改定農薬取締法関係にもどる
t13501#農薬取締法改定法が成立−酢・牛乳も特定農薬?拙速な改定で問題続出!#02-12
 前号で速報した通り、農薬取締法の一部を改正する法律は、11月19日、衆議院農林水産委員会で政府原案通り可決後、21日衆議院本会議で全会一致で可決、参議院に送られ、12月3日同農林水産委員会で、さらに翌日の同院本会議で全会一致で可決成立しました。
 衆議院農林水産委員会には、民主党から修正案がだされたものの、否決され、本会議に上程されることはありませんでした。
 結局、衆参両院で約10時間の審議が行なわれ、12月11日に公布、来年3月上旬に施行されることになりました。それまでに、特定農薬や農薬使用基準に関する省令などが決められることになります。また、今国会で、積み残された事項のうちいくつかは、次期通常国会でさらなる農薬取締法改定案として提案されるとのことです。
 法成立後、12月10日に農業資材審議会農薬分科会(会長=本山直樹千葉大教授)が開催されました。この審議会は特定農薬を指定し、省令の制定もしくは改廃時に意見を言うことになっています。農水・環境大臣はこの審議会の意見を聴かなければならないとされており、具体的な規制はこの審議会で決定されます。
 今回の審議会は改定法が成立して初めての開催で、次の議題がとりあげられました。
  (1)農薬取締法の改正について(説明)
  (2)特定農薬について(諮問及び小委員会の設置)
  (3)販売制限・禁止農薬について(諮問)
  (4)農薬使用基準について(諮問及び小委員会の設置)
  (5)水産動植物に対する毒性に係る登録保留基準の変更について(諮問)
  (6)その他
 国会での審議過程や農業資材審議会農薬分科会(以下「分科会」)の審議などで、私たちが疑問に感じていた点が、いくつか明かになりましたので、その内容を以下に示します。
  参考リンク:衆議院農林水産委員会議事録
         参議院農林水産委員会議事録12/03は議事録検索システム
         農薬分科会傍聴メモ

★特定農薬について
 特定農薬として、農水省は牛乳とか酢をあげました。木酢液については、成分・規格・作製方法等を関係のところから取り寄せて、分析しており、その結果に基づいて、農作物等、人畜、水産動植物に有害かどうかということを判断したいと答えています。
 議員からは、特定農薬をつくるからには、抜け道にならないようにきちんとしてほしいとの意見がありました。
 11月21日に農水省は、ホームページで、特定農薬に関する情報(品名/主な原材料/製造方法/用途・対象病害虫/使用農作物/使用方法・使用量/使用状況/効果等/安全であることを示す情報の9項目を記入)を一般から求めました(参考:特定農薬情報募集)。
 12月10日の分科会では特定農薬小委員会を設置し、委員には毒性、農薬、昆虫、植物病理、消費者などの専門家6人が決められました。今後のスケジュールは12月中に小委員会の開催、1月下旬に農水・環境合同委員会、1月30日に分科会、2月にパブリックコメント、3月上旬に農林水産省・環境省令告示という強行スケジュール案が示されました。
 農水省の説明によると特定農薬に関する情報は約2900件寄せられ、重複を整理すると690種類になるとのことです。
     −中略(上記傍聴メモ参照)−
 いずれにしても、農家が農薬として使用できるのは登録された農薬か、特定農薬だけになるので、特定農薬の指定は大きな影響を持つと思われます。現場の農家が果たしてこういう情報を知っているのか、危惧されます。

★販売禁止農薬について
 分科会では販売禁止農薬について諮問されました。今までは有機塩素系農薬10種類(ガンマBHC、DDT、エンドリン、ディルドリン、アルドリン、クロルデン、ヘプタクロル、ヘキサクロロベンゼン、マイレックス、トキサフェン)のみが使用禁止になっていました。
 今回はこれに加えて、失効農薬の中で、パラチオン、メチルパラチオン、TEPP、水銀剤、砒酸鉛、2,4,5-T、CNP、PCP、PCNB、ダイホルタン、プリクトランの11種類の農薬が販売禁止になります。
 販売禁止はすなわち使用禁止です。私たちは、現行の農薬取締法でも大臣の権限でダイホルタンやプリクトラン(シヘキサチン)の使用禁止ができるのに、それをしなかったことが無登録農薬の全国的な使用につながったと指摘してきましたが、遅ればせながら販売、使用禁止がなされることになりました。
     −中略(上記傍聴メモ参照)−

★使用基準について
 今回の法改定で一番問題になったのは、使用基準に違反して使用すると罰則がかかるという点です。農家など農薬使用者は、無登録農薬の使用禁止と農薬の使用基準の遵守が求められます。これに違反すると100万円以下の罰金、3年以下の懲役が科せられます。
 農水省、環境省が作成する農薬の使用基準は、この審議会の意見を聴くことになっています。農業資材審議会農薬分科会は、特定農薬の指定と使用基準の策定といった一番肝心な部分を決めることになります。
 使用基準の省令施行までの手続きは、12月中に第一回目の農水・環境合同委員会、第二回目の合同委員会を1月下旬に開き、1月30日に第6回目の農薬分科会、2月にパブリックコメント、3月上旬に省令施行と、こちらも強行スケジュールが組まれています。
 農水省の素案は、(1)使用者にわかりやすく、的確であること、(2)技術的に実施が可能であること、(3)さらにめざす方向も踏まえつつ設定する基準であること、(4)使用者に確実に伝える手段を考慮することがあげられていますが、これを元にするとしても、一体、どのような基準が決まるのか、全くわかりません。
 使用基準策定のために、こちらも小委員会が設置されました。防除、残留農薬、栽培、使用技術、消費者、農業環境、農薬、農薬使用などの専門家8人が決まりました。
 従来あった安全使用基準は、92年11月に全面改定され、その後年2回の割で改定されているということですが、その内容が周知されていませんから、使用者が知る機会は少なかったと思います。今回、罰則がつくわけですからどのような方法で使用者に周知するのか問われています。
 農水省は国会での答弁で、法施行までに、あらゆる機関、都道府県の事務所、病害虫防除所、改良普及センター、農協などを通じ、必要な情報を生産者に提供したり、講習会を開催するほか、農協の営農指導員等の中から農薬適正使用アドバイザーを地域ごとに育成して、生産者への情報提供に万全を期したいとの方針を示しました。
 しかし、3万5000人いるといわれる農薬管理指導士がいても、今回のような無登録農薬事件を防ぎ得なかった上、農協営業所で無登録農薬を販売していたことを思えば、農薬販売者の許可制や使用者の免許制など、きちんとした法制度の確立が必要だと思います。

★輸入規制について
 無登録農薬が輸入されないよう水際での監視を強化するとしていますが、具体的にどのような策をとるのかということが国会で質問されました。
 農水省は、現在の関税分類では、殺虫剤、殺菌剤などとなっており、農薬の名称がないことを認めた上で、統計品目番号を細分化して、殺虫剤(農薬)のような分類をつくるように財務省と協議中であると答えました。さらに、通関時の確認事務を確実に行なうため、農水省から輸入者のリスト・登録農薬リスト・失効農薬リスト等の情報を財務省に提供し、疑義の問い合わせ窓口を設置するとしましたが、これで、化学品と偽る輸入を完全に防げるでしょうか。

★廃農薬の回収について
 回収命令を法令上明確に位置づけることについては、登録を受けた農薬を販売した後に登録が取り消された場合、あるいは無登録農薬を所持している者についてまで命令をかけることが可能かどうかについてさまざまに議論し、これから検討する必要があり、食品安全委員会との関係を踏まえて、次期通常国会に提出予定の食品の安全性を確保するための関連法整備の中で対応したいとの考えが示されました。

★非農耕地用薬剤について
 非農耕地用除草剤などを農薬取締法で取り締まることについては、農水省から、副大臣会議で各省庁の副大臣に、それぞれの省庁で環境や人の健康への影響を防止する観点から規制をしてほしい、といっており、規制の方向で検討をお願いしている状況だとのことでした。
 国会でも、非農耕地用農薬も農薬取締法で規制すべきだという意見が多く出されましたが、農水省は、非農耕地で使用されるのは農薬ではないので、農薬取締法で規制はできないと答弁していました。しかし、それなら何故非農耕地用農薬も登録するよう指導しているのか疑問です。登録すれば農薬取締法の管轄下に入るわけですから、農薬でないものを農薬として取り扱うことになります。

★失効理由等の周知について
 農水省は、農薬失効の理由等の情報について、随時提供できるような仕組みの構築していく考えを示しました。失効農薬や登録農薬のリストなどをホームページで公開するとしましたが、農薬検査所の現在のHPでは、失効農薬については、活性成分だけしか掲載されておらず、農薬製剤毎に、どのような理由で失効したかを記載したデータベースが必要です。

★農薬の適用拡大について
 農薬製造業者に適用拡大を申請してもらうため、国、団体、県の基金を造り、必要な試験実施の支援をする、都道府県の試験場等が行う作物残留試験への補助をするという支援対策を用意している、とのことです(マイナー作物については、記事t13502参照)

資料:中村敦夫議員の質問書より
 参議院農林水産委員会では、中村敦夫議員が、文書で補足質問をし、その回答が農水省からでています。以下に質問要旨と回答の内容を記します。

  【質問1】販売、防除業は有資格者の許可制にすべきではないか。
  【回答】農薬の販売業者は、農薬を購入して販売する者であり、これを一般的禁止
      の状態に置くまでの必要はないと考え、事前届出制にしたところである。
      防除業者については、今回の改正により防除業者に限らず使用者すべてに
      ついて、改正法第12条により使用規制を課すこととし、さらに罰則を強
      化するなど従来より規制を強化したところである。

  【質問2】農薬使用者(農家、一般)をライセンス(免許・資格)制度にすべきで
      はないか。
  【回答】我が国では、農薬使用者について大規模農家から家庭菜園まで、その規模
      や目的が様々であるため、一律にライセンス制を導入することは困難と考
      えている。農薬の適正使用については、改正法第12条により罰則を伴う
      規制措置を設けたところである。

  【質問3】非農耕地用薬剤に農薬取締法を適用すべきではないか。
  【回答】農薬取締法上の「農薬」は農作物の防除に用いられるものであり、非農耕
      地用除草剤であっても農作物等に使用された場合には無登録農薬の使用と
      して農薬取締法違反となる。
      駐車場等の非農耕地用除草剤の製造・輸入・販売については、農業生産と
      直接関わりはないため、農薬取締法で規制することは困難である。

  【質問4】生活環境での農薬散布規制をすべきではないか。
  【回答】改正法第12条で定められる「使用する者が遵守すべき基準」の中で必要
      な措置を講ずることとしている。

  【質問5】行政による公園、街路樹の農薬散布、農家が生活環境周辺で行う農薬散
      布、個人の庭などの農薬散布も規制すべきではないか。
  【回答】今回の改正で、農薬を使用する者は、個人、業者を問わず一律に規制を課
      すこととしており、ご指摘の者の行為も法の規制対象となる。

     −以下質問6〜14略−

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作成:2002-12-25