室内汚染・シロアリ防除剤にもどる
t12602#建築基準法改定をめぐって−クロルピリホス禁止が答申されたが#02-03
日本しろあり対策協会(白対協)によるクロルピリホスの段階的禁止という自主規制方針の最終段階=一般家屋での使用禁止期限の3月31日をむかえます。永年、使用規制を求めてきたわたしたちにとっては、やっと禁止かとの思いがします。しかし、クロルピリホスの被害者の中には、いまだに、その後遺症に悩まされている方もおり、いちがいに喜ぶわけにはいきませんし、禁止といっても、協会の自主規制なので、会員であるメーカーが薬剤を製造・販売しなくとも、非会員の業者が薬剤を輸入したり、使用することを妨げる法はないのですから、わたしたちの監視は、継続せざるをえません。
★社会資本整備審議会の答申では、不十分
現在の建築基準法では、室内汚染物質として、粉塵/一酸化炭素/二酸化炭素/湿気だけしか法規制の対象になっていないことの問題点が漸く認識されはじめ、国土交通省の中でも、建築基準法改定の動きがでてきました。
同省の社会資本整備審議会は、1月30日に「高齢化対策、環境対策、都市再生等、21世紀における新たな課題に対応するための建築行政のあり方に関する第一次答申」を公表しました。その中で、10頁ほどの分量で『化学物質による室内空気汚染問題に関する対策』について見解が述べられています(答申)。
『(1)シックハウス対策のための新たな規制の導入
建築基準法に基づき、化学物質の室内濃度を厚生労働省の指針値以下に抑制する
ために通常必要な建築材料、換気設備等に関する客観的な構造基準を定めるべき。
・平成12年度の全国実態調査では住宅の3割近くでホルムアルデヒドの室内濃度
が厚生労働省の指針値(0.08ppm)を超過する等、化学物質による室内空
気汚染の状況にかんがみ、建築基準法に基づく新たな規制を導入する。
(2)規制対象となる化学物質
規制対象とすべき化学物質は、当面ホルムアルデヒド、クロルピリホスとし、ト
ルエン、キシレン等についても調査研究を進め、規制対象への追加を検討すべき。
・厚生労働省が室内濃度の指針値を設定した化学物質のうち、実際の建築物におけ
る濃度超過が確認され、化学物質の発生源と室内濃度との関係について科学的知
見が得られている物質について、順次規制を検討する。
ホルムアルデヒド…刺激臭のある気体で合板等の木質建材等に使用
クロルピリホス…有機リン系の防蟻剤で木造住宅の床下等に使用
(3)規制対象となる建築物の部分→ ひとが出入りする空間・生活環境
原則として全ての建築物の居室を対象とし、居室の周囲の部分を化学物質の発生
源として規制すべき。
・住宅等の用途に限らず、利用者が継続的に居住、執務、作業等を行う居室を規制
する。
・ホルムアルデヒドについては内装材、押入等を、クロルピリホスについては構造
体、床下等を規制する。
(4)ホルムアルデヒドに関する建築材料及び換気設備の規制
気密性による建築物の区分等に応じて、建築材料の面積制限・使用禁止を行うべ
き。
また、気密性の低い在来木造住宅等を除き、換気設備の設置を義務付けるべき。
・ホルムアルデヒドを発散するおそれのある建築材料については、発散量に関する
等級区分のあるものは使用面積の制限を行い、等級区分のないものは使用を禁止
する。
・ホルムアルデヒドを発散するおそれのある建築材料を使用しない住宅等であって
も、家具からの発散があるため、原則として、常時換気が可能な構造の機械換気
設備等の設置を義務付ける。
(5)クロルピリホスに関する建築材料の規制
クロルピリホスを発散するおそれのある建築材料は、使用禁止すべき。
・クロルピリホスは換気等で濃度抑制することは困難であり、使用を禁止する。』
室内汚染化学物質の中で、ホルムアルデヒドとクロルピリホスの規制についての方向性が打ち出されています。特に後者について、法律で使用を禁止するというのは、いままでになかったことです(白対協はクロルピリホス含有剤の禁止を決めているので、法律ができても、非協会員のみが影響を受けることになる)。しかし、全般的には、私たちが数値が高すぎることなどを批判してきた厚生労働省のシックハウス問題に関する検討会策定の室内空気指針値と連動しての法規制をめざすことがうたわれているだけです。
答申の本文には、
『B 規制対象とすべき化学物質について』として、
『○ 規制対象とすべき化学物質は、当面、ホルムアルデヒド及びクロルピリホスとする。
○ トルエン、キシレンその他の化学物質については、さらに調査研究を進め、規制対象への追加を検討する。』につづき、『1) 建築基準法に基づく規制は必要最小限にとどめるべきであり、規制根拠が科学的であることや、規制すべき実態が現に存在することが前提となる。これらを踏まえ、規制対象とすべき化学物質の選定の考え方は、次の要件の全てに該当するものとする。
a.健康への有害な影響に関する科学的知見に基づき室内濃度の指針値が設定されていること。
b.実際の建築物において室内濃度が指針値を超過し得ることが確認されていること。
c.化学物質の発生源と室内濃度との関係について科学的知見が得られていること。
2) 健康影響に関する科学的知見については、厚生労働省の指針値によって判断する。−以下略−』とあります。
これでは、いままでと大差がないように思えます。人の健康への被害については、科学的という語句が何度もでてきた上、厚生労働省の指針値を絶対とする線引きの方針が如実に表われています。
クロルピリホスにしても、ホルムアルデヒドにしても、これまでも行政は、被害を受けて苦しんでいる人たちに手をさしのべない理由として、科学的因果関係が立証されいないといってきたのですから、法規制するならば、行政や業界の責任をはっきり示した上でのことであってほしいと思います。いままで、安全だ、人への影響はないといって、何の対策も行なわなかった自らの責任を問わないで、建築基準法を改定しようという場合、おのずと、規制案は、甘いものとならざるをえないでしょう。
まさか、この答申は、今後も、多くの被害者がでて因果関係が科学的に立証されたら規制する、すなはち、人体実験の結果を待って、規制するということを宣言しているのではありますまい。
建築基準法の改定にあたっては、建築材料に使用できる化学物質のポジティブリストをつくること、建築資材についての室内外環境アセスメントの実施を義務づけること、予防原則にもとずく、使用規制をとることなどを視野にいれた提言をすべきだと思います。
★「使わなければ、汚染はない」の原則で
さらなる室内汚染防止には、発生源対策が最も重要です。答申は『化学物質による室内空気汚染問題に関する技術開発のあり方』という節で、重点項目として、室内空気中の化学物質の濃度の実態把握/建築材料等のラベリングに資する試験法の開発/各種建築材料等について化学物質の発散に関するデータの整備/室内濃度等の予測技術にの開発/換気システムの最適な設計・施工手法の開発などとともに、
『室内空気質の改善のための技術については、換気、通風、吸着、分解、封込等の様々な方法を考慮して、費用対効果と持続性の高い既存建築物の改修技術の開発が必要である。』との見解を述べています。しかし、これらは、すべて対症療法です。
「使わなければ、汚染はない」わけですから、建材などの製品に含有されている化学物質に関する情報を開示した上、汚染源をはっきりし、汚染物質を除いていくことをいちばんの対策として挙げるべきでしょう。
床下のシロアリ防除剤から、屋上庭園での農薬散布にいたるまで、人の居住空間での薬剤使用を出来る限り減らしていく方法をあみだすことが大切なのです。それに、室内を汚染するものは、化学物質だけではありません。粉塵としてガラス繊維、アスベスト、ほかがあります。カビ・ダニ・病原菌などの生物の発生を押さえることも重要ですが、生息ゼロをめざす殺生物剤の使用は、生きものたる人にかならずしっぺ返しをくらわすでしょう。放射性物質や電磁波の影響も配慮せねばなりません。建築基準法で取り締まるべき対象は、まだまだ多いのです。
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★建築基準法改定で、クロルピリホス禁止、ホルムアルデヒドは使用規制に。
3月8日に政府は建築基準法等の一部を改正する法律案を閣議決定し、第154回通常国会に提出しました。改正法は7月5日に成立し、7月12日に公布されました(建築基準法等の一部を改正する法律案について参照)。
国土交通省は、シックハウス対策の技術的基準を策定することとし、下記のような基準の試案に対するご意見を募集しまました。
・建築基準法関係シックハウス対策技術的基準の試案に係る意見募集について
・建築基準法関係シックハウス対策技術的基準の試案の中には、次のような項目があります。
1.規制対象物質
規制対象とする化学物質は、クロルピリホス及びホルムアルデヒドとする。
2.クロルピリホスに関する建築材料の規制
居室を有する建築物には、クロルピリホスを発散するおそれがあるものとして
別に指定する建築材料※@を使用してはならない。
※@ 別に指定する建築材料の例
○ クロルピリホスを塗り、又は散布した建築材料
○ クロルピリホスを含有する建築材料等
ただし、施工後5年以上経過したものを除く。
3.ホルムアルデヒドに関する建築材料及び換気設備の規制
(1) 換気設備の設置の義務付け
建築物の構造が高い気密性を有するものとして別に定める構造方法※A
を用いるものである場合においては、ホルムアルデヒドを発散するおそ
れのある建材を使用しないときでも、家具等からのホルムアルデヒドの
発散を考慮して、居室には、居室の種類に応じて、それぞれ次の表に定
める換気回数(※1)を確保することができるものとして別に定める構
造方法※Bを用いる構造又は国土交通大臣の認定を受けた構造の換気設
備を設けなければならない。
※A 別に定める高い気密性を有する構造方法の例
○ 気密性を高めた枠組壁工法や在来工法の木造、開口部の少ない鉄筋
コンクリート造等、隙間からの漏気による換気量が少ないものを想定。
※B 別に定める換気設備の構造方法の例○ 圧力損失等を考慮した換気設計
を行うもの等−以下略
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作成:2002-09-25