検討会のアセトアルデヒドとBPMC指針値案の問題点#01-11
 シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会は10月11日第8回の会合を開き、室内汚染物質として、アセトアルデヒドとBPMC(フェノブカルブ)の指針値について論議され、11月2日にパブリックコメントを求めました。本号では、二つの指針値の問題点を指摘しておきます。

★アセトアルデヒド:お酒も飲まないのに二日酔い?
 アセトアルデヒドは、ホルムアルデヒドの同族体で炭素数がひとつ多い化合物です。エチルアルコールの酸化物のひとつで、お酒を飲むと体内でアセトアルデヒドが生じ、二日酔いで頭痛がする原因になるとされています。この物質は、刺激臭があるため、悪臭防止法による「特定悪臭物質」であり、0.05ppmが行政指導の目安となっています。  環境庁の95年の一般大気汚染調査で、アセトアルデヒドは47検体中46に1.8〜45μg/m3検出されましたし、国立公衆衛生院の室内汚染濃度の報告では、検出範囲は0.1−311.9μg/m3と大きな幅がありました。
 静岡県立大学の研究者らによる1997年の室内環境学会第三回研究発表会での報告では、下に示すように、室外より室内空気汚染濃度が高い。冬は暖房があり、部屋を閉めているせいか、夏より、濃度が高いことがわかります。

表 アセトアルデヒドの大気中平均濃度 −省略

 アセトアルデヒドの毒性として、ラットで発癌性や生殖毒性があることは判明していますが、検討会はヒトに対して発癌性を示唆する証拠はないとした上、ラットの4週の経気試験から得た無作用量270mg/m3を耐用濃度としました。種差10、個人差10、さらに発癌性も配慮した10を合わせた安全係数1000分の1を乗じて48μg/m3(0.03ppm)という指針値を提案しています。

 アセトアルデヒドは、農薬としてはナメクジ駆除剤であるメタアルデヒドの、また、塗料溶剤・希釈剤であるパラアルデヒド(メタもパラも分解してアセトアルデヒドを放出する)、そのほかゴム薬品などの工業製品の原料として使われていますが、身の回りのどのような製品にどの程度使用され、室内汚染源となっているのかはっきりしません。
 起源物質のひとつエチルアルコールの室内濃度が平均281.2μg/m3(最高2476.5μg/m3)と高いため、その酸化物質としてアセトアルデヒドが副生している可能性も否定できません。
 室内汚染を減らすには、お酒を飲むな、酔っ払いは、発生源だと断罪せずに、科学的な手法でアセトアルデヒドの源をつきとめるべきです。まず、アセトアルデヒドを原料にした物質が微生物、熱、光、空気などの作用で分解して元のアルデヒドが生成する可能性を追及しては、どうでしょうか。

★BPMC:指針値案33μg/m3の不思議
 BPMCはカーバメート系薬剤で、フェノブカルブともいい、水稲の害虫駆除の殺虫剤のほか、シロアリ防除剤としても、使用されています。
 人体中毒症状は、有機リン系薬剤と類似してた症状を示します。
 77年5月、千葉県で、BPMC・MEP複合剤(スミバッサ乳剤)の空中散布20分後に、水田に出かけた農夫が、小一時間の農作業中に手足のしびれなどの中毒症状を起こし、間もなく死亡するという事件が起こったこともあり、これを契機に、農水省は複合剤の登録に際して、それまで不要とされていた混合薬剤による急性毒性試験データの提出を義務付けました。
 その後、農林水産航空協会が91年3月に指針値を100μg/m3とし、97年には、環境庁が航空防除農薬に係る気中濃度評価値を30μg/m3としています。この間、空中散布地帯では、BPMCの飛散や大気汚染が報告され、水系、水道汚染の報告もでています。

 一方、室内空気汚染については、厚生労働者による97年の調査では、平均0.64μg/立方米のBPMCが検出されましたが、98年度の調査では検出率12%で、濃度範囲は0.0045〜0.059μg/m3でした。
 家屋処理後の年数とBPMC平均室内濃度は下のようでした。

表 家屋処理年数とBPMC室内濃度 −省略

 また、八丈島の家屋では、98年2月21日にBPMC系薬剤が処理され、経時変化が測定されています。最も高かった居室の濃度がその後どうなったか不明ですが、他の三ヶ所は、1週間後の方が高い値を示し、一ヶ月後でも検出されていました。
      BPMCの室内濃度推移
      単位:μg/m3
     月日 職員室 食堂 廊下  居室
     2/21  0.42  0.49 0.77  1.5
     2/28   1.0    0.52 0.80
     3/19   0.74  0.24 0.51
 事務局は、当初、BPMCの室内濃度指針値を130μg/m3(15ppb)として検討会に提案しました。しかし、この値は高すぎるとの意見が委員の中からでて、再提案されることになり、1ヵ月後のパブリックコメント案では、指針値は33μg/m3(3.8ppb)と4分の1に下げられました。
 厚生労働省は、農作物の残留基準設定の際には、BPMCのADIとして0.012mg/kg体重/日を採用しています。この数値を使えば、体重50kgの人が一日15m3の空気を呼吸するとして、40μg/m3となるし、前述の環境庁の評価値は30μg/m3ですから、130μg/m3は高すぎるとの声があがっても当然です。
 そもそも、130μgと策定されたのは、ラットのBPMC2年間混餌投与試験で得られた、雄に対する無作用量の4.1mg/kg/日をとり、これに種差10、個体差10の安全係数を乗じて、ヒトに対するTDIを0.041mg/kg体重/日とした結果です。検討会資料には「(環境庁が30μgを決めた報告書で)慢性経口無作用量がラット2年間投与の実験で1.2mg/kg体重/日とされているが、その詳細は公表されていない」として、この数値より高い無作用量4.1mg/kg体重を採用した旨の記述があります。単に詳細は公表されていないとして、済ましてしまうとは驚きです。97年の環境庁報告の根拠となった資料詳細を環境省から入手して、検討会で評価しなおせばすむことです。それでも、評価できなかったら、登録時に農水省に提出された毒性資料を借りてくればよいと思うのですが、省間の壁はとてつもなく厚いようです。
 でも、そんなめんどうなことをしなくてもよかったのです。最初の案では、経口のデータをそのまま経気にあてていたのですが、経口毒性試験結果を吸入暴露の値とする場合、不確実係数4(肺から吸入する方が、口から食べるより、4倍毒性が強いということで、その根拠はあいまいなのですが)、すなはち4分の1を乗ずるという手があったのです。
 あわてて、130を4でわって、これで、めでたく、環境庁の評価値と比べて遜色ない33という数字がでてきました。
 でも、かりに、環境庁の無作用量を採用すれば、10μg/m3となるのですが、この値では、なにか問題あるのでしょうか。
 あまり科学的とはいえない安全係数をいじくって、数字あわせみたいなことに、検討会の先生方が、頭を悩ましている姿は無責任このうえない気がします。だいいち、厚生労働省は農薬の摂取経路は食品からが8割だと常にいってきたわけで、空気からADI目一杯とってしまえば、農作物にBPMCは使用できないことになってしまいます。いつもいうことですが、上述のように実測値は、指針値より2、3桁低いのですから、それを目標にBPMCの規制を強化していけば、どうでしょうか。
 指針値は、空中散布後の水田付近と同じ濃度のBPMCを含む空気を&一生涯吸いながら生活することを認めるということです。委員の先生方はどうお考えなのかしら。

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作成:2001-12-25