ダイオキシンにもどる
t13306#連載 農薬等に含まれるダイオキシン Dオルトジクロロベンゼン中のダイオキシン#02-10
 連載@で市民の手によるパラジクロロベンゼン中のダイオキシン分析結果を報告しましたが、同時に実施していたオルトジクロロベンゼン(以下ODCB)についての報告が出そろいましたので、この連載の締めくくりに、その結果を紹介しておきます。

 てんとう虫情報111号で述べたように、三井化学大牟田工場のODCBプラントの蒸留残渣中に100万pgTEQ/g(00年6月26日採取)、粗製品に6万7000pgTEQ/g(00年8月26日採取)のダイオキシン類が検出されたため、市販のODCB製品のダイオキシン汚染が懸念されました。その後、メーカーの調査結果では、TEFがゼロでないダイオキシン類すべてについて、検出限界以下(0.01ngTEQ/g=10pgTEQ/g)でした。そこで、市民団体のカンパによるダイオキシン分析が実施されました。その結果を、表にまとめました。

表、 オルトジクロロベンゼン中のダイオキシン濃度(単位:pg/g原体)−省略−

★(5−1)ダイオキシンの最高全実測値は原体あたり9.6pg/g
 市民グループは3社のODCB製品の分析を実施しましたが、原体中のダイオキシン濃度は、全実測値で最高9.6pg/g(TEQ値:1.2pgTEQ/g)のダイオキシン類が検出されました。エステー化学が実施した分析では、TEQ値で検出限界以下=NDとなっていますが、これは分析精度の違いで、市民グループ並の分析を実施すれば、NDではなかったはずです。表にあげた以外に、ダイオキシン濃度のかなり高い検体がひとつあったことを、確認していますが、予算不足で、その原因がどこにあるかを調べることができなかったため、データ公表は差し控えられました。
 また、ここでは、示しませんでしたが、ダイオキシン異性体・同族体の分布パターンは、試料によってまちまちで、(c)では五塩化ダイオキシンの、(b)では八塩化ダイオキシンの、(d)では四塩化ジベンゾフランの比率が高いといった具合でした。

 原体の製造方法、製造工程でのバラツキや製品の保管状態などにより、ダイオキシン濃度や同族体・異性体分布にフレ幅があると考えられるため、一回の分析で検出値限界以下であったからたといって安心はできないと思われます。クロロベンゼン類はもちろん、農薬についても製造ロット毎の製品チェック項目にダイオキシン類の分析もいれることが求められます。さらに製造工程排出物についても、常にチェックしておくことが重要です。

 オルトジクロロベンゼンは、工業用洗浄剤・溶剤・熱媒体としての用途のほか、ハエ・カ対策の防疫用薬剤として、電車の車内消毒、便所やゴミ捨て場など身のまわりでの使用されます。また、鶏舎・畜舎で使用される動物用薬剤として、薬事法のもとで、医薬品として承認されてもいます。ダイオキシンだけでなく、オルトジクロロベンゼンそのものの人や食肉・畜産品などへの汚染が懸念されますから、厚生労働省は、医薬品としての承認を早急に取り消すべきと思います。

★(5−2)三井化学はダイオキシン濃度0.01ngTEQ/g以上の製品は販売しないと
 私たちの質問に対する回答の中で、三井化学は『工業製品のダイオキシン分析の基準は −中略−当時農林水産省で検討中であった農薬ガイドラインを参考にし、それらより更に厳しい基準を設定し、この基準でダイオキシンが検出される製品は製造・販売しないこととします。(各同属体ごとにダイオキシン毒性等量として0.01ngTEQ/g)。今後については、世の中の動向を見守って行く必要があると考えますが、現在は十分厳しい基準を設定していると考えております。』とし、農水省が農薬で示した基準0.1ng/gよりもひと桁低いダイオキシン含有基準で、製品の製造販売を止める意向を示しました。
 さらに、同社は大牟田工場でのクロロベンゼン生産について『過去数年間、クロロベンゼン類に関する事業状況は、主にインドなどからの製品の輸入により、悪化の一途をたどっていました。かかる事業環境下で、弊社は、本年3月クロロベンゼン類の製造を中止いたしました。現在は在庫品のみの販売としており、在庫が無くなり次第、販売からも撤退する予定です。製造を中止したのは、モノクロロベンゼン、パラジクロロベンゼン、オルトジクロロベンゼンなどこれまで弊社が製造してきたすべてのクロロベンゼン系製品です。』と答えました。
同じくメーカーの保土谷化学も本年3月末までで、クロロゼンゼン類の販売中止を発表しています。いままで、自分達がさんざん塩素含有製品を製造販売し、ダイオキシン汚染の元凶となったことには、一言も触れず、ただ、製造を止めさえすればよいとしている両社の態度には、深い憤りを禁じ得ません。

 クロロベンゼン類の製造・販売を国内メーカーが止めるだけで、ダイオキシン類の汚染源を断ったことになりません。海外から化学原料として輸入されるものは、ダイオキシンチェックはなされていないという心配もありますし、海外とはいえ、その生産地点でダイオキシン汚染があれば、それは、現地の人だけでなく、海洋汚染等を通じて、地球規模の広がりにつながりますし、国内で、クロロベンゼン類を使用した製品が廃棄・焼却されれば、ダイオキシン発生源になるわけです。
 要は、クロロベンゼン類のような塩素含有製品を国際的に製造・販売・使用を禁止して行くしか、汚染を防ぐ道はないということでしょう。


(5−3)日本軽金属蒲原工場のパラジクプラント火災事故
 てんとう虫情報132号の事件事故で触れた、静岡県にある日本軽金属蒲原工場でのパラジクロロベンゼンプラントの火災事故で、同社及び静岡県、蒲原町の三者に送った申し入れ書に対する回答(9月19日付)が来ています。
 その要旨をまとめると、事故の概要について「8月20日12時19分、パラジク製造プラント(5階建)の2階にある液液分離槽及び1階にある塩酸受槽が爆発音とともに炎上。原料のベンゼンが燃焼、煙は人家のない駿河湾の方向に流れた。13時20分頃下火となり、14時10分頃鎮火した。ベンゼン約2.5klと35%塩酸約1.5kl漏洩したと推定。もうひとつの原料である塩素については、火災発生後直ちにプラントの緊急停止を行ない、塩素遮断弁の作動により火災発生後の塩素供給はなく、塩素の大気への漏洩はなかったと考えている。火災原因については、調査中。」とのことです。
 また、火災後の環境調査については「県と町立ち会いのもと、周辺土壌、降雨時の工場排水について、ダイオキシン類の調査を実施しており、結果が分かり次第、知らせる。」としています。さらに、事故発生およびその後について、「工場周辺住民、工場労働者から健康被害や環境異変の情報は当社や町の関係機関へも入っていない。」と述べています。、このことは県や町の回答にも触れられており、蒲原町は「事故状況の結果による安全性が確認されるまでは、住民への健康被害や環境被害が発生していないかどうかの必要な監視を続けていく予定です。」としています。
 幸い、今のところ、顕著な被害がでていないということなので、ひと安心ですが、ダイオキシン類調査結果がどうでるか、気になるところです。
 製品中のダイオキシン含有量をどんなに低くしても、事故や火災の際に塩素含有製品があれば、ダイオキシン汚染につながることを忘れてはなりません。

★終りなきダイオキシン汚染
 上述の話で、連載を締めくくろうとしていた矢先、無登録農薬事件の発端になった山形県から、新たなニュースが飛び込んで来ました。
 9月21日の地元新聞の報道によりますと、 農薬メーカークニミネ工業の山形県大江町にある左沢(あてらざわ)工場敷地の地下水から高濃度のPCPが検出されたということで、県は、19日に、周辺民家8戸の井戸水使用中止を要請し、水質検査をはじめたそうです。クニミネは、1960年頃にPCPの不良品又は期限切れ農薬を工場敷地内に埋設したとしていますが、当時の試料はなく、埋設個所や数量は不明だと無責任なことをいっています。
 同社は、粉粒剤等に使うベントナイトなどの粘土物質を主に生産している会社ですが、山形のほか茨城県常陸太田市にも農薬工場をもち、BHC、PCP、PCNBの製剤を製造販売したこともあります。常陸太田工場でもPCP剤の埋設があったことが確認されており、これら有機塩素系化合物やダイオキシン類の汚染を懸念した当グループは、社長宛てに事実経過を明かにするよう質問書を出しましたが、いまだ、充分な回答を得ていません。
 PCPについては、クニミネ工業だけでなく、かってのメーカー富山化学が富山市・富岩運河のダイオキシン汚染で、発生源と疑われています。
 現在、塩素系化合物を製造・使用している工場だけでなく、こうした過去のメーカーの敷地や産業廃棄物処分場などのダイオキシン総点検も必要でしょう。
 今回で連載はひとまず終わりますが、塩素系化合物も使い続ける限り、ダイオキシン汚染に終わりはありません。私たちは、まだまだ、眼を光らせていかねばならないようです。
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作成:2003-04-27